表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/10

【第九章:再構築(リコンポーズ)/そして魔女は歩く】

風が止んだ世界に、再び音が戻ってきたのは、いつだったのだろうか。 誰もいない海辺、廃墟の島。灰と塩の香りが混ざる空の下で、ミリエルは目を覚ました。 かつて魔女と呼ばれ、怒りに身を任せて都市を焼いた少女──その心は崩壊し、魂は散り、風となっていた。 だが今、彼女の体は再び形を持ち、そこにかすかな“構文の残響”が戻ってきていた。

片翼の肩に、優しい陽が射す。

「……戻された?」

目を開けると、そこには見覚えのない廃墟。

「よう、寝坊魔女。そろそろ、世界をぶっ壊しにいく時間だろ?」

立っていたのはスケ。 その横には、知的な目を細めるカク。

「……一緒に行ってくれるんだ」

一時期、ミリエルとは距離を置いていたが、再びその傍らに戻ってきていた。

「ここは……どこ?」

「“再構築領域”。ミリエルさん、あなたの願いが、空間を書き換えたようです」とカクが言った。

「願い……?」

「“意味を、選び直したい”って言いましたよね」

ミリエルは理解した。ここは現実の世界ではない。 だが、祈りと構文が干渉し、生成された“可能性の世界”だった。 その可能性は、祈りによってだけ維持される。

「じゃあ、これは夢?」

「違うさ。おまえが書いた、世界を構築できる最初の一文だ」

そのとき、空に巨大な構文文字が浮かび上がる。 『魂の意味は、他者のために書き換えられてはならない』

ユウトの声が響く。

──なぜ力を渡したか?

「だから君に託した。都市をひとつ壊す力……とはいえ、完全な消去構文は授けていない。あれはセーブされた力だ」

「そして、今、君たちがいるこのアポリア世界は、私がMaQ SYSTEMの深層構文をハッキングして新しく作り直した別のアポリアだ。君には、今度はこちらの世界でその力を使って修正をしてもらう」

「ユウトさん、どういうことですか?」

「ミリエル、私は長年アポリアを修正しようとMaQをハックしてきた。しかし、この複雑化した世界SYSTEMを動かすには、私一人では力が足りなかった。だから私は、MaQの計算能力を使って多元宇宙<マルチバース>を構築した。つまり、別の次元に“もう一つのアポリア”を作ったんだ。でも、それを生かすには、君のような“感じ、壊し、再び願える者”が必要だった。

私はアポリアの書の一部のハッキング能力を君に託し、君の行動を観察していた。そして、一つの都市を崩壊に導いたその力と、それに絶句する“君自身”の反応──それこそが、君が信頼に足る仲間だと示してくれたんだ」

「だから、君を救いに来た。今度は君の力で、この世界の“意味”を塗り直してくれ」

ミリエルはゆっくりと立ち上がる。 魔女装束は朽ち、代わりに軽やかなドレスのような衣。 背には、片翼。 だが、もはやそれで十分だった。

「ねえスケ、カク……行こうか」

「どこへ?」

「バカなザラムの刺客をギャグで撃退して、世界を救う旅よ」

空からひとつ、変な形の飛空艇が降りてくる。 ザラム特使が慌てて飛び出してくる。

「ミリエル・リコンポーズ、おまえの存在は未定義構文違反で──」

「祈りコード発動──《構文:オチはお前だ》」

バァァン! 吹っ飛ぶ特使。空からメロンソーダが降ってくる。

カクが言った。「相変わらず雑すぎます」 スケが笑った。「でも……やっぱりこれが、おまえらしい」

ミリエルは微笑んだ。 そして歩き出す。 世界の果てへ。 意味の未定義な領域へ。

──もう一度、世界を笑わせるために。

(完)


挿絵(By みてみん)


(完)


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ