第1話 まるでホラゲだな……
「ゴブリンが、多いッ!!」
無人の教室からこんにちわ。どうも普通の高校生です。
まわりには聞こえないように小声で叫ぶという無駄に器用なことをしているのは、そうでもしないとおかしくなりそうだったからだ。
学校からの脱出を試みて、校舎に足を踏み入れてから約一時間。俺は未だに、屋上のある西校舎の四階から動けていなかった。
うちの学校の校舎は、『口』の上部分を北として、東と西にぴょっこり飛び出た東校舎と西校舎がある。だいたい、『ー口ー』感じの形だ。本校舎と西、東校舎は二階と一階の連絡通路からしか移動できない造りになっている。移動教室の時とか、マジで面倒なんだよなぁ……。
本校舎の中心は中庭。正面玄関は本校舎南にあり、グラウンドもそっちに隣接している。東校舎側は体育館がある感じだ。
校舎は四階建て。要するに俺は、西校舎の二階から本校舎に行き、南校舎の正面玄関から出て、グラウンドに大量にいるわんわんおをぶっ飛ばさないと学校から出れないってことだ。なお、校舎内にはマジで大量のゴブリンがたむろしている模様。
いや本当に、エンカウント率どうなっているんだ? 今現在、西校舎四階の階段から一番近くにある教室に身を潜めているけど、ここまで来るまでにすでにゴブリンを二十~三十は倒しているぞ? レベルは10を超えました。
まるで、学校中の生徒がゴブリンに置き換わってしまったかのよう。いや、それよりも多いかもしれない。ゴブリンハイスクールが開校しちまったってワケか……うん、さっさと廃校にしないとマズそうだ。
それと、もう一つ。気になることがある。
屋上からこの教室までの距離は、そう長くはない。うちの学校は別にマンモス校ってわけでもないからな。校舎もそこまでデカくはない。
それなのに、ここまでたどり着くのに一時間もかかったのだ。道中、ゴブリンを倒していたとはいえ、流石に時間がかかりすぎである。
廊下が長くなっているのか? でも、屋上から校舎を見た時に、大きさは変わっていなかったよな?
俺の気のせい、ってのは流石にないか。本来、一分もかからない距離に一時間もかけていて、それがただの気のせいってのはいくらなんでも鈍感すぎる。
廊下が物理的に長くなっておらず、俺の気のせいでもないとしたら、後考えられる可能性としては……学校内部の空間に、なんらかの異常が起きているってところか。
ホラーゲームとかで、幽霊屋敷に閉じ込められたら明らかに外観よりも広い空間でお化けと追いかけっこさせられたりするだろう? あれと同じことが、学校で起きているんじゃないだろうか。
昔話や神話に登場する『異界』。現世と境界を挟んだ向こう側にある、常識の通用しない異質な世界。今現在、この学校はそういうモノに変わっているのだろう。
学校に閉じ込められて、そこが異界化しちまうって、まんまホラーゲームの設定だよなぁ。違うのは、学校を彷徨っているのは霊でも妖怪でもなく魔物ってところだけ。迷い込んだヤツ絶対殺すマンなところはどっちも一緒である。
そうなると、本校舎にある正面玄関まで行くのに結構な時間がかかりそうだな。それに、そこまでの道中で、どれだけのゴブリンを殺せばいいのやら……。
ゴブリンとの戦闘には何の問題もない。レベルが上がり、スキルも強くなったことで魔法の威力も上昇しており、ゴブリンを【礫牙】一発で倒せるようになった。集団相手でも、【礫牙】を複数個ばら撒くだけで殲滅できる。
しかし、魔法は無限に使えるわけじゃない。使用するたびに、俺の中で魔力が減っているのを感じるのだ。ゲーム風に言えば、MPを消費している。
現在の魔力量は、体感で六割程度。極力、消費魔力の少ない【礫牙】しか使わなかった甲斐もあり、半分以上残っている。だが、楽観視は出来ない。
今後、ゴブリンよりも強い魔物が現れたら? より魔力消費の多い魔法を使う羽目になるだろう。残存魔力で倒しきれるとも限らない。魔力の減少にデメリットがある可能性も否定できない。体力が減ると身体の動きが鈍くなるように、魔力が減ることで何らかの不調をきたすことは十分にあり得る話だ。
幸い、教室のすみっこに隠れながら休憩していると、魔力が僅かながらに回復している感覚がある。何かしらのアイテムがないと回復できないわけじゃないらしい。
つまり、ここからは魔力を使わない戦い方をしないといけないってことだ。
徒手空拳……は、ないな。拳が届く距離まで接近するとかリスクが高すぎる。なにかしらの武器を入手するのが手っ取り早いか。
武器、武器ねぇ。いや、ここ学校だよ? 武器になりそうなもんなんてあるのか? 野球部のバットが限界じゃねぇかな。なお、野球部の部室や体育倉庫は東校舎方面にあるので、取りに行くのは不可能な模様。
後は……あ、そうだ。西校舎の一階に、用務員室があったっけ。あそこなら何か武器になる物があるかもしれない。どうせ、本校舎に行くなら二階か一階まで下りないといけなかったし、丁度いいや。
用務員室の場所は……うん、階段からも近かったはず。これなら、魔物との戦闘は最小限で済みそうだな。
そうと決まればさっそく行動である。さっきまでは魔物を見つけ次第デストロイしていたけど、今からは魔物に見つからないように進むスニーキングミッションだ。
……夜の学校。徘徊する化け物。かくれんぼしながら武器を探す。
「まるでホラゲだな……」
おっと、なんだか背筋が冷たくなったような? ゴーストタイプの魔物もいるんだろうかとか、余計なことを考えてしまう。家庭科室によって塩も用意しようかしら。なお、家庭科室は東校舎にあるため不可能な模様。
月の光に照らされた廊下に出た俺は少し身震いしつつ、足音を立てないようにゆっくりと階段に向かうのだった。
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