プロローグ
いつものように、ただぼんやりとスマホを見ながら、駅のホームで電車を待っていた。
通勤通学ラッシュの喧騒。知らない人の肩がぶつかっても、誰も謝らない。そんな日常。
無機質なアナウンスが、もうすぐ電車が到着することを告げる。
一人の高校生は、ぼんやりとスマホの画面を眺めていた。
別に待ち遠しいわけでもない電車を、ただ時間が来たら乗るだけ。
そんな、よくある平凡な朝――だったはずだった。
背後から、誰かの手がぐっと背中を押した。
「えっ──!?」
予想だにしない衝撃。
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
だが身体は正直で、バランスを崩した彼は前のめりに倒れ、線路へと落ちていく。
周囲の悲鳴。
反射的に身をひねる暇もなく、足が空を切り、線路へと体が投げ出される。
(やばい――死ぬ)
そう思った瞬間。
頭の中に、やさしく響く声が届いた。
「あなたは……私が、守ります」
それはまるで夢の中で聞いたような、不思議な、けれど懐かしい声だった。
直後、世界が白でもない黒でもない色で表せないそんなもので世界が染まった。
耳をつんざくブレーキ音が、遠くに霞んでいく。
重力も、痛みも、現実感もすべて消えて――ただ、光に包まれた。
……目を覚ました時、彼はもう、別の世界にいた。
古びた石畳、埃っぽい部屋、うすぼんやりと光る一つのカプセルだけがあった