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【第三章:構文破裂/心臓の真実】


挿絵(By みてみん)


 翌日。

 メルディア第六倉庫の地下には、構文の光も届かぬ闇があった。  ミリエルは息を潜めながら、ひとり、朽ちた階段を降りていく。  スケとカクは別ルートで進行中。目標はただ一つ。  ──リクトの心臓の行方。

 地下室には、冷却装置と構文封印装置が複雑に絡み合っていた。  その中央に、ひとつだけ異質なカプセル。

 ミリエルが開く。

 眠っていたのは、確かにリクト本人。  しかし、彼の胸に構文の痕跡が刻まれていた。

《構文:不完全移植/魂因子の分離》

 生体としては“生きている”。  だが魂は、心臓ごと誰かに移された。

 ──魂のない命。

 それは、生かされたまま、尊厳を奪われた少年の姿だった。

「……こんなの、ただの合法的な誘拐じゃない」

 同時刻、カクとスケはメルディア医療構文局の通信ノードに潜入していた。

「照合完了。移植先:ユーフェリア・カレドリア」 「……ザラム教国の元老院議長の娘、か」

 ユーフェリア──“神の奇跡”とまで称された病弱な少女。  彼女の病を救うために、法王庁は“構文医療特例法”を発動していた。

《構文タグ:特例措置→魂移植/合法処理→貴族階級認定》

 つまりこれは、法律によって正当化された“魂の奪取”だった。

 スケが拳を震わせる。「それ、許していいのか……」

「許すかどうかじゃないよ」  ミリエルの声が、構文共有回線を通じて響いた。 「私たちが“どう壊すか”だけ」

 その夜。  ミリエルは単身で〈カレドリア領構文病院〉に乗り込む。

 そこには、最高の医療構文士たちが待ち構えていた。  そして中央の白いベッドには、ユーフェリアが静かに眠っていた。

 彼女の胸──そこには、かつてリクトの心臓が。

 ミリエルが近づいた瞬間、構文結界が展開。  自律型構文兵《オート=エゼキエル》が起動する。

「侵入者、識別──魔女ミリエル。対応レベル、最上位。抹殺を開始」

「やれやれ……やっぱり来るんだね、そういうの」

《構文:敵構文→ギャグ演出変換→頭身縮小→関節パペット化》 《構文:武装無力化/バトルBGMラップ変換》

 空間がねじれ、白く輝く病室は突如“漫才ステージ”に変貌する。  構文兵はバグり、踊り出す。

「世界が君に微笑んでいるとでも? ……ちがうよ」  ミリエルはユーフェリアに近づき、囁く。 「君が笑ってるその心臓は、誰かの“祈り”を踏みにじってる」

 ユーフェリアが目を開ける。  だが──その眼は穏やかで、美しかった。

「その子の……祈りだったの。わたしに生きてほしいって……」 「えっ……?」

 ミリエルは一瞬、構文銃を下ろしそうになる。

「彼が意識を失う前、魂が言ってたの。“君が代わりに生きて”って……」

 ミリエルの心に、微かな矛盾と迷いが走る。  だがその時、構文共有ネットに別の信号が割り込んだ。

《解析:当該発言──誘導構文による記憶変調の可能性/高》 《法王庁構文介入ログ:証拠隠蔽》

「──やっぱり、構文で書き換えられてる」

 ミリエルの眼に再び炎が戻る。

「君は悪くない。でも、これを許した“世界”が悪い」

 構文銃を構えるミリエル。  だが今度は、銃口はユーフェリアではなく──病院の中枢《構文脳髄》に向けられていた。

「この子の魂を取り戻す。そのために、全部壊す」

 その夜、病院は“記号崩壊”によって沈黙した。  だが同時に、ユーフェリアの心臓は停止する。

 彼女の命を救うため、ミリエルは新たな選択を迫られる。  ──もう一度、リクトの魂を戻せば、少女は死ぬ。  だが戻さなければ、リクトは“偽物の命”のまま囚われる。

 祈りとは、誰のためにあるのか?  命とは、何に属するのか?

 ミリエルは答えを出さぬまま、再び旅路へと戻っていく。

(つづく)

挿絵(By みてみん)

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