第五十章 主人公VS魔法少女 その3
50.6 主人公VS魔法少女 試合模様その五 魔法少女側
敵の男を取り逃がし、カドリィたちと合流している風の精霊と水の精霊。火の精霊とともに次の手を練っている。
「彼も呼び出すと、お嬢様の負担が大きくなります」
「そうね、サラマンダーちゃんの言うとおりだわ。とりあいず、お姉さんのわたしが一度引っ込むことにする。あとは3人でお願いね」
「承りましたわ、シルフさん」
「よろしいです。では、お嬢様、ノーム殿を呼び出してください」
「えぇぇぇー、カドリィ、少し疲れたの……」
少し不機嫌そうな顔をする魔法少女。
「しばらくの我慢です、お嬢様。ノーム殿がいればあっさり決着できますぞ」
「うん、わかったの。じゃ、土の精霊ノーム! はい!」
随分と手を抜いた召喚ポーズの魔法少女。実は、土の精霊ノームのことが少しばかり苦手なのだ。
「わぁーい、呼び出しありがと、お姉様!」
ハロウィンコスチュームと見間違うほど絵に描いたような魔法使いの格好で、10歳前後と思しき少年が出現した。
黄色いフード付ローブ、黄色いとんがり帽子、身長と同じ長さの魔法の杖、その先端はトゲトゲの星を模した円形オブジェクト。
背丈は魔法少女より少し低いくらい。
第一回戦では姿を見せていない土の精霊ノーム、今回が初のお目見えだ。
火、風、水の精霊たちは、魔法少女が召喚魔法を実行しなくても自発的に出現できる。召喚主を守るために。しかし土の精霊だけはそれをあえてしない。単純に面倒くさがり屋なのだ。
そして、魔法少女が土の精霊を若干苦手とする最大の理由がこれだ。
「お姉様ぁ!」
ノームに声をかけられるが、プイッとよそ見する魔法少女。
精霊たちの年齢は不詳。おそらく人類の歴史よりも長い年齢のはずだ。見かけと全然違うが、口に出すのもおこがましい。それでいて、魔法少女のことを『お姉様』と呼ぶのだから止めてほしい、となるわけだ。
しかも、非常に馴れ馴れしくて図々しい。
魔法少女の実年齢はこの際、棚に上げておくとしよう。
一方、風の精霊シルフは打ち合わせどおり、魔法少女の魔力消費を軽減するためにいったん姿を消した。
魔法少女が話しかけようとしないので、サラマンダーが場を仕切る。
「ノーム殿、お休み中のところ申し訳ない。本日の敵、逃げるばかりで少々手こずっておりまする。お力をお貸し願いたい」
「いいよ。でもなぁ~、お姉様がなんか冷たくてさぁ~、気乗りしないなぁ~」
「コホン、お嬢様、ささ、ノーム殿にお願いを」
魔法少女を見ながら催促するサラマンダー。口を尖らせる魔法少女。
「し、仕方ないの……。ノ、ノームしゃん、お、お願いなの」
ノームに渋々お願いをする。
実をいうと、魔法少女は不安がったり、テンパったり、不機嫌になったりすると、幼児語が混じりだすのだ。精神コントロールの弱さが玉にキズ。特にサ行が影響を受けやすい。
「はぁーい、お姉様のお願いなので頑張ります! それでは皆さん、大きく揺れますが、ここは安全ですよぉー!」
「さぁ、お嬢様、こちらへ」
サラマンダーが安全そうな場所を選び、魔法少女を誘導した。
「いっきますよぉー!」
ノームが魔法の杖を地面に刺すと、両手で印を結び呪文を詠唱。魔法の杖の先端部分が煌々と光り始めた。片膝をつきつつしゃがみ込み、両手の平を大地に押しつける。
大地が少しずつ揺れ始めた。さらに闘技場全体が大きく揺れ始め、地面にヒビが入り、地割れが起きる。廃墟ビル群が大きく揺れたかと思うと、大地に吸われるように沈み始めた。
もともと耐震性皆無となっているであろう廃墟ビルが轟音とともに倒壊し、瓦礫の山を築いていく。
土の精霊ノームの地震魔法だ。おそらくマグニチュード7~8レベルの揺れ。なんとも恐ろしい魔法だが、彼は全力を出し切っていない。
それでも闘技場内の街半分が全壊、残り半分が半壊といった状況となっている。一応、頑丈な造りの密閉空間会場外壁は無事のようだ。
ちなみに、魔法少女と精霊たちが立っている場所は影響がいっさいなかった。土の精霊が意図的に安全圏を作っているからだ。大地の揺れを限定的にコントロールする能力、ノームが四大精霊の中で最も魔力が強い証拠の一つだ。
しだいに揺れが収まると、倒壊した廃墟ビルの瓦礫から砂塵がモウモウと舞い視界を塞いでいる。
「こんなんでいいですか、お姉様」
「ひゃ、ひゃい……」
久しぶりに体験するノームの地震魔法に、魔法少女も恐怖感でフリーズしていた。
「さすがですな、ノーム殿。これならば敵も無事で済まされることはないでしょう」
「ノームさん、相変わらず凄いですわ」
感嘆の声を漏らす精霊たち。
とその時、驚愕の表情でウンディーネが砂埃の舞う上空を指差した。
「なんと!」
サラマンダーもその存在に気づき声を上げる。
そう、そこには空中で停止飛行している敵の姿があるのだ。空中に逃げているということは、当然、地震の影響はいっさいないわけで。
「あいつが、例の逃げ回っている敵の男なの?」
「はい、そのとおりですな」
ノームの問いにサラマンダーが答えた。
上空の敵がこちらに気づき、レーザー銃を撃ってきた。
すかさずサラマンダーが火炎弾で応戦。
「あったまきたぁー! ボク、ちょっと許せないなぁ、あんな
卑怯な奴!」
ノームが怒りの声を上げる。
「シルフ姉さんに出てきてもらってもいいかな?」
「はいはーい、ノームちゃん、お呼びですかぁー?」
もはや魔法少女の召喚パフォーマンスいっさい無視で出現する風の精霊シルフ。場を仕切ろうとするサラマンダーが困り顔になった。
「ボクさ、あいつ許せないよ! 砂嵐でとっちめたい!」
「ウフフ、それ賛成、久しぶりに合体魔法ね!」
「うん。じゃ行くよ!」
土の精霊が魔法の杖を上空に向けクルクルと回す。風の精霊も片足立ちでダンサーのようにグルグルと回った。
地表の砂塵が渦を巻き旋風を作りだす。しだいに渦は密閉空間全体を覆う強風へと変わり、大きな砂粒も巻き込んで砂嵐へと変貌していった。
密閉空間の空気が、まるで洗濯機の中で踊る水流のように暴れ狂う。砂嵐が運ぶ小石や砂粒が狂気的に舞い飛び、凶器となって空中の敵を襲う。生身の人間であれば、痛みですぐにでも降参したくなる砂嵐魔法だ。
その間、ウンディーネがドーム状の水バリアを作って、魔法少女を砂嵐から守っていた。召喚主を常に守ろうとする精霊たちの阿吽の呼吸だ。
強烈な砂嵐が視界を塞いでいて、敵の男がどうなっているのか確認できない。砂嵐を中断する土の精霊と風の精霊。
風が止み、密閉空間に静けさが訪れる。上空に敵の姿は見当たらない。
サラマンダーが召喚主の異変に気づく。魔法少女の息が荒く辛そうな表情なのだ。
精霊が実行する魔法は、基本、精霊の保有する魔力と魔法技術によって行使される。しかし、消費される魔力の半分は召喚主が受け持っているのだ。
つまり、精霊がバカスカと魔法を使えば使うほど、魔法少女カドリィの保有魔力も大量に消費されることになる。当然、魔力の使いすぎにより体調変化をもたらしてもおかしくない。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「うん、だい、大丈夫……なの」
「お嬢様、もしかして魔法の使いすぎなのでは」
「うん、そ、そうなの……。でも、まだ戦えるの……」
傍らにいるウンディーネも召喚主を心配そうに見守っている。
「ウンディーネ殿、敵をあぶりだす最後の手段を」
「はい。ではノームさんと連携を」
話を聞いていたノームが応じる。
「いいよ、ウンディーネ姉さんの豪雨地獄とボクの蟻地獄の連携だよね」
「はい。それで決着としたいですわ。シルフさんは空気のバリアでカドリィさんを守ってあげてください」
「はーい、シルフお姉さんにおっまかせぇー!」
シルフが右手を上げ、それに応えた。
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