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【プロローグ:魔女っ娘ミリエル、爆誕!!!世界は“私の正義”で書き換える】

挿絵(By みてみん)


この世界には、名前を持たない少女がいた。

 詩的な表現ではない。彼女は、存在そのものがデータベースに記録されていない“匿名ユニット”。通貨債務によって魂の三割を担保にされ、記憶は雇用契約の中で分割担保として売られ、感情と痛覚は“構文”によって最適化されていた。

《構文:感情フィルタリング/疼痛抑制》 《構文:効率優先モード=ON》

 それは、労働力として“最も扱いやすい状態”を意味した。  彼女の目には輝きがなかった。

 場所は鉱山跡地の作業キャンプ。空気は薄く、酸素よりも灰が多かった。誰も名前を呼ばない世界で、誰もが魂を売って生きていた。少女もまた、そうして生きていた。

 そんなある日──

 銀色の外套を着た青年が、構文センサーの網を抜けて彼女の前に現れた。

「名前、欲しいか?」

 声は静かだった。けれど、その一言は、彼女の“構文”を破った。

「……え?」

 彼女はその瞬間、感情フィルタが一部解除されるのを感じた。

 彼の名は──秋月ユウト。

 異邦の旅人、そして“観測者”。その手には黒革の魔導書《アポリアの書》があった。

「この世界は、ねじれてる。神すら構文に従っている。  でもさ、それなら……書き換えればいいだけじゃない?」

 ユウトの指先が書を撫でたとき、構文が彼女の体内に流れ込んだ。

《Protocol Omega 起動》 《全構文権限:付与》 《ユーザー認証:名無しの少女》 《スキル獲得:「歩くアポリアの書」》

 魂に直接構文が刻まれた。世界の"文法"が彼女の中で意味を持ち始める。

「君の名前は──ミリエルだ」

 その名を聞いた瞬間、空が裂けた。

 変化は静かに始まった。  鉱山の看守たちが発した構文命令はすべてエラーを吐き、奴隷契約が無効化される。

《構文再定義:自由》 《構文削除:奴隷契約/所有権》 《構文更新:労働者 → 解放者》

 ミリエルは静かに歩いた。だがその足跡は、世界の構文に亀裂を生じさせた。

 魔女っ娘は誕生したのだ。  名を持たぬ少女は、いま──世界を“書く者”となった。

 ザラム法王庁、構文管理庁地下六階層。  時刻は第七時刻。構文審問部の会議室には、結界術式と強制防音構文が張られていた。

「──構文異常、再検知。対象コード:Ω。」 「再定義不能な書換え権限……これは完全に“書”と同格だ」 「超SSS級、対象確認。コードネーム《アポリア・ウォーカー》。本庁記録では“歩く世界改変構文”」 「対応部隊を派遣せよ。構文アサシンサリエル、即時出撃」

 その夜、七体のアサシンが暗黒結界を破ってミリエルを急襲した。

 ミリエルにとって、それが初めての戦闘だった。

 鼓動が速まる。手のひらが少し汗ばんでいる。  目の前には、黒装束の構文アサシンたちが無言で刃を構えていた。

「……これ、まさか本当に殺しに来てる?」

 彼女は緊張の中で、小さく深呼吸した。

「ええと、たしかユウトに教わったやつ……構文、使えるんだよね」

 指を鳴らす。

《構文:時間停止 準備中》 《構文:演出優先度=ギャグ》

 時間が一瞬だけ止まる。だが、うまく制御できない。  アサシンのひとりが動きを再開して、斬撃を放ってきた。

「きゃっ!」

 反射的に後方宙返りしながら、叫ぶように呪文を叫ぶ。

「《構文:敵の威圧感=ゼロ》!」

 その瞬間、アサシンの顔が豆腐になった。

「……なにこれ」

 笑ってはいけない場面だが、ミリエルはこらえきれなかった。

「えっと……《構文:敵の攻撃力=紙》、ついでに《構文:演出=ツルツルスライム床》」

 アサシンの足元が急にスライム状になり、次々と転倒、空中で三回転して頭から落下。

 そして──

《構文:物理エフェクト=パンケーキ化》

 ズドン! という爆発的な効果音とともに、彼らは団子状に潰れ、まるでアニメのギャグ回のように、パンケーキとなって空を舞った。

《効果音:ポワン☆/ぺしゃんこーん/パンッケーキ!》

「な、なにこれ……私、勝ったの?」

 ミリエルは呼吸を整えながら、戦場を見渡した。

 そこには、パンケーキと化した七体のアサシンと、構文エフェクトの残光だけが残っていた。

「ったく、ザラムのやつら、もっと面白いの送ってきなよ? 構文が泣いてるよ……って、何言ってんの私」

 思わず笑ってしまった。

 だが、その笑いの奥には、ほんの少しの確信が芽生えていた。

 ──私は、本当に“書き換えられる”かもしれない。

 魔法陣が空中に走り、次元の縁が光り始める。

《構文:世界構造 解析完了》 《構文:統治構文 一時停止》 《構文:因果干渉レイヤー 書き換え準備》 《構文:世直し 起動》

 その瞬間、世界の深層にある記述言語が震え、律動を変え始める。  政治、経済、宗教、暴力──すべての構文が、ひとりの少女によって“見直し”を余儀なくされた。

 その日、世界は彼女によって“再起動”された。

 ──これは、世界をひっくり返すために書かれた、最初の一文である。



挿絵(By みてみん)

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