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第四十八章 悪魔VS魔導剣士 その1

48.1 第二回戦第五試合 悪魔VS魔導剣士 対戦情報


 観戦モニターに表示されている対戦情報より。


 闘技場について。


 本試合の闘技場はEタイプ。


 直径1kmの半透明なドーム状バリアで隔離された屋外空間。自然にあふれ、岩石地帯、森林地帯、湖などがある。


 ドーム状バリアは超強力な高電圧と熱エネルギーで形成され、接触すると相応のダメージを負うことになる。


 悪魔クロノスサタンについて。


 浮遊能力。


 魔法陣から魔法弾を発射。


 自身の高速移動魔法&敵の強制減速魔法


 時間停止魔法による瞬間移動。


 ほか、詳細は不明。


 魔導剣士ミラージュについて。


 飛行能力。


 ディメンションスネークソード:空間を切断する魔剣。


 ディメンションリング:以下四つの能力。


 ・『幽閉空間生成魔法』:リングをゲートとした固有空間を生成する魔法。

 ・『空間接続魔法』:リング同士をゲートとしてつなぎ、瞬間移動する魔法。

 ・『空間入替魔法』リングが形成する球状空間同士を入れ替える魔法。

 ・『空間歪曲魔法』:両手でかざす正面の空間を歪曲させる魔法。



 §   §   §



48.2 悪魔VS魔導剣士 試合開始前 アラトの部屋


『シアイカイシ、3プンマエ』


 闘技場中央付近に転送されてくる二人の影。


 一人は中世の欧州貴族風男性、自称『時の悪魔』こと、クロノスサタン。悪魔が現世に顕現化するために、人間の死体に憑依ひょういしている。本来は『魔人』と呼称するのが正しい。


 もう一人はロングコートを着た女性、魔導剣士ミラージュ。エルフ族最強の戦士、空間魔法の使い手と自称する。


 剣を手にしていない。自身が生成する固有空間に収納したままのようだ。


 悪魔が笑みを浮かべ、エルフに話しかけた。


「わたしは時の悪魔クロノスサタン。以後、お見知りおきを」


 丁寧に頭を下げる悪魔。言葉を続ける。


「実を申しますと、わたしはこの大会に参加する役目をもう終えています。要するに、あなたと戦う必要はないのですよ。棄権して帰ってしまってもいい。

 しかし、あなたの魔法に非常に興味がありましてな。空間を操る魔法、実に素晴らしい。

 わたしの魔法は種を明かしますと、時間を操る魔法でしてね。時間と空間、時空という言葉が示すように親近感が沸きます。一般魔法を遥かに凌ぐ高等魔法という意味では同類ですかな。

 というわけでして、あなたのことは少しばかりライバル視しております。

 この大会であと一戦くらいは、ぜひたのしみたいと思ったしだいでして。

 しかしあなたはとても美しい女性だ。いや、本当に気が引けてしまいますな。このような美しい方をあやめることになろうとは」


「話はそれで終わりか」


「ほほぉ。なんともいい面構えですな、ミラージュ殿。これで本気の殺し合いが成立しました」


「ふん。死ぬのは貴様のほうだ!」


 エルフは悪魔をにらみつけ、吐き捨てるように言葉を発した。


 モニター越しに二人のやりとりを見ていたアラト。ギリコに目を向けると、ジッとこちらを見ている。アラトはゆっくりと視線を戻し、そのまま無言で試合の成り行きを見守ることにした。


『シアイカイシ10ビョウマエ、9、8、7……』



 §   §   §



48.3 悪魔VS魔導剣士 試合模様その一 悪魔側


『……3、2、1、ゼロ』


 試合開始と同時に、宙に舞う両者。


 悪魔は徒歩のような浮遊速度、対してエルフは疾走するような飛行速度。


 悪魔が先に仕掛ける。空中に多数の円形魔法陣が出現し、破壊魔法弾を連射した。


 飛翔していたエルフが空中で停止した。手首のディメンションリングを二つ外し空中に展開させ、一つは自身の正面、もう一つを頭上に配置する。


 大きく広がった正面のリングが悪魔の破壊魔法弾を吸い込み、頭上のリングから破壊魔法弾がそのまま戻ってくる。ディメンションリングを二つ使った『空間接続魔法』の応用だと悪魔は理解した。


 本来は二つのリングをワープゲートにしてつなげ、瞬間移動するというのがこの魔法の基本戦法だが、こういう使い方もあるということだ。


 エルフは第一回戦で魔力を消費する射撃系攻撃魔法を一度も使っていない。習得していないという見立てだが、なるほど、これなら飛び道具抜きで戦えるわけだ。


「ほぉ、やりますな」


 自身に向け戻ってくる破壊魔法弾を見て感心する悪魔。


 時間停止を使ってそれを回避した。エルフ側から見れば瞬間移動したように見え、時間を停止できるのだと把握されただろう。種明かしは済んでいるので問題ない。


 距離をとり、空中で停止しているエルフがリングの中に右手を突っ込むと、固有空間に収納していたディメンションスネークソードを取り出した。


 そのまま悪魔が苦手とする肉弾戦を仕掛けると思いきや、その場で剣を刺突するポーズ。剣先が消えたように見えた。


 それと同時に背中に何かが突き刺さる感覚。


「がはっ!」


 口から血を吐き、己が斬られたことを認識する悪魔。


 人間の死体に憑依している悪魔であっても、生物として一体化しているため肉体が損傷すれば痛みも感じるのだ。


「ぬぐっ、これは……」


 一瞬のことであったが、悪魔はエルフの挙動を認識できた。


 エルフがディメンションスネークソードを一振りすると、ノコギリのようにギザギザになっている剣身の刃がいくつもの短い刃——エッジブレード——に分裂し、蛇腹のごとく伸縮自在の武器に変化するのだ。エッジブレード同士は鋼線のようなものでつながっており、鞭のように扱えるらしい。


 そして伸縮自在のエッジブレード部分が伸びながら異空間へ姿を消すと、敵の背後——この場合、悪魔の背後——に出現して刺突することができる、という仕組みだ。


 要約すると、刺突の動作だけで剣刃だけがワープ、好きな座標へ出現させて攻撃できるという離れ技なのだ。


「なるほど、一回戦では見せていない技、温存しておいたということですか。油断しておりました」


 悪魔とて、憑依している肉体が死滅すれば悪魔界へと霊魂が戻され、死んだことと同じ意味になる。人間よりも遥かに高い治癒能力はあるが、アンデッドのような即時再生はできない。


 致命傷はあくまでも致命傷なのだ。


「この程度、死ぬほどではないにしても、早い決着が必要ですね」


 のんびりしていると第二撃がすぐに来る。


 悪魔はそう思い、時間停止を数回繰り返し逃避行動に出た。


 悪魔は一度実行した時間停止をそのまま継続させることはできるが、それは憑依している肉体に大きな負担となってしまうので避けたい。


 一方で、停止・解除・停止・解除という具合に連続して実行することはできない。時間停止・解除を一度実施すると、次の時間停止実行まで最低でも30秒から1分ほどの待機時間が発生する。魔力の充填じゅうてんが必要というわけだ。


 そういった事情により、逃げるにしてもある程度の工夫を必要とした。


 そして、数回目の時間停止による瞬間移動をした直後、ディメンションスネークソードのエッジブレードが真正面の空間に突如出現し襲撃してきた。咄嗟とっさに後退し、ギリギリで回避する悪魔。エルフは悪魔の出現場所を読んでいたのかもしれない。


 が、それだけではなかった。真後ろの人影に気づく悪魔。

 後退したその背後、唐突にエルフ本人が姿を現し、ディメンションスネークソードを振り上げている。


「死ねぇ!」


 カキィーン!


 エルフの雄叫びと同時に響き渡る刃物同士が接触する金属音。


 エルフの目の前でディメンションスネークソードが砕け散った。


「なにぃー!?」



【作者より御礼】

 数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。


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