第四十五章 女子高生のコスプレ その1
45.1 小説家を目指す
第二回戦第三試合が終了した。
未来人と対戦した女子高生、貞神月子は完敗だった。
アラトは先日、月子ちゃんと話をしたばかり。とても気掛かりなので、すぐにでも話をしようと思う。が、ギリコに悟られると面倒なので、あとで行動に移すことにした。
そして、立ち上がって帰ろうとするギリコを呼び止めた。
「ところで、ギリコさ」
「はい」
「ギリコって、映画とか、アニメ、漫画、小説もディープラーニングしちゃってんだよね?」
「はい。アラトさんからお薦めいただいたラブコメもそうですが、さまざまな分野の物語を学んで見聞を広めています。人間らしさを身につけるのに、もってこいですわ」
「だよね」
「どうかされましたか?」
「ちょっと聞いてみたかったのはさ、ギリコって、小説書く才能あるかなぁ~って思って」
「小説だけでも1000万冊は読んでいます。かなり自信ありますけども」
「えっ、そんなに小説って存在すんの?」
「正式に数えたことありませんが、それっぽくテキトーな数字を言ってみました」
ソファーの上であぐらをかいていたアラトは、顔面から床に落下した。打ちつけた顔面から白煙が出そうな勢いだ。
なんとか立ち直り、ソファーにすがりついて起き上がりながら話を続ける。
「チャット系AIに質問するとさ、プロンプトが難しいというか、質問と噛み合っていない回答が返ってきたり、いろいろ補足を追加しながら質問しても結局『回答は困難』なんてことよくあるじゃん。
もう、なんだか質問してる意味ねーじゃんかぁ! みたいなこと多々あるんだけど、いっそのこと、ギリコみたいに『テキトーですが、なにか?』って開き直ってもらったほうが、いさぎいいよねぇ!」
「わたくしもそう思います。人生に笑いは必要ですから」
「あっぱれ!」
バンザーイ、と両手を上げるアラト。
「小説がどうかされたのですか?」
「そうそう、それが本題。それがね……、もし優勝したら、ギリコの『人間になる』って夢がかなって、僕は就職先をギリコにどうにかしてもらう約束じゃん」
「はい」
「で、もし優勝できなかった場合、結局のところ無職になっちゃうのかなぁ~って想像したら、心配になってね」
「本社の判断によりますから」
「それなら、たった今体験している大会の内容を小説にして売っちゃえ、とか思ってみたんですが、いかがでしょうか?」
「アラトさん、天才です! さすがですわ、わたくしが惚れただけのことはあります! ヨッ! 大統領! では、わたくしはこれにて」
「コレ、コレ、待たんかい!」
無言で静止するギリコ。
「ちゃんと最後まで話聞いてよぉ~」
ヤレヤレという顔をするギリコ。
「と、とにかくさぁ、ノンフィクション小説ってことにしようかと」
「よろしいではありませんか。わたくしも心の片隅で一生懸命応援しますわ」
「いいと思う? だって、ノンフィクションってことはさぁ、僕が主人公でしょ? 第一回戦なんて16試合中16番目の試合で、主人公がいつまでたっても戦わないとか、絶対、読者様がげんなりしちゃうよねぇ!? しかも、いきなり敗退するし……」
「意外性があって、よろしいのではないですか?」
「そう思う? じゃ、いっそのことチート能力で全員まとめて倒したことにしちゃおうか?」
「駄目です! ノンフィクションで嘘はいけません!
どうせ、『オレつえぇ~』とか言いながら、巨乳美少女ばっかり大勢はべらせるハーレム世界を創って、エロ根性丸出しのウハウハストーリー展開をアラトさんのスケベ心はご所望なのでしょうが、わたくしが全身全霊で阻止いたしますわ! ですので、それは諦めてください!」
ギリコの勢いにたじろぐアラト。
「そ、そんな全身全霊で阻止しなくてもいいじゃん……。そんなんほんのちょっとしか望んでないし……。も、もちろんハーレム大歓迎だけど、そうなってほしいけど、ほんのちょっとだけだし……。どうせ、フィクションで嘘の話だし……」
「そうは問屋が卸しません!」
「そうか……、問屋が卸してくれないのかぁ……。別の問屋に頼んじゃ駄目?」
「駄目です!」
「わ、わかりました。虚構ハーレム諦めますので、執筆助けてください!」
「予想どおりの展開ですね。だが、断る!」
「頼むよぉ~、ねぇ~、僕には小説書くような才能ないから、そのぉ、ねぇ!」
「ねぇ、と言われましたも」
アラトはスッと立ち上がり、両手を擦り合わせ、お願い、のポーズをする。
「ちょっと、手伝ってよぉ! ちょっとでいいからさぁ!」
「えぇぇぇ~~~、では、わたくしはこれにて」
「だから、待てっちゅーに!」
「えぇぇぇ~~~、…………、えぇぇぇ~~~」
「どんだけ嫌なんかい!」
「コンダケェー」
と、言いながら、右手の親指と人差し指で5mm程度の隙間を作るギリコ。片目をつむり、指の隙間からアラトをのぞき見る仕草をする。
「それ、チョットダケェー、ってことじゃん!」
「おっしゃられるとおりです」
「じゃ、手伝って!」
「もう、しょうがないなぁー、このわがままお坊ちゃま君はぁ!」
「はい、決まりぃー、ワーイ!」
「では、わたくしはこれにて」
「だから、待てっちゅーに! まだ話は続きます!」
ギリコが嘆息しながら、どうぞ、と促すので話を続ける。
「それでですね、小説書くならワープロが必要ですので、パソコンがほしいなぁ~って。ノートパソコンでいいので、手配できないかなって……」
「はい、お安い御用です。では、アラトさんの今月のお給料から差っ引いておきます」
「うっ、世知辛いなぁ……」
「会社経営はきちんとしませんと」
「ともあれ、僕の給料ってちゃんと出るんだ。ちょっと安心。確か毎月200万のはずだけど」
「一応、今月分の初任給はそろそろですが、いかんせん振込先の口座情報がまだありません」
「どんだけえーかげんな会社やねん! もうブラック企業飛び越えて、純粋な悪の結社だよね!」
「オホホホ、面目ありませんわ!」
「高い笑いして返すな! シャレになっとらんわ!」
「落ち着いてください、アラトさん。給与振り込みは必ずします。世紀末覇者ですから」
「なんか納得いかない……、プンプン!」
アラトがわざとらしく怒った顔を作ると、急にしおらしくアラトに腕組みをしてブリッ娘モードになるギリコ。人差し指でアラトの鼻を突く。
「怒っちゃ、イ・ヤ」
「デヘッ」
鼻の下を伸ばし照れ顔になるアラト。
「それはさておき、明日の晩、一緒に料理をしませんか?」
ギリコがアラトの手を握り、ニコッと微笑んだ。
「あぁ、いいね、それ! やろやろ!」
「わかりました。では早速、材料の手配をいたしますので、部屋に戻りますわ」
「うん、わかった。明日の料理楽しみだね!」
「はい。それでは、また明日」
ギリコは鼻歌交じりに上機嫌で部屋を出て行った。
§ § §
45.2 女子高生のサヨナラ
その日のお昼過ぎ。
月子ちゃんと以前出会った雑木林で待っていれば、おそらく出会えると踏んで行ってみる。さすがにタイミングよく会えるとは思っていなかったが、アラトが雑木林で待つこと小1時間、セーラー服を着た貞神月子が姿を現した。
「あ、あの、私を待っててくれたんですか? えーと、お兄さん」
「あっ、月子ちゃん、うん、元気かなぁ~と思って」
「テヘッ、あっさり負けちゃいました」
かわいく、ベロを出す月子。
「そっか、残念だったね……でも、まぁ……」
「はい、残念ですけど、対戦相手のスミスさん、とっても優しい人でした。何もかも見透かされて、絶対敵わないと思いました」
「そうなんだ」
「はい。しかも助けてくれるって約束してくれたし……」
「えっ、何を?」
「あっ、すみません、内緒です。エヘッ」
「うん。わかった。」
二人で並ぶように地面に座り込む。
「ツキコ、負けちゃったから、もう帰ろうと思うんです」
「えっ、帰れるの?」
「はい」
「そっか、その方がいいよね。試合見てても、鬼や悪魔が夢に出てきそうなほど怖いし」
「はい。やるだけやって負けたから、もう悔いはありません」
「うん、そうだね。僕はまだ二回戦突破じゃないから、次、がんばらなきゃ」
「はい。頑張ってください。でも、もし、お兄さんが今日のスミスさんと対戦することになったら、ツキコ、あの人応援しないといけないので、ごめんなさい」
「アハハ、いーよ、もちろん。でも、僕も手は抜けないし、必死になって立ち向かうから、勝っちゃっても許してね」
「はい、わかりました。でも、強敵ですよ」
「うん、わかるよ。第一回戦でも白熱してスゴイカッコいいって思ったし」
「ツキコは、訳あって後からビデオを見ました。あの人、カッコいいです」
にこやかに笑う二人。
「お兄さん、長話してもいいんですけど、ツキコ、やっぱり、元の世界に早く戻りたいし」
「うん」
「じゃ、お兄さん。死なないで。お兄さんがツキコに言ってくれたように、死にそうになったら、白旗上げて敗北宣言しちゃってください」
「わかった。月子ちゃん、元気でね。呪いが解けるといいね」
「はい。お兄さん、ありがとうございました」
月子は礼儀正しくあいさつすると、さよならと手を振ってその場を去っていった。
なぜか元気をもらったような気分になるアラト。
「ヨーシ、第二回戦勝ち進むぞぉ、がんばろう!」
【作者より御礼】
数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。
【作品関連コンテンツ】
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