十人十色
佐和子はひどく単純な理由で薬を準備した。
一目散に寝たい。惰眠を貪って現実逃避をしたい。
繰り返すオーヴァードーズの理由なんて滑稽なものだ。
死にたがりの年齢でもなく、生き急ぐ訳もなく、佐和子はただ眠りにつきたかったのに、あまりに過剰摂取を繰りかえしひどい頭痛の中で呻いていた。
ソープランドで連勤をするためという単純な理由で部屋での仕事を終えたらそのままシャワーを浴び、一刻前まで見知らぬ男とセックスしていたベッドで仮眠とも思える質の悪い睡眠をとっていた。
昼も夜もない閉鎖的なソープランドで働く佐和子にとって、睡眠が唯一のご褒美であり、人間らしい生活の象徴に思えた。例え手段がイカれていても、佐和子には佐和子を大切にする手段が他にない。客への業務的な喘ぎ声、行為の流れのように、あくまで最短距離を目指して1日を終えるから自暴自棄とも捉えられるが少し違った。これが佐和子なりの自分との接し方だった。これが全てなのだ。
ケミカルな効き方は問答無用の赤、今日の気分は青、閉店したソープランドは黒。
世の中のものを色付けたら、幾重にも色を重ねる自分が妙に汚く思えたからやめた。
「わたしだって、単色でありたかったわ。」