第三十八章 第二回戦対戦組合せ
インスパイアリング・リスペクツ-マルチバース・コロシアム-(シーズン2)は、シーズン1の最終章「第三十七章 主人公VSスライム その6」から継続する内容となっています。
シーズン2から読み始めると、ほぼ理解できない内容が続きますので、是非とも、シーズン1を読んだうえで、シーズン2に進んでいただきますようにお願いいたします。
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38.1 第二回戦対戦組合せ
敗者復活戦第二試合終了。
アラト、第二回戦進出決定!
アラトはホテル内医務室のベッドで栄養剤の点滴を打ちながら、豪快なイビキとともに熟睡していた。
アラトの勝利は偶発的に呼び込んだ幸運の連続により、辛うじて導くことができた。しかしそれは、苛酷な100時間耐久バトルに耐えきったアラトの意地と根性の結晶でもある。
4日間に及ぶ絶食と不眠不休による極度の疲労で憔悴し意識を失っていたが、猛烈な空腹感で目を覚ますアラト。時刻は夜中22時。
アラトが目を開けると、ベッド脇には優しい微笑みを浮かべているギリコが丸椅子に座っていた。
「アラトさん、よく頑張りました! 最後まで立派に戦い抜きましたわ」
「ギリコ……、お腹すいた」
「はい。おかゆを準備しています。すぐ温めますので、ゆっくり召し上がってください」
「ワーイ!」
ベッドの上で上半身だけ起こし、ホカホカのおかゆを受け取って頬張るアラト。
「あ~、メッチャおいしいぃ~、幸せぇ~」
「ゆっくり食べないと胃がびっくりしますよ、アラトさん」
「これ、ギリコが作ったの?」
「申し訳ありません。わたくしがこの世に誕生して以来、ただの一度も料理を実演したことはございません」
「ふ~ん、そうなんだ」
「はい」
「じゃ、こんど何か料理してよ」
ギリコがしばらく考え事をして答える。
「わかりました。では、わたくしの手料理をお約束していた第一回戦突破記念といたしましょう。何かご希望はございますか?」
「高級和牛ステーキとか食いたい!」
「かしこまりました。世界一のSSS級和牛ステーキをご準備いたします。世紀末覇者の実力をお見せいたしますわ」
「ワーイ!」
アラトが赤面しながら話題を変える。
「ギリコ、ご褒美……」
「ゴボウの日?」
「ゴ・ホ・オ・ビ!」
「越後屋、お主も悪よのぉ~、して、いくら出せば良いのじゃ?」
「裏金じゃねぇーわ! てか、どんだけ時代劇好きやねん!」
「たった今、わたくしの手料理にすると決めたところです」
「その『ギリコが望みを叶える』以外に、もともと約束してたじゃん!」
「なんのことでしょうか?」
ギリコが唇に人差し指をつけて首を傾げる。
絶対、かわいいとわかっててやってるよ、この小悪魔! などと思いつつ答えるアラト。
「チュー」
「誅? 意味は罰ある者を責め立てる、とがめて殺す。わたくし、そんな残忍なことできませんわ」
「そうじゃなくって、キス」
「鱚。スズキ目スズキ亜目キス科の魚類。申し訳ありません、ただ今品切れです」
「キス、キス、キッス、ご褒美のチュー!」
「あら、あら、アラトさん。ほっぺたにご飯粒つけて、零さないでください」
「わー、ごまかすなよ!」
「つまり、『アラトさんからの初めてのキス』を経て、『次はわたくしからキスする』という、アレですね」
「そう、そのアレ! だよ」
「それはもう、アラトさんが出撃する前日に実行したではありませんか」
「たしかにそうだけどさぁ~。こういう時は、大概『ご褒美のチュー』とか言って、気軽にキッスするもんなんです! ギリコって僕を口説こうとしているはずだよね? ラブコメから学んでないの!?」
お澄まし顔のギリコが答える。
「この数日間、アラトさんの提案に従い一万を超えるラブコメを学習した結果、男を陥落させるにはオナゴの肉体を差し出すのが最も効果が高いと演算しています。
しかし、わたくしが提供できることと言えばキッチュ……」
ギリコが噛んだ。一瞬だけやっちまった顔をし、話を続ける。
「……キスくらいのものです。
一方で、エサを与えすぎると男を従属させる効果が低下するというのも学びました。ですので、少しくらい出し渋る方が、より効果が持続すると結論づけました」
「言いかたぁー」
「ご褒美はもうありません。悪しからずご了承ください」
「ケチィィィ……」
アラトは思った。
(なにこれ? この前のデレデレキャラ覚醒かと思いきや、ツンツンキャラに逆戻り? 新手のデレツンキャラ? もうAIが考えること全然わからん!)
アラトは無言でおかゆをがっつく。
突如ギリコがアラトの真横にくっついて座ると、チュッ、と軽めのキスをアラトの頬にした。
「第一回戦突破おめでとうございます、アラトさん」
「え……」
びっくり顔のアラト。
柔らかい笑顔のギリコ。
「あ、ありがとう……」
アラトは声を張り上げて喜びを表現したかったが、なぜか恥ずかしさが上回り静かにお礼を述べた。
(あ、あかん……。これ以上、ラブコメ学ばせちゃ駄目だ!)
◆ ◆ ◆
大会24日目の朝も、正午までグッスリ居眠りしていたアラトは、ようやく自分の部屋に戻った。
第二回戦の組み合わせが発表されている頃だ。
今回のトーナメント『多元宇宙統一最強決定大会』は、第一回戦が全て終了し第二回戦へ進出する16枠が確定した後に、改めて第二回戦の対戦組合せを決めるという、一風変わったルールなのだ。
第三回戦も同じルールで、8枠が確定するまで次の対戦相手が誰になるのか誰にもわからない。準決勝戦も然り。
トーナメント運営側が、できるだけ同じカテゴリーの者同士が戦うように意図しているのかもしれないが、定かではない。
その第二回戦対戦組合せ表が正午に発表され、ギリコがそれを手にアラトの部屋へと訪れた。
「アラトさん、第二回戦対戦組合せ表です」
「待ってました! で、相手は誰?」
「魔法少女カドリィですわ」
「あぁ、ギリコの最初の対戦相手」
「はい。敵の戦力を十分把握しています、弱点も」
と、ウインクするギリコ。
「うっしゃー、二勝目いただきぃ!」
「油断は禁物です、アラトさん」
「へーい。さてと、ちょっと要望したいことがあるんスけどね」
「はい、詳しくおっしゃってください」
「うん。僕の装備、改善の余地ありです」
ウンウンと頷くギリコ。
「まず、惑星破壊キャノン。あれ、軽量化して充填時間徹底的に短縮してもらわんと。惑星破壊しなくてもいいんだから、威力を犠牲にして回転率上げてください! それと10秒間のタイムラグ、マジ、止メレ」
「はい、鋭意努力中でございます、アラト様」
「それとハンドレーザー銃だけどね、練習したいから、すぐに新品がほしいんですが」
「はは、仰せのままに」
「うむ。そちに任せる」
ギリコは軍師風に右手を胸に当て、ゆっくり頭を下げた。
アラトは話題を変え、話を続ける。
「そんでさ、今まで謎が多すぎてずっとスルーしてきたんだけど、多元宇宙って何? 映画や小説じゃ、ある意味常識みたいにパワレルワールドとか異世界とか単語出てくるけど、噛み砕いて説明してほしいんですが」
「そうですね。第一回戦が全て終了し全32枠の実体が明らかになりましたので、説明がしやすくなります」
「そうそう、そのとおり! まぁ、僕らのこの現実世界自体が、フィクションみたいなことになってるけどね」
「仕方ありません。あくまでも現実ですので」
「じゃ、わかる範囲でご説明お願いしやす」
その後、ギリコが多元宇宙について懇々と語ったのは、言うまでもない。
◆ ◆ ◆
その日の夜、アラトの部屋で第一回戦の試合録画を見ている二人。ギリコが不在だったためアラトが独りで見ていた、というより、ほとんど内容を覚えていない第九試合を改めて見たいと、ギリコにリクエストしていたのだ。
アレスマーズロボ対海獣シーギメラスの試合だ。明日はアレスマーズロボが合体怪獣と対戦する予定となっている。
アレスマーズロボが海獣を倒し、イケメン操縦者ケンシロウが人魚姫を助けだすシーンで、アラトはなんだか羨ましそうな顔をしている。
「あらあらアラトさん、どうされたのですか、口をポカンと開けて。涎を垂らしてしまいますよ」
ギリコの忠告を受け、ジュルっと生唾を飲み込むアラト。
「良かったですね、アラトさん。あんなに綺麗な人魚のお姫様が無事でしたので。アラトさん好みの女性ですものね」
「そんな……」
「そんなことありますわ。あんなにお召し物がお似合いで」
「いやいや……」
「嫌も嫌よも好きのうち、って素晴らしい名言ですわ」
「ちがう…」
「血が騒ぎますか、そうですか。」
「……」
「アラトさん、それはいいアイディア! あの赤毛のエルフ同様、人魚姫にもモーションキャプチャーのモデルを頼むとしましょう! さすがアラトさん、とってもいいご意見ありがとうございます」
「……」
「はい? そんなことは言っていない? それはおかしいですわ、是非そうして欲しいとアラトさんの目が訴えていますもの」
「……」
「わたくし、これでも人様の考えはよく理解できるほうですので」
「……」
「心読むなって言われましても、あぁ、実質言ってませんわね。心読むなってお考えになりましても仕方ありません。だって事実をお伝えしているだけですから」
「……」
「あらあらアラトさん、そんなに平謝りしていただかなくても大丈夫ですわ。巨乳好き変態野郎はお墨付きですから」
アラトは完膚なきまでに叩きのめされ、ようやく心が無になった。
§ § §
38.2 大会二十五日目の朝 アラトの部屋
この大会が始まってから25日目の朝を迎える。
そして、ついに始まる第二回戦。長かった第一回戦が終了し、ようやく次のステップへと進展した。
その最初の対戦カードは合体怪獣対巨大ロボット。なんやかんやで興奮せずにはいられないアラトは、ワクワクしながら試合開始の合図を待つ。
そしていつものようにギリコが部屋に訪れ、いつもの観戦が始まった。
【作者より御礼】
数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。
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