【第八章:前に進むという勇気】
灰の都市を離れた砂原に、夕暮れの影が伸びていた。
スケとカクは、ミリエルの背を追っていたはずだった。しかし今、彼らは立ち止まり、遠くで蹲る彼女を見ていた。孤独に包まれた少女──ミリエルは、地に膝をつき、砂を手のひらに掬っては零していた。
やがて彼女の背に、静かな足音が近づく。ユウトだった。
「……来ないで」
ミリエルは顔を上げなかった。
「ミリエル」
ユウトの声に、彼女は震える声で怒りをぶつけた。
「なぜ……なぜ私にこんな力を与えたの?」
彼女の声は震え、怒りと悲しみに満ちていた。
「私には無理、できない……見て、あなたの力で私は都市を一つ消滅させた。そこに住んでいた人々の生活を、一瞬にして奪ったのよ……!」
ユウトは何も言わず、ただ彼女を見つめていた。
「私は、最悪よ。この世に存在しなければ良かった。あなたが……あなたが私にこんな力を授けたから、こんな結果になったの……わああああああんっ」
ミリエルは、ユウトの胸に顔をうずめた。
この世のすべての怒りと涙を、自分が一人でまかなうように──泣き叫んだ。
ユウトは静かに彼女の背に手を添え、ただ黙って受け止めていた。
「怖いよな。もう一度、同じことを繰り返すのが。前に進むことすら怖くなるよな」
彼は静かに言葉を紡いだ。
「でもミリエル、それって──優しさなんだよ」
「誰かを傷つけたくないって思えるのは、君がちゃんと“感じてる”証拠なんだ」
「だったら今度は、壊すためじゃなくて──“守るために、書き直そう”。 君ならできる。だって、あのとき泣いていたのも、誰より苦しかったのも……君だったから」
ミリエルは、涙で濡れた顔のまま、かすかにうなずいた。
そこへ──
「……あの日、都市が消えたのを見た時、俺は“おまえを許せない”って思った」
スケの声だった。
「でも、それ以上に……“おまえが独りで抱えてること”が怖くなった」
スケは砂を踏みしめ、ミリエルの隣に立つ。
「誰も戻らなかったら、おまえは二度と帰ってこない気がして……だから俺は、逃げずにここに来たんだ」
「怒ってる。でも、それだけじゃ終われない。 おまえが、あの時、ひとりで終わろうとしてたなら……今度は俺が、おまえを終わらせない」
続いてカクが、どこか照れたように鼻をこすりながら口を開いた。
「うまいこと、言えないのですが…… ミリエルさん、あなたが壊したものの中に、俺たちもいました」
「でも、それでも──あなたの隣にいた日々が、ぜんぶ嘘だったなんて、思いたくなかったんです」
ミリエルが顔を伏せると、カクは視線を外して、空を見上げた。
「たとえ全部を間違えてたとしても……やり直しってのは、“もう一度信じたい”って誰かが言ってくれなきゃ、始まらないでしょ?」
彼は不器用に笑って、言った。
「俺は、もう一回、信じたいんです。ミリエルさんを」
その声が、彼女の胸の奥に、小さな灯火をともした。




