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第四十二章 機械生命体VSコピー兵器 その2

42.3 機械生命体VSコピー兵器 観戦模様 アラトの部屋 後編


 空中を舞いながらボール形態からビースト形態に変形する機械合成獣。地面に着地すると同時に、襲いかかってきたモンスターに突進し正面から飛びついた。


 お互いからみ合ってもつれる2体の巨大モンスター、地面をゴロゴロと転がり上下の位置が入れ替わりながら、殴り合いを始めた。


《おっと、急な展開でおったまげたが、突如現れたのは真っ黒いビーストだぁ! もう聡明そうめいな観戦者諸氏はおわかりだろう、あの黒い人狼オメガ選手が、今度は黒いビーストオメガ選手として変身しているのだぁ!

 格闘ゲームでいうところの同キャラ対戦、もちろん色違いだぜぇ!》


 全長2m程度の大きさしかなかったムゲンΩが、なぜか全長8mの大きさへと変身している。


《新情報ゲット! このムゲンΩ選手のミミック技術はとんでもねぇぜ! やたらとデカくなってるわけだが、どうやらクーゲルビースト選手くらいの大きさであれば、その巨体もコピー可能!

 初期形態のマネキンは超高密度の肉体、そっから超絶ナノテクノロジーで体を巨大化できるんだとぉ! もう、何でもアリやで!》


 両者ともシールドを背負っているので、正面から存分に殴り合う。まさしく暴力で殺し合う狂気じみた様相だ。


 しかし見た目の印象で言えば、本家機械合成獣が明らかに圧倒している。


 機械合成獣が偽物暗黒ビーストの右腕をつかむと、サブミッションの要領で肩からもぎ取り投げ捨てた。咆哮ほうこうする機械合成獣。


 無言の暗黒ビーストはもぎ取られた右腕を拾い、何事も無かったかのように右肩に戻しつなげる。


 ナノテクノロジーによる瞬間的な修復能力だ。


 その隙に、敵に背中を向ける機械合成獣。すると、ライオン後頭部のタテガミがヤマアラシの針のように逆立ち硬くなる。そして無数の針をミサイルのように次々発射した。


 タテガミの針が暗黒ビーストの胴体に無数に突き刺さった。針の刺さった箇所が徐々に白く変色していく。黒い肉体が凍りついているのだ。


《さぁさぁ、ほしいところでほしい情報、ナイス! 本家ビーストの針攻撃、あれは『冷凍ニードル』だ! 文字通り刺した物を凍らせる能力。内部から凍らせるから、ナノテクノロジーにも効果ありと見た! 第一回戦では見せなかった新技だぜ!》


 動きが緩慢になる暗黒ビースト。刺さった冷凍ニードルを抜き取ると、抜いた箇所が白く凍結している。よく見ると、白くなっている部分が黒い肉体に溶け込むように消えていく。体内に取り込んでいるらしい。


 暗黒ビーストが後方へ飛び退き、距離を取った。接近する機械合成獣に背を向け、黒いタテガミが逆立つ。黒いニードルを発射、己が食らった技をコピーしてやり返した。


 機械合成獣は咄嗟とっさに背中のサークルシールドを左手で構えてガード、全てのニードルを弾き飛ばした。一部、廃墟ビルに突き刺さった黒いニードルが、その壁を凍らせてゆく。


《ス、スゴイぜ、オメガ選手! 第一回戦の時もそうだが、一度食らった攻撃を即座にコピーして同じことができちまう! わかっちゃいたが、とんでもねぇ技術だぜ!》


 グルルゥ~、と低い声で唸る機械合成獣、凍った壁を見ながら驚きの表情を示している。ひとこともしゃべらないが、状況を飲み込む知性は備えているのだろう。


《しかしいったいどうなる、この試合!

 ビースト選手の必殺技は第一回戦で使った『凍結ブレス』。なにもかもが凍りつく驚異の能力だ! ここで使えばオメガ選手を倒せるはず。しかし、もしこの最恐コピーマンのオメガ選手がその技もマスターしちまったら、この大会、相当ヤバイことになるぜぇ!》


 暗黒ビーストはいつの間にか対戦相手から離れ、姿を消していた。


《むむっ、オラっちがくっちゃべってる隙に、どこかへ行っちまったオメガ選手。イヤな予感がするぜ。さっき行方をくらました時はカメラが追えなかったが、目を離すのは非常によろしくない! カメラさん、きっちり後を追ってくれ、頼むぜぇ!》


 解説者テレオの指示に従って、観戦モニターに映る会場内の景色が次々に変わる。対戦模様を撮影している虫型ドローンカメラの映像を順次切り替え、行方不明となった暗黒ビーストを捜索している。


 突如、切り替わった映像が暗黒ビーストを捉えた。機械合成獣から離れた場所を陣取り、なにやらうずくまっている。


《よ~し、オメガ選手発見! ぬぬ、どうした、腹でも痛いのか?》


 体長8mあった暗黒ビーストが徐々に縮んでいく。やがて、体長2mしかない初期形態の黒いマネキンへと戻っていった。


 静かにたたずむ黒マネキン。2分ほどして体がまた変形し始めた。


 第一回戦でマネキンから真っ黒い宇宙人狼に変化した時と同じ様相。全身がグニュグニュとアメーバのように変形し、新しい物体を創り出していく。


 全身は黒一色、グライダーに乗った体長4mくらいの獣人がサークルシールドを構えている。


《こ、これは……。 お、恐れていたことが現実となった……。聡明なる観戦者諸氏はお察しのことだろう……。

 オメガ選手、ななな、なんとエイリアンハンター・ゼロ選手とクーゲルビースト選手をミックスした、新しい存在へと生まれ変わったぜ!

 いわば、進化するロボット! とんでもねぇチートキャラ爆誕! オラっちは、彼を新生オメガと呼ぶことにするぜ!》


 大きさ的には、スピードとパワー、機動性のバランスをとって中間サイズにしたのだろう。スタンド式グライダーで宙を舞い、エイリアンハンター・ゼロの体躯たいく、クーゲルビーストのライオン頭、手にはサークルシールド。当然、オートップ、高周波シックルブレード、冷凍ニードルが使える上に、ボール形態への変形も可能だと想定できる。


 テレオの言うとおり、戦った敵の能力をコピーしながらその特徴を独自に組み合せていく『進化系ロボット』で間違いない。


 真っ黒いスタンド式グライダーがエンジン音を鳴らし上昇する。オートップを6基射出して、頭上に配置した。戦闘態勢が整ったのだ。


 と、そこへ突如姿を現す元祖ビースト機械合成獣、密かに捜索をしていたのだろう。廃墟ビルの屋上から大きく跳躍し新生オメガに飛びついた。


 冷静に対処する新生オメガは、グライダーの軽快な加速で機械合成獣の突進をスイッと回避する。


 そのまま、直径2.5m程度のボール形態へと変形し地上に降下、廃墟ビルの隙間を走り抜けた。機械合成獣がボール形態になっても通り抜けできない狭さの隙間だ。


 機械合成獣はもう一度廃墟ビルの屋上に駆け上がり、暗黒ボールが逃げた方向へ追いかけようとする。


 すると、獣人グライダー形態に戻った新生オメガが、飛翔しながら機械合成獣の正面に現れた。


 待ってましたとばかりに再度猛突進する機械合成獣、が、その行動を読んでいたかのように真上に急上昇し回避する新生オメガ。


 勢い余って廃墟ビルから落下した機械合成獣。そこにはミニブラックホールが既に出現していた。新生オメガが事前に罠として仕掛けておいたのだろう。ブラックホールの渦がまるでポッカリと大口を開け待ち構えている。


 廃墟ビルに爪を引っかけ、なんとか呑み込まれないように抵抗する機械合成獣。新生オメガはオートップのレーザー弾で廃墟ビルの壁を容赦なく破壊した。


 ボール形態に変形した機械合成獣が奈落の底に落ちる。銀色に輝く美しい真球は、ブラックホールに吸い込まれ跡形もなく姿を消していった。


《こ、これでクーゲルビースト選手の敗北は決定しちまった。彼は最後まで『凍結ブレス』を使わなかった……。オラっちの勝手な妄想だけど、コピーされないようにあえて使わなかったじゃないかと想像しちまうぜ……》


 廃墟の街に静けさが訪れた。勝敗は決着し、ムゲンΩだけが戦場に残される。


 ムゲンΩ、第三回戦進出!



 §   §   §



42.4 機械生命体クーゲルビースト


 クーゲルビーストにはヒトの魂が宿っている。


 ライオン顔に猛獣の鳴き声、その機械仕掛けのモンスターはそもそもロボットにすぎなかった。


 並行世界の銀河に、人類文明が繫栄しているとある惑星がある。その惑星に小さな王国が存在した。その王家の城を守る門番こそ機械兵クーゲルビーストだった。人間によって製造された機械の兵士。


 小さな王国にたった一人の王女がいた。彼女は10歳に満たない幼い少女。動物好きの彼女は、猛獣顔の機械兵が好きだった。大きなぬいぐるみのように思っていたから。


 その王国の隣には、惑星で最も強大な軍国主義の帝国があった。いつ侵略されてもおかしくない情勢。そしてついにその日はやって来た。


 わずか数日で小さな王国が蹂躙じゅうりんされ、王家の城が陥落した。王族は皆、ことごとくその場で処刑された。当然、城門を死守した機械兵クーゲルビーストも破壊された。


 王家の親衛隊は、たった一人生き残った幼き王女がどこか遠くへ逃げ延びるように、城の外へと脱出を試みた。しかし多勢に無勢、数十名いた親衛隊も一人残らず殺されてしまった。


 親衛隊は皆、死に際に祈った。優しくて純真無垢な王女が生き延びるようにと。罪もない、殺されてしまう理由もわからない、そんな幼き少女が短命で終わることがないようにと。


 幼き少女は城下町の暗闇に身を隠した。独りで怯えながら。どこに行けばいいかもわからない。敵に見つからないようにこっそり泣いた。声を漏らさず泣いた。それでも、敵兵に見つかってしまう。


 少女は走った。残っていない体力を絞り出して走った。


 剣を構え王女を追う敵兵団。あっさりと捕まってしまう。敵兵の剣が王女の首を狙い振り上げられた。


 その時だった。


 王女を捕まえた敵兵団が一瞬でぎ倒される。数十名いた敵兵が次々と排除され、幼い王女が一人残った。王女に手を優しく差し伸べるモンスター。王女はそのモンスターをよく知っていた。彼こそが破壊されたはずのクーゲルビーストだった。


 クーゲルビーストは幼い王女を抱えたまま、ひたすら戦った。なんとか逃げ延びようと奮闘した。そして数万の敵兵相手に、なんとか逃げることができた。


 しかし……、しかしだ。


 幼い少女は機械兵の手の中で絶命していた。目の前で大勢の人間が死に、幼い子供の精神は耐えられなかったのだろう。


 機械兵クーゲルビーストは咆哮を上げた。それは悲しみであり、怒りであり、後悔であり、無念でもあった。


 なぜ破壊されたはずの機械兵が再び立ち上がれたのか。幼い王女を守るために。


 それは数十名いた親衛隊の魂が一つになり、彼に宿ったから。守りたいという意志、助けたいという意思、無念という思い、それらが一つとなって、機械兵クーゲルビーストに宿ったのだ。


 こうして銀河でただ一つの機械生命体が誕生した。


 彼は猛獣の顔、猛獣の声。人間の声帯がないという理由で言語は話せない。しかし、ヒトの魂はそこにあるのだ。



【作者より御礼】

 数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。


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