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第五十七章 勇者VS格闘家 その1

57.1 第三回戦第一試合 勇者VS格闘家 対戦情報


 観戦モニターに表示されている対戦情報より。


 闘技場について。


 本試合の闘技場はAタイプ。


 石畳の闘技舞台。押し出されると負け。


 勇者シン・ガイディーンについて。


 レベル999。


『勇者の鎧』、『勇者の剣』、『勇者の盾』を装備。


 麗倫について。


 太極拳、柔術、合気道、骨法をベースとした総合格闘技。


 伝説の神器『如意棒』。



 §   §   §



57.2 勇者VS格闘家 試合開始前 アラトの部屋


『シアイカイシ、3プンマエ』


 勇者と麗倫が会場に姿を現した。


 勇者はこのAタイプの闘技場は4度目となる。


 いつもの金色のよろいを身にまとい、高さ5mある舞台上に軽くひとまたぎでヒョイと飛び乗る。重量感あふれる装備でその身のこなし、彼の豪快さを物語る。


 一方の麗倫は如意棒を使って棒高跳びのように高く跳び上がりフワッと着地。身軽さと柔軟さをアピールしているようだ。


 二人が対峙すると、勇者が女性格闘家に語りかけてきた。


「どういうわけか、オレは4回連続この会場だ。場外に落ちるだけで負けというこのステージ、なにか特別な意図を感じるんだよなぁ。まるで、誰かさんがオレに場外に落ちろってささやいてるように思える」


「それは気の毒じゃのぉ~。まぁ、心配はいらん、わしも同じ条件で戦うんじゃからのぉ」


「フッ、それもそうだ。麗倫といったな、3日前の妖狐戦で負った傷はもう大丈夫なのか?」


「気を遣ってくれるのか。なんとも優しい御仁よ。勇者殿は男前のうえ、紳士じゃのぉ。心遣いは嬉しいんじゃが心配ご無用。泣きごと言うても始まらんし、まぁ、なんとかするわい」


「気に入った! さすが、オレが認める女傑よぉ! ならばオレも全力でいかせてもらうぞ!」


「そう誉めるな、わしとて少し照れるわい」


 二人のやりとり見ながら例によって興奮し始めるアラト。


「ス、スゴい! 熱血よう子ちゃんに圧勝した我が師匠と、あのメイド相手にビクともしなかった勇者。世界一対最高レベル! 師匠を応援するのは当然として、やっぱりワクワク止まらんなぁ~」


「良かったですわ。アラトさんがいつもどおりワクワクできて」


「そういえばさぁ、勇者がスライム戦でこの会場ボッコボコに壊したちゃったあと、ギリコも第一回戦で戦ったよね。運営が都度直してるのかなぁ?」


「おそらくですが、全く同じ会場をいくつも準備しているのでしょう。アラトさんだって、先日の魔法少女戦で戦ったあの廃墟の街ボッコボコにしているじゃないですか」


「いや、地割れだの豪雨だのでグチャグチャにしたのは僕じゃありませんが……」


「あら、そうでしたか。どの道、あの会場もまた使うでしょうし。ほとんど同じ条件の会場が別にあると想定します」


「ふ~ん、そうなんだ……」


『シアイカイシ10ビョウマエ、9、8、7……』



 §   §   §



57.3 勇者VS格闘家 試合模様その一 麗倫側


『……3、2、1、ゼロ』


 試合開始の合図。


 勇者がいきなり大剣を天高く掲げ『ガイディーン・トルネード』の構え。第一回戦敗者復活戦にて、ギリコを会場から追い出すために放った技。


 すかさず麗倫が如意棒を伸ばした。構えも前触れもなく一瞬の出来事。如意棒が伸びる速度は音速を遥かに超えており、両者間の距離は50mほどだったが瞬きする余裕すらなかった。


「グッ!」


 奥義を放つ前の溜めを狙われ、勇者は避ける間もなく如意棒の突きを食らう。後方へと飛ばされそうになったが踏みとどまる。


「そんな使い方もあるのか。今までに見せてなかったな」


「すまんのぉ。わしは武器に頼る戦い方はすかんのんじゃが、その技を食らってしもうたら一発で場外じゃ。それはつまらんでの」


「なるほど、そういうことか。さすがは麗倫、気を溜める隙も与えてくれんとは!」


 口角を上げニヤリとする勇者。彼の挑発的な笑みに、同じく笑みで応える麗倫。


「フッ、ならば、ひたすら攻撃あるのみ!」


「わしも麗倫流格闘術を存分に披露するとしよう」


 重厚な鎧を揺らし勇者が麗倫に走り寄る。正眼の構えで迎え撃つ麗倫。


「オレの剣撃は一発一発が奥義だからな、命の保証はできない! しっかり避けてくれ!」


 勇者の警告を受け、麗倫の表情が固くなる。


 勇者は大剣を上段に振りかぶり真っ向斬り。


「でやぁ!」


 その斬撃を麗倫が真正面から受け止めるかと思いきや、振り下ろした大剣の剣先を如意棒で絡めるようにさばきつつ、剣身を外へ押し出すような動作。


 軌道をわずかにずらされて、勇者の狙いに反するように大剣はそのまま石畳を叩きつけた。石畳に斬り込みの深い溝が刻まれる。


 麗倫の棒術と柔術を組み合わせた巧みな技の極意は、敵のパワーあふれる太刀筋に逆らわないように、最小限の腕力で軌道をずらすことにある。


 無駄のない美しく流れるような棒さばきは、彼女が長年培ってきた格闘センスと鍛錬の賜物。


『棒柔術のたくみ』とでも称すればいいか。



 §   §   §



57.4 勇者VS格闘家 試合模様その二 勇者側


 麗倫の見事なさばき技に魅了される勇者であったが、勇者自身がこれまでに築いてきた剣術も捨てたものではない。いやむしろ、甘く見られては困るのだ。


 大剣が石畳を叩きつけた直後、身をひるがえし次の斬撃を放つ。


 勇者は長年、魔王軍と戦い続け己の住む世界を守りとおしてきた。その長い年数のあいだ、ひたすら磨いていきた剣術の極意は彼が語ったとおりだ。


 それは勇者が放つ剣撃は、一発一発が奥義並みの破壊力であること。魔物が一発でも食らえば、上級の魔物であってもほとんど即死なのだ。


 一般の剣士が全身全霊で放つ必殺技と同等の破壊力を、片手一振りの斬撃で繰り出すのだから、途方もないパワーだと理解できる。


 そしてもう一つの極意。


 それは斬撃をほぼ永遠に継続して繰り出す超連続技のことである。理屈は特にない。


 敵が剣の一振りを避けたり受けたりしたとしても、休みなく次の一撃を繰り出す。その次もその次も。単純に間を開けたり小休止したりということがない。


 単なるスタミナの化け物という話だが、一対一で戦う時にこれをされると、対戦相手は必ず根を上げてしまう。勇者の経験上、絶対なのだ。勇者はカンストして以来、彼以上のスタミナを持つ人間、モンスターに出くわしたことはない。唯一魔王を除いて。


 息もつかせぬ両者の攻防は、怒涛どとうにように開始された。


 勇者が繰り出す斬撃の応酬は、右に左に、上から下から、そして突き、あらゆる方向から襲いかかり尽きることはない。


 その荒波に逆らうことなく静かにそして優しく受け流す麗倫。


 双方とも息を切らす様子すらない。ただただ石畳だけが二人が織りなす攻防の犠牲となり、そこかしこに深い溝が刻まれていく。



 §   §   §



57.5 勇者VS格闘家 観戦模様その一 アラトの部屋


「なんじゃこりゃー! こんなん見たことない! 見てるこっちが疲れるなぁ、もぉ!」


「『柔よく剛を制す』とは、このことですわ」


「で、いつまで続くんだ?」



【作者より御礼】

 数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。


【作品関連コンテンツ】

 作品に関連するユーチューブ動画と作者ブログのリンクは、下の広告バナーまで下げると出てきます。


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