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第五十九章 主人公VS未来人 その1

 第三回戦第二試合。主人公VS未来人。


 闘技場は、第二回戦で魔法少女と戦ったDタイプ。


 密閉空間内に存在する廃墟の街。


『シアイカイシ、3プンマエ』


 案内放送と同時にアラトは闘技場内、廃墟の街中心部へと転送されてきた。


 同じくアラトの真正面、100mほど離れた場所にも対戦相手グレート・スミスが大型バイクにまたがったまま転送されてくる。


 ブロンドオールバック、シルバーのタキシードに有名ブランドのサングラスが似合う渋い男性。アラト自身憧れる映画俳優と見間違いそうなほどカッコいいオーラを放つ。


 これまでにアラトが把握しているグレート・スミスの未来兵器は以下の五点だ。

 ・運動エナジー停止光線銃

 ・物体十分の一縮小ネット

 ・重力地雷

 ・無重力腕輪

 ・蜂の幻影スモーク弾:偽グレート・スミスの投影含む


 第一回戦の対トレジャーハンター戦では冷静な対応により勝利。第二回戦ではスマホに呪われているという女子高生、貞神月子ちゃんに完勝している。


 アラトは十分認識している。絶対に侮れない敵であると。


 しかし運がいいことに、戦場はギリコが想定した廃墟の街だった。瓦礫がれきの多いこの廃墟の街中では、彼が得意とする大型バイクを活用した戦法が使いにくい。


 そしてアラトの新しいギミック、スパイダーマニピュレータが乱立する廃墟ビル内を縦横無尽に駆け巡るのに最適だ。これまで逃げることで勝利を導く戦術だったが、今回は積極的に攻めることも視野に入れている。


 それと、特訓の成果をここで存分に発揮したい。


 ちなみに第二回戦の対魔法少女戦の時、魔法少女の精霊がDタイプ会場を派手に破壊したのだ。が、今日の状況からすると、非常に似ている廃墟の街を別の場所で再現し、新たに闘技場として使用しているとみえる。


 もともと準備してあったのかどうか知らないが、大会運営の素早い対応は大したものだと、アラトは思った。


『シアイカイシ10ビョウマエ、9、8、7……』


 緊張で真一文字に口を結ぶアラト。が、パシパシと顔を叩いた。


(わぁ、ダメダメ、緊張しすぎ! リラックスリラックス)


 ゆっくり深呼吸する。落ち着いて敵の戦法を見極めることが先決だ。


『……3、2、1、ゼロ』


 各兵装のロックを解除するアラト。まずは飛行ジェットシューズで廃墟ビル内へジャンプ。まだ披露していないスパイダーマニピュレータの性能は、できるだけ見られないようにして隠密行動に活かしたい。


 飛行しながら未来人の初動を観察していると、大型バイクにまたがってどこかへと姿をくらました。


 とりあえず廃墟ビル内で身を隠すアラト。アラトの最初の作戦は未来人の初動をしっかり把握することだ。


 何を隠そう、昨日ギリコと二人で行った作戦会議にて、ギリコからあるお役立ちアイテムを受領しているのだ。それは未来人が多用するであろう重力地雷の専用レーダーだ。


 アラトの基本戦術は逃げまくること。第一回戦と第二回戦の試合模様を見ていれば誰にでもわかることだ。そんな敵を捕獲するのに便利なアイテムが未来人の重力地雷なのだから、必ず廃墟ビル内のあちこちに設置すると読んでいる。


 重力地雷専用レーダーはアラトのゴーグル内に表示されるので、ただひたすら観察していればいい。


 ただし、重力地雷を設置して起動——罠として待機状態含む——していなければレーダーで捕捉できないらしい。つまり、ただ持ち運んでいるだけではレーダーに引っ掛からないのだ。


 なぜギリコが、いや本体であるスーパーコンピュータがそんなものを開発できるかは、いっさいの謎だ。いずれにしても勝利への材料にさせてもらう、とアラトは思う。


 案の定、レーダーに反応あり。ほくそ笑むアラト。


「ビンゴォ!」


 レーダーを注視してしばらく待つ。すると一辺400mしかない密閉空間内の中央部、立ち並ぶ廃墟ビル群のそこかしこに地雷設置マーカーが次々に表示される。トータルで12個だ。


「結構持ってるんだ。あのリュックの中にいくらでもあるんだろうな……」


 表示されていくマーカーの順番を覚え、最初に設置された地雷から順を追って破壊し一つだけ残す。そうすれば未来人が破壊しにくるアラトを待ち受けるはずなので、それを逆手にとる。先に見つければ背後からの攻撃も可能だ。


 早速行動に移すアラト、スパイダーマニピュレータを起動した。4本の補助アームが外壁のデコボコを器用につかみながら移動、廃墟ビルを蜘蛛くものようにう。思ったより俊敏な動きだ。


 レーダーを見ながら重力地雷の設置場所を探す。見つかれば腕のレーザー銃で破壊。瓦礫がれきの陰に隠しているので見つけにくかったが、それでも順番に処理していった。


「天井や壁にも設置してある……。そうか、重力と同じ方向でなくていいんだ。壁に設置しても磁石みたいに引っ張られるんだろうなぁ~、きっと」


 アラトは重力地雷を一つだけ残し順当に破壊していった。


 最後の重力地雷設置場所を慎重に確認しに行く。敵が待ち伏せしていてもおかしくない。キョロキョロと周囲を見渡しながら接近、遠くから設置場所を視認した。


 最後の一つは廃墟ビル3階にある部屋の壁に設置してある。確証を得たあと、隣の廃墟ビルの屋上に飛び移って、その部屋が見える場所を陣取った。


 敵を発見したら、アラトの唯一の武器、精神制御脳波誘導ハンドレーザー銃で仕留めるつもりだ。レーザー銃の破壊力は、アラトの『敵を倒したい』という思いでうまく調整できる。


 人間一人を行動不能にするのに最適な破壊力を引き出せるうえに、レーザー弾が狙った敵を自動追尾するので、対人戦において最良の兵器といえるだろう。


「あの地雷、ドアを通り抜けようとしたら重力に捕まるように配置してる。レーダーなかったらアウトだよ……。罠張るのうまいなぁ、あの人」


 屋上にある瓦礫の隙間から顔とレーザー銃を取りつけている右腕だけのぞかせ、敵の出現を待つ。


 突如、バイクのエンジン音が闘技場に鳴り響いた。密閉空間である会場内では、大型バイクの爆音が四方の壁に反響し、どの方向からエンジン音が聞こえるのか特定しにくい。


 アラトが周囲を見渡す。


 と、その刹那せつな、隣の廃墟ビルの屋上——アラトがいる廃墟ビルよりも一階分高いビル——から未来人のバイクが飛び出した。


 空中で、ブォーンとアクセルの空吹し音が鳴り響く。一直線に大型バイクが飛んでくる。よく見ると無人のバイクだ。


 バイクの突進を回避するアラト。直撃は免れたものの、無人の大型バイクが屋上で勢いよく爆発した。


 屋上の床が崩れ、アラトは下の階に落ちてしまった。バイクのガソリンに引火したらしく、突如として炎が舞い上がっていく。そして落下した部屋の中にも大量の黒煙をもたらしながら燃え広がった。


 大量の黒煙で視界を塞がれる。一酸化炭素を吸わないように鼻口を右手で押さえ、視界を確保できるよう風上に移動した。


 不意に背後から誰かの手が伸びてきた。左手首に腕輪のような物をカチッとはめられた。


 後ろを振り向くよりも先に、身体が宙に浮く。


「しまった!」


 未来人が第二回戦で女子高生、貞神月子に完勝した時に使った兵器、無重力になる腕輪。これを敵の腕にはめることで宙に浮かせ、自由を奪うという未来アイテムなのだ。


 未来人は外壁にでも張りついて潜んでいたのだろう。まったく存在に気づかなかった。


「こんにゃろ!」


 アラトは咄嗟とっさにレーザー銃で無重力腕輪を破壊する。アラトの自重と兵装を含め総重量はおよそ150kg。その重量が急激に重力を回復し落下した。


 背中から床に落ちたアラト、パワードジャケットの防御力でダメージは無くとも、その衝撃で動きが鈍る。


 未来人が拳銃を取り出し、両足の飛行ジェットシューズを射撃、破壊されてしまった。


 アラトもレーザー銃で反撃を試みるが、未来人はアッという間に姿を消す。


「はやっ!」


 破壊された飛行ジェットシューズをパージする。アラトは敵のバイクという機動力と引き換えに飛行能力を失った。


 どうあれ、未来人のほうが一枚上手、先制できない。


「カッコいいんだから、困るよなぁ~。敵ながらあっぱれ!」


 未来人が出ていったと思われる窓ガラスの無い窓から外を見渡す。やはり未来人の姿はどこにもない。


「はぁ……」


 溜め息をついて外に出ようと右足を窓枠に乗せた瞬間、身体が金縛りにあったように停止した。呼吸はできる。眼球も動く。しかしそれ以外、あらゆる関節が動かせない。全身が薄っすらと青白い光に包まれている。


 アラトは何が起きているのかわかっていた。未来人が第一回戦の対トレジャーハンター戦で使った『運動エナジー停止光線銃』の停止光線を浴びているのだ。この光線を浴びている間は、身体を動かすことができなくなるという金縛り用未来アイテムだ。


 問題はこの次の展開。


『物体十分の一縮小ネット』を頭から被って縮小させられたら、反撃は非常に難しくなる。なんとか脱出しなければ。


 しかし未来人がどこから『運動エナジー停止光線銃』を撃っているのかわからない。とにかく未来人がどこにいるのか把握すれば反撃できるはず。


 頭上左側で壁がきしむ音がした。眼球を無理矢理左上に向けると、未来人の左手だけが視界に入った。敵は天井の角に張りついているのだ。


 未来人は外に逃げたと勘違いをしていたのか、あるいは一瞬で別の出入り口から戻ってきたのかわからない。


 続いて床に飛び降りる足音。足音が徐々に近づいてくる。


 アラトは無言で精神制御脳波誘導ハンドレーザー銃を発射した。銃口は外に向いているので外に向かってレーザー弾が飛んで行く。発射されたレーザー弾が途中でクイッとUターンして戻ってくると、アラトが右足を乗せていた窓枠下側の壁に着弾した。


 破壊力を絞っており、壁がわずかに粉砕される。アラトの狙いどおり誘導され、壁を破壊したのだ。


 右足を支えていた壁が消失し金縛りのまま倒れるアラト。後方に倒れ、未来人を視界に捉えた。金縛りのままレーザー銃の第二撃を放つ。未来人が発射し続けている運動エナジー停止光線銃に直撃、破壊した。


 アラトのレーザー銃は的を定めて念じるだけで発射できるので、このような反撃が可能なのだ。しかも勝手に的を狙ってくれるので、射撃ド素人のアラトにピッタリだ。


「ヨシッ!」


 金縛りが解かれ自由になり、言葉を発することもできた。


 今度は奥の廊下へ走り出す未来人、またしても一瞬で姿を消していった。


 部屋の中を見渡すアラト、すでに炎と黒煙は収まっている。


「フゥー、油断も隙もあったもんじゃない……」


 溜息を吐きつつも、周囲の警戒を怠らない。


 この場に残るとまた奇襲されてしまうので、アラトはスパイダーマニピュレータで外壁をいその場から離脱した。



【作者より御礼】

 数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。


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