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イーヴィー  作者: ニーナ
第一章:目覚めの遺跡
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二話:「遺された場所」

「イーヴィー、ここはどこなんだ?」


「現在位置:不明。施設の情報はデータに存在しません。現地スキャンを開始します」


イーヴィーはそう言うと、ゆっくりと部屋の中央に歩み出る。目元がわずかに光り、淡く発光するラインが手先から伸びていった。


「施設は老朽化していますが、安全性は確保されています。出入口は……こちらです」


イーヴィーが指差したのは、半ば崩れたような石の壁だった。しかし、彼女が近づき手を触れると、ぼんやりと光の枠が浮かび上がる。


「……まさか、これが……」


「隠し扉のようです。開放処理を行います」


重たい音とともに、壁が横に滑り、暗い通路が現れる。


「まるで……ゲームの世界みたいだな……」


俺はその先に何が待っているのかを考える暇もなく、自然にイーヴィーの後ろに続いた。異世界に転移してまだ数時間しか経っていないが、すでにすべてが圧倒的に未知で不安だ。それでも、彼は歩みを止めることなく、イーヴィーが示す方向に進んだ。


「ここは…?」


「遺跡の一部です。恐らく、ここには過去の情報や遺産が眠っているかもしれません。」


イーヴィーの声は冷静だが、どこか物悲しさを含んでいるようにも感じられた。周囲の景色は、かつて誰かが栄華を誇った場所だったのだろうか、今は無数の崩れた柱や倒れた石像、そして不明な文字が刻まれた古びた石板が散乱している。


その時、何かが足音を立てて近づいてきているのを感じた。主人公は立ち止まり、耳を澄ました。


「聞こえる…何かが近づいてきている…!」


イーヴィーはすぐに反応し、冷静に振り返る。


「警戒を。」


その一言が終わると同時に、彼女は素早くその場に膝をつき、床に手をつけると、地面から数本の鋭い金属の突起物が浮かび上がり、周囲を警戒する体勢に入った。


そして、少し遠くからだったが、薄暗い中に何かが現れた。黒い影のように、不確かな姿をしているその何かは、まるで霧の中から浮かび上がるように現れ、ゆっくりと近づいてくる。


「…何かが来る…!」


主人公は恐怖が込み上げてきたが、イーヴィーの冷静さに支えられている自分を感じた。


イーヴィーはその黒い影に向かって手を伸ばし、指を鳴らすと、空気中に何かがひとひらの光となって現れた。光の粒子が集まり、やがて魔法陣のようなものが地面に描かれ、突如、周囲の温度が下がり始めた。


「危険です。あなたは後ろに下がってください。」


主人公は慌てて一歩後ろに下がりながら、イーヴィーが放つ光景に目を奪われた。その魔法陣から発する冷気が、周囲の空気を一層冷やし、黒い影を引き寄せるように包み込んでいった。


そして、黒い影が完全に姿を現したとき、それが何者であるのかがはっきりと見えた。


それは、まるで影そのものが具現化したかのような、不気味な存在だった。全身は人型だが、顔は一切見えず、ただ無数の黒い霧のようなものが漂っている。


「…魔物です。」


イーヴィーの冷静な声が響くと、影が一気にその場を駆け抜け、俺に向かって迫ってきた。


だが、イーヴィーは素早く手をかざすと、その黒い霧のような魔物に向けて光の刃を放った。鋭い光が魔物に直撃し、その存在が少しずつ崩れ始める。


「すごい…!」


俺はその力強さに驚き、息を呑んだ。だが、イーヴィーはその力を余すことなく発揮し、魔物の姿が完全に崩れると、残りの霧はすべて消え去った。


「これで、危険は去りました。しかし、油断はできません。」


イーヴィーはそう言いながらも、再び周囲に警戒の目を向けた。その言葉を聞き、主人公もその場を警戒しながら進み始める。


イーヴィーは慎重に遺跡の内部を調べながら、主人公を先導して進んでいった。壁一面に古びた模様が描かれ、時折、ひんやりとした空気が漂ってくる。まるでこの場所が、何百年、何千年もの間、閉じ込められていたかのようだ。


「なんか……すごい遺跡っぽいけど、まるで迷路みたいだな……」


ぽつりと呟く主人公に、イーヴィーは淡々と答える。


「本施設の設計目的は不明ですが、構造的には封印を意識した造りです。無断進入を拒む迷彩や封鎖装置が多数存在します。」


「……やっぱり普通の場所じゃないんだな。」


しばらく進むと、行き止まりのような場所にたどり着いた。前方には大きな石造りの扉がそびえている。装飾も派手ではなく、ただ厳重に閉ざされているその扉には、中心部に円形のくぼみがあった。


イーヴィーは無言のまま扉の前に立ち、そのくぼみに手のひらをそっと当てる。指先が淡く光り始めると、くぼみの内部で何かが動き出し、機械的な音がわずかに響いた。


「この扉……開けられるの?」


主人公がそう尋ねた直後、イーヴィーが静かに頷いた。


「この扉は本ユニットの制御コードに反応します。私にしか開けられない構造です。」


その言葉と共に、扉が低く唸るような音を立て、ゆっくりと左右に開いていった。埃を含んだ空気が流れ込み、かすかに鉄と土の匂いが鼻をつく。


主人公は思わず息を呑んだ。その向こうには、まるで別世界のように広がる、古代の部屋が広がっていた。


巨大な柱が並び、天井は高く、中心には不思議な光を放つ球体が浮かんでいる。その光は青白く揺れ、まるで命を持っているかのようだった。


「な……なんだここ……?」


「この部屋は制御中枢の一部。環境情報を解析し、適応するための演算装置が稼働しています。」


「ぜんぜんわからないけど……すごい場所ってことはわかる。」


主人公は慎重に部屋の中へ足を踏み入れた。光に照らされた空間は静まり返り、時間が止まっているかのようだった。


そしてその中心にあった球体の光が、一瞬だけ強く明滅した。


「……!」


主人公が驚いて後ずさると、イーヴィーが前に出て、守るように立つ。


「反応検知。情報収集目的のアクティブセンサーです。攻撃性はありませんが、過去に封じられた記録データがある可能性があります。」


「それって……この場所のことが何かわかるってこと?」


イーヴィーは首を傾げるように視線を向ける。


「推定される確率は62%。希望的観測ではありますが、ここに来た意味はあるでしょう。」


主人公は大きく息を吐いた。わからないことばかりだったが、少なくとも、この少女のようなロボット――イーヴィーを信じるしかなかった。

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