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第五十二章 妖狐VS格闘家 その2

52.5 妖狐VS格闘家 試合模様その三 妖狐側


 グッと小さくガッツポーズの妖狐。


「うまくいった……。よう子グッジョブ!」


 麗倫の『如意棒』を封じた。妖狐の作戦は初っぱなからうまくいった。麗倫が初動で攻撃してこなかったことが、功を奏している。


 観戦している全ての者が思ったに違いない。第一回戦で妖狐が勝利した後、影妖怪から錫杖しゃくじょうを借りたのだと。


 それは予想どおりだ。


 そもそも退魔法具錫杖の効果は、魔術、呪術を封印することだ。しかし『如意棒』の神通力は神術の類、つまり白魔術の分類になる。そして錫杖が封印できるのは黒魔術限定。理屈が合わない。


 妖狐が影妖怪から聞いていた事柄は、錫杖は黒魔術を封印するだけでなく、黒魔術——妖狐の呪符魔術——を強化することもできるという説明だった。相反する内容だが、使用者がどちらかを選択できるというわけだ。


 つまり、妖狐が用いる呪符魔術の効果を錫杖で強化した上で、その呪符魔術を使って白魔術——如意棒の神通力——を封印したという理屈になる。


 結果、如意棒の強力な神通力を、錫杖と呪符魔術の掛け合わせで抑え込むことに成功した。


 麗倫の如意棒を封じたことで、妖狐の勝算は各段に上がっている。


 妖狐は次の手をたたみ掛けるように展開。


 いきなり護符神術『太陽の光』で目眩めくらまし。


 その隙に護符を石畳にばらまく。九枚の護符を使い『幻影分身の術』を実行、九つの幻影を創り出す。同時に9枚の呪符を宙にばら撒き九つの『呪符扇子』を創った。


 第一回戦でも活躍した実体のない幻影妖狐だ。各幻影妖狐が実体のある呪符扇子を一つずつつかむ。これで実体のない幻影妖狐も物理攻撃が可能になった。


 さらに護符も呪符も必要としない妖狐オリジナルの妖術『妖狐術九分身』で9体の妖狐に分裂した。九つの狐尻尾が生えていた九妖妃が、一つの狐尻尾しかない9体の妖狐に分裂したわけだ。こちらは実体が存在し全員弓をたずさえる。つまり、弓攻撃も可能な一尾の妖狐なのだ。


 第一回戦では妖狐術を使えなかったので、麗倫はこの技を知らない。


 太陽の光が収まった。


 18体の分身が麗倫に急接近しぐるりと囲む。


 9体が弓を構え呪符で創った矢をセット、残り9体は『呪符扇子』を構える。



 §   §   §



52.6 妖狐VS格闘家 試合模様その四 麗倫側


 徒手空拳——いわゆる素手のこと——の麗倫。


 本来、麗倫がもっとも得意とする格闘技こそ、徒手空拳なのだ。特に相手の打撃技を受け流し、あるいは活用して反撃に出るというのが彼女の極意。そして、最小限のパワーで効率よく戦うという彼女の信条。


 彼女の宣伝文句は『太極拳、柔術、合気道、骨法をベースとした総合格闘技』と語っているが、少林寺拳法や各種マーシャルアーツといった世界中のあらゆる格闘技術にも精通している。当然、打撃技も超一流なのだ。


 彼女が『武術の仙女』と呼ばれるゆえんは、無心でありながら、魂が上空から己の姿を見ているかのように周囲を見渡すことができるという精神の在り方を創始したことだ。


 それを可能にしたのが『瞑想の呼吸』。


 『瞑想の呼吸』は麗倫が独自に編み出した麗倫流格闘術の奥義。その真髄は、究極の無想で究極の集中力を戦闘中に生み出すという、ある意味矛盾した極意なのだ。


 『瞑想の呼吸』を戦闘中に実行すると、第六感——敵の次なる攻撃を予測すること——の精度が上がり適応力が向上、さらには心・技・体がベストコンディションになる。


 アスリートが試合本番中、パフォーマンスが絶好調になることを俗に、『ゾーンに入った』と表現するが、まさにそのことだ。


 つまり麗倫は『瞑想の呼吸』を行うことで、いつでも『ゾーン覚醒』し、意識して常時絶好調を導くことができるわけだ。


 超能力でも異能でもない。それは人間が成し得る最大級の特殊能力。麗倫が一生涯をかけて導き出した格闘家としての究極の到達点なのだ。


 麗倫は初対戦の相手と対峙する時、少林寺拳法、白蓮八陣びゃくれんはちじんの構えの一つ、『合掌構え』を好き好んで選ぶ。


 合掌礼の姿勢で相手へ敬意を示すと同時に、『瞑想の呼吸』で精神統一、集中力を極限まで高めるのだ。それにより、相手の攻撃手段に応じた最良の構えへの即座移行を可能としている。


「ほう、18体の分身とな。9体が一尾の弓持ち影有り、残り9体が九尾の弓無し影無し。なるほどのぉ~」


「えっ……、一瞬で見破るなんて……、さすが……」


「一回戦では見せなかった技じゃが、何か理由でもあるのかのぉ~」


 言いながら合掌構えで精神統一する麗倫。双方の戦闘準備は整った。



 §   §   §



52.7 妖狐VS格闘家 試合模様その五 妖狐側


 呪符扇子を武器とする幻影妖狐9体が前衛、弓攻撃可能な一尾妖狐9体が後衛で麗倫を取り囲んでいる。


 幻影妖狐の呪符扇子は一振りでカマイタチを発生させる武器だ。その真空刃で肉を裂くため、直撃すれば腕一本くらい失ってもおかしくない。本体は短い刃物であっても、真空刃は日本刀と同程度の間合いがある。


 妖狐のスピード、跳躍力は生身の人間と比較しておよそ3倍、9体が連携して繰り出すカマイタチを全てかわすのは至難の業だ。


 幻影妖狐8体が呪符扇子で斬り込んだ。地上の前後左右、上空から前後左右の8方向から麗倫を襲う。


 麗倫は石畳をスライディング気味に前進し、真正面にいる幻影妖狐の足元をすり抜けた。実体が無い幻影妖狐の足元には実質何も存在しない。


 弓攻撃可能な一尾妖狐が携えるのは『妖狐秘弓』。呪符で特殊効果のある矢を生成し放つことができる。


 9体の一尾妖狐は呪符で『爆炎弓矢』を生成した。闘技舞台の狭さを考慮して、味方が被爆しないよう爆発範囲を抑えている。


 麗倫は弓を構える一尾妖狐群をほとんど無視し、錫杖しゃくじょうに方へとダッシュした。明らかに錫杖奪取が狙いだ。


 分裂しているとはいえ、一尾妖狐全員が弓の名手。9体全員が一斉に放つ弓矢を全てかわせるとは思えない。


 一番近くの一尾妖狐が、疾走する麗倫の足元手前にある石畳を狙って『爆炎弓矢』を放つ。麗倫を追い抜くような軌道で。


「えっ……!?」


 その瞬間、矢を放った一尾妖狐が目を丸くし声を上げた。


 なんと、麗倫と並行して飛びながら追い抜こうとする矢を、彼女が走りながら素手でつかんだのだ。石畳にヒットする直前に。


 掴んだ直後、ブレーキをかけるように前転、起き上がりながら背後に向き直り、妖狐の群衆に視線を向ける。そのまま元の場所に戻るように再びダッシュ。


 残りの一尾妖狐が麗倫に向け『爆炎弓矢』を放っていたので、振り向いた麗倫に向けて矢が集中する。その全てをくぐるように飛んだ。まるでプールに飛び込むような姿勢だ。


 麗倫の遥か後方で次々に『爆炎弓矢』が爆発。


 着地した彼女を幻影妖狐の群衆が囲みながら、麗倫の次なる行動に度肝を抜かれる。


 麗倫は真上にジャンプしながら、掴んでいる『爆炎弓矢』を足元の石畳に向けて投げ爆発させた。その矢が爆発する代物だと一瞬で把握していたのだ。


 そして爆発の反動で空中に舞い上がりながら爆破の衝撃を回避、とんでもない危険行為を飛びながらやってのけた。


 同時に数体の幻影妖狐を爆裂に巻き込む。4体の幻影妖狐が消滅、四つの呪符扇子が石畳に落ちていった。


 一尾妖狐が一様に呆気あっけに取られている。


 狼狽ろうばいしている隙に、麗倫は落ちた呪符扇子を二つ拾って2体の幻影妖狐に投擲とうてき。的にされた2体の幻影妖狐は素早くかわしたが、その投じられた呪符扇子がブーメランのように戻ってきて、別の幻影妖狐2体の背中に直撃、消滅した。


 もともとそれが狙いだったのだろう。


 石畳の上を前転気味に進みながら、落ちている呪符扇子を二つ拾い起き上がった麗倫と、3体の幻影妖狐が対峙した。


 幻影妖狐はすかさず呪符扇子でカマイタチを同時に放つ。麗倫がリンボーダンスのようにエビ反りながらかわし、両サイドの幻影妖狐を両手の呪符扇子で斬りつける。


 消滅する2体の幻影妖狐。


 背中から床に倒れた直後、消滅した幻影妖狐から落ちてくる呪符扇子を蹴って、最後の幻影妖狐にヒットさせた。


 幻影妖狐9体が全滅。その間、わずか2分。


 呪符で創られた幻影妖狐は、少しでも斬つ付けられれば一瞬で消滅というもろさがある。が、それにしても早すぎる。


 妖狐は、第一回戦で麗倫が忍者と戦い、勝負を諦めさせた逸話を知っている。麗倫が途轍とてつもない格闘家であるとわかってはいたが、それにしても異常な強さだ。


「まだまだ、勝負はこれから……。よう子ファイティン!」


 幻影妖狐は呪符扇子を奪われるばかりで、戦力にならないと悟る。


 一尾妖狐9体のうち4体は弓組継続、4体は弓から呪符扇子に武器を切り替える。残り一体は錫杖を死守するため、そのかたわらへと移動した。


 呪符扇子を手にする4体の一尾妖狐がカマイタチで攻撃。さらに隙を突いて弓組が『爆炎弓矢』を狙えるよう、ヒット&アウェイを繰り返して連携する。扇子組が距離をとった瞬間、一斉に弓矢攻撃を仕掛けるという戦法だ。


 麗倫も呪符扇子を両手に携えるが、さすがに呪術を行使してカマイタチは発生できない。しかし、呪符扇子の面を盾のように使って真空刃の衝撃を受け止め打ち消すことはできるのだ。一瞬でそのことに気づく麗倫。


 カマイタチを防げれば、妖狐の懐に飛び込める。隙間を縫うようにキック技を繰り出し、麗倫の反撃技が妖狐に直撃し始めた。スピードでは麗倫を上回るはずの妖狐、しかし、麗倫の格闘技術は妖狐のそれを遥かに凌駕りょうがする。


 広げた扇子を羽に見立て、柔軟な肉体が蝶のように舞う。オリンピックの新体操選手さながら女体美を披露しつつリズムに乗って戦う様は、麗倫の優雅で秀逸な芸術作品ともいえた。


 前衛の扇子組がことごとく反撃技を食らい、苦し紛れに回避行動で距離を取った。弓組が『爆炎弓矢』を斉射。


 しかし、麗倫はそれを待っていたかのように呪符扇子を閉じて、矢を次々に弾き飛ばす。弾かれた矢は、舞台端に刺さっている『能力封印結界』の矢に向けて舞い上がり爆発した。


 『爆炎弓矢』も反撃に利用されるばかりで役に立たない。そればかりか『能力封印結界』の矢を掃討されてしまうと、せっかくの優位性が失われる。


「つ、強い……、生身の人間と思えない……。どうして、あなたはそんなことができるの?」


 九妖妃は思ったことを、つい敵の前で口にしてしまった。


「いや、なに、お前さんの狙いが正確すぎて、弓矢の軌道が読みやすいのじゃ」


 麗倫はにこやかに答えた。


 麗倫の屈託のない笑み、まっすぐな人格。その人柄に九妖妃は言葉を失った。


 そうこうしていると、麗倫が猛ダッシュ、一尾妖狐弓組をすり抜け錫杖しゃくじょう目指して突進し始めた。


 後方に下がり、護符神術の『治癒』でダメージ回復を済ませていた扇子組が反応。4体の一尾妖狐が麗倫に向け呪符扇子を一斉に投擲とうてきした。


 九妖妃はまたしても、麗倫の神業を目撃することになった。


 麗倫が、はっ、と掛け声とともに跳び上がると、飛来する四枚の扇子を足場にし、まるで空中を走るかのごとくタイミングよく空中ジャンプで接近してくる。


「す、すごい……」


 九妖妃も獣人形態でできるかわからない。ましてや普通の人間がやってのけられるわざではないはず。


 驚愕きょうがくして固まった扇子組を飛び越え、錫杖に急接近する麗倫めがけて、弓組が矢を放った。


 錫杖を守る最後の一尾妖狐が呪符扇子を構えて、突進してくる麗倫を迎え撃つ。


 が、突如麗倫が真横へと回避行動をとった。すると弓組が放った矢が麗倫の真横を通過し、錫杖を守る一尾妖狐の真正面へと飛来する。


 咄嗟とっさに避ける一尾妖狐。そこを狙って、麗倫にまんまと錫杖を奪取されてしまった。


 錫杖を握った麗倫はすかさず棒術のように振り回し、弓組が放った『爆炎弓矢』を次々に弾き飛ばす。


 舞台上のあちこちで爆炎が巻き起こり、やがて闘技場が黒煙に包まれ視界を失っていった。


 麗倫を見失い、弓攻撃を中断する一尾妖狐の弓組。


 如意棒が復活するのも時間の問題。ならば別の手を実行するのみ。黒煙がモウモウと広がる中、9体の一尾妖狐が一箇所に集合した。


 次第に爆炎が全て収まり、黒煙も風に流され視界を取り戻していく。


 案の定、舞台の端に突き刺さっている『能力封印結界』の矢の半数以上を、麗倫の手により破壊されている。つまり、如意棒の能力封印は解除されてしまい神通力は元通りなのだ。



 §   §   §



52.8 妖狐VS格闘家 観戦模様その一 アラトの部屋


「うぅぅぅー、うぅぅぅー、うぅぅぅー、うぅぅぅー」


 アラトは食い入るように観戦モニターを見ていた。


 麗倫の魅せる神業は感涙もの。


 しかし、ファンである九妖妃——『九尾のよう子ファイティン!』のヒロイン——が苦戦していることは一目瞭然。がんばってほしい。


 どちらを応援していいかわからない。いや、どちらも応援したい。


 そして何より、女子を応援していることがバレると、すぐに誰かさんが怒っちゃうしで、ハラハラドキドキが止まらない。


 独り悪戦苦闘するアラト、ただただ唸る以外に手立ては無いのだ。



【作者より御礼】

 数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。


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