【第七章:群青の罪と、空白の果て】
海の底のように静まり返った廃墟──そこに、かつて祈りの都市があった面影はない。
石も、鉄も、人の名残さえも、光の粒となって風に舞い、消えていた。
その中心で、ミリエルはただ一人、膝を抱えて座っていた。
声も出さず、涙も流れず、ただ、何かを失った者のように。何もかもを壊した者のように。
「……これが……おまえのやり方かよ……」
低く、押し殺した声が背後から響いた。
スケだった。
拳を握りしめたまま、ミリエルの背中を睨みつける。
「俺たちが信じた“祈り”ってのは、こんなやり方じゃなかった……ナを……ナを殺されたからって、全部ぶっ壊して、満足かよ?」
ミリエルは返事をしなかった。できなかった。代わりに、その肩がわずかに震えた。
「おまえにとっては……“意味”も“都市”も……そして人も……ただの数字だったのか……」
スケの声が震える。
「俺は、もうおまえの仲間じゃねぇ」
そう言い残し、彼は歩き去った。崩れた街の瓦礫の中へ、足音だけを残して。
ミリエルは、その背中を見ようともしなかった。
ただ、空を見上げていた。
その隣に、もうひとつの気配があった。
カク。
彼もまた、ミリエルを見つめていた。ただ、その目には怒りではなく、深い落胆と哀しみが滲んでいた。
「……僕たち、あのとき、違う選択肢はなかったのかな」
囁くような声に、ミリエルはようやく首を動かした。
「ナを失ったとき……わたしは……私の中にあったものが、壊れたの」
「でも、それでいいの?」カクは問いかけた。「全部、無にして……残るものは、自分すら信じられない空白だよ」
ミリエルは答えない。けれど、わずかに唇が動いた。
──わからない。
それが彼女のすべてだった。
空には、何もない群青の空が広がっていた。ただそれだけ。
ミリエルはその空を見上げて、ゆっくりと立ち上がった。
孤独の中で、それでも歩き始めることだけが、彼女に残された唯一の選択だった。




