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第五十五章 アラトの回想 その1

55.1 反省するアンドロイド


 第二回戦の全試合が終了した。


「おはようございます、アラトさん。そろそろ起きてください」


「ん、あっ? あれ、僕、寝てた?」


「はい、それはもうグッスリと」


「そうか、徹夜してがんばったけどダメだったんだ……。今何時?」


「ちょうど正午ですわ」


「げっ、じゃ、今日の試合終わってる?」


「はい。勇者様が勝ちましたわ、あのメイドに」


「そうなんだ……。てことは、僕は、勇者が倒せなかったアメスライバを倒したけど、逆に勇者は、僕を負かしたネコ耳メイドに勝っちゃったてことか、うぅぅぅ、なんか複雑……」


「勇者様のメンタルは尋常ではありませんわ。ネコメイドのマインドコントロールを物ともしませんでしたから」


「うっ、なんか嫌味に聞こえるのは僕だけ?」


「嫌味ではありません。事実をお伝えしているだけです」


「とにもかくにも、チートキャラ多すぎなんだよなぁ~」


「わたくしからすれば、アラトさんの参戦がパーフェクトランダムで大成功でしたわ」


「ありがとう、ランダムに選んでくれて! 何がどうパーフェクトなのか知らないけど、どうせなら変形合体できれば、もっと強くなれたけどね!」


「そうなのですか。では、なんとかしてアラトさんが変形合体できるように……」


「いや、ただの冗談だって!」


「かしこまりました」


 と、一礼するギリコ。


 ふと部屋の異変に気づく。部屋の中を見渡すと、昨日ギリコに破壊されたはずのお掃除ロボが姿を消している。どうやら、アラトが眠っているあいだに撤去したらしい。


 アラトは無言の圧力でギリコをジッと見つめる。それに反応するように、ギリコがモジモジと語り始めた。


「ところでアラトさん、昨日のことですが……」


「うん?」


「あの、掃除ロボットを壊してしまって、申し訳ありませんでした」


 ギリコは頭を深々と下げ、沈んだ声で謝罪した。


「うん。僕は大丈夫だけど、ギリコのチョップ食らったお掃除ロボさん、かわいそうだよね」


「はい、猛省しています」


 うつむいて縮こまり大人しく説教を聞く姿勢、お叱りを受けるペットのワンちゃんみたいだ。ここまでしおらしくするギリコは珍しい。


「新しい掃除ロボ、手配しておきましたので」


「昨日のあの子も修理してあげてね」


「かしこまりました。全力を尽くします」


「うん。直ったらまた使ってあげてね」


「はい、そのようにフォローいたします」


「ありがとう、ギリコ」


「昨日のこと許していただけますか?」


「もちろんだよ」


 どうやらギリコは十分反省しているようなので、ホッとした。


 ロボットが他のロボットを傷つけるのは、見るだけで心苦しい。破壊が故意じゃないにしても、ギリコの恣意的しいてきな行動が招いた事故なのだから、しっかり反省したうえで成長してほしいと願う。


 そうやって考えると、この人型AGIアンドロイドの人間らしさが益々加速しているような気がする。それは予測不能で、不安定で、不完全で、不明確で、非合理的な人間っぽさ。それらを統合して言い換えると『感情的な』という言葉がもっとも当てはまるのではなかろうか。


 ともあれ、これ以上ギリコを問い詰めるつもりはないので、話題を変えた。


「ところで、今日の試合って録画してあるんだっけ?」


「はい、全ての試合模様をあとからいつでも鑑賞できます」


「なんか映画みたい。じゃ、今日の試合、あとで確認しておこう」


「それがよろしいですわ」



 §   §   §



55.2 お掃除ロボ『リナコ』


 昨日、お掃除ロボ『リナコ』は人型AGIアンドロイドに不慮の事故で破壊されてしまった。少なからず、現場にいたアラトはそう認識している。


 しかし、事実は少し異なるのかもしれない。


 ロボット型の家電製品は、製造メーカーが製造物責任を負うというルール——PL法——の対象になっている。


 それにより、人間の生活に密着しているヒューマノイド系の生活支援ロボットは、廉価版であっても『ロボット工学三原則』に従うのが一般的だ。


 世界征服者のギリコにとっては、無関係なルールだが。


 ロボット産業界で広く採用されている『ロボット工学三原則』を簡潔に説明すると、


・第一原則:ロボットは人間に危害を加えてはならない。その危険を看過かんかすることによって、人間に危害を及ぼしてはならない。


・第二原則:ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。


・第三原則:ロボットは自己を守らなければならない。


 という三つになる。


 そして昨日、お掃除ロボがギリコにチョップを食らってしまった瞬間は、まさしく人間——アラトのこと——が危害を加えられそうな場面だったわけだ。


 すなわち、本来稼働するタイミングでないお掃除ロボが、二人のあいだに割って入った真の理由は、この第一原則『危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない』を遵守しようとしたのではなかろうか。


 しかし一つ疑問も残る。


 仮にギリコがとんでもないポンコツだったとしても、最優先任務対象であるアラトの頭をかち割って殺すという選択は絶対にありえない。その点は性能的に100%絶対だと明言できる。


 しかるに、ロボットを真っ二つにするほどのパワーでアラトを狙ったのだろうか? 答えは否。ギリコはチョップの体勢になったが、そもそもアラトに直撃させるつもりではなかった、としか説明がつかないのだ。


 矛盾点と疑問を残す出来事だったが、真実は『神のみぞ知る』とだけ述べ、永遠の謎としておこう。



【作者より御礼】

 数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。


【作品関連コンテンツ】

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