第四十六章 超人VS吸血鬼 その2
46.5 超人VS吸血鬼 試合模様その二 吸血鬼側
吸血鬼は息をひそめ超人が接近してくるのを待った。
超人の基本戦術はとにもかくにも肉弾戦。ゴーグルからビーム攻撃もできるが多用はしない。どうあっても接近してくるのは自明の理なのだ。
頃合いをみて、瓦礫の山から飛び出す吸血鬼。案の定、超人は目前まで迫っていた。
吸血鬼剣を投げつけるが、あっさり回避された。超人はそのまま急速接近し吸血鬼の両足を掴んで豪快にジャイアントスイング。が、その刹那、振り回している間こそ隙が生じると判断した吸血鬼は、対戦相手の度肝を抜く戦法に出た。
吸血鬼は振り回されている状態のまま手刀で切腹、自損気味に上半身を引きちぎって下半身から切り離した。
下半身だけが振り回されている格好になり、上半身は腕力だけで超人に向け跳びつく。回転している超人に対してタイミングよく背後に回り込み羽交い絞めが決める。わずか一瞬の隙に奇襲を成功させたのだ。
さすがに面食らった超人は下半身を手放した。
地面に転がった下半身はすぐさま起き上がり、切断面から『吸血鬼峨嵋刺』を無数に飛ばす。数十発が超人の胴体に直撃するが、その強靭な肉体が全て弾き返した。
続けざま超人に走り寄り、『吸血鬼剣山』——己の鮮血で生成した巨大な釘の束——を切断面から伸ばす。羽交い絞めにしている超人を急襲するが、それをも、エナジーグローブをまとったパンチで薙ぎ払われた。
「ならば、これならどうだ!」
上半身の切断面と下半身の切断面から『吸血鬼鞭』——己の鮮血で生成した鞭——を無数に伸ばす。赤い鞭は蛇のように縦横無尽に動き回り、ついに抵抗する超人の全身を捉え捕縛した。
さらに上半身の吸血鬼鞭と下半身の吸血鬼鞭がうまいこと絡み合って、超人を羽交い絞めにした状態のまま、分離した肉体を接合修復する吸血鬼。
超人は力任せに吸血鬼鞭を引きちぎろうとする。が、吸血鬼は超人を背後から抱き込むように締め付け密着した。吸血鬼鞭がいくらちぎられようとも、新しく次々と生成し締め付けを途切れさせない。
「フハハハハハ、お前のエナジーはもらった!」
もともと敵に手で触れることでエナジードレインできる吸血鬼は、第三形態だと吸収速度が速くなる。鮮血で生成した各種武器を刺すことでもエナジードレインできるわけだが、あいにく、超人の強靭な肉体に刺すことができなかった。
しかし抱きつきによる密着と吸血鬼鞭の巻きつけで、効率のいいエナジー吸収が可能になったのだ。
みるみる全身の傷が治癒されていく吸血鬼。
生命エナジーの補給により、次々と生成される吸血鬼鞭の頑強な締めつけによって脱出がさらに困難になってくる。
「どうだ、逃げられまい」
両者の腕力は五分五分といったところか。超人もフルパワーで脱出を試みているようだが、吸血鬼のパワーは益々強化されていく。
§ § §
46.6 超人VS吸血鬼 観戦模様その二 アラトの部屋
「だぁぁぁぁぁぁー、インポシブル・スター、がんばれぇぇぇ!」
「インヴィンシブル・スターです、アラトさん」
「10億円かかっているんだぁ! 負けるなぁぁぁ! インポシ……なんだっけ、とにかく、スタァァァァァァー!」
「アラトさん、申し上げておきますが、10億円の賭けは成立していませんので」
「どうしてだよぉぉぉー!」
涙目で訴えるアラト。
「わかりました。でしたらアラトさんの勝ち分はわたくしが支払いますので、わたくしの勝ち分はアラトさんが払ってください」
「えっ、ホントに? ホントにそれでいいの?」
「はい」
「ワーイ! じゃ、なんたらスター勝利で10億円ゲットしちゃうの僕? 今日から金持ち? ねぇ、ねぇ?」
「はい。金持ちかどうかは別として、10億円ゲットしちゃいますので。しっかり応援してください」
「もう、ギリコ大好きぃ! 好き好きぃ!」
「ありがとうございます」
§ § §
46.7 超人VS吸血鬼 試合模様その三 吸血鬼側
吸血鬼は有利な状況でありながら、一つのことに気づいた。
超人の胸にある十字型のオーナメントが、無色からオレンジ色に輝き始めていたのだ。その予兆は知っている。第一回戦第一試合で見た状況だ。
「はぁぁぁー、スリーミニッツ!!」
超人は全身からオレンジ色の闘気オーラを発し輝く。さらに全身をエナジーバリアが包み込み、超人の分身が4つ出現する。
インヴィンシブル・スターのスリーミニッツハイパー化だ。
超人のハイパー化と同時に吸血鬼の両腕は肩からちぎれ、超人は容易に吸血鬼の束縛から脱出した。
ちぎれたはずの両腕はまるで意志でもあるかのように、たちまち吸血鬼の本体に戻りくっつく。
「ハハハハハハ、もう遅い! お前から十分にエナジーを頂いたのだ!」
ハイパー化した超人は吸血鬼の言葉を意に介さず、瞬時に吸血鬼の腹を殴りつける。クの字に体を曲げた吸血鬼の真上に回り込み、真下に向け大振りのパンチ。そのまま地表に叩きつけられた吸血鬼。
そこから猛烈なパンチラッシュ。地面が陥没し吸血鬼の身体が地面に埋もれていく。
吸血鬼は肉体を幾度となく破壊されるが、これまで以上に速い肉体再生で超人の猛攻をものともしない。吸血鬼の不死身の能力が、完全に超人の必殺技を上回っているのだ。
「ハハハ、シ、知って、いる、いるぞ! お、お前の弱点は、この、この後だ! この、後、お、お前は、は、廃人の、ように、う、動けなく、なるぅ。もう、し、死ん、だも、ど、どう、同然!」
パンチラッシュを食らいながらしゃべる吸血鬼。己の舌を何度も噛み切ってしまうが、すぐに再生する。
急にパンチラッシュを止めた超人。
宙に浮いた状態で停止すると四つの分身が本体に集まり、一つの肉体にまとまった。ゆっくりと両腕を左右に広げTの字を作る。そこから両肘を心臓に向けて折り曲げ、胸の十字型オーナメントに両手の指先を向ける。胸を張るようにリキむと、胸の十字型オーナメントにエネルギーが収束していく。
胸に集められたオレンジ色の光が最高潮に輝くと、十字型のビーム光線がオーナメントから照射された。その激しく輝くビームの奔流は、ビシューと空気を揺らす音を発し続け、その破壊力の凄まじさを見る者に伝える。
その瞬間、口角を上げ、鋭い牙を見せながらニヤリとする吸血鬼。
超人の十字型照射ビームが地面に埋もれる吸血鬼の肉体を捉える。その肉体は一瞬でこの世から消滅すると思われた。
だが、それは全く逆の現象だった。そこから悪夢が始まった。
吸血鬼の肉体は徐々に大きく膨れ上がり、醜い別の姿へと変貌していく。
全身が赤茶色の鱗のような硬い皮膚に覆われる。赤毛の頭から複雑な形の角が生え伸びてきた。四枚のコウモリの翼が巨大化していく。禍々しい魔人と呼ぶのがふさわしい。
「ガハハハハハハ、これを待っていたのだ! オレ様の究極形態! 見よ我が肉体を! お前の凄まじいエネルギーを頂いて、今までにない最強の肉体を手に入れるのだぁ!」
地面に埋もれていたはずの体が宙に浮き始めた。
超人のビーム攻撃を全身に浴び続け、まだまだ巨大化していく。もはや、それまでの吸血鬼の姿はそこにはない。全く別の生物、いや、醜い怪物と化している。
しかし超人はビーム照射を止めなかった。
吸血鬼は明らかに超人のビーム攻撃を吸収することで成長、進化している。なぜ攻撃を止めないのか。そろそろハイパー化の限界、3分間が終了する頃だ。
「ほれほれ、もっとエネルギーをくれ! もっともっとだぁ! ハハハハハハ、もっと強く……、うぐっ」
何かが狂い始めた。
「バ、バカな……、うがっ、な、ありえん……」
吸血鬼の全身に大きな亀裂が入り、そこから光が漏れ始める。
「ち、違う……、そんなはずはない……、がっ……」
亀裂から漏れ始めた光は益々広がり吸血鬼の全身をむしばむと、やがて肉体を完全に包み込む。そして一つの大きな光の塊に変わった。
その刹那——
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁー」
吸血鬼の断末魔、闘技場に響き渡る爆発音。
吸血鬼の肉体は膨らませすぎた風船のように大爆発を起こし、塵と化して完全消滅した。
空中にいた超人がオーラを失って落下、そのまま地上に激突し倒れ込んだ。ハイパー化が終了したのだ。
しばらくして、大会運営の放送により超人の勝利が告げられた。
ハイパー化の副作用であるオーバーヒート状態を終え、立ち上がった超人がひとこと漏らした。
「欲張りすぎだ。己の身の丈を知っておくべきだったな」
超人インヴィンシブル・スター、第三回戦進出!
§ § §
46.8 吸血鬼キングクローフィ
吸血鬼キングクローフィは並行世界の地球において、もともと人間だった。
17世紀——およそ400年前——、ヨーロッパで蝙蝠を感染源とする感染病が流行し、多くの人間が命を落とした。
その惨状を嘆き、感染病の治療薬開発に尽力していた医者が、自分自身を被検体として治療薬のテストを繰り返した結果、細胞が変異して不老不死の肉体を手に入れた。
しかし彼には人間の血を欲するという副作用があり、かつ、太陽光で肉体が焼けただれるという弱点もあった。その医者は山奥に身を隠し、ときおり人間を襲っては血を吸う化け物へと変貌していく。
それはまさしく、人類史上初めての吸血鬼化だった。
だが彼には吸血鬼の眷属を生み出すという能力は無く、血を吸われた人間は重度の感染病が発症し、死に絶えてしまうだけだった。
なんとか太陽を克服しようと、さまざまな薬品をテストした結果、ついに太陽光線、十字架、聖水、にんにくなど、苦手としていたもの全てを克服する肉体を手に入れる。
さらに、人間の血液を大量に摂取するうちに、肉体が進化し、自分の血液を使ってエナジードレインする能力を習得するに至った。
400年もの長い期間、自身の肉体を研究し続けた結果、段階的にパワーアップする変身能力をも獲得した彼は、知能を有する生物の頂点に君臨する究極生物に進化したと信じるようになった。
そして己が究極生物であることを自ら検証するため、最強生物であることを自ら立証するため、この大会に出場したのだ。
【作者より御礼】
数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。
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