第四十五章 女子高生のコスプレ その2
45.3 女子高生のコスプレ
アラトは自分の部屋に戻っていた。
ベッドでウトウトしつつ夕刻を過ごしている。
そこへ、唐突にピンポ~ンとインターホンが鳴った。
「ん? ギリコか?」
起き上がったアラトは、訝しげに玄関へと向かった。ギリコはいつも勝手にドカドカ部屋に入ってくるし、午前の観戦が済んだあと、予告なしにアラトの部屋に訪れるのは稀なのだ。
玄関のドアを開ける。セーラー服を着た少女が一人佇む。月子ちゃん? いや違う。顔に見覚えが……、
「なっ、義理子先輩ぃ~!?」
驚いて思わず後ろに飛び退く。勢い余って尻餅をついた。
「アラトさん、失礼です!」
腰に手を当て、頬を膨らませた少女は、他でもないギリコだ。
赤とピンクをベースとしたセーラー服とピンク系カチューシャが相性抜群でマッチング。当然、丈の超短いプリーツスカート。
髪型をほとんど変えていないのに、変身化粧で少女っぽさを捏造、小悪魔女子高生を熱演。
いつも大人の色気を醸し出しているギリコが女子高生コスプレをすると、そのアンマッチさが程よいエロティシズムを生み出す。
「ぎ、義理子先輩、エロ……、いや、似合ってます! とっても似合ってます!」
アラトは涎を拭き取りながら立ち上がった。
そして合掌ポーズからシャカシャカと両手を擦り、バンザイコール!
「あぁ、ありがたや、ありがたや、日本の萌え文化繁栄に感謝、感謝、萌え文化バンザーイ! バンザーイ!」
ニコニコと満足そうに微笑みながら、ギリコは部屋に入ってくる。
「ウフフ、アラトさん、どうですか? わたくしに惚れましたか?」
うんうん、と激しく首を縦に振って、アラトは全面肯定、いや、全面降伏した。
「せ、先輩、な、なぜにセーラー服ですか?」
「だって、アラトさん、セーラー服が大好物なんですよね?」
なるほど、とアラトは思った。
今日も、セーラー服姿の月子ちゃんと会って話しているところをギリコに見られたらしい。
アラトはロリコンでもないし女子高生が特別好きってわけでもない——コスプレに萌えてしまったのは小悪魔のギリコが断然悪いとだけ補足し——のだ。
実際、月子ちゃんの存在は見守っていたい年下の女の子、というぐらいにしか思っていない。
またしてもギリコは嫉妬したのだろうと納得した。そして女子高生のマネをすることで、気を引こうとしているのかもしれない。
ギリコが前屈みになり、上目遣いにアラトの顔をのぞき込む。
「ねぇ、パパ、エッチなこと、したい?」
アラトはハッと我に返った。これはアカンぞと。
これじゃまるで、その手のいかがわしいオジ様キラー系不良少女じゃないですか!
「ダメ、ダメ、ダメェ! はい、レッドカードォ!」
ギリコが戸惑う顔をした。
「ねぇ、どうしたの? パパ?」
「はい、それ禁止でぇーす! パパ呼ばわり禁止ぃ!」
アラトはソファーを指差した。
「さぁ、ギリコ! そこのソファーに座りなさい!」
「もぉ、パパ、勝手に怒ってる……」
頬を膨らませ、渋々ソファーの上で正座するギリコ。
アラトはギリコの正面で仁王立ちし、お説教モードに入る。そして右に左に往復移動しながら懇々と説教を始めた。
「ギリコ、前に『僕が許可しないことをしちゃ駄目!』って言ったよね」
「知らなぁーい」
「また、この娘は! そんなわけありません! パパは覚えてます!」
「あー、今自分のことパパって呼んだぁー、じゃ、パパでいいんだぁー」
「黙らっしゃい! いいですか、パパはね、ギリコのことが心配でたまらんのよ。不良少女に育ってほしくないわけ! わかる?」
「ギリコ、頭良くないから全然わかんなぁーい!」
「おバカを演じても駄目です! パパがね、もとい、お父さんが一番困っているのは、独身男性に対するギリコの無遠慮さと危機感の無さだ!」
なんのこと? と言わんばかりに首を傾げるギリコ。
「それだよ、それ! そのギリコわかんなーい、みたいな顔しても、お父さん、騙されんぞ! と、とにかくだ、ギリコみたいな美人を前にすると、男はみんな狼になる。絶対に気を許してはダメダメ!」
「そう言えばずっと前、男の人と海水浴に出かけたら、いきなり押し倒されました。ギリコのおっぱい触らせろとか言いながら」
「そう! まさにそれだよ、ギリコ!」
ギリコは一瞬唖然とする顔になるが、すぐに笑いをこらえる顔に変わった。
「パパはね、もとい、お父さんはね、ギリコのことが心配でたまらないんだよ」
「はい、パパ。もとい、お父様」
ギリコは正座のままシャキっと背筋を伸ばした。
どうやら、なんとなく始まったファミリードラマの親子設定は、二人の不思議な阿吽の呼吸で成立してしまっている。
「要するにだ……」
「よくわかりましたわ、お父様。ギリコのこと、心配してくださるのですね?」
ギリコがはにかみながらクスっと微笑んだ。
「わかればよろしい! 不良少女厳禁です!」
「はい。ウフフ、わたくしもわかった上で小悪魔演じていますから、ご安心ください。」
「単にからかってるってことじゃん、それ聞くと益々安心できないよ!」
「アラトさんとっくに慣れていますから、大丈夫ですよ」
と、クスクスと笑い出し、しばらく治まらないギリコだった。
§ § §
45.4 大会二十八日目の朝 アラトの部屋
翌朝を迎える。ギリコがいつも通り部屋にやって来た。
「おはようございます、アラトさん」
「おはよう、ギリコ」
「今日の夕方、楽しみですね」
笑顔を見せるギリコ。今日の夕方は二人で料理をする約束なのだが、どうやらギリコも楽しみしているとわかった。
先日の嫉妬事件から何かが変わってきているとアラトは感じる。夕方、何かが起きてしまうのだろうか。
「本日の試合は、超人インヴィンシブル・スター対吸血鬼キングクローフィだそうですよ、アラトさん」
「朝鮮人参渋るスター? 誰それ?」
「超人インヴィンシブル・スターです」
「あぁ、知ってるよ、それぇ! インビジブルって、『見えない』って意味だよね? ん? 透明人間とかいたっけ?」
「Invincibleは、『無敵』という意味ですわ、アラトさん。ドヤ顔で答えても、全然違います」
「あぁ、一番最初の試合に出てきたナンタラ超人だぁ! ヤベェ、急にワクワクしてきた!」
「アラトさんは、あの人のファンでしたね。どうして好きなんですか?」
「えっ? なんだろ、ただ普通にカッコいい、って感じ?」
「そうですか。では一緒に応援しましょう」
アラトはあれれ、と思った。
第一回戦第一試合でインヴィンシブル・スターと対戦し、敗れたのがスーパージクウナイツ。そしてギリコの推しキャラが、その負け組キャプテン・ダンなのだ。
要するに、インヴィンシブル・スターはギリコにとって仇のような存在で……。何か心境の変化でもあったのか。
女心と秋の空、などと思ってしまうアラトだった。
【作者より御礼】
数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。
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