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第四十八章 悪魔VS魔導剣士 その3

48.7 悪魔VS魔導剣士 試合模様その四 悪魔側


 ディメンションリングのワープ移動で遠方に逃げてしまったエルフを見ながら悪魔がつぶやく。


「おや、服は燃えてしまいましたが、たいして外傷は無いようですな。服が丈夫だったのか、あなたが丈夫なのか……。

 どちらにせよ、遠慮なく時間操作で決着としましょう」


 第一回戦第五試合で帝王ガリュウザを相手に勝利を導いたのは、時の悪魔が得意とする時間操作魔法『時間進行速度の変換移動』だ。


 両手でそれぞれ別々の物質または人物を10秒間触り、時間進行速度の変換移動ができる能力。右手で触った物を時間加速させ、同時に左手で触った物を時間減速させるという効果を生み出す。


 悪魔はいつも、小さな六角柱状水晶を触ってこの魔法を実行しているのだ。


 悪魔は右手で悪魔自身の肉体を10秒間触り、左手で六角柱状水晶を10秒間握った。しばらくして『時間進行速度の変換移動』の10倍速が発動、悪魔の行動は周囲よりも10倍速くなった。


 この場合、10倍速の悪魔側から現実世界を見れば、周囲の時間の流れが10分の1に減速、つまりスロー再生のように進んでいるという感覚なのだ。


 悪魔の目標はエルフを10秒間触って10分の1に減速させること。これを二度実行すれば100分の1まで減速できる。さすれば赤子の手をひねるようなもの、勝利確定となるのだ。


 ビキニ姿のエルフがワープ移動を繰り返し始めた。先ほど、悪魔が時間停止で逃避行動をしていたのと逆の立場だ。


 エルフが行うディメンションリングによるワープ移動は、移動元と移動先の双方にリングが存在しないと実行できない。そのため、あらかじめワープ先にリングを投擲、ワープ後にワープ元のリングを呼び戻して回収という一連の流れをスムーズにやってのけている。


 逃げるということは、悪魔が10倍加速能力を行使していると気づいている証明でもある。ディメンションスネークソードを破壊した今、エルフ側の対抗手段は少ない。


 しかし、悪魔の浮遊速度はエルフと比べ半分以下。時間停止と10倍速を組合せ追跡するが、ワープ移動するエルフを捉えることがなかなかできない。


 しかも悪魔の破壊魔法弾は、発射台となる円形魔法陣が静止しているため10倍速が活用できず、逃げ回る敵にはヒットしにくい。


「チョロチョロと忌々しい小娘、脳筋帝王よりは賢いようですな。仕方ない、先に刀剣破壊斧を拾っておきますか」


 悪魔は先ほどエルフが地表に投げ捨てた刀剣破壊斧を拾いにいった。


 刀剣破壊斧に近づくと、すぐそばにディメンションリングが放置してある。


「ほぉ、これは罠ですかな。しかし、近づいてくるなら、『飛んで火に入る……』ですがね」


 悪魔はほとんど警戒もせず、地面に置き去りの刀剣破壊斧を拾おうと手を伸ばした。


 その瞬間、異変に気づく。


 真横に放置してあったディメンションリングから何かがゆっくりと姿を現す。


「なんとぉ! なぜ、貴様がここに!?」


 ローブにマント、そしてドクロ顔に大鎌を抱える黒い影、そこには死神の姿があったのだ。


 さすがに悪魔もうろたえた。


 死神は神族でも魔族でもない特殊な存在。


 しかし、人間の肉体に悪魔の霊魂が憑依しているクロノスサタンが死神の大鎌に触れられると、他の生物同様魂を奪われる。正確には悪魔界に霊魂が戻ってしまうのだが、この勝負においては負けが確定してしまう。


「あの小娘が第一回戦で捉えていた死神を解放したのか……。

 しかし作戦が甘かったですな。10倍速のわたしはただ逃げれば済むこと」


 眉間にしわを寄せ、怒りの形相をあらわにする悪魔。その矜持きょうじを傷つけられたと自覚した。


「とはいえ、許せませんな。お気に入りの肉体が老化しやすいので自ら100倍速にするのは嫌いなのですが……」


 悪魔は独り呟きながらエルフを探す。闘技場の森林エリアの中に身をひそめるエルフを見つけるとニヤリとした。


「そこに隠れていましたか」


 悪魔は右手で自身を触りつつ、六角柱状水晶を取り出し左手で10秒間握る。しばらくして10倍速から100倍速へと加速した。


 木々が途轍とてつもなくゆっくりと風に揺れ、周囲の景色が異様にスロー再生となった。


「フハハハハハ、死んでもらいましょう、エルフの小娘」


 悪魔は刀剣破壊斧を放置したまま、エルフが隠れる森林へと直進する。


 たとえ自身の肉体だけ100倍速で時間が流れようとも、悪魔本人の知覚としてはふだんと変わらない。あくまでも周囲の時間速度が100分の1になっているという相対的な感覚にすぎないのだ。


 悪魔は気ばかり焦って浮遊速度が遅い自分にイラつきながら、エルフをまっすぐと見据えて前のめりに空中を進む。


「フフフ、あと少し、あと少しで貴様にはお仕置きだぁ!」


 森林を埋め尽くすのは高さ10mほどの大木、そして草木が生い茂る密林だ。


 エルフは大木の枝に立ち悪魔を見ている。こちらの接近に気づいているようだが、悪魔は構わず森林に入り込み前進。


 その刹那せつな、周囲が暗闇に変わった。


「ぬっ? なにが」


 空中で静止する悪魔。


 上下左右に首を振ると、周囲は完全に暗闇になっている。森林はどこにもない。


「ま、まさか……」



【作者より御礼】

 数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。


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