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第五十一章 ナース攻防戦&アラト絶体絶命 その2

51.1 ナース攻防戦&アラト絶体絶命 後編


 急にニヤっとするギリコナース。


「仕方ありません。そこまでおっしゃるなら解説致します」


「へ? 本気で?」


「フフフ、よろしいですか、新人しんじんさん。四足歩行だったお猿さんが、二足歩行の人類に進化したことによって、人は性欲を探求するようになったのです」


「はぁ? いったいなんの話やねん!?」


「黙らっしゃい! いいですか、四足歩行が二足歩行に進化したことによって、女性の骨盤形状が変化しました。それにより産道が狭くなったわけです。つまり、より小さい身体の赤子でないと出産できないわけです。

 結果、小さく未熟な赤ん坊を育てるのが一層困難になってしまったわけです。ひ弱な赤子をより安全に育てるために、夫婦の深いきずながそれまで以上に不可欠になりました。そして夫婦間の愛を深め、絆を深める最良の方法が、夫婦間の日常的な性行為となったわけです。

 こうして繁殖期以外の性行為が人類の健全なる進化に寄与し、新婚さんのイエスノーマクラが誕生したのです! おわかりですか、新人さん!」


 ギリコナースは心なしか、息を荒げて力説した。


「これって、マクラの話? じゃ、答えはノーで!」


「あきまえへん! 人類の機微を学習するために、どうしても必要なことです!」


「ネットで学習しろよ、そんなの!」


「だって、なんやかんやでその手の重要な画像は見つからないんですもの!」


「そんなん当たり前だよ! わいせつ物陳列罪で捕まっちゃうでしょ!」


「だから、新人さんが犠牲になってください!」


「い、嫌だよ! ギリコが見るってことは、例のスーパーコンピュータとやらに画像残っちゃうでしょ! 嫌だ、そんなの!」


 ベッドの上に座り、両手両足を使って枕をきつく抱き締めているアラト。ギリコナースは無言でゆっくり近寄り、アラトの前でしゃがみ込む。アラトが枕でガードしている部位に目線の高さを合わせた。ジッと見つめることおよそ100秒。


「わかりました……」


 アラトが諦めたように溜息をついた。


「わかっていただけましたか、新人さん」


「じゃ、こうしましょう、先輩」


「はい?」


「僕が優勝したら、先輩を人間にするって約束じゃないですか」


「少々嫌な予感がしますが、はい」


「先輩が、その、人間の女性になったら、ねぇ、いや、だから、僕は男だし……、ほら、わかりますよね? 男女平等ですよ! 男女平等!」


「さっぱりわかりません!」


「いいじゃないですかぁ! 減るもんじゃなし!」


 しばらく思考を巡らせるAGIアンドロイド。


「減ります!」


「そこは減るんだ……。てか、もう、なんの話か伝わってますよね? 先輩、嫌なんだ。だったら、僕もヤですよ!」


「い、嫌ということではなく、未来を想定するにあたり、不確定要素が多すぎて結論に至らないというだけのことです」


「でも駄目なんでしょ? じゃ、僕もダメっスよ!」


「う、うまいことはぐらかして、話をすり替えましたね。さすがとだけ申しておきましょう」


「じゃ、今日のところは痛み分けということで。諦めてください、先輩!」


「何がどう痛み分けなのか意味不明ですが、この戦いはこの先も続きます。覚悟してください、新人さん!」


「続くな! ってか、変な伏線張っても、ぼかぁー、絶対に回収しませんよ!」


 アラトは拳を掲げ断言した。


 ギリコナースは悠然ゆうぜんと立ち上がり、ドアに向かう。


「それから、新人さん。わたくしのピンクのおパンツは似合っていましたか? ぜひ、感想を拝聴したいものです。いずれゆっくりと」


 アラトは呼吸停止した。


「体をしっかり休めてくださいね、アラトさん、それでは」


 お辞儀をして最後にひとこと告げると、ギリコナースはようやく病室を出ていった。


 アラトは胸を撫で下ろし、大きく溜息をついた。



 §   §   §



51.2 大会三十一日目の朝 アラトの部屋


 アラトは昨日の試合で受けた負傷を治療するため、今朝まで医務室にいた。有難いことに重傷には至らず、身体の包帯は今朝外してもらって顔にバンソウコウだけ残った。さすがは最新の医療技術、いや、もしかするとヒーリング系の魔法を使っているのかもしれない。


 とにもかくにも、第二回戦第七試合の観戦に合わせて、アラトは自分の部屋に戻ってきた。


 9時ギリギリだったので、すでにギリコが部屋に入っている。相変わらず、プライバシーもへったくれもあったもんじゃない。


「あら、アラトさんおはようございます。もうお体は大丈夫なのですか?」


「うん、ギリ、かな」


「そうですか。とにかく無事でなによりですわ」


「ありがと。そんで、今日の試合は?」


「九妖妃対麗倫ですわ。麗倫は第一回戦で幽霊という表示でしたが、一時的に生き返った生身の人間だと本人が説明していました。ですので、妖狐対生身の人間というのが正確な情報ですわ」


「あー、あの凄腕如意棒の人ね。忍者相手に一度も攻撃が当たっていない……のに、それで勝っちゃうという、ある意味前代未聞の殺し合い。ちょっと凄すぎる」


「はい。対戦相手の妖狐も、戦術の大半を封じられていたにもかかわらず、最後まで諦めないことで勝っています。本日の試合もなかなかの好カードではないでしょうか」


「あれれ、ギリコも異種格闘技戦の萌え要素がわかってきたんだ! それはえーこっちゃ!」


「はい。あっ、そろそろ始まりますわ、アラトさん。一緒に見ましょう」


「うん」


 昨日の変態騒ぎから一夜明け、まるで何事も無かったかのようにギリコは堂々と振舞っている。


 心変わりが早いのか、無頓着なのか、図々しいのか、計算ずくなのかわからないが、面倒事を引きずらない一面もギリコとの付き合いやすさなのだ。


 一方で、ギリコの態度がここ最近変わってきているとも実感する。それがアラトによって安心材料なのか不安材料なのかわらない。そういった不明瞭な感覚に捉われていた矢先、ある事を急に思い出す。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~、そうだった!」


 スクッと立ち上がって大声を上げたアラト。ギリコは無言でアラトを見上げる。


「そうだったぁぁぁ! 九妖妃って『九尾のよう子ファイティン!』のよう子ちゃんじゃん!」


「そのとおりですわ。お忘れだったのですか、アラトさん。フィギュア買うほど大ファンだって自慢していたじゃないですか」


「いや、まぁ、ホントにフィギュア買ったかどうかについて言及した記憶ないけど、メッチャ好きです……」


「良かったですわね」


「……」


「どうされたのですか、アラトさん。そんなにマジマジと見つめられると照れてしまいますわ」


「いや、まぁ、その……、ねぇ」


「ねぇ、と言われましたも。もしかして、わたくしが嫉妬しないのはおかしいとお考えですか?」


「その問いにそうだと答えるだけで、ドエラいことになりそうなんですが……」


「全然大丈夫ですわ。所詮は二次元の存在。アニメのキャラクターに嫉妬するわけございません」


「そうなんだ……。実在している時点で三次元に昇格してると思っちゃいますが、まぁ、その辺は突っ込まないようにして……」


「それがよろしいかと」


「はい……」


 今日の観戦は、できるだけ騒がないほうが身のためだと思うアラトであった。



【作者より御礼】

 数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。


【作品関連コンテンツ】

 作品に関連するユーチューブ動画と作者ブログのリンクは、下の広告バナーまで下げると出てきます。


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