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第五十二章 妖狐VS格闘家 その1

52.1 第二回戦第七試合 妖狐VS格闘家 対戦情報


 観戦モニターに表示されている対戦情報より。


 闘技場について。


 本試合の闘技場はAタイプ。


 石畳式舞台、一辺100mの正方形、場外に出ると負けになるという特別ルールあり。


 九妖妃について。


 九尾の妖狐。妖狐界最強の女戦士。


 妖狐術、護符神術、呪符魔術を行使する。


 弓術を得意とし、妖狐族に代々伝わる弓『妖狐秘弓』を駆使する。


 麗倫について。


 太極拳、柔術、合気道、骨法をベースとした総合格闘技。


 伝説の神器『如意棒』。



 §   §   §



52.2 妖狐VS格闘家 試合開始前 アラトの部屋


『シアイカイシ、3プンマエ』


 闘技場に現れた九妖妃と麗倫、両者とも収納式階段を使って舞台に上がった。


 九妖妃は狐耳、九尾、巫女系コスチュームのかわいらしい妖狐。『妖狐秘弓』を背負い、右手に錫杖しゃくじょうを握る。


 麗倫は健康美あふれるアジア系美女、如意棒を携える。


 アラトがモニターの二人を見て違和感に気付いた。


「あれっ? 錫杖って対戦相手の、えーと、あの阿修羅みたいな、影妖怪? だっけ、が持ってた武器でしょ」


「おそらくは借り物なのでしょう。彼女もなかなかやりますわ」


「あー、たしかにありうる。原作でも、よく他人から武器借りてたし。でもどうしてだろ、あれって必要な武器なのかな」


「第一回戦の対戦情報で、錫杖は魔術、呪術を封印すると解説がありましたわ」


「でもあの人、如意棒しか持ってないのに」


「わかりませんが、何か策でもあるのでしょう」


「なるほど……」


 まずは『九尾のよう子ファイティン!』のヒロインよう子ちゃん応援したい、と思うアラトなのだが、ギリコの前でそれは難しい。


 うぅぅぅー、と唸るアラト。


 飼い主様大好きなワンちゃんが、その飼い主様にエサを取り上げられて吠えたいのに吠えられない、みたいな心境になるアラトだった。うぅぅぅー。


『シアイカイシ10ビョウマエ、9、8、7……』



 §   §   §



52.3 妖狐VS格闘家 試合模様その一 妖狐側


『……3、2、1、ゼロ』


 試合開始と同時に、妖狐がバック転で距離をとる。後方に下がると、手にした錫杖しゃくじょうを石畳の隙間に立たせるように差し込んだ。


 続いて帯の中から呪符を数枚取り出し8本の矢を出現させると、背負っていた妖狐秘弓を握り、片膝をついた。


 直立姿勢で的を狙う弓術には射法八節という基本手順が存在する。『足踏み、胴造り、弓構え、打起し、引分け、かい、離れ、残心』という八つの一連動作だ。


 一方、彼女が得意とする弓術極意は走りながら、時には飛び跳ねながら弓を引くことにある。そのため、『足踏み、胴造り』は省略され、残りの6手順を素早くこなしている。それが彼女の戦闘弓術、純粋な格闘技術だ。


 もう一つの弓術極意は、『妖狐秘弓』に宿る妖術を駆使した『天地降射弓術』。


 数本の矢を天に向けまとめて放つと、全て狙った場所に落下し地に刺さるという神技のような極意だ。彼女はその技に長けており、妖狐族の中でもピカイチなのだ。


 片膝をつき8本の矢を天に向け精神集中、『弓構え』の動作で石畳全体を一瞬確認。『打起し、引分け、会、離れ、残心』をゆっくりと行う妖狐。


「能力封印結界! やぁ!」


 気勢とともに矢を放った。天に向け放たれた矢が空中でUターンし、地に降り注ぐ。闘技場舞台全体を取り囲むにように正方形を描き、舞台の端に8本の矢が突き刺さった。


 続けて同じ動作を3回繰り返す妖狐。結果として32本の矢が舞台の端に突き刺さった。



 §   §   §



52.4 妖狐VS格闘家 試合模様その二 麗倫側


 試合開始の合図直後、妖狐がバック転で距離をとり、弓を放つ動作に転じたので、麗倫は正眼の構えをとって『瞑想の呼吸』で精神統一した。麗倫には自信がある。重火器の弾丸を叩き落すことはできないが、弓矢であれば飛んでくる矢を叩き落せるのだ。


 ちなみに伝説の神器『如意棒』は、この大会に参加するにあたって特別に支給してもらっている武器。『如意棒』がなければ、たとえ世界一の格闘家であろうとも、強力無比なモンスターどもと対等に渡り合うなど不可能なことだ。


 『如意棒』には、『如意棒』による攻撃に限り、その攻撃力を百倍にする能力がある。攻撃時の反動による衝撃で使用者が負傷することもない。


 さらに『如意棒』を使って敵の攻撃を受け止めた時に限り、その破壊力を百分の一に減少させる能力もある。


 つまり、如意棒をうまく使いこなせば、文字通り百人力となるわけだ。


 麗倫本人の格闘技術、棒術は、人間界でも最上位の破壊力を備えるうえ、柔術を応用した敵の攻撃を受け流す技術は神業と呼んでもよい。


 生身の人間で、『如意棒』の使用者として彼女以上にふさわしい人物は存在しないだろう。


 事実、生前の彼女は『世界一の格闘家』、『武術の仙女』などと呼ばれ、多くの格闘家から崇拝されていたのだ。彼女の実力を疑う者など存在しなかった。


 麗倫は、第一回戦での妖狐の戦いぶりを観戦していたので、彼女が策士であることを十分理解している。妖狐の体術も申し分ない。筋力、肉体柔軟性や反射神経は、種族として生身の人間を遥かに凌ぐので、理屈で人間とは対比できない。


 しかも、敵である影妖怪にほとんどの能力を封印されたまま戦っていたので、妖狐は真の能力を第一回戦で披露していないのだ。麗倫からすれば情報不足もはなはだしい。


 要は、様子見をして敵の戦闘力をしっかり見極める必要がある。人間界では自他ともに認める最高峰の格闘家であるが、慎重にならざるを得ない。


 麗倫は身構えたまま、離れたところで妖狐の様子をしばらく観察していた。


 妖狐が天に向け弓を放つと、数本の矢が次々に石畳の縁に突き刺さる。異変を察した麗倫は、咄嗟とっさに『如意棒』を手放した。


 ガッターン! という音が足元で鳴り響いた。まるでビルの屋上から鉄の塊でも落ちてきたかのような轟音ごうおんと地響きだ。


 麗倫はその現象により何が起きたのか悟った。


 伝説の神器『如意棒』が魔法の力を失ったのだ。神通力とでも称すればいいのだろうか。単なる重たい金属棒に変貌してしまった。おそらく1トンを超えている。少なからず、一人の人間が振り回せるような重さでない。


 如意棒を放置し、素手で身構え対峙する麗倫。圧倒的に不利になったとはいえ、その眼光は闘志に燃え決して衰えていない。



【作者より御礼】

 数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。


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