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第六十二章 準決勝戦の想定

62.1 準決勝戦の想定


 第三回戦第三試合が終了した。


 魔導剣士ミラージュは合体龍怪獣ドラゴジランを撃破した。瀕死の状態で勝利を導き辛勝であったが、ベスト4進出の実力を決して軽視することはできない。


「マジスゲェ、エルフ! スゴすぎる!」


「まーた、アラトさん、おっぱいの揺ればっかり注目して! 変態! 変態! 変態!」


 手加減はしているが、ポカポカとアラトを叩き始めるギリコ。


「いや、注目してなかったと言えば嘘になるけど、スゴいというのは、あくまで怪獣倒した凄さを指しているんですが」


「そんなの関係ないです! 馬鹿! 馬鹿! 馬鹿!」


 ポカポカ、ポカポカ、ポカポカ、ポカポカ、ポカポカ


「変態馬鹿でいいです、もう……」


「またそうやって、わたくしに意地悪しないでください!」


 ポカポカ、ポカポカ、ポカポカ、ポカポカ、ポカポカ


「いや、意地悪されてるのこっちだよね」


 ポカポカ、ポカポカ、ポカポカ、ポカポカ、ポカポカ


「ヨシヨシ、ゴメンねぇ~、ギリコちゃん、いい子いい子」


「エヘヘ」


 急にニコニコし始めるギリコ。


(なんちゅー超絶美人幼稚園児……でも、扱いやすかったりして)


 ギリコが落ち着いたところで、アラトがいつになく真剣な表情になる。


「これは少し想定外。これで準決勝進出は、僕、勇者、エルフの3人確定。残りは超人もしくは、えーとなんだっけ、黒マネキン?」


「はっきり申し上げます。その黒マネキンが今おっしゃった5名のうち、最も注視すべき存在です」


「なるほど……」


「第一回戦まで黒マネキンは謎の存在でした。ですが、エイリアンハンターゼロとの対戦を経て、敵をコピーする兵器というのが確認できました」


「そして第二回戦で、なんだっけ、ライオンもどきパチンコ玉変身キャラの能力もコピーしたら、一回戦でコピーした能力と両方使ったってことだよね」


「はい、そのとおりです。つまり、対戦した敵の数だけ能力をコピーして、ほぼ無限に進化してしまう最強のチート能力と思われます」


「たしかに、そうやって聞くとそう思えてしまう。

 しかもこの三回戦で、超人をコピーしたうえに勝っちゃったら、もう、そのムゲンなんたらに勝てる参加者いないよね」


「はい。わたくしも同意見です」


「どうすりゃいいのさぁ!」


「まずは明日、超人が勝利することを期待しましょう。決して黒マネキンに弱点が無いわけではありません」


「ホントに? 弱点て何?」


「はい。もし、黒マネキンが準決勝に勝ち上がってきたらその話をしましょう」


「わかった」


「今、わたくしたちが検討すべきは、対勇者、対エルフ戦です」


「そだね……う~、ヤバい。メッチャ緊張し始めた……強敵ばっかりや……。一応訊いてみるけど、その二人と対峙しても僕死なないよね」


「ギリ大丈夫です」


「もう完全に決まり文句だけど、ちょっとだけホッとする。この際、今年の流行語大賞狙おうよ」


「誰も知らないから不可能ですわ」


「ですよねぇ~」


 その後、対勇者戦と対エルフ戦を想定し、二人で対策を練った。


 戦闘力アップ一つ目のテーマは、もともとアラトの要望事項でもあり、惑星破壊キャノン砲の使いやすさの向上。


 具体的にはキャノン本体の軽量化、破壊力抑制による充填時間短縮、発射時のタイムラグ短縮だ。ギリコが責任持って準決勝に間に合うように進めている。


 戦闘力アップ二つ目のテーマは飛行能力の向上。


 勇者には人間と思えぬジャンプ力があるが、飛行能力は無い。アラト的には、飛行能力のアドバンテージをより有効活用できるよう、飛行ジェットシューズの飛行継続時間アップ、飛行速度アップ、飛行バランス維持力アップが望ましい。


 特に、バックパックにも飛行性能を補助するジェット機能を追加し、重心の安定化と機動性アップを図りたいが、準決勝に間に合うかどうかが少し怪しい。


 戦闘力アップ三つ目のテーマは防御能力の向上。


 まずは、クソ重いシールドのサイズダウンおよび軽量化だ。大きすぎるシールドの取り回しの悪さが、機動性そのものを極端に下げてしまう。これについても、ギリコが材質を見直して鋭意改善中である。


 アラトからの追加要望として、防弾インナースーツの防御力アップと痛みを和らげる性能を付与してほしいと、強く強くしつこいくらい強くお願いした。ギリコは、突如ドSの性格を発揮し、渋々要求を受け入れる態度をとる……が、おそらくは単なる意地悪なんだろう。


 戦闘力アップ四つ目のテーマは精神力の向上。


 アラトの二つ目の主力武器は精神制御脳波誘導ハンドレーザー銃。これは、アラトの精神力に比例して威力アップが可能である。麗倫より授かった瞑想3時間継続訓練を毎日実行しているので、第三回戦の時よりも威力向上を期待できる。


「アラトさん、さすがです。わたくしの見ていないところでそんな努力されているのですね。

 益々もってわたくしの独占欲が限界突破し、アラトさんを力の限りこれでもかぁーというほど抱き締めて、内臓の圧迫死を入念に確認したあと、『もうわたくしだけの物、誰にも渡さないわ』とかかんとか言いながら、独り占めしちゃうかもしれません。

 その時はご容赦ください、アラトさん」


「うん、絶対ダメだよね。てか、ホントにやっちゃいそうだから、余計に怖いんだけど。大切な事だから二度言うけど、絶対ダメだよ!」


「そうですか……」


「はい、そこ! シュンとしない! ダメなのものはダメだからね!」


「残念です……」


 アラトは軽く溜息をつく。


「そうですわ、アラトさん、とっておきの対エルフ戦必勝法があります!」


「えっ、そうなの?」


「はい。絶対に勝てる必勝法です」


「なになに、勿体ぶらないでよ!」


「はい」


 ギリコは両目をつむり、深呼吸のマネごとをする。


「いや、そんな、引っ張らなくていいから!」


「そうですか、では参ります。あのエルフ女の忌々しいおっぱいを、リンゴをもぎ取るようにもぎ取っちゃってください」


「無理!」


「大丈夫です。フル大丈夫です!」


「フルアウトだよね! 物理的にそんなことやってる場合じゃないし、マジ殺されるから! 試合に勝てたとしても拷問された挙句に惨殺されるよね!」


「そうですか、妙案だと思ったのですが、残念です」


 いきなり、ポンと手を打つギリコ。


「仕方ありません、代替案です。あの極小エロエロビキニをぎ取って、忌々しいデカデカおっぱいを皆々様の前でさらし、大恥をかいていただきましょう。それがいいですわ」


「えっ、そんなことしたら、僕がエルフのおっぱい見とれちゃうことになるけど、いいんすかねぇ? 義理子先輩!」


「あぁぁぁぁぁぁ、ダメェェェェェェ! アラトさんのドヘンタァァァーイ!」


「ぐぉっ……」


 ギリコの右ストレートパンチが、アラトの左頬にクリーンヒット。勢いよく床に倒れるアラト。そのまま意識が薄れていく。



 ◆   ◆   ◆



 その日の午後、アラトが目を覚ますと、また医務室のベッドで横たわっていた。


「アラトさん、良かった、良かった! 生きてて良かったぁぁぁ~」


 目をパチっと開けたが、アラトの反応は無い。


「アラトさん、大丈夫ですか? 返事をしてください、アラトさん!?」


 アラトの身体を揺さぶるギリコ。


 上半身を起こし、首を左右に回しながら周囲を見渡すアラト。ギリコの顔をジッと見る。


「ここはどこ? わたしは誰?」


「あぁぁぁー、アラトさんがアンポンタンになったぁぁぁー、わたくしのせいでぇぇぇー、もともとアンポンタンだったアラトさんが完全なアンポンタンにぃぃぃー、ゴメンなさい、ゴメンなさい、アラトさん……」


「ホント、ギリコってからかい甲斐があるなぁ。かわいっ!」


 涙の流れていない泣き顔を急に止めると、膨れっ面に変わるギリコ。無言で腕組みをし、ソッポを向く。


「ギリコちゃん、こっち向いて」


「アラトさんのバカァ……」


 小声でボソッと反応するギリコ。


「どっちかって言うと、僕が酷い目に合ったような気が

 するんですが……」


「ゴメンなさい、アラトさん……、嫌いにならないで……」


「こっちおいで、ギリコ」


 ギリコは無言でアラトに背中を向け、アラトのすぐ脇に座る。


 アラトがギリコの背中を抱擁した。


「さっきの話、意外に使えるかも」


「ダメです。アラトさんが変態扱いされます」


「もぎ取るよりはいいでしょ。それに、ギリコの提案だってみんなに説明するから」


「わたくしが変態になっちゃいます」


「そうなったら、ゴメンね」


「わかりました。アラトさんのために犠牲になります」


「ギリコはいい子、ヨシヨシ」


「エヘヘ」



 §   §   §



62.2 大会三十七日目の朝 アラトの部屋


 ベスト4最後の1枠を決める第三回戦最後の試合の日がやってきた。


 昨日の暴力事件はさておき、もはや通い妻として全く違和感のないギリコがニコニコ顔でアラトの部屋にやってきた。


「おはようございます、アラトさん」


「おはよう、ギリコ」


「いよいよですわ、第三回戦第四試合」


「うん。今日は二人で超人を応援しよう!」


「はい。黒マネキンは脅威ですから」


「今日の観戦は久しぶりに解説オンにするね。ちょっとうるさいけど……」


「はい、かしこまりました」


 アラトは思う。せっかくここまで勝ち進んだのだ。中途半端に終わらせるのはもったいない。とにもかくにも最後まで全力でがんばるのだと。



【作者より御礼】

 数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。


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