永遠の呪い
カーテンが風もないのにふわりと揺れる。
チラリと覗いた隙間から月明かりが差し込んだ。
その明かりで、私の上に浮かんでいる存在が浮き彫りになった。
一言でいえば、死神? なにこれ、夢?
「死神がいるだなんて聞いてない」
私が今暮らしているのは、古い洋館。遠縁の親戚の知り合いのおじいさんから譲られたという、それもう赤の他人では? と突っ込みが入るだろう、現に私が突っ込んだ。
貰えるものは有り難くと、のこのこやってきた夜のことでした。後悔してももう遅い。
「あの……とりあえずお茶でも飲みますか……?」
冷や汗を流しながら、聞いてみた。死神(仮)は、ゆっくりと首をかしげ、スゥッと寄ってくる。まじかー。怖い怖い!
「できれば血を飲みたい」
あ、吸血鬼の方でしたか、それは申し訳アリマセンデシタ。死神も吸血鬼も大差ない気がするけど、どっちと遭遇する方がましなのだろうか。
「いま、準備してきますので、お待ちください」
首から血を吸われるのは遠慮したい。よくあるじゃん、同じ吸血鬼になるとか、眷族になるとか、はたまた死んじゃうとかさあ。
人じゃ無くなるのも、死ぬのもいやだ。よって私は第三の道を行く! すなわち、痛いけど、とっても痛いけど! 果物ナイフでちょっとだけ! ここ肝心。ちょっとだけ指を切る。いや、マジで痛い、痛いから!
「ど、どうぞ」
涙目になりながら、未だ宙に浮いてる吸血鬼(仮)に、指を差し出す。みるみるうちに血が指を伝って、ベッドに染み込む。早くして! ベッドの汚れが落ちなくなったら恨む。
「か、噛むなあ!」
この人? 酷い! 血を吸うだけでは飽き足らず! その鋭い牙で指を噛んできた! ありえない! 泣くよ?! ただでさえ痛いのに! あれ、でもおかしいな……。痛みが遠のいて……意識まで、もやが、かかって……。
◆◆◆
「……生まれ変わったんだな。俺はどのくらい寝ていた……?」
意識を失った女性を抱えあげ、ゆっくりと抱き締める。
愛する者が亡くなったとき、俺も一緒に眠りについた。
目覚めたのは先程のこと。腕の中にいる女性は前回の姿と似ても似つかない。それでも魂が同じだと分かるのは、永遠の愛を誓ったからだ。何度生まれ変わろうとこの誓いは失われない。まるで呪いのように。
それこそが、永遠を生きる吸血鬼に対する、神の慈悲だということを俺は知っている。孤独の中でも、愛する者だけは、いつかこの腕に帰ってくる。吸血鬼が狂わずにいられるのは、この呪いのおかげだ。
「また共に生きよう。愛している」
俺は眠る女性の瞼に、そっと口づけを落として囁いた。
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