第四十六章 超人VS吸血鬼 その1
46.1 第二回戦第四試合 超人VS吸血鬼 対戦情報
観戦モニターに表示されている対戦情報より。
闘技場について。
本日の闘技場はDタイプ。
第二回戦第二試合で機械生命体とコピー兵器が戦った正四角柱の密閉空間、廃墟の街。
インヴィンシブル・スターについて。
3分間限定強化&全身バリアモードがある。
パワー:通常時1万トン、強化時10万トン。
飛行速度:通常時マッハ10、強化時マッハ100。
ゴーグル眉間部分からモノアイビームショット。
エナジーグローブバリア。
吸血鬼キングクローフィについて。
太陽を克服した吸血鬼完全体。不老不死。
コウモリの翼で飛行。
第三形態まで変身可能。
吸血鬼剣、吸血鬼峨嵋刺、吸血鬼鞭、吸血鬼剣山などでエナジードレインが可能。
第三形態のみ、額からレーザーカッター光線。
§ § §
46.2 超人VS吸血鬼 試合開始前 アラトの部屋
『シアイカイシ、3プンマエ』
廃墟の街に転送されてくる二つの人影。
一人は白と青のツートンカラーコスチューム、インヴィンシブル・スターだ。筋肉隆々の男は、威風堂々と構え仁王立ちする。
もう一人はコウモリの翼を4枚広げる上半身裸の男、吸血鬼キングクローフィの第三形態だ。胸板の厚さはインヴィンシブル・スターに負けていない。腕を組み、対戦相手をにらみつける。全身からオーラを発し、明らかに敵対心をむき出しにしている。
「今日は安心だなぁ~」
「どうしてですか、アラトさん」
「いや、もうこの超人の勝ちっしょ」
「どうしてですか?」
「だた、見た目の問題です。普通、吸血鬼が勝つとかありえんし」
「そういうものなのですか、お勉強になります。アラトさんのそのひとことがフラグにならなければいいのですが」
「どゆ意味?」
「二択クイズでもよくあるじゃないですか。答えっぽくない方がなぜか正解というのが」
「いや、フラグ立てちゃったのギリコだかんねぇ! 僕のせいじゃないよ! 今のセルフこそが敗北フラグだよ!」
「そういう男らしいアラトさんが大好きです。益々惚れちゃいます」
「えっ、そう? じゃ、仕方ないから僕のせいでいいです。フラグ立てちゃいましたぁ~、超人ファンの人、ゴメンなさい!」
「いったいどこの誰に謝っているのですか」
『シアイカイシ10ビョウマエ、9、8、7……』
§ § §
46.3 超人VS吸血鬼 試合模様その一 吸血鬼側
「この瞬間を待っていたインヴィンシブル・スター! お前のエネルギー、全てもらい受ける!」
吸血鬼キングクローフィはエナジードレインにより他者から吸収した生命エネルギーを使って第三形態まで変身する。
吸収した生命エネルギー量に左右されるが、一度変身が完了すればおおよそ3~4週間継続できる。そしてエネルギーが切れると元に戻ってしまうのだ。
「鬼どもからパワーを吸収して既に20日、そろそろ変身が解けてしまう頃。しかし、お前の無尽蔵のパワーをいただけば、変身が解けるどころか、かつて経験のない第四形態、究極形態になれるはずなのだ。必ず到達してみせる」
吸血鬼は独りごちると口角を上げニヤリ、野望達成を胸に誓った。
『……3、2、1、ゼロ』
試合開始と同時に空に舞い上がる両者。
通常時ですらマッハ10で飛行する超人の方が、遥かに吸血鬼よりも速いことは明確な事実だ。しかし、第一回戦の閉鎖空間で戦った超人は最速でもマッハ2程度しか出せていない。闘技場が狭すぎるからだ。
さらに、本日の闘技場Dタイプに建ち並ぶ廃墟ビル群は、益々高速飛行を困難にする。超人の瞬時に出せる最高速度はマッハ1——時速1224km——にも満たないだろう。
それでも、瞬間最高時速400km——成層圏で気象の影響が最小限の状況下を継続飛行した場合——しか出せない吸血鬼第三形態よりは十分速いのだ。
できるだけ高度を下げ、廃墟ビル群の隙間を縫うように飛翔する吸血鬼。
第三形態の吸血鬼は額からレーザーカッター光線を発射できる。射程はせいぜい20m程度。文字通り光速で攻撃ができ、厚さ2メートルの鋼鉄をも一瞬で切断する。この世に生息するほとんどの生物を、瞬き一つで分断できてしまう必殺技だ。
しかしエネルギー消費が非常に激しいため、迂闊に乱発できない。エネルギーの大量消費によって元の第一形態に戻ってしまうと、光線を発射できないばかりか、断然弱体化してしまい勝つ見込みはなくなる。
諸刃の刃と言っていいだろう。射程が極端に短いこともあり、吸血鬼も慎重に使い所を吟味していた。
突如、廃墟ビルの壁を突き破って出現する超人。そのまま飛翔する吸血鬼に体当たりして、別の廃墟ビルの壁を破壊しながら突き進む。
観戦モニターが遠くから2体を捉えた映像には、大量の粉塵と瓦礫が舞い上がり、廃墟ビル同士がぶつかり合いながら倒壊するがシーンが映り出された。
二つの肉体が絡みながら、いくつの廃墟ビルを突き破ったかもわからない。よく見ると、両者の間で殴る蹴るの攻防が繰り広げられている。
強靭な肉体の超人は、両腕にバリア状のエナジーグローブを展開しパンチラッシュ。不死身の吸血鬼は、いくら肉体が抉られ削られようとも、瞬時に再生する。
やがてもつれながら地表に到達した2体は、地面を豪快に破壊しながら弾かれた。別々に吹っ飛んでいくが、すぐに空中で制御し体勢を整える両者。
吸血鬼は傷口から流れる己の鮮血で『吸血鬼剣』を2本生成し両手で構える。
間髪入れず突撃する超人。
迎え撃つ吸血鬼は吸血鬼剣で超人を斬りつける。エナジーグローブでガードする超人。吸血鬼の剣術はお粗末で、ただガムシャラに振り回しているだけに見える。
しかし吸血鬼は虎視眈々と狙っていた。肉弾戦を長引かせ、レーザーカッター光線で超人の首をかっ切ろうとチャンスをうかがっているのだ。
突如、吸血鬼の治癒が済んでいない傷口から『吸血鬼峨嵋刺』——己の鮮血で生成した峨嵋刺状の針——を数発飛ばした。
冷静にエナジーグローブで弾き飛ばす超人。続けて吸血鬼剣を薙ぐ。が、これもガードされた。その一瞬、わずかにだが超人の首元を狙うチャンスが生まれた。
「死ね!」
吸血鬼の額にある真紅のルビーが煌めく。
そこから赤いレーザーカッター光線を照射。だが、光線発射の兆候は悟られやすいのだろう。密着しているにもかかわらず、超人にエナジーグローブで首元をガードされ、逆に光線発射後の硬直を狙われて強烈なパンチを叩き込まれてしまった。
超人のストレートパンチをまともに食らった吸血鬼は、分厚い胸板が大きく抉られ、ぶっ飛んでいき廃墟ビルの壁に叩きつけられた。
破壊された廃墟ビルの瓦礫が頭上に覆い被さり、粉塵を撒き散らしながら埋もれていく吸血鬼。
吸血鬼は超人の強さを悟った。
これまでに培ってきた戦闘の勘がいかに鋭いか。そもそも持ち合わせている戦闘能力と戦闘経験の両方に磨きがかかっている。
この超人は戦い好きの戦闘種族であり、その中でも随一の戦士なのだ。
そして最大の問題は、第三形態の維持が難しくなっていることだ。幾度となく損傷した肉体を高速再生し続けたこととレーザーカッター光線を使用したことで、生命エナジーをかなり消費している。
「奴の生命エナジーを吸収しなければ……」
§ § §
46.4 超人VS吸血鬼 観戦模様その一 アラトの部屋
「あ~あ。やっぱりぃ~」
「どうされたのですか、アラトさん」
「勝負というものは、ピンチに陥った方が最後に勝つってのが定石なんスよ。これで超人の負け確定ですわい」
「そういうものですか。わたくしにはインヴィンシブル・スターが圧勝しているようにしか見えませんが」
「チッチッチッ。ダメダメ! 人生経験が足りませんな。応援するつもりはサラサラないけど、吸血鬼勝っちゃいます」
「わかりました。では二人で賭けをしましょう。わたくしはインヴィンシブル・スター勝利の方に10億円賭けます」
「えっ……、じゃ……、僕もそっちに10億円で」
アラトは、テヘッという顔をした。
ギリコは、はぁ? という顔をした。
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