バースデープレゼント
季節もすっかり夏を迎え、七月下旬に入っていた。月夜たちは、海の底に潜っていた。今回は、李の依頼ではなく、宇佐美貞治、宇佐美貞夫の弟からの依頼だった。
「十年前に沈んだ、豪華客船"ペガサス号"から、あるお宝を探してほしい。」
「あるお宝…?」
「価値のある絵画だ。まだ、海の底に沈んでいるらしい。ああ、もちろん見つけ出してくれたら、良い値で買わせていただくよ!それに、ご遺族様たちが、千人ぐらい乗っていたから、価値のある財宝も隠れてるかもしれない。どうだ、損はない話しだろ?」
「あのペガサス号ねぇ~。良いだろう。あんたには、いつも表舞台を任せっきりだから、話にのってやるよ!」
と、いうことで、不運にも沈んでしまった豪華客船を探索ということになった。酸素ボンベを背負い、泳いでいる月夜の横で、小型潜水艦に乗ったフューがついてくる。しばらく二人で潜っていくと、大きな船が海の底に沈んでいた。
「あれだな!」
フューが、月夜に合図を送る。月夜は、隙間から船の中に入っていった。十年もの間沈んでいただけあって、中はボロボロだ。豪華客船だけあって、中は広い。
『早く済まして、帰りたいなぁ…。』
そんなことを考えていた。
二日前。月夜は、一条に話しをつけた。
「出張で、五日間休む!?」
「あ、はい。大切な会議がありまして、その間お休みを…。」
月夜は、遠慮がちに言う。
「君も、よく働くねぇ。いいよ、こちらのことは心配しないでいいから、気を付けて行ってらっしゃい!」
「はい。すみません!」
そそくさと支度をして行き、事務所を出て行こうとする月夜に、神谷が一言。
「気を付けて行っらっしゃい。月夜さん!」
と、満面の笑み。
心配なのは、一条の身じゃない。あの神谷と、二人きりにしていることだ。模倣犯の事件から、一条の傷はすっかり良くなって、松葉杖もいらなくなった。傷が癒えてくれるのは嬉しい。だが、神谷のまさかの"先生をあきらめません"宣言に、危機感を感じていた。自分が、事務所を離れているうちに、下手に手を出さないか、落ち着いてられない。
『まあ、一条さんはちゃんとしているから、心配はいらないと思うけど…。』
主張に行く時の、神谷のニヤリとした顔を思い出して、心配にならないほうがおかしい。
「うぅあぁあ〜!あの女ぁ!!」
一人で悶える。
「何やってるんだお前!仕事に集中しろ!!」
フューの言葉に、冷静を取り戻す。
「わ、分かったよ!」
月夜は、探索を開始するのだった。フロアーは、殺風景なものだ。金持ちが、居たのは最上階のほうだろう、と上に泳いでいき探索をする。一室一室探していくと、金庫があって、それを開けると、アクセサリーがいくつか入っていた。
「おい、フュー!お宝、何個かあるぞ!」
思わぬ収穫に、月夜は腰にぶら下げていた袋に宝石を入れて行く。
『本当に、淡くって逃げたんだな!こんなに収穫があるとは…。下手に、怪盗ごっこして一つの宝物を命がけで手に入れるより、効率が良いかもしれない!』
と、感じたが、お宝を盗みに入るスリルを忘れられるはずもなかった。
「このぐらいにしておくか。酸素が無くなったら、話にならないからな。」
例の絵画を探しに、月夜は更に探索を続けた。あるバーであっただろう部屋に、いくつか額縁が転がっていた。泥埃を手で落としていくと、何点かの絵画がガラクタの中に転がっていた。
「フュー、来てくれ。一人じゃ持ちきれない!」
「了解!」
絵画は、三点ぐらいあった。どれも、売ったら価値のありそうなものだった。そして、フと壁を見ると、小さな額縁が飾られていることに気づく。それを手に取り、埃を払う。そこには、金髪でスタイルの良い女性が描かれていた。
『綺麗な女性の人だ…!リアルに描かれている。この客船に、乗ってた人かな?』
月夜は、それを持ち帰る事にした。不意に、後から気配を感じ、顔を向ける。
「来たか、フュー…!?」
すると、サメが自分に向かって口を開けて迫ってきていて、月夜は身動きが取れずに目を見開いた。
「!!」
間一髪のところ、フューが横からやってきて砲弾をぶつける。サメは、体制を崩しながら動かなくなる。
「…危機一髪だったぜ!」
月夜は、ため息を吐く。
「周りに、サメがウヨウヨ集まって来ている!早く物を回収してここを離れるぞ!」
「おうっ!」
月夜は、フューに絵画を回収してもらい、潜水艦の横につかまって地上へと向かうのだった。海の上には、クルーザーが待ち構えていた。
「ぷはぁあ〜!」
酸素ボンベを外して、月夜は地上に出たことを感じる。
「どう?お宝、いっぱいあった!?」
ジェリーが話しかけてくる。
「おうっ!大量だぁ!!」
月夜は、宝石の入った袋を持ち上げる。一仕事終えて、クルーザーに乗り込んだ月夜とフューは、水分を補給する。
「危なっかしい場所だぜ!?こんなにサメがいたんじゃ、遊び半分でお宝探しする連中もいなかっただろ。お貴族様たちのお宝、沢山だぜ!」
「うわぁ~!」
ジェリーは、袋に入ったお宝を見て、目を輝かせる。その横で、バスクが小型潜水艦をクルーザーの上に、回収していた。
「すげぇだろ!?ヒナコに見てもらったら、報酬ザクザクだ!」
「ほ、本当に、絵以外は、ぼくちんたちのモノになるのぉ!?」
「そういう話だ。貞治は、あのオヤジとは違って傲慢じゃないから心配することはない。時々、本当に兄弟なのかと思うよ。」
お互いの利益のために、と今の貞治との関係は良い感じだ。
「いくつか絵画を持ってきたけど、一体どいつがその物なんだ?」
フューが、回収した泥だらけの絵画を手に取る。
「おそらくは、その一番小さな額縁の女だ!」
月夜は、確信があった。伊達に、宇佐美から教育を受けていたわけじゃない。物の良しあしも、学んでいた。
「え!?こんなに小さな絵が!」
「価値は、大きさじゃないさ。実際、ルーブル美術館で見たモナリザも、かなり小さな額縁だったか、圧倒されたことがある。間違いない!」
フューは、へぇ~と、絵画を眺める。
「じゃあ、俺たちの別荘にもどろうぜ!腹減ったぁ〜!」
フューたちは、月夜の提案に賛成する。
『思ってたいたよりも、仕事が早く終わったな。』
月夜は、濡れた髪をかきあげて、一つため息を吐いた。
※
宇佐美の別荘に戻り、月夜は早速貞治に連絡を入れる。
「そうか、見つけてくれたか!」
「ああ。美人画の絵だろ?危うく、サメに食われるところだったんだぜ!?」
貞治は、ハハッと笑う。
「でも、ありがとう。やはり、君に頼んで正解だった!ずっと、気に病んでいたんだ。実は、そこに描かれている女性は、亡くなった昔の愛人だった人物なんだ。彼女の遺品を探していたんだが、こんなに早く手に入るとは思っていなかったよ!」
「そりゃ良かった!で、他の絵画はどうする?」
「出品してくれて良いよ。君たちの稼ぎにすればいい!」
「いいのか!?」
欲のない彼に、月夜は驚く。
「お互いの利益のために、だろ?兄さんみたいに、がっつくつもりはないよ。絵画の金も、ちゃんと君の口座に入金しておくから、それで良いだろう?」
「ああ。構わないよ。じゃあな!」
月夜は、電話を切る。体力を消耗して、月夜はベッドに思い切り寝っ転がる。
「はぁ…。疲れたぁ〜!」
横になりながら、月夜は一条の事を思い出す。
「…連絡、してみようかな…?」
月夜は、スマホを再び手に取り、一条の番号を出す。ブルルルッと電話が鳴る。何故か、少し緊張した。
「はい。月夜君かい?」
「あ、一条さん!あまり、連絡入れなれなくてすみませんでした!なんとか、こちらの仕事が終わりそうなので、早めに帰れそうです!」
「そう…。でも、こっちのことも心配しないで良いよ。少し、仕事先でのんびり過ごして来ると良い!」
「え?」
「君、少し働きすぎだから、休暇を楽しんで来なさい!」
一条の言葉に、少しムッとして黙り込む。
「どうしたんだい?」
「…その。僕が居なくても、淋しくないんですか…?」
月夜の言葉に、一条は一瞬沈黙した後笑い声を上げる。
「確かに、夜は静かなものだよ。でも、茶々が相手してくれてるから、君だと思って相手してるよ!」
電話越しに、ニャ〜、と声が聞こえる。出張の間、一条が可愛がって世話をしてくれているようだ。
「それに、昼間は神谷君がいるから、一人じゃないし、心配には及ばないよ。」
「それが、一番心配なんですよ!!」
「君たちねぇ。私をなんだと思ってるの?ちょっと、あの事件から二人ともおかしくないかい?」
「あんな大怪我をして、死にかけたんだから…そりゃ、心の心境も変わりますよ…!だって、俺にとって、あなたは大切な…人だから…!」
間を置いて、再び一条が笑い声をあげる。
「…しまったなぁ!君が傍にいたら、抱きついてるところだったよ!」
ニャ〜!と、茶々の声が大きくなる。どうやら、抱きついてるらしい。
「い、一条さん…!」
月夜は、頬を赤くする。
『ああ。へたな心配はいらないみたいだな…。』
一条の言葉に、ホッとする。
「それじゃあ、休暇を満喫してから帰ります!お土産、楽しみにしていてくださいね!」
「分かったよ。楽しんできなさい。」
月夜は、電話を切って、フフフッと嬉しい笑いをしてしまう。
「…抱きついてる…ところ、かぁ〜。」
「大切な人…ねぇ〜。」
不意に、部屋のドアから笑って見ていたフューを見て、月夜は慌てる。
「もう、そういう関係になっちゃってるの〜?いやぁ〜ん!」
「フュー!茶化すなぁ〜!!」
言いながら、恥ずかしくなる。一部始終聞かれていたと思うと、穴があったら入りたい気持ちだ。
「飯の用意ができたぜ。早く来いよ!」
「わ、分かった!」
ベッドから起き上がり、月夜は豪華に並べられてあった料理に感激する。
「うわぁ~!すげぇ美味そう!!」
「バスクが作ったんだぜ?」
「俺は、調理師免許を持っている。」
相変わらずのバスクの履歴に、苦笑いする。
「本当に、何でも出来るんだな…。」
四人は、テーブルを囲む。
「それじゃあ、お宝ゲットに…。」
「カンパーイ!!」
四人は、グラスを鳴らす。
「ん〜。うめぇ!」
バスクの調理の手前に、三人とも満足する。シャンパンも喉を通る。
「いつ、ここを出発するの?」
食べながらジェリーが聞いてくる。
「明日には、ここを発ちたい。早く、ヒナコの所に行って、お宝の価値を確かめたいからな!」
「まあ、確かに…。俺たちの報酬も、気になるところだしな!」
「期待できると思うぜ?!なんと言っても、ペガサス号の遺品なんだからな!」
月夜は、良い感じに酔っている。
「ブラックエンドほどの値段はつかないにせよ、高い報酬は望めそうだな!」
フューも、ほろ酔い気分になっている。
「しばらくの間、賢者の石に付き合ったんだ。あまり、金が底を尽きるまで遊んでいられないからな。」
ナイフとフォークを丁寧に使いながら、バスクが冷静に言う。
「それにしても、ローズクイーンは一体どこにいるんだ?」
「轟警部の話によると、まんまと国外逃亡したらしい。目ぼしい賢者の石情報が、アメリカに入ったと聞いて、FBIのマットたちもそっちに出向くとか言ってた。しばらくは、賢者の石とはオサラバだな。」
月夜は、ニシシッと笑う。
「さあ、今夜は楽しむぜぇ〜!」
「おお〜!」
四人の晩餐は、とても盛り上がった。
※
月夜は、早速ヒナコの元へ行き、宝石や絵画を鑑定してもらうことにした。ヒナコは、虫眼鏡を見ながら、ほ〜っと声をあげる。
「どれも、状態の良い品物だわ!」
月夜は、ヘヘッと笑って見せる。
「ペガサス号のだと言って競売にかければ、億越え間違いないわ!残念なのは、例の美人画が出品出来ないことねぇ。」
「それが、依頼だったからな。それに、良い値で買い取ってくれるって言ってたから、俺は構わないよ。」
「良い仕事してるわねぇ!怪盗ごっこなんか辞めて、いっそうトレジャーハンターにくら替えしたら?」
マジマジと、品物を見ながらヒナコが言う。
「冗談!怪盗稼業も、俺には合ってる。スリルを味わうのを止められるわけないだろ?」
「呆れた!まあ、高価な一品を狙うのも、悪くないわね。こちらも、商売のしようがあるわ!」
月夜は、あることに気づき、辺りを見渡す。
「あれ?そういえば、李は?」
「里帰りよ。お祖父様が、具合いが悪いそうなの。話によると、もう長くないんじゃないかって言ってたわ。李一族とは、交流関係にあるから、今後もご贔屓にしてもらわないとね。」
「そうか…。じゃあ、しばらくはお宝情報も無いのか…。」
「あなたは、二足のわらじを、履いているから心配いらないじゃない!探偵さんの助手も、うまくいってるんでしょ?」
「まあね。じゃあ、そろそろ行くよ!」
五日間だけだというのに、こんなにも長く離れていたのは久しぶりで、早く顔が見たいと、足早に事務所に足を運んだ。
月夜は、ウキウキした気分で荷物を片手に事務所のドアを開けた。
「ただいま戻りましたぁ!一条さ…。」
「きゃー!」
「神谷君…!?」
事務所に入ると、資料室の床に神谷が倒れていて、それをまたぐ形で一条が上に乗っかていた。
「っ…!?」
月夜は、言葉を失う。自然と、力が抜けて荷物が下に落ちる。その音に気づき、二人は入口を見る。
「…ああ。月夜君、今帰ったとこなの?」
一条は、言いながら神谷の手を取り起き上がらせる。
「大丈夫かい、神谷君?」
「は、はい。申し訳ありません!」
言いながら、神谷は横目で月夜を見て笑う。
『こ、この女ぁあ〜!やっぱり、油断も隙もあったもんじゃねぇ!!』
一条は、頭に乗っかっていたファイルを手に取り、テーブルに置く。
「どうしたの、ずっと入口に立ったままで?」
月夜は、そっぽを向く。
「な、なんでもありません!!」
不機嫌な月夜を見て、一条はため息を吐きながら頭に手を置く。
「休暇は、満足したかい?」
「は、はい。まあ…。」
「それなのに、そんな顔してたんじゃ寂しいじゃないか。」
一条は、優しく月夜の頭を撫でる。
「い、一条さん…!」
何故か、恥ずかしくなって下を向く。
「土産話、聞かせてくれないか?楽しんできたかい?」
「は、はい。あ、これ、お土産です!お守りらしいです!なんでも、危険な目にあった時に、身代わりになってくれるらしいですよ!?」
月夜は、変わった形をした木彫りの人形を渡す。
「あ、ありがとう…。」
少し、複雑そうにしていた一条を見て、月夜は事務所の壁に掛けられた車のキーに赤いお守りが飾ってある事に気づく。
『なるほど…。あの女が。二人に同じような物を貰えば、複雑になるはなぁ。それにしても、交通安全のお守りだなんて、甘いぜ!』
月夜は、神谷に向かって、フンッと笑って見せる。神谷は、そっぽを向く。
「他にも、お菓子を買って来ました。食べて下さい!」
「調度、小腹が空いていたところなんだ。ありがとう!」
いつもの一条の笑顔が、久しぶりに見れた。月夜は、嬉しくてにっこり笑う。
「先生。私、コーヒー入れてきます。」
「ああ、ありがとう。」
一条は、キッチンに歩いて行く神谷を見送って、月夜に向き直る。
「改めて。お帰り、月夜君…!」
一条は、月夜を抱きしめる。
「…ただいま…!」
月夜も、背中に手をまわす。やっと、住処に帰ってきたのだと、実感した。陰で聞いていた神谷は、胸に手を当てて拳を握る。
夜になり、一条は月夜にサプライズを用意していた。
「今日は、君の誕生日だろ?」
「あ、そういえば…!」
月夜は、すっかり忘れていた。一条は、キッチンに行って、ある物を用意していた。急に電気を消して、蝋燭がともった小さなケーキを運んできた。
「わぁ〜!」
月夜は、一条が持ってきたケーキを見て感動する。
「二十九歳の誕生日、おめでとう!」
「あ、ありがとうございます…!」
月夜は、自分の誕生日を祝ってもらうのは、久しぶりだった。一夜が生きていた時には、宇佐美に内緒で手作りのケーキをプレゼントしてくれたものだ。
「さあ、蝋燭を消して。」
言われるまま、月夜は少し照れながら、ふう〜っと火を消した。明かりを一条はにっこり笑う。
「他にも、誕生日プレゼントがあるんだ。」
一条は、小さな袋を手渡す。
「開けても?」
「どうぞ。」
袋の中から出てきたのは、プラチナのネックレスだった。ネックレスの先には、三日月の形をしたダイヤのついたアクセサリーだった。
「…綺麗…!」
どんな高価な宝石よりも、月夜にとってはなによりの宝物だと思った。
「人に、プレゼントするのは初めてなんだ。気に入ってくれたかな?」
「すごく!!つけてみてもいいですか?」
「いいよ。どれ、私がつけてあげよう。」
一条は、月夜の後ろに回る。首にかかったそれを見て、月夜は微笑む。
「嬉しい…!」
「今夜は、君の大切な日だ。二人で、特別な日にしよう。なんでも、君の言う通りにするよ!」
「はい!」
二人は、ワインを飲みながら、楽しい夕食を過ごした。
ほろ酔い気分で、食事を終わった二人は、風呂に入っていた。月夜は、一条の背中を洗っていた。
「まさか、一緒に風呂に入りたいとはねぇ。」
一条は、ハハッと笑う。
「いいじゃないですか。一度、温泉に入ってるんですから。」
本当は、そういう理由ではなかった。あの事件から、一条についてしまった身体の傷を確かめてみたかったからだ。一条の背中を洗いながら、あの時にできた数々の傷跡を見て、不安になる。あの血だらけで倒れていた一条を見て、怒りと絶望感を感じた感覚。失ってしまうのではないかという恐怖感。思い出しながら、自然と涙がにじんできていた。
「うっ…。」
突然、手を止めて背中に顔をうずめてきた月夜の様子に気づき、一条が顔を向ける。
「ん…?月夜君?」
「…あなたが、病室で少しも目を開けない時、不安で…。もう、駄目なのかと思った…!!」
一条は、軽く息を吐き、月夜の手に自分の手を重ねる。
「心配かけて、すまなかった。私も、もう命がなくなるのかと、覚悟したよ。」
「もう、あんな無茶なことはしないで!あなたを失ったら、俺…!耐えられない…!!」
月夜は、一条の背中を抱いて前に手を回す。
「…あまり、私の自尊心を試さないほうがいい。君になにをしてしまうか…。」
「そんなもの、望んでいません!今夜は、俺の言う事を聞いてくれるんでしょ?だったら…!」
月夜の硬い意思を感じ取り、一条は月夜のほうを向く。そして、月夜の顔を見る。
「本当に、それでいいのかい?容赦出来なくなるよ?」
月夜は、ゆっくり頷く。
風呂を出て、二人は一条のベッドの中にいた。寝転がった月夜の上に、一条がのぞき込む。
「いいんだね?」
「はい…。」
二人は、手を重ねて熱い口付けを交わす。
「んっ…!ふっ!」
一条の舌が、なぞるように月夜の身体を熱くして、自然と身体をねじらせる。口の中に、煙草の味が広がっていた。
『こんなに、感じたの…初めてだ…!』
少年の頃から、宇佐美に無理矢理犯されていたことがあったそれとは違って、大切な人と交わるのが、こんなに身体をうなされるものなのかと、感じていた。一条の手は、ゆっくりと月夜の身体をなぞっていく。
「あっ…!」
触られた部分を、電流が走ったかのように背中を浮かせる。知らないうちに、月夜の下の部分が硬くなっていく。感じ取ったかのように、一条のそれも硬くなっていた。
「月夜…!」
「あっ!彰さ…ん!!」
一条は、月夜の硬い部分を触り、上下に動かした。
「ああっ!!だ、…だめっ…!!」
月夜は、早くも熱い液を出した。
「ふふっ、感じやすいね。」
いたずらっぽく、一条が笑う。
「だ、だから、ダメだって…!あっ!!」
一条の手は、月夜の後ろの部分を触っていた。指が柔らかい部分をなぶっていく。
「ああっ!」
月夜のそれは、再び硬くなった。
「…もう、限界だ…!入れても良いかい…?」
「あっ、いいっ…!」
一条の硬いものが、グッと入ってきて、お腹を圧迫する。
「あぁあ〜!」
これまでに、感じたことのない快感が襲う。
「月夜っ…!」
一条は、始めはゆっくりと、そして徐々に早く腰を動かしていく。
「はぁっ!!あ、あき…らさっ…!!」
「つ…きや!月夜…!!」
背中のほうまで、強い電流が走る。
「もっ…!ダメッ!!イッちゃ…う!!」
「わ、…たしも…だ!!」
「あぁあっ!ああぁ〜!!」
「ううっ…!!」
二人は、同時に熱い液を出した。
「はぁっ…。はあ〜…!」
二人は、息を荒くして、力が抜けていた。これで、終わりなのかと、月夜は息を吐いた。だが、月夜の中に入っている一条の物が、再び硬く熱くなるのを感じる。
「…えっ?う、うそっ!」
「もう、…止められない!!」
一条は、寝転がっていた月夜の身体を逆さにして自分の上にまたがせる。
「あ、彰さんっ…!?」
一条は、腰を上下に揺らす。
「やあっ…!ああっ!!」
また、月夜のものも硬くなる。そして、自然と腰も左右に揺れてしまう。
「ああっ!彰さん…!!おかしく、なっちゃっ…!!」
「君が…悪いんだよ!ずっと、大切にしようと、我慢してきたのに…!!月夜!!」
「やっ!また、イッちゃ…う…!!」
自分の中に入っている一条の物が、大きくなっていくのを感じる。
「ああっ!や…あぁ~!!」
快感が頂点に達し、腰が速く動く。
「好き…だ!月…夜…!!」
「お、…俺…も!好きっ!!彰さ〜ん!!」
「はあぁあ〜!!」
二人は、同時に限界に達して、熱い液を出した。力尽き、月夜は一瞬気を失って、一条の胸に倒れ込む。
「…月夜?…月夜!」
一条は、軽く月夜の頬を叩く。
「…んっ。う〜ん…?」
月夜は、静かに目を開ける。それを見て、一条はふうっと息を吐く。
「大丈夫かい、月夜?」
「彰さん…。凄すぎ…!」
「そんなに、気持ち良かったかい?」
「ん…。力…入らないよぉ〜…。」
「フフッ、そりゃ良かった。…でも、私もだよ。若い頃のようには、いかないなぁ。」
「ハハッ、若い頃って、まだ三十四歳じゃない。二十歳の時は、今よりもっと凄かったの?」
「こんなもんじゃなかったよぉ!」
二人は、フフフッと笑い合う。
「じゃあ、彰さんがもっと若くて凄かったら、俺は何回意識を失っちゃったのかな?」
月夜は、汗だくになった一条の胸元を愛おしそうに撫でる。一条も、月夜の汗まみれになった背中を撫でる。その触れられた手が気持ち良くて、二人は意識を遠のかせた。
朝になり、神谷が出勤する。
「おはようございます、先生!」
だが、いつもの返事が戻ってこず、辺りを見渡す。すると、一条どころか、月夜の姿も見えない。
「…先生?」
「ニャ〜!ニャアア〜!」
一条の部屋のドアを、茶々がガリガリとかじっている。
「?…先生?まだ、眠っていらっしゃるのかしら…?」
神谷は、試しに軽くドアを叩く。
「先生、もうお時間ですよ?せんせ…。」
言いながらドアを開ける。すると、裸で寝ている二人の姿を見て、口をあんぐりと開ける。
「きゃあ〜!」
ドンッ!というドアを思い切り閉める音と、神谷の声で、二人が目を覚ます。
「…ん〜?」
神谷は、ドアを閉めた後唖然として顔を赤くする。
「なんだ?」
気だるそうに目を開け、二人は顔を見合わせる。
「ああっ!!」
二人は、同時に時計を見て、おかれている状況を把握する。そして、布団を身体に巻きながら、そそくさと神谷の前を通って、風呂場に行く。