第五十章 主人公VS魔法少女 その2
50.3 主人公VS魔法少女 試合模様その二 主人公側
「う~、寒いよぉぉぉ~、辛いよぉぉぉ~、凍えるよぉぉぉ~」
アラトはぼやきながら独りで寒さに耐えていた。
インナースーツとパワードジャケットに付与されている体温維持機能に頼っても、十分に寒さを感じる。アラトは廃墟ビルの一角に身を隠し、ただひたすら極寒地獄に耐えているのだ。
§ § §
50.4 主人公VS魔法少女 試合模様その三 魔法少女側
「そろそろいいのではないですか、シルフさん」
「そうよねぇ~、敵さんが姿見せないから判断に困るのよねぇ~」
「シルフさん、敵を追い立ててもらえないですか」
「いいわよ、ちょっと敵さん捜してみるわ」
「お願いしますわ」
二人はブリザードを解除した。風の精霊シルフは宙を舞い、廃墟ビル内を外から捜索する。
「風の雰囲気が、この辺だって教えてくれてるのよねぇ~」
風の精霊は空気の動きで、生物の存在を探知できる。近ければ近いほど、その精度は上がる。
とある廃墟ビルの壊れた窓から中を確認すると、そこに敵の姿があった。
「あっ、敵さん見っけ! さぁ、逃げ回ってないで観念なさい!」
敵の男がシルフに気づくと、げっ、と声を出し一目散に逃げ始めた。
「あっ、コラッ! 待ちなさいってば! こんなきれいなお姉さんを見て逃げ出すとか、ホント男らしくないわね!」
シルフは羽根扇子で強風を起こし、敵がジェット噴射で飛び逃げようとするのを妨害する。
敵の男はバランスを崩し、うわぁぁぁ~、とか言いながら方向転換、隣の部屋に逃げだすと、そこにはウンディーネが腰に手をあて立ち塞がる。
もう一度、うわぁぁぁ~、と叫んで通路へと飛び出す敵の男。その勢いのまま、宙に浮かぶ水の塊に突っ込んでいった。
その通路には、水の精霊があらかじめ『水玉地獄』の罠を張っていたのだ。『水玉地獄』は、第一回戦で対戦相手の女戦士クレオパトラ・ヴィーナスを場外負けにした時に使った魔法だ。
水の精霊魔法で作られた空中に浮かぶ水の塊にはまると、水中を進む推進装置でもない限り、単独で脱出することは非常に困難なのだ。
無重力かつ真空の宇宙空間で、人間が推進装置未装備のまま手足を振って前進しようとしても、反作用が働かないため行きたい方向に進めない理屈と酷似する。
つまり、水の底に沈められたのと同じで、脱出できなければ窒息死してしまうのだ。
ウンディーネとシルフは仲良く並んで、水玉地獄の中の男に手を振った。
「早く降参しないと死んじゃうわよぉ~」
シルフがにこやかに語りかけるが、中の男にはおそらく聞こえていないだろう。
ふと、何かに気づくウンディーネ。
男をよくよく観察すると、口に何か咥えている。スキューバダイビングのレギュレーターのようなもの。かといって酸素ボンベを背負っているわけではない。しかし、空気の泡がブクブクとそこから沸いて出る。
どうやらそのレギュレーターもどきは、水中で酸素を供給する小型の呼吸装置らしい。
ジロジロと観察されていることに気づいた水中の男が、ニンマリとして二人に手を振った。
「なにこの男? 呼吸してるわけ?」
「悔しいことですが、どうやらそのようですわ、シルフさん」
悔しがる二人をよそに、敵の男はいきなりビルの外壁に向けてレーザー銃を放つ。壁が崩れ、大きな孔が開いた。
続けて、通路の天井に向け射撃すると、天井が崩れて瓦礫の一部が宙に浮かぶ水玉に落ち、中の男がキャッチした。
両手で掴んだ瓦礫を勢いよく放り投げる。その反動で、うまいこと水玉地獄から脱出し、先ほど開けた孔から外へと飛び出した。
「いったいどれだけ逃げ回る気よ……」
シルフは大袈裟に溜息をついた。
§ § §
50.5 主人公VS魔法少女 試合模様その四 主人公側
二人の精霊からうまく逃げ出し、一息つくアラトの姿が廃墟の片隅にあった。
「ふぅ~、良かったぁ~、ギリコのおかげでホントに助かったぁ~」
ギリコが第一回戦でクレオパトラ・ヴィーナスと名乗って魔法少女と対戦していたので、先ほどの『水玉地獄』の戦法は知っていた。おかげで事前に、物体を投げて反作用を使う対処方法を聞かされていた。
そして小型レギュレーター——超小型の酸素ボンベが付属する酸素供給装置——の存在が大きい。
それを準備してもらっていたおかげで、最初の火災旋風による酸欠地獄も乗り切ることができたのだ。運のいい偶然であったが、同時にメチャメチャ熱いのを我慢し凌ぎ切ったのは、アラトの忍耐と努力によるものだ。
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