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第四十九章 アラトの第二回戦前日

49.1 アラトの第二回戦前日


 第二回戦第五試合が終了した。


 観戦の途中、どういうわけか目隠しされるという事件がアラトに発生した。しかし、その程度のささいな障害はアラトの懸命なる抵抗により一瞬にして取り除かれ、エルフの活躍により胸が躍った。


「ギリコ、なんかスゴくね? 今のエルフの作戦」


「そうでしょうか、あの程度の作戦、わたくしは昨日から予想しておりましたので、大したことはありません。だいたい、他人のアイテム使って勝つとか、チャンチャラおかしいです」


 ギリコは、つんけんした態度でそう答えると、フン、とソッポを向いた。


 もちろんアラトは理解している。ギリコのいつもの嫉妬なのだ。


(あんな露出で激しく揺れちゃうと、どうしても注目しちゃうよね……)


「アラトさんは、柔らくて弾力のあるほうが好みなんですよね」


(やっぱり、バレバレか……)


「どうせ、わたくしのはカチカチカッチン双子山です!」


(うっ、うまいこと言う。その呼び名はもらいます……、って、そろそろ話題を変えましょう、ギリコさん)


「もう50人以上の生々しいリアルデータを抽出しておりますから、わたくしのアップグレードもそろそろです。ぜ~ったいに、アラトさんには指一本触れさせませんから、覚えといてください」


 アラトの魂は爆散した。


 アラトはギギギと錆びた鉄のように首を回してギリコに目を向けると、勢いよくギリコに飛びついた。


「そんな冷たいこと言わないでよぉ~、ギリコォ~、僕とギリコの仲じゃんかぁ~、ねぇ~」


 両手をつっかい棒のようにピンと伸ばし、アラトが抱き着かんとする突撃を阻止するギリコ。


「それではわたくし、パワードジャケットの整備をしますので、邪魔しないでください」


 立ち上がったギリコの右足首をつかむアラト。ギリコは何事もなかったかのように歩き出す。アラトは身体ごと引きずられつつも放すまいと粘ったが、最後は蹴りを食らって手を放してしまった。


 ギリコはツンとした表情のまま、アラトの部屋をあとにした。


 独りになったアラトは、掃除道具専用の押し入れの扉を開き、そこに格納されているお掃除ロボ『リナコ』に目をやる。時折ではあるが、独りで寂しくなったらお掃除ロボに話しかけ、ストレス解消をしているのだ。


 単なる家電製品なので清掃作業以外何もできない。そしてアラトのグチを一方的に聞かされたところで、機械として損傷するわけでもない。つまり、聞き役としては最良の存在と言っていいだろう。ホテルの部屋にはほかに何もないのだから。


「リナコさぁ、聞いてくれる? まぁーた、ギリコがヤキモチ焼いちゃってさ、どうせ焼くなら焼肉にしろやって、言っといてよ。焼き魚でもいいけど」


 無言のリナコ。


「あーあ、なんだかさぁー、一人相撲なんだよねぇー、どんなに悩んでもさ。ホントわかんない……。ねぇ、ロボットの気持ちわかるなら教えてよぉー!」


 アラトは結局、グチグチと悩み事をたっぷり聞いてもらった。電源の入っていない無言のリナコに。


「ふぅぅぅー。いつもアリガトね、グチ聞いてもらっちゃって」


 話し終わったアラトはリナコの頭頂部をヨシヨシと撫で、感謝の言葉を述べてボヤキタイムを終了させた。


 パワードジャケットのメンテナンスはギリコに任せてあるので、夕方持ってくることになっている。仕方ないので、アラトは夕方まで待つことにした。



 ◆   ◆   ◆



 夕方、ギリコが新装備を届けにアラトの部屋にやって来た。


「アラトさん、お待たせいたしました。パワードジャケットの整備完了です」


 アラト、不機嫌実施中。


「アラトさん、どうされました?」


 アラト、不機嫌継続中。


「そうですか、残念ですわ。せっかく、フワフワプルルン双子山に改良できましたら、まずはアラトさんに入念な品質検査をお願いしようかと思いましたのに」


「あれっ、ギリコさん、おいでになっていたのですね。今日もご機嫌麗しゅう。ささ、こちらへ」


 アラトは満面の笑顔でギリコを迎えた。


 それをお澄まし笑顔で返すギリコ。目が笑っていない。


「良かったですわ、アラトさんが熱心なフワフワプルルン派で」


「なんだよぉ~、仕方ないじゃんかぁ~、僕は正直者なんですぅ!」


 バシッ!


 澄まし顔でアラトの脳天にギリコチョップを食らわせる。


「痛いよぉ~、ギリコのチョップ痛いんだからさぁ! だいたい世の男性は皆、フワプル派なんです! ほとんど本能だし、僕だけじゃありません! 目の保養と言うか、疲れを癒す心のオアシスというか、生きてて良かったというか……」


 バシッ、バシッ!


「痛いと言うに!」


「そろそろ、おたわむれは止めましょう、アラトさん」


「いーじゃん、別に……」


 バシッ、バシッ、バシッ!


 アラトは頭を撫でながら自己主張を諦めた。


「さぁ、アラトさん、明日の準備をいたしましょう」


「はい」


 敗者復活戦の対アメスライバ戦にて、惑星破壊キャノン砲を床に直置き発射でムチャをしたため、もう使い物にならなくなっていた。ハンドレーザー銃についても、想定外の高出力発射したため銃口が熱で溶解し使えなかったが、アラトの要望により同じものを試合後に新調していた。それも今回改良を加えている。


「まずはパワードジャケットです。第一回戦の時よりもスムーズな動きになるよう改良しています。明日は随分と行動しやすくなると思います」


「それいーね!」


「見た目は変わりませんが、黒のインナーシャツは防弾性を強化しています。銃弾がヒットしても死なない程度に守ってくれますし、メチャクチャ痛いですが我慢で凌げます」


「我慢しろってか」


「死にませんので、ご安心ください」


「相変わらずギリコの言う安心は、安心できないよね」


「それから改善要求のあった惑星破壊キャノンですが、今回は間に合っていません。明日は未装備で出撃していただきます」


「明日の対戦相手は魔法少女でしょ? まぁ、少女相手にあんな恐ろしい武器使えないよね」


「申し訳ありません。次に『精神制御脳波誘導ハンドレーザー銃』ですが、連射モードを追加しました。威力を極力抑えて連続使用時の精神疲労を軽減しますので、威嚇射撃などに便利です」


「了解ッス!」


「ただし、連射した場合は、二発目以降の誘導性能が極端に落ちますので、追撃には向きません。悪しからずご了承ください」


「それも了解したッス!」


「ときにアラトさん、わたくしが第一回戦で準備しておいた栄養ドリンクはいかがでしたか?」


「メチャクチャ助かったよぉ~、ギリコ大好きぃ~」


 ギリコに抱き着き、頬ずりをするアラト。


「今、『こいつ、チョロ!』って思ってるよね、ギリコ」


「そんな、ちょっとしか思っていませんわ。それより離れてください、アラトさん」


「ギリコ、まだ怒ってる?」


「はい、仰せのとおりです」


「『ちょっと』じゃないんだ……」


 アラトは意気消沈した。


「さぁ、アラトさん、明日の戦略練りましょう」

「はい」


 明日の対魔法少女戦について、ギリコが戦略を告げる。ギリコは第一回戦で直接戦っているので、すでに弱点は分析できているというのだ。


 惑星破壊キャノン砲は改良品を入手するまで使えない。であれば、精神制御脳波誘導ハンドレーザー銃が唯一の武器となるが、どうやらそれで十分らしい。


 アラトは素直に彼女の提案どおり作戦を実行することにした。


「まぁ、ご安心ください、ギリコ先輩! 第一回戦突破した僕の戦闘能力はケタ違いにパワーアップしてますから!

 それじゃ、いきますよぉ~、戦闘能力カウンターでチェックしてみてください! ハァァァ~~~」


 腰を低くしガッツポーズでリキんでみせるアラト。


「残念ながら、戦闘能力を計測する機械はありません。ですが、おそらく3くらいでしょう」

「3? たったの3ですか? それってどれくらい?」


「さぁ、ゴキブリ並みでしょうか」


「義理子先輩、試合のこととなると相変わらず辛辣しんらつですね。ホントに僕に勝ってほしいんですか?」


「もちろんです。わたくしもアラトさんの成長を実感していますから。心から頼りにしていますよ、新人さん!」


「っしゃー! じゃ、先輩、一緒に『エイエイオー』やりましょう! 一緒に盛り上がろ、ね! ね!」


 アラトはギリコの手を握り、満面の笑みを浮かべた。


「はい、承りました」


 不機嫌顔だったギリコの表情に明かりが灯り、急にノリノリになった。


 二人向き合い、そろって右手を構えた。


「じゃ、いきますよ、先輩!」


「「エイエイオー! エイエイオー!」」



49.2 大会三十日目の朝 アラト第二回戦出撃


 朝一番にギリコがアラトの部屋にやって来ると、パワードジャケット装着などの準備を手伝ってくれた。ハンドレーザー銃と飛行ジェットシューズ装備、大型シールドを携える。


 今回、惑星破壊キャノン砲は未装備。肩の重荷がなくなるだけで、対アメスライバ戦の時よりも、随分と飛行体勢が楽になる。


「行ってらっしゃいませ、アラトさん」


「うん。作戦どおりにがんばるよ!」


「はい、お願いいたします」


 出撃時にギリコが優しく見送ってくれるので勇気が沸く。アラトはその瞬間がとても嬉しい。いつもより断然優しいし、心から応援してくれているのが十分伝わってくる。


 深呼吸をして、少なからず対スライム戦よりは落ち着いていると確認する。第一回戦突破で少しぐらい自信もついたし、楽観的な性格がここにきてプラスに働いているのだろう。


 そして、いつもは見せない真剣な表情に変わった。


「じゃ、行ってきます!」


「ご無事でお戻りください!」


 アラトはギリコの見送りに応じ手を振って出発した。



【作者より御礼】

 数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。


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