ポストマン、ガンナー、気象強行士、ハッカー、オールプロ。
序
遠く離れた母親から来た、娘へ宛てた手紙は、娘にとっては何よりもかけがえのない大切な手紙には間違いない。
しかしプロのポストマンのランク付けで言うなればそれは、Cランクの手紙となる。
公正証書や小切手、直接の現金封入など、とにかくお金に関わる手紙となるとBランクに位が上がる。
そして位の高い者によるやりとりはAランクとなる。
さらに言うとAAAは大統領命令を取り扱う事のできるポストマンで、世界に数人もいない。
そして、位の高い手紙ほど闇市場で高く売れる。
巨大なハッカー集団「オールプロ」が世界中のインターネットを遮断するウイルスをまき散らして以来、
国家間の連絡手段は皮肉にもインターネットから手紙へと余儀なくされた。
と同時に手紙を安全に配達できるよう、郵便屋は銃の扱いや柔術など、ありとあらゆる戦術を叩き込まれることになる。
―――
カロリーバーを一口かじる。とたんに口の中が砂漠のようになっていく。
ほおばっているのはブラックスーツに身を包んだ猫族である。その証拠に被っている帽子からは耳が飛び出ている。
その猫族はとある町の入り口付近で夕日を眺めていた。
そのすぐ後ろには車があり、バンに倒れ込むボロボロの男と、それを抑え込む女性の姿があった。
スーツ姿の女性は咆哮にも似た叫び声でその男につかみかかった。
「そろそろ懲りただろう!AAAのポストマンはこの町にいるのか!?」
すでに殴るところがない所まで殴られた男は「…しらねぇ」とだけ最期の力を振り絞りぼそっとつぶやいた。
何年も一緒に仕事しているとその女性の気の短さがよくわかる。
案の定その女性は銃を取り出し男にためらいなく突きつけた。
いつもの事なので猫族は背中を向け、相変わらず沈みゆく夕日を眺めていた。
「もうこれ以上は無理ね」
1発の銃声が周囲に手短に響き渡った。猫族の男は振り返りもせずカロリーバーの残りを食べていた。
女性は息絶えた男をバンから払いのけ、銃をホルダーに収め、右手を大きく天に向かって指差し叫んだ。
「雨!」
まもなくポツリと猫族の帽子に冷たいものが弾けた。次第に雨音は大きくなり、本格的に雨が降り出した。
(なぜよりにもよって雨なんだ?)即、疑問が頭を駆け抜けたが、気性の荒い今の彼女には言うことははばかられた。
彼女は銃の腕前はもとより、世界に数人しかいない「気象強行士」であった。よって周辺の天気は彼女の言われるがまま、その様相を変えてゆく。
「ネコパンチ、町に行くわよさっさと乗りなさい!」
ネコパンチと呼ばれた男は小走りで車に乗り込むと、町の入り口へと消えてゆく。
居た場所には殺された男がただ一人、雨に打たれていた。
荒廃した町を一台の車がトロトロと進んでいた。さきほどの女性とネコパンチが乗り込んだ車とは全く違う車種だ。
やや卵型のその車は雨に打たれながら相変わらず徐行運転をやめなかった。
運転手は思わずつぶやいた。
「ほとんど店、しまってるなぁ」
と、明かりがかすかに見える建物を見つけ
「どうか食べ物屋でありますように」と運転手はつぶやいた。
狙いは的中し、ダイニングバーの古い看板を視認すると、車を止め何やら袋を抱え、小走りで店に駆け込んだ。
カウンター数席とテーブル席が4、5席ほど。テーブル席の1つには先客が陣取って陽気に酒を酌み交わしているようだ。
店に入った青年はそれを「いちべつ」し、カウンターに腰を下ろした。
「いらっしゃい」の一言も無かった、カウンター越しのふくよかな女性店員は青年を見定めるようにジロジロ視線を動かし
「ラム酒?ビール?」と、初めて青年に声をかける。青年は慌てたような素振りで
「い、いや。何か温まる食べ物を下さい」と弱腰で店員に言い返した。
店員はハーッとため息をつきながら
「あのねぇ酒じゃないと儲からないんだよ」と食ってかかった。
「とにかく腹ペコなんです。寒いし…どうかおねがいします」
「酒は無しってこと?」いぶかしげに女性店員が言い放った。
青年は震えだし、ズレ下がった袋を持ち直しながらテーブルを両手で軽く叩いた。
「そりゃねぇ!僕だってビールの1杯も飲みたいですよ!でも飲めないんです!それを分かって下さい」
そういうと青年は顔をカウンターに突っ伏した。青年が相当弱っている事態を察すると
「分かった分かった、シチューでいいね?」と諭すように優しく呼びかけた。
青年からの返事はない。目もつむっている。寝てしまったのかと青年を揺さぶろうとした、その時だ。
青年の帽子に身分証がくっ付いており、自然に視線がそちらの方に向かう。
まず名前。テッド・ロスと書かれている。そして名前の下を見て店員は動揺を隠せなかった。
そこには「ポストマンAAA」と書かれていたのだ。
狼狽する店員に、テッドは目をつむったまま応えた。
「僕は悪党に狙われっぱなしだ。たとえあんたが銃を取り出しても一瞬で消すよ」
「わ、わかったよシチュー待ってて」慌てて厨房に駆け込む。
と、その時だ。ドアが激しく開く音でテッドは目を開けた。
ドアの前には2人のいかにもザ・悪党という感じでテッドにゆっくり歩み寄っている。
「店の前にポストマンの車が横付けされてるかと思えば、案の定いるじゃねぇか」
「しかもAAAとはついてるぜ。ブツを早速頂こうか、あぁん?」
テッドはピクリともせず一言つぶやいた。
「当たると痛いよ?」
刹那。
発射2発銃声1。
何が起きたのかわからないような表情で悪党は仰向けで倒れた。
ホルスターに銃を収めた主人公、テッドはやれやれと言わんばかりに、またカウンター席に戻っていった。
「悪党はせいぜい殺しは4、5人くらいだろう。でも僕は一万以上も退治してきた。経験と格が違うんだよ。それがプロなんだ」
つぶやきながらカウンターに座り直す。
シチューを運んできた女性店員はシチューを両手にシチューを持ったまま、その場に立ち尽くしていた。
「お!食事できた?早く頂戴頂戴」カウンターに大盛のシチューが置かれ、テッドは至福の表情でかっくらう。
恰幅のよい定員は、おそるおそるテッドに語りかけた。
「大統領からの手紙なのかい…?」
テッドはスプーンを口にくわえながら
「うーん…内緒」残りのシチューを食べ終えるとテッドは店を出て車に乗りかけたが、嫌な予感がしてドアノブに手を掛けたままピクリともしない。
10秒はたっただろうか。実際はもっと短かったろう。
テッドに向けられた弾丸が飛んできた。すんでにステップで下がったものの、車の影に隠れたテッドは何年かぶりの畏怖を感じた。
「ただもんじゃない。」雨降る中、恐る恐る向こう側をのぞいた。姿は雨のせいもあって全く見えない。
「誰だ…久しぶりに手練れな強盗だなぁ」そうこう考えてるうちに2発目が飛んできた。その弾丸は頭を命中した。
焦ったテッドだったが帽子の上を貫通しただけで、少し違えば脳みそが吹っ飛ぶ1発だ。
理不尽なもどかしさを感じている時、「吹雪!」という女性の声が町に響いた。たちまち町には吹雪が吹き荒れる。
「気象強行士だな?」とつぶやいた。「でも拳銃打ちは別の奴だ」
このままずっと車の裏に隠れるようにはいかない。
「しかし敵を見つけないと…」
悩んでいると、道の横から信じらない光景が現れた。
バイクなのだが、サイドカーの部分が改良してピアノを取りつけ、引き続けている2人組がこちらにやってきたのだ
テッドは思わず叫んだ
「変態だーっ!」
「手紙は頂くぜぇ!」
運転手はショットガンを取り出し、片手でリロードし郵便屋の車に何発かぶちかました。
ピアノ弾きは一心不乱にピアノをはじいている。
変態強盗2組がこちらに近づいてくるとピアノの音量が大きくなり頭に激痛が走った。
「なんだこりゃあ!」
テッドはたまらず耳をふさいだ。しかし敵は見えている。テッドが銃を放つと、ピアノ弾きはあっさりと雪の地面に倒れ絶命した。
しかし至近距離からやってくるショットガン男はたまらない。「貴様相棒を殺して…ゆるさねえ!」
テッドが銃を充填してる時、ショットガン男は車からRPGを取り出した。
「死ねぇっ!」男は興奮のあまり感覚を開けず発射した。テッドは即対応し、1発発射。
RPGはテッドの一発で破壊されRPGを撃った男は相当焦ったのだろう、そのまま棒立ちで立ちすくんでいる。
当然テッドのヘッドショットで男は倒された。
強盗団は手紙の取り合いをするので、強盗団同士の争いが起こることは珍しくない。
しかし最初に現れた気象強行士と銃使いは争いもせず、どこかに行ってしまったようだ。どうもテッドの脳裏にはそのことで
眉間が痛くなるほどだった。気象を変えて有利な戦いをする2人組といったところだろうか。
「長居は禁物だな」
誰に言う訳でもなくポツリとつぶやき、自家用車でとりあえず1泊できる店を探しに行くのだった。
その姿もまた、吹雪ですぐに見えなくなった。
ネコパンチは車のワイパーが左右するのをしばらくぼーっと眺めていた。
ワイパーがどんなに往復しても、降り続ける雪のせいで視界は白く染まってゆく。
「ねぇヨーコ」
ヨーコと呼ばれた女性は明らかにイラついた表情でタバコをふかしながらハンドルを握っている。
「ねぇってば!ヨーコ」
「1回呼んで無視したら、口を閉じてろってルール忘れたの?」
「そうだけどさ、あなたの能力でその、天気変えられないのかな…って」
ヨーコは新しいタバコに火を付けながらだるそうに答えた。
「さっきの連発でエネルギー不足。以上」
ネコパンチは納得したかのように帽子を深々とかぶり、眠りに入ろうとしたその瞬間、
彼のお腹にヨーコが箱をポンと乗せた。なにかと思い、つかむと。
彼女愛用のタバコだった。中には2本、タバコが入っている。
「これが無くなくなる前に店を見つけられなかったら、あんた外出て探しなさいよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!この吹雪でポストマンも外には出れないはずだから落ち着こうよ、ね?」
彼女は無言で走り続けた。
ネコパンチも無言になり、車内は静寂につつまれた。
気を紛らわす為にラジオを付けようとも考えたが、とてもそんな気分じゃなかった。
――――
吹雪がやむ気配はなかった。
どんなにワイパーを最大出力でかけても、雪が張り付いて視界は狭まり、徐行運転で行くほか道はない。
車内暖房も焼け石に水状態で、おまけに電気量メーターも「E」に近づきつつあった。
「もう色々限界だよぉ~!」
その時である。店の明かりがぼうっとではあるが、左手にかすかに付いている。
「宿屋でありますように宿屋でありますように」ポストマンはもう神に委ねるしかなかった。
幸い神はポストマンを見放さなかったようだ。
よろめきながらポストマンが扉を開けると、テーブルとイスに3人の酔っ払いが大声を上げ酒を飲んでいた。
2人組と、1人。
周囲の人数を数えるのはAAAの癖でもある。カウンターには背筋をピンと正した老婆がおり、
「大丈夫?こんな吹雪の中で…」とタオルを渡してくれた。声も大きく、10歳以上若く見えた。
「さすがにこの吹雪で泊まり客がいなくてねぇ」
「そうですか。僕は吹雪が止むまでお世話になります」
老婆はにっこりとした。
「あ、あと自動車用の電気充電機はあります?」
「ありますよ。」
助かった…。どんなに面倒でも小さいズダ袋は絶対に手からは離さなかった。
「じゃあこの台帳に指紋をお願いしますね。」
「はいはい」
指紋を付けることで、暗号化されカードに情報が入り、そのカードでドアが開く仕組みになっている。
こんな小さな宿屋でも導入されているんだなぁと思っていると、老婆が帽子に付けた身分証を見て
「テッド・ロスって言うんだねぇあなた。AAAなんて観たことないよ。うちに来るのはCくらいで…」
と、途端に3人の男たちが一斉に自分の方へと視線が集まる。
帽子に身分証を付けるのは郵便屋絶対のルールなのだ。
「AAAなんか、あんた」
2人組のうちの一人が立ち上がった。合図のように皆立ち上がる。
「大統領命令の書類だろ…売れば10年は酒飲めるぜ」
「あんたたち…」老婆の声がゴングであるかのように4人が一斉に銃を取り出す。
当然ポストマンの初動がケタ違いに早い。一番近くの1人をヘッドショットし、その殺した男を盾に
した。相手が弾が切れるまでその盾を使い、1人は弾が無くなり、もう一人はジャミングしたところで
郵便屋が2人をヘッドショットし、酔っ払いの掃討はあっけなく幕を閉じた。
所詮相手は酔っ払いである。郵便屋はゆっくりとガンホルダーに銃をしまった。
老婆が身動きできないほど驚いていると、ポストマンはにっこりしながら言った。
「こいつら全員外に埋めておきますね」
――――――
よろめきながら2人組の客が入ってくる。
カウンターには老婆以外、誰もいない。
背筋をピンと正しており、10歳以上若く見えた。
老婆は微笑みながら言った。
「大丈夫?こんな吹雪の中で…」とタオルを渡してくれた。
「いらない」女性客は跳ねのけた。片頭痛を呼び寄せるでかい声にうんざりしてる様子を隠そうともしなかった。
「僕はいります、ありがとう」カウンターギリギリのもう一人は、小さすぎて顔も見えなかった。
「自動車用充電器とタバコある?」
「ありますよ。タバコは1種類でショートとロングしかありませんが」
チッ。舌打ちしたが、無いよりは断然ましである。
指紋認証をすませ、手早くカードとタバコをもらうと2階へと上がっていった。
と、小さい少年が床の染みに気づいたが、とにかく眠りたかったので無視をした。
「早く風呂風呂」
女性はフラフラしながら、2階の奥へと消えていった。
風呂の更衣室に散らばった下着の奥の浴室で女性が何やらぶつぶつとつぶやいていた。
この宿には個室ごとに風呂はなく、しかたがないので共同浴場の女湯で我慢をした。
「大統領からの支援物資要求なら1億ドル、建設費に湯水のごとく使う方針なら1.6億、戦争なら…ふふ、3億ドル!夢が膨らむわぁ!」減ったタバコをライター代わりに、新しいタバコに火をつける。
「しばらくはバカンスで息抜きできるわね」
フゥーッと出した煙は、すぐに真上の清浄機に消えていった。
そろそろ体も十分温まったので、浴室を出ようとしたその時。
がらりと扉を開け男がよろめきながら入ってきたではないか。
手には薄汚れた袋を持っている。
「ぎゃあ」女は再び湯に浸かってどなりまわした。
「あんたねぇ!女の暖簾も更衣室の下着も見なかったの?」
「あ…あぁ?そうだったけすみません、もう視界がクラクラしてて…」
湯気で視界不明瞭であっても、その男についてる無数の切り傷、縫ったあと等の跡が無数にあるのを見て
「あなた…何者?」と問いかける。
が、すでに男は消えていた。浴室の女はイライラしながらタバコの火をお湯に突き刺して消した
テッドは風呂も終え、銃の掃除をしてから早々と眠りについた。仕様の枕は横に置き、首にひもを巻き付けてから
古びれたポーチ袋をまくらの下に入れるのが日課だった。さすがに安い宿だけあってベッドが固かったが、そんなことも忘れるくらいのスピードで入眠するのであった。手には愛用のスミス&ウェッソンM66改造型を持ちながら。
頭にICチップを入れられる夢は散々見てきた。麻酔でちっとも痛くはないのだが、やけに眩しいライト。のぞく医師。
テッドはそんなICチップを3枚も入れられたのである。忘れたくても忘れられない、異質な空間、その光景…。
犬は主人の足音で主人かどうか判別できるという。
ネコパンチは自分のスーツにドライヤーをかけながら聞く、ヨーコの足音にうんざりしていた。
ドアが開く。
「おいネコ!風呂入ったか?そこで傷だらけの男を見ただろう!」
ネコパンチはため息を漏らしながら言った。
「ネコは風呂が嫌いだにゃ~」
「この役立たず!」
言い合いに飽き飽きしている猫族の子はそのまま会話を受け流してドライヤーをかける。
ヨーコは窓を覗き込んだ。雪はつもり、止む気配もない。
「あの男…きっと修羅場をくぐってきたに違いない」ポツリと言うとベッドに入り、3秒で寝息を立てた。
「そんな事なら僕も風呂入っとけばよかったにゃあ」服を掛けるとネコパンチもベットに潜り込み、1秒で寝息を立てた。
ほどなく宿屋の女将がやってきて、部屋の明かりを消してくれたのだった。
よろめきながらポストマンが扉を開けると、テーブルとイスに3人の酔っ払いが大声を上げ酒を飲んでいた。
2人組と、1人。
周囲の人数を数えるのはAAAの癖でもある。カウンターには背筋をピンと正した老婆がおり、
「大丈夫?こんな吹雪の中で…」とタオルを渡してくれた。声も大きく、10歳以上若く見えた。
「さすがにこの吹雪で泊まり客がいなくてねぇ」
「そうですか。僕は吹雪が止むまでお世話になります」
老婆はにっこりとした。
「あ、あと自動車用の電気充電機はあります?」
「ありますよ。」
助かった…。どんなに面倒でも小さいズダ袋は絶対に手からは離さなかった。
「じゃあこの台帳に指紋をお願いしますね。」
「はいはい」
指紋を付けることで、暗号化されカードに情報が入り、そのカードでドアが開く仕組みになっている。
こんな小さな宿屋でも導入されているんだなぁと思っていると、老婆が帽子に付けた身分証を見て
「テッド・ロスって言うんだねぇあなた。AAAなんて観たことないよ。うちに来るのはCくらいで…」
と、途端に3人の男たちが一斉に自分の方へと視線が集まる。
帽子に身分証を付けるのは郵便屋絶対のルールなのだ。
「AAAなんか、あんた」
2人組のうちの一人が立ち上がった。合図のように皆立ち上がる。
「大統領命令の書類だろ…売れば10年は酒飲めるぜ」
「あんたたち…」老婆の声がゴングであるかのように4人が一斉に銃を取り出す。
当然ポストマンの初動がケタ違いに早い。一番近くの1人をヘッドショットし、その殺した男を盾に
した。相手が弾が切れるまでその盾を使い、1人は弾が無くなり、もう一人はジャミングしたところで
郵便屋が2人をヘッドショットし、酔っ払いの掃討はあっけなく幕を閉じた。
所詮相手は酔っ払いである。郵便屋はゆっくりとガンホルダーに銃をしまった。
老婆が身動きできないほど驚いていると、ポストマンはにっこりしながら言った。
「こいつら全員外に埋めておきますね」
よろめきながら2人組の客が入ってくる。
カウンターには老婆以外、誰もいない。
背筋をピンと正しており、10歳以上若く見えた。
老婆は微笑みながら言った。
「大丈夫?こんな吹雪の中で…」とタオルを渡してくれた。
「いらない」女性客は跳ねのけた。片頭痛を呼び寄せるでかい声にうんざりしてる様子を隠そうともしなかった。
「僕はいります、ありがとう」カウンターギリギリのもう一人は、小さすぎて顔も見えなかった。
「自動車用充電器とタバコある?」
「ありますよ。タバコは1種類でショートとロングしかありませんが」
チッ。舌打ちしたが、無いよりは断然ましである。
指紋認証をすませ、手早くカードとタバコをもらうと2階へと上がっていった。
と、小さい少年が床の染みに気づいたが、とにかく眠りたかったので無視をした。
「早く風呂風呂」
女性と少年はフラフラしながら、2階の奥へと消えていった。
風呂の更衣室に散らばった下着の奥の浴室で女性が何やらぶつぶつとつぶやいていた。
この宿には個室ごとに風呂はなく、しかたがないので共同浴場の女湯で我慢をした。
「大統領からの支援物資要求なら1億ドル、建設費に湯水のごとく使う方針なら1.6億、戦争なら…ふふ、3億ドル!夢が膨らむわぁ!」減ったタバコをライター代わりに、新しいタバコに火をつける。
「しばらくはバカンスで息抜きできるわね」
フゥーッと出した煙は、すぐに真上の清浄機に消えていった。
そろそろ体も十分温まったので、浴室を出ようとしたその時。
がらりと扉を開け男がよろめきながら入ってきたではないか。
手には薄汚れた袋を持っている。
「ぎゃあ」女は再び湯に浸かってどなりまわした。
「あんたねぇ!女の暖簾も更衣室の下着も見なかったの?」
「あ…あぁ?そうだったけすみません、もう視界がクラクラしてて…」
湯気で視界不明瞭であっても、その男についてる無数の切り傷、縫ったあと等の跡が無数にあるのを見て
「あなた…何者?」と問いかける。
が、すでに男は消えていた。浴室の女はイライラしながらタバコの火をお湯に突き刺して消した。
―――
テッドは風呂も終え、銃の掃除をしてから早々と眠りについた。仕様の枕は横に置き、首にひもを巻き付けてから古びれたポーチ袋をまくらの下に置くのが日課だった。手紙の入ったこのポーチは、頑丈でナイフごときではつらぬけないどころか銃弾の弾も貫通しない強靭なもので、水も通さず防水性もあるため字が滲まないすごいポーチなのであった。
さすがに安い宿だけあってベッドが固かったが、そんなことも忘れるくらいのスピードで入眠するのであった。手には愛用のスミス&ウェッソンM66改造型を持ちながら。
頭にICチップを入れられる夢は散々見てきた。麻酔でちっとも痛くはないのだが、やけに眩しいライト。のぞく医師。
テッドはそんなICチップを3枚も入れられたのである。忘れたくても忘れられない、異質な空間、その光景…。
犬は主人の足音で主人かどうか判別できるという。
ネコパンチは自分のスーツにドライヤーをかけながら聞く、ヨーコの足音にうんざりしていた。
ドアが開く。
「おいネコ!風呂入ったか?そこで傷だらけの男を見ただろう!」
ネコパンチはため息を漏らしながら言った。
「ネコは風呂が嫌いだにゃ~」
「この役立たず!」
言い合いに飽き飽きしている猫族の子はそのまま会話を受け流してパンツにドライヤーをかける。
ヨーコは窓を覗き込んだ。雪はつもり、止む気配もない。
「あの男…きっと修羅場をくぐってきたに違いない」ポツリと言うとベッドに入り、3秒で寝息を立てた。
「そんな事なら僕も風呂入っとけばよかったにゃあ」服を掛けるとネコパンチもベットに潜り込み、1秒で寝息を立てた。
ほどなく宿屋の女将がやってきて、部屋の明かりを消してくれたのだった。
―――
「朝食もありますよ…」
寝ていたテッドの耳元でそう女将にささやかれ握っていた銃を反射的に隠し、思わず身を起こし「はいっ⁉」と叫んでしまった。
食べようか迷ったが、次はいつまともな食事にありつけるのかどうか分からない旅路である。
「分かりました」というと、ふくよかな宿屋の婦人はニッコリと微笑んで部屋を出て行った。
もう朝なのかと思い、カーテンを開け窓越しに外を眺めると、さいわいな事に雪は止んでいたが昨日の分の雪がまだたっぷり積もっている。
すぐ出発できるよう制服を着ていこうとも考えたが、まぁ今日くらいはゆっくり食べようかと、ワイシャツとジーンズ姿で行くことに決めた。
ただし当然手紙の入った袋は背負い、銃はジーンズの後ろに差した。
「悪目立ちするかなぁ~」はねた前髪を鏡で直しながら、そそくさと部屋を出ようした瞬間、
「あードア用のカードも持ってなきゃな」寝ぼけなまこでカードを取ると階段を駆け下りる。
テーブルには2人の先客がいた。
一人は猫族で、魚料理を一心不乱に食べている。
もう一人は小食なのか肘をつきながら、いぶかしげに自分を睨んでいた。
「ミートボール沢山作ったからいっぱい食べてねぇ」
宿主は元気に次々と食事を持ってきた。テーブルに目をやると、もう沢山の料理がすでに沢山並んでいる。
好きな物を食べれるバイキング形式は悪くない。テッドは自分の皿に肉料理だけを山盛りに積み上げて、空いているテーブルに腰を下ろした。
昨日はシチューを少し食べただけだったので、肉に舌鼓をうっていると、もう一つのテーブルにいた女性が皿を持ってツカツカと足早にこちらにやってきて
テッドの向かいに座った。皿を見るとサラダがのっている。食欲がないか、ベジタリアンなんだろう。
黒髪に黒スーツの女性はサラダを食べるわけでもなく、ただ黙っていた。いやな空気感を切り裂こうと
「…なにか?」
とテッドは腫れ物に触るように尋ねた。
「はなみ離さずもっているその袋、よっぽど大事なものがはいってるんでしょうね?」
女性が初めて口にしたその瞬間、テッドは悪党を1万人以上殺してきたカンでもって、手紙狙いの悪党だと直感した。
喉につまった肉料理を水で流し込み、
「だったら?」
「昨日のお風呂の件、しってるでしょう?」
「いやあれは別に見たとかそうゆうわけでは…」
「そんな事どうでもいいの」
女性はサラダに埋まってるパスタを巻きながら話を続けた。
「あんた、体中傷だらけだったじゃない。どうしても…」
「ヨーコ!」
会話を割り込むように猫族がテクテク寄ってきた。
「外のマイカーの様子を見てくるけどいいかにゃ?」
パスタを巻く手が止まる。
「あぁそぅいってらっしゃい」
魚料理をたっぷり摂った猫は、帽子を直しながらドアを開け外へと消えていった。
宿屋から外へと出たネコパンチであったが、あまりの寒さに
「ヨーコにコートを買ってもらわないとにゃあ…」
と思わずつぶやいた。周辺に人影はいない。雪は最低でも10センチはあるだろう。
「マイカーどうなってんだにゃ?」
周囲を見渡すと、店の入り口に雪にまみれてる中、足だけが見えている事を発見した。
「なっ…なんにゃこれ⁉」
ネコパンチは足の見えている周辺を手で掘ってみると、男の死体が現れたのである。
「おかしい…これ絶対おかしい」
猫はまたキョロキョロと見渡し、横付けされているマイカー以外の車1台を発見し、
車の横をしもやけした手でかきわけてみると、赤い「〒」マークが現れ体が固まった。
慌てて銃を2丁取り出し、雪のせいでおぼつかない足取りでも何とか走りながら宿屋のドアを蹴り上げた。
「そいつがAAAの郵便屋だにゃあ‼‼」
瞬間!テッドはテーブルをヨーコの側に跳ね上げた。仰向けで倒れたヨーコをうつ伏せにし、後ろ手に手錠をかけた。
「女性は殺せない体なんだ、ごめんね」ヨーコは屈辱めいた顔でテッドを見た。
刹那、弾丸の応酬がテッドを攻め、その弾丸は何か所かテッドの体を貫通した。
「なんなんだあいつ…」
「あいつは世界で数人しかいないガンマンよ…手錠を外したら止めるよう呼び掛けても…」
すばやくテーブルから姿をだし全弾6発を使う。
「なっ…」
両足に2発命中。ネコパンチは立っていられなくなり、そのまま仰向けに倒れた。AAAであるテッドもまた、
修羅場をいくつもくぐり抜けてきた人間である。それだけにこの被弾は恥ずかしい。
厨房にいた宿屋の婦人が料理を運び戻ると、この凄惨な状況に思わず持ってきた皿を落としてしまった。
「どうしたっていうの⁉」
テッドは青ざめた顔で
「医者を…呼んでくれませんか?」と言うと吐血した。
銀のトレーにピンセットで銃弾を捨て置く。カランと音を立てた4つ目の銃弾。
「これで最後じゃな。あとは弾が貫通しておる。縫っておくからね」
医者は達成感と安堵感からくる溜息をついた。テッドも
「麻酔万歳だね」と落ち着いた様子でつぶやいた。
郵便屋は上半身裸でも手紙はちゃんと肩に掛けてある。
「こっちも治すんだにゃあ!」
猫族のガンマンは騒ぎ立てたが、
「君には自然治癒効果があるから安心しなさい。それに」
医者は眼鏡を上げながら
「君の食らった弾はホローポイント弾だから摘出なんてとてもとても」
ネコパンチの横にいた女性は蔑んだ目で睨みながら
「あぁん?ホローポイント弾だぁ?このド外道が!」
そう吐き捨てると早々に部屋から出て行った。
ホローポイント弾とは、体内に入ると金属片がバラつき、摘出が極めて困難な
非人道的と言ってもよい弾のことだ。テッドはつぶやいた
「仕方ないんだ…目的の為なら手段は選ばない。僕の体を見てみればきっとその意味がわかるさ」
座りながらネコパンチは何も言わなかった。テッドはさらに続けて
「だから…僕を追い回すのは辞めといた方がいいよ。君にどうこう出来るレベルの手紙じゃないんだから」
諭されてもネコパンチは何も言わなかった。複雑な思いが交錯してのダンマリなのであろう。
宿屋の婦人がやってきて
「はいはいネコちゃんはまだ立てないからベッドに戻りましょうね~」
婦人に抱えられても何ら抵抗もなく、ネコパンチはそのまま連れていかれた。
「なぜかはわからんが、猫族は数日で自然治癒による回復能力が備わってるんじゃ」
医者も作業を終え、静かに去っていった。
ほどなく向こうの部屋から
「晴天‼」という女性の狂気じみた声が響いてきた。
テッドはパズルが完成したかのように小さくうなずいた。
「気象強行士が空を荒らしてる間に猫が相手をやっつける…ペアの強盗団ってわけだ」
テッドは全身麻酔を受けたので、しばらくは起き上がる事ができないでいた。
ヨーコが晴天にしたため、雪はほとんど溶けてなくなっていた。これで車も動くだろう。窓を閉めてから
その女性は怒りに震えるように、ベッドで寝そべっているネコパンチを見て吐き捨てるように言った。
「郵便屋は明日にでも車に乗って宿を去るだろう。一方私らはお前の自然治癒を待たないと宿からは離れられない」
猫族は慌てて
「あいつはターゲットとしては高すぎるんだにゃあ。あきらめた方が…」
さえぎるようにヨーコは叫んだ
「私が欲しいのはあの郵便屋じゃなくて、持ってる手紙なの分かる?手紙さえ売れればこの稼業もやめるわ」
飽くまでヨーコは手紙をあきらめていない様子だったので、ネコパンチはやれやれといったていで枕に顔を沈めた。
「あんなに鉛玉打ち込んだのに死ななかったってレアケースなんだにゃ」
「あんたの仕事っぷりにケチつけてるわけじゃない。問題ないわ。でもあいつの信念は伊達なんかじゃない」
ヨーコは続けた
「あの郵便屋は色んな奴に狙われてる。これからもそう。だから他との争いの場で疲れているところを手紙だけかすめとるっていうのは」
「ねぇさん、あいかわらず姑息だにゃあ」
「…両足切断してやろうか?」
再び猫族は枕に顔をうずめた。
「あいつを倒せる自信を失ってしまったんだにゃあ!」
「私も銃はもってるけどネコパンチや郵便屋ほどの腕前はない…。」
ヨーコはソファに体を深々と沈めた。
「だから妥協案なのよ、この選択は…ん?」
窓から車の音が聞こえてきた。
しまった!ヨーコはネコパンチを抱きかかえて急いで自分らの車に降り、猛スピードで彼の後をつけるのだった。
トンネルを走行中は大雪と無縁になるので、ライトをハイビームにして車の速度を上げていった。
対向車線側には車が来る様子はなかった。
「このまま一気にメガロポリスに行ってゆっくりしたいなぁ…」
正直、雪続きでうんざりしているのでモチベーションは下がっていた。
宿にいた黒服の強盗2人組がまだ追っかけてきてる事が、郵便屋を一番憂鬱にさせた。
でないといきなり大雪になんて、なるはずがないじゃないか。
へこんでいると、遠くから白い出口が見えた。やっとトンネル通過だ。
しかしトンネルをでてすぐ、
「パパン!」と車のタイヤがパンクする音が聞こえた。
「何だ何だ、なにがあった?」
外に出てみると雪、まったくもう」
郵便屋がタイヤに触れていると、雪にまみれたマキビシチェーンが敷いてあるのを発見し、
「誰の嫌がらせなんだ‼」
郵便屋はそう叫ぶと同時に
「タァーン‼」
と1発の銃声が山に轟いた。郵便屋はうつ伏せに倒れる。スナイパーライフルの一撃によるものなのは確かだった。
のっそりと近づいて来る紙袋野郎は郵便屋を見て、ぼそっと呟いた。
「血ガなイ…」
その言葉を合図にうつ伏せになっていたテッドは俊敏に仰向けになり、スミス&ウェッソンのリボルバーで6発全弾を心臓に撃ちつけた。
紙袋野郎は後ろに下がりながら思わず転倒した。テッドの肩には血が滲んでいたが雪に染みる程度の血ではなかった。
テッドは紙袋を外そうと考えたが、もう死んでる事だし、何より怖いし思いとどまった。スピードローダーで素早く弾丸を6発装填する。
対抗から原付に乗った青年をみつけ、両手で合図をすると原付は徐行したのち止まってくれた。
テッドは札束を出し、言った。
「その原付、2千ドルでうってくれない?」
トンネルを走行中目の前に、かすかに光を放つトンネル出口が見えてきた。
「やっとか…」
吸っていたタバコを窓から投げ捨て眺めると、トンネルの出口に郵便屋の車があり、
その横に巨体な男が倒れていた。
あきらかに異変を感じた二人は、車を降り近くまでにじり寄っていく。
「あーっマキビシチェーンだにゃ」
雪に埋もれたチェーンを引っ張り出す。
「郵便屋は、これをモロに踏んだわけね」
でもこの紙袋男は一体…。そう思って紙袋を取ろうと手が触れた瞬間。
紙袋マンはゆっくりうずくまり、ぬめりと立ち上がった。
「こいつ、まだ死んでないぞ‼」
ドカドカドカドカッ‼
ネコパンチはすばやく2丁拳銃を紙袋に向けて40発の弾丸を打ち込んだ。
郵便屋が心臓を、ネコパンチがヘッドショットを食らわせた紙袋男はさすがに咆哮を上げて
雪の中に沈んだ。
「よし。どんな手段を使っても郵便屋はメガロポリスに向かうだろう。私らもすぐ後を追うのよ‼」
「にゃーっす」
ネコパンチは弾倉を入れ替えながら車に入ってゆく。ヨーコは新しいタバコを口にして火をつけた。
「行くわよ!」
「はいにゃ!」
2人がトンネルを抜けるとメガロポリスがやっと視界に入ってきた。
「晴天‼」女性が腕を上げながら叫ぶと、いつもの暑い気温に戻っていった。
「もうエネルギー不足だからね。風呂にでも入らないと」
「じゃあ僕と一緒にはいるかにゃ?」
顔面蒼白になったヨーコは吐き捨てるように言った
「きんもちわりぃ~~~~~なお前‼」
何とか無事にメガロポリス入り口まで到着したテッドだったが、まずは肩の傷を見てもらう医者を探さないといけなかった。
弾は貫通しているとは思うのだが、まだ痛むし血が止まらないのでやはり万が一の事を考えて治療をする必要がある。
買った原付の電気電源は車の電池をむりやりつけて何とか走り続けてこれた。
「しかしそれにしても…」
以前来たよりも人並みも活気も無くなっているのは、多分気のせいではない。医者自体いるかどうか。
しばらくまっすぐ走ると、BARのような建物が見えてきた。ネオン看板がBARと淡く光っている。任務に関わる事なので酒は一滴も飲めないが
コーラとハンバーガーぐらいはあるだろう。実際空腹で限界なのだ。
しかしAAAの免許を見つけた客は攻撃してくるかもしれない。通行人は全員敵と思え。AAAの教訓である。
バーの店主なら医者の居場所も知っているはずだ。ポケットにスピードローダーを2個入れて、堂々とバーのドアを開けた。
4人組のメンバーが2つのテーブルを陣取っている。計8人だ。談笑していたが、郵便屋が入ってくると笑みが消えた。
カウンター越しに40代くらいのバーテンがコップを拭いていた。
「ご注文は?」
「コーラと、何か食べれるものを」
「フィッシュ&チップスぐらいしかございませんが」
「充分。たのむよ。」
客の8人はいつもの談笑にもどったので、とりあえずはほっとした。
「バーテンさん」
コーラで喉を潤してから言った」。
「この町に医者はいるかい?」
「闇医者ならいます」主人はテキパキとした喋りで続けた。
「ここの、はす向かいにあるボロい建物です」
「フィッシュ&チップスを堪能してから向かいます」
お腹も満たされた所で、郵便屋は早速闇医者へと赴く。
扉の前で
「いますかー」
と言うと、ちいさい爺さんが顔を表した。
「入れ」
言われるまま部屋へと入っていった。
「弾は貫通してるようじゃな。縫っておこう」
「助かります」
闇医者がテッドの帽子にある身分証に目をやると
「お前さんは気をつけた方がいいぞ」
「慣れてますから」
テッドが照れながら言うと、闇医者は真顔を崩さず続けた。
「メガロポリスが以前より荒廃してしまった理由は、何でもありの強盗団が押し寄せてきたからじゃ。
お前さんなんてすぐ餌食になってしまうぞ」
闇医者は手当を終わらせてから、白いヒゲをなでた。
「雪もやんだし長居はしません。ただどうしても宿で1泊したいのでさがしてみます」
闇医者は請求書とともに、宿の地図をかいてくれた。
郵便屋はお礼を言ってから、早々に宿屋へ向かった。
その頃、ヨーコとネコパンチもメガロポリスに到着した。
「店もあまりないにゃあ」
黒服の2人はあたりを見回しながら、つぶやいた。
シャッターが閉まっている商店街を進んでいると、一件の宿屋があった。
「ここで1泊して休もう。あいつも最低でも1泊はするはずだ。タイミングを見てまた大雪にする」
駐車場に乱暴に車を止めて、2人は宿屋へと消えていった。
ネコパンチが風呂上りで出てくると、ドアを開けてズカズカとヨーコが入ってきた。
「バーで情報を手に入れてきたわ」
そう言うとソファに身を委ねて、タバコに火を付ける。
「この街は今、盗賊団がわんさかうろついてるらしいわ。郵便屋とドンパチがあるかも」
ネコパンチは寝間着に着替えながら、
「まだ懲りてないんだにゃあ」
と呆れた様子で寝室に向かった。
「待てネコパンチ!ドンパチの隙を狙って手紙をかすめ取るって事も…」
言い終える間もなく猫は寝室の奥へと消えてしまった。
「あいつ…本気でやる気あんのか?気合が足りねぇ。ったく…」
ヨーコはタバコをスパスパ吸いながら貧乏ゆすりを始める。
「私はまだあきらめない…だがネコパンチのガンさばきは不可欠…」
ブツブツとつぶやきながらヨーコも寝間着に着替えると、寝室へと消えていった。
「おお、これはっ!」
「いいだろぅ、こいつは…へへ」
テッドは宿に行く前にガンショップに立ち寄った。この世界ではガンショップも少なく
弾丸の確保さえも大変なのである。
そこで凄いブツを見せてもらい、テッドはまるで宝物を見るように目を輝かせたのであった。
ガンショップの店員は続けた。
「マグナム357。6発のライフルだが銃口が2つあって、下からはミニミサイルが撃てる」
「いいね!いくらなの?」
「こいつは特注だからな。千ドルだ」
テッドは車も購入しないといけない為、大いに悩んだが結局店主に押し負けて購入してしまった。
「ちょっと重たいけど、こりゃあいい」
ミニミサイルも数個購入し、そのまま原付に乗って車の販売所へと足を向けた。
思っていたよりも狭い場所だ。店主を探すも見当たらない。
「どこにいるのかなぁ」
そう思って帽子を被り直していると、突然背後から
「何の用だ?」
と言われて驚いてしまった。おそらく店主なのであろう男に郵便屋は答えた。
「車を買いに来たに決まってるじゃないですかぁ」
「どんな車種を?」
「軽でいいんですけど、防弾仕様のってないですかね…はは」
テッドはそう言っておどけて見せた。
「こんな時代だからな。あるぜ。防弾仕様のヤツ」
まさか防弾仕様の軽自動車があるとは思わなかった。驚きつつもテッドは即答した。
「これ買います!」
と、色々あってやっとテッドは宿屋に到着した。闇医者に教えてもらった宿だ。
正直安心して眠れればそれで良かった。
「それにしても強盗団を見かけないな…夜行動してるのか?」
いぶかしげに、そこどこをキョロつきながら宿へと入っていった。ガンホルスターには
新品の銃が入っている。ミニミサイルのホルスターはサービスで付けてもらった品だ。
両方付けてると意味もなく誇らしい。宿のドアを開け消えていく。
まさかネコパンチとヨーコが眠ってる宿にまた入ってしまった事も知らずに。
テッドは妙な物音で夜更けにふと目を覚ました。もちろんいつものように銃は片手に持ったまま眠っていた。
「誰かいるのかな」
トイレにも行きたかったテッドはそのまま自分の部屋を開け、トイレに向かうため渡り廊下を歩いていると、ふと
後ろに気配を感じ振り返ると、突然投擲用ナイフが4、5本飛んできたので、思わずかがんだのだが左肩に1本ナイフを受けてしまって
すぐに引き抜いた。血が滲む程度で済んだが利き手の方じゃないのが幸いして銃を構えることができた。
「誰だ貴様!」
もう一度吠えるとナイフ使いはあっさり姿を現した。背は高く青い髪、鎖かたびらを装備し、投擲用ではない変わった形状のナイフを携帯している。
「盗賊団団長だ。まさかまさか本物のAAAに会えるとはおもってなかったぜ。大人しく手紙を…」
言う前にテッドは銃をドカドカと心臓めがけて打ち込んだ。
「鎖かたびらはそんなチャチじゃねぇぜ」
「あぁそうかい」
テッドは早速ミニミサイルの威力を装填し、
「消えろゴミが!」
盗賊にモロに命中すると、思っていた以上の爆風が辺りを覆った。盗賊団長は窓を突き抜け、外の地面に激しく頭を打って倒れた。
恐らく生きてないだろう。ミニミサイルは伊達じゃなかった、すごい威力だ。
「何の騒ぎにゃ?」
ネコパンチが異変に気付いてヨロヨロと現れたのでギョッとした。まさかまた宿がまた同じだったなんて。慌てながら、
「ちょっとタイム!騒ぎは今は無しにしよう」
ネコパンチは眠い目をこすりながらあっさりと言った。
「前回の銃撃戦で、かなう相手じゃないと悟ってるんにゃよね。だから僕はなにもしない。ヨーコはどう思ってるかわからないけどにゃ」
そう言うとネコパンチはあっさりと寝室へと戻っていった。安堵する。
しかし猫のパートナーの女性は獰猛だ。ここはひとつ早めに宿をでた方が無難だろう。
とはいえまだ夜更け過ぎである。もう少し睡眠を取るため、テッドも大人しくベッドに戻った。毎日の日課である、片手に銃を持つ習慣は忘れずに。
テッドはICチップを3つ埋め込まれているのだが、その中の一つに「女性を殺してはいけない」というチップが埋め込まれているのだ。
郵便屋同士の紳士協定なのかどうかは分からないが、とにかくそういう事になっているわけだ。だから女性にどこまで銃を撃つかの判断はとても難しい。
せめて急所を避け、足止めさせる程度でなくてはならないのだ。
手紙入りのポーチを枕の下に置き、銃を片手で持ち、そんな事をベッドで考えている内にすぐ深い眠りに入っていった。
朝7時。
ネコパンチは寝間着姿のまま、サービスのモーニングを食べていた。左肩がやや下にずり落ちている。
「酒も飲んでないのに気持ち悪ぃ…」
ヨーコは低血圧なのでいつも遅れて来る。長い髪ををかきながら、やはり寝間着姿で階段を降りてきた。
「やぁおはようヨーコ」
「…」
機嫌はあまり良くないようだった。
「サンドイッチとゆで卵、サラダがありますからね」
宿屋の主人は厨房で料理も兼ねているので、そういうとすぐに厨房へと向かっていった。
ヨーコはサラダをフォークでいじりながら、ダルそうに言った。
「昨日寝てたら爆発音がしたけど、夢だったのかしら」
「例のポストマンだにゃ」
「はぁ!?」
「ポストマンも同じ宿に泊まっていたんだけど、朝イチでもう出てったにゃ」
「何!?」
ヨーコは人が変わったかのように机をドン!と叩いた。
「何故それを早く言わない!?追いかけるわよ」
「昨日盗賊団の団長を、知らない爆発物で1瞬で消し去った男だにゃ。僕はもう追いたくない」
黙るヨーコに続けた。
「ヤツはもう無理だにゃ。他の小物狙ってた方がまだマシってもんにゃ」
「分かってないわね!一生暮らせる分の報酬が手に入るかもしれないのよ?強盗稼業からもスッパリやめれるのよ?」
「はぁ…とりあえず着替えなきゃだにゃ」
朝食を充分摂ったネコパンチは、2階へと登っていく。ヨーコも小走りでそれに続いた。
AAAの郵便屋は軽快に車を走らせていた。
お土産用に宿屋の主人から銀紙につつまれた料理にはまだ手をつけないでいた。
左手には山脈が連なっており、何回かトンネルを通る必要がある。警戒だけは怠らずに気持ちを引き締めた。
「ミニミサイル、もうちょっと多めに買っていればよかったなぁ」
そんな事を思っていると、遠方から水汲みの桶をもった12、3歳ほどの少女がこちらに向かって手を振っている。
テッドは笑顔でそれに応えた。
「どうしたんだい?こんなところで」
「川から水を汲んできたの…あ」
少女はテッドの身分証を見て
「郵便屋さん!」
とはしゃぎながら叫んだ。
「私の手紙も運んでくれる?メガロポリスにいるお兄ちゃん宛てなんだけど」
テッドは困ったなぁという感じで顔をかいた。
「お兄ちゃんは特別な手紙しか運べないんだよ」
「今日は私の家に泊まって!寝る場所もあるわよ」
もう日暮れすぎである。泊まるあても確かになかったテッドは
「じゃあお言葉に甘えようかな。お水はこぼさないでね」
と、少女を乗せて少女の家まで車を走らせていった。
少女が動ける範囲の距離だった事もあり、家はさほど遠くない場所にあった。
思っていたよりも大きな2階建てで、ちょっとした農園もある良い家だ。
「いい家に住んでるね」
「そうなんですか?私は生まれてからずっとこの家にいるのでわかりません」
と言いながら、少女は郵便屋が持っているポーチに視線を向けていた。
家に車を止めると、両親が出迎えてくれた
「おおこれは…AAAの郵便屋さんではありませんか」
「寝室はあります。ぜひ泊まっていって下さい」
少女の父と母は快くテッドを迎えてくれた。
「すいません、ちょっとだけご厄介になります」
申し訳ない照れ顔をしながら、帽子を取って挨拶した。
夜はご両親の作った夕食を皆でテーブルを囲んで頂いた。
こんな家庭的な料理を食べたのはいつぐらいぶりだろう。
「すごくおいしいです!」
思わずテッドはそう言って舌鼓をうった。
風呂は体の傷を見せたくないので遠慮させてもった。
とにかく今日は車の運転づくしだったので疲労してたのもあって
郵便屋は早々に寝室でたっぷり眠ろうと寝室に来た。
衣服を引っかける木製の置物があったので、上着だけを引っかけてベッドに入った。
いつものように手紙の入ったポーチを枕の下に置き、片手に銃を持って眠りについた。
3、4時間程経った頃だろうか。
枕に違和感を覚えて目を覚ました。ポーチを引っ張ってるのだろうか。
すぐさま持っていた銃を対象に向け、語気を強めながら叫んだ。
「誰だ‼」
「あっ」
ベッドの横にある明かりを付けると、そこには少女が崩れ落ちるように倒れていた。
「どうして君が…」
「ちがうの、どんな手紙だったか見てみたかっただけなの」
様子を伺いに父親が部屋に入ってきた。
「お父さん…あなたの差し金ですか?」
「何の話だ?」
「娘さんが僕の手紙を盗もうとした件です」
「娘がそんな事を…何てことしているんだミラ!」
父は娘を叱咤した。どうやら娘の単独犯だったようだ。
テッドは気丈に振舞った。
「手紙を狙う人物がいる以上、ここにはもういられません」
引っかけていた上着を羽織ると、父親の反対を押し切って車に乗り、
闇の中へと消えていった。
山脈にあるトンネルから1台の車がすごい速度で現れた。
運転してるのは女性、助手席にいる人物は何重にも折りたたんだ地図を開いて眺めていた。
「次の中継地点の街は?」
運転してる女性はヒステリックな面持ちで相方に訊ねる。
「次は…ホーネットだにゃ」
「郵便屋も次はそこを目指すはず。今度は先に到着して策を練るわよ!」
「まだあきらめていないのかにゃ?」
女性は舌打ちして言葉を続けた。
「私の意思はちゃんと伝えたでしょ⁉まだまだ諦めないわよ」
嘆息しながら黒服の猫族は、地図を再び丁寧に折りたたんだ。
天候も良好な事もあって、車はスピードを落とさず走り続けた。
ホーネット街にある雰囲気の良いカフェ店内で1テーブルだけ異様な空気を醸し出していた。
目だけくり抜いた紙袋を被った2人組である。
被っている紙袋を少し上げてカフェオレに一口、口にすると辛そうな口調で語りだした。
「ボスがやられたって本当の情報なのか?」
相手も重い口調で口を開いた。
「本当だ。顔と心臓に何発も食らってた。今は回収して、片目にある録画を見て犯人を特定中だ」
「特定したら復讐してやる」
もう一人の人物も紙袋を上げて、カフェオレを飲んだ。
法定速度を守りながら、黒い軽車をホーネットという街を目指し無言で走らせていた。
勿論昨日の少女の件もあって、後味は気まずいままだ。引きずっているのだ。
一旦車を片隅に止めて、地図を眺めた。ホーネットの街まではまだ遠い事を確認すると
地図を後ろの席に放り投げて、また車のエンジンを付けた。
「眠いなぁ…」
あれからほとんど眠ってないテッドは、あくびをしながらまた車を走らせた。
今のテッドは寝不足だった。危険なドライブである。
インターネット環境さえあれば敵をサーチして本部から敵の情報を教えてくれるのだが。
ネットが遮断されてから何年たっただろう。そんな事をぼんやり考えいると余計に眠くなっていった。
テッドは睡魔の限界を漂っていた。このまま車を止めて寝ないと非常に危険な水域まで来ていたのだった。
と、左手に「モーテル」の明かりが見える。幸運ここに極まれり。
テッドはすぐにモーテルに車を止め、主人に前金を支払い、いわれるがままに部屋に案内され、室内で1人になった。
「これで…しばらくは寝られるな…」
とにかくポーチを枕の下に、そして銃を片手に持ち、すぐに眠りに入った。
12時間経ってもテッドはまだベッドの中にいた。相当疲れていたとはいえ豪快な快眠っぷりである。
一方、モーテルに1台のランボルギーニがぬめりとやってきた。
出てきた男はどこからどう見ても忍者の恰好そのものである。腰と背中に刀を携帯していた。
忍者は宿屋の主人に紙を見せ、なにやら会話しているようだった。主人は部屋の方向を指差すと、
忍者は部屋へとゆっくりと近づいていった。
テッドは部屋のドアの向こう側から聞こえる、カチャカチャとした不気味な音でやっと目を覚ました。
銃の安全装置を外す。問題はテッドの部屋に入りたがっている人物は誰なのか、である。
最後に「カチャリ」と音を立て、静まった。ドアの鍵が開いたのだ。
「誰だ⁉」
テッドが叫ぶと、数秒の間をおいて忍者が入ってくると同時に間合いを詰め、刀を振りかざす。
すんでの所で刀を銃で受け止める。この近すぎる間合いでは銃が撃てない。忍者はあらゆる方向から
刀を繰り出してくるが、その全てを銃でガードした。
大きく振りかざそうと忍者がのけぞると、やっと1発、弾丸を発射する事ができた。
しかし忍者は素早く後ろに下がったため、被弾は免れた。
「さすがAAA…だがお主がターゲットではない‼手紙をよこすのだ」
「誰がお前なんかに‼」
刀に銃を5発ぶち込むと、忍者が持っていた刀は折れてしまった。それを投げ捨て、背中に背負っていた
刀をさやから抜くと不敵な笑いを見せた。
「やるな。」
そういうと今度は無理に間合いを取らなくなった。テッドはスピードローダーで6発同時充填する。
郵便屋がベッドから飛び移ると、折れた刀を拾う。
「賞金首稼ぎの強盗にしてはやるほうだけど、格が違うな」
「ぬかしおる‼」
忍者は大きくジャンプしながら刀を振りかざした、テッドは折れた刀で忍者の刀を受け止め、同時に腹に2発打ち込んだ。
よろめいた所を4発頭に撃ちこむ。
忍者はドカっと倒れてピクリともしなかった。
「はぁ…雑魚の相手も疲れるよ」
郵便屋はそう言って、またベッドに寝転がり寝息をたてるのであった。
結局2度寝して、目を覚ましたのは昼過ぎだった。
起きると床に忍者が倒れていた。死人だから当然だろう。
一応だが、ベッドの下に忍者を隠しておいた。
充分に寝てさっぱりしたものの、お腹が減ったテッドは、モーテルの主人に食べる所があるかどうか尋ねると
すぐ隣にダイナーがあった。まだ寝ぼけてるのだろうか。早速入店してハンバーガーとフィッシュ&チップスをのんびり食べながら窓を眺めていると、すごいスピードで走り抜けていく車を見た。
お腹も満たされたのでテッドは車に乗り、再びホーネットに向かって車を走らせた。
ヨーコは凄まじいスピードで運転していた。
走っているとダイナーとモーテルが見えてきたので
「ここでちょっとお休みしにゃいか?」
と提案したが、無言の却下を受け止めた。
「はぁぁー…お腹減ったにゃあ」
「あんたはモーニングサービスたらふく食べてたでしょ」
「でももうお昼過ぎだし…」
ヨーコはやはり無言で運転に集中している。
「とにかくあいつの先回りしないと…あいつよりも…」
運転中の女性は何やらブツブツ言いながらギアチェンジする。
「何かもう一種の病気だにゃ」
猫は完全に呆れ顔で、強盗団・犯人速報を読み始めた。
当然郵便屋は犯罪者ではないのでリストには載っていない。
1000ドルや2000ドルの小者があれこれ掲載されていた。
「こういうのでいいじゃなにゃいか…」
ネコパンチはボソリとつぶやいた。
ホーネットはまだまだ先だ。2人を乗せた車は猛烈な勢いで道路を駆け抜けていった。
見えるのは荒野。所どころ大きな茂みがあり、遠くにはうっすらと山脈が見える。
「さすがに疲れたから次のモーテルで休むわよ」
そういって猫族を見ると、静かに寝息を立てて寝ていた。
ヨーコは舌打ちをすると、ネコパンチにビンタをかます。
「寝てんじゃねーよこの野郎‼」
猫族はしばらくぼーっとしていたが、程なくまた眠りについた。
ヨーコはやはり凄いスピードで車を走らせていった。
やはりテッドも同じような光景の道を走っていた。どんなに走っても同じ光景なので
思わずあくびが出る。
「もう寝たいなぁ…」
ぼんやりとした感覚で運転していると、突然フロントガラスにペンキのようなものが
塗られ、視界が閉ざされた。急ブレーキを踏んで車を止めるとホルスターから銃を抜き
ドアを開け、車越しにあちこちを見渡す。大きな茂み以外隠れる場所は見当たらなかった。
「誰だ‼」
叫んでも応答がない。しかし襲われているという自覚だけがあった。
と、首の横に痛みが走った。首に刺さったものを乱暴に取ると、吹き矢のようなもので刺されたようだ。
再び周囲を見ても物陰一つ見当たらない。
「くそっ一体どこから…」
そう言うと体中に麻酔を浴びたような感覚に陥り、頭も朦朧となった。
最後の光景は、紙袋を被った人間たちがこちらを取り囲むように眺めている。そんな光景だ。
そうしてテッドは完全に意識を失った。
ぼんやりと意識が戻ると、移動式鉄格子の中にいた。2頭の馬が馬車を引っ張ている。
馬を誘導してるのは紙袋を被った人間だ。
銃も手紙の入ったポーチも盗まれた様子もない。一体何故…。
「お?意識が戻ったか?」
馬車を操っている紙袋人間が語りかける。
「大丈夫だ、ホーネットに向かってるからな」
テッドは何と言ったらいいかわからず、ただただ戸惑うばかりであった。
とにかく状況を把握できないまま、郵便屋は言葉を何とか集めて語りかけた。
「…何が目的だ?」
「到着すれば分かる」
そういえば以前、紙袋を被った大男を倒した事があった。同じ集団なのだろうか。
ミサイルを使って馬車の男を倒そうとも思ったが
行き先がホーネットでもあるし、しばらくは揺られてみるのも悪くないと思い、
ゆっくりと横になり眠るのだった。
ヨーコとネコパンチは、やっと見つけたモーテルに車を停車させた。
運転ずくめで、どっと疲れていたたヨーコは一刻も早く眠りたかった。
ネコパンチはお風呂とおいしい食べ物がたべたいらしかった。
「ヨーコはお風呂にはいらにゃいのかにゃ?」
「…寝てから入るわよ」
ぶしつけな様子でつぶやくと、モーテルの部屋に入りベッドで眠りこけてしまった。
ネコパンチはというと、隣のダイナーで目玉焼きとソーセージをたらふく食べてお腹を満たしたのだった。
馬車に揺られて何日たっただろうか。テッドは1日3回もらえる食事と水を必死に味わいながら、
耐えていたのだが、時間が経つ度につれ恐怖が頭をよぎってきた。
鉄格子越しに遠くをながめると、ぼんやりと街が見えてきた。ついにホーネットに着いたのだ。
「もうすぐ着くぞ」
馬車を操ってる段ボール男は嬉しそうに言葉を投げかける。
と、馬車が停車した。
紙袋男は言った。
「すまんがここからは目隠しをさせてもらう」
「なんだって⁉」
「大丈夫だ、お前を殺す目的じゃない。さぁ」
テッドは言われるがままに目隠しをされた。ここで暴れるのは得策ではないと感じたからだ。
再び馬車は動き出し、しばらくしておそらくホーネットの街中に入ったであろう喧騒が
テッドの耳に入ってきた。しかし1時間もすると喧騒は止み、森の中にいるような鳥の声が辺りに響いてきた。
(どこまで行くのかなぁ)
とにかく視界をふさがれている今、どんな場所なのか検討もつかない。
馬車はまだまだ動きを止めず走り続けた。
ヨーコがふと目覚めると、ゆっくり上半身を起こした。頭はぼーっとしている。
「一体どれくらい寝てたんだろ…」
「24時間眠りっぱなしだにゃ」
コーヒーを飲みながらネコパンチは少し開いたドアの角に身を預けつつ、言った。
「なんですって…⁉あんた早く起こしなさいよ‼」
「よっぽど疲れてるんだにゃあと思って、放っておいたんだにゃ」
ヨーコは上着を素早く着て
「追っかけるわよ!」
とモーテルのドアを勢いよく開いた。
猫族は嘆息すると、トボトボとした足取りで出入口のドアに向かうのだった。
目隠しをされてから2、3時間ほど経っただろうか。
何やら騒がしい場所に連れてこられると、馬車使いは郵便屋の目隠しを取り、オリから出した。
テッドは紙袋を被った人間たちに囲まれていた。
とまどっていると、集団の中から拡声器、メガホンを持った紙袋人間が前に出てきて叫んだ
「お前だな?うちのボスを倒したヤツは!」
「沢山倒してるから頭が混乱してるけど…確かに紙袋を被った大きな男を倒したのは確かだ」
ざわつきが収まるのを待ってから、メガホン男は続けた。
「我が『空飛ぶ紙袋団』のおきてとして、ボスを倒したものがボスに就任するというものがある。
従ってお前はうちのボスとなり、指揮系統を取りまとめるということだ‼」
「はあぁ?」
あまりにも突拍子もないその発言にテッドは動揺を隠せないでいると、集団の一人が前に出て言った。
「それはあまりにも古い悪習だ!こいつを倒すって事をやるべきなんじゃないか⁉」
そう言うと一部の人間からパラパラと拍手が起きた。間髪入れずにメガホン男はメガホンで叫んだ。
「これはボス自身が決めたおきてだ!覆す行為は万死に値する‼」
揉めているいる状況に、やれやれと思った郵便屋はメガホン男の頭を狙って銃口を向け1発撃ち当てた。
メガホンは手から離れ、そのままうつ伏せに倒れた。
悲鳴が聞こえる集団に、郵便屋はミサイルを装填して発射した。爆風で10名ほどが吹っ飛んでゆく。
「逃げろーっ」
紙袋の集団はそのまま、ちりじりになって逃げていった。
残されたテッドは腕を回しながら、やっと解放された実感を得ながらつぶやいた。
「また車、買わなきゃなぁ…」
ボソリと愚痴るとマグナム357をガンホルダーに収め、そのまま徒歩でホーネットの街へと向かった。
1時間ほど歩いただろうか。やっとホーネットの門に辿り着いたテッドは、入り口の門番に思わず
「宿はどこですか…」
と力弱く尋ねる始末だった。宿屋への行き方を聞いた郵便屋はそのままトボトボと歩を進めた。
教えてもらった宿に辿り着いたテッドは、部屋に入ると反射的に手紙の入ったポーチを枕の下に隠し銃を片手に持ったまま、即座に眠りについた。
ネコパンチとヨーコはテッドとは違う宿で、ミートボール入りのミートソーススパゲッティーを取り合うように食べていた。
この街は門番がいたり宿も複数あるので、前居たメガロポリスより規模も活気も良い街である。
「んむ…郵便屋が、もうここから離れているとしたら?」
猫は頬張りながら対面の女性に言った。
「ズズ…いや郵便屋はまだここにいるわよ…ンぐ」
「ソースは?」
「私のカンよ!」
それ以上ネコパンチは問わずに、食事に集中した。女のカンはバカにならない。
「この街で、今度こそヤツを捕まえて大金手にするわよ…むぐむぐ」
スパゲッティーはあっという間に無くなってしまった。
腹を満たした2人はそれぞれの部屋に戻り、泥のように眠るのであった。
昼前にテッドは目が覚めた。グーッとの伸びをすると枕の下にあるポーチを肩にかけ、
銃をホルスターに収める。
良く寝たテッドは、かなり体調が回復したように見える。
早速、宿の1階に降り遅めの朝食を取ってから外に出た。
移動手段が徒歩しかないのは、相当なダメージである。仕方がないので郵便屋は
車を売っている店に歩いて向かった。宿の主人に教えてもらったお墨付きの車屋らしい。
通行人の何人かが自分をジロジロと見定めている視線を感じつつも、黙って歩いた。
30分ほど歩いた場所にその店はあった。ドアを開けようとすると
「いらっしゃい‼」
と外から叫び声が聞こえた。振り返ると整備中の屈強な体格の店主が声をかけてくれた。
「あのー防弾仕様の軽車ありませんか?」
「もちろんあるとも!逆に防弾仕様の無い車より良く売れてるぜ!」
郵便屋は安堵した。
見に行くと黒色の軽が店の外の並びに置いてある。
「サービスしといてやるよ!」
店主は店の中に入り、15分ほど経ってからでてきた。
手には〒のマークの型紙と白いスプレーを持っていた。
店主が紙を仮テープで固定すると、白いスプレーを吹きかける。
紙を取ると車の横に〒マークが車に白く残った。
「いいですね!」
テッドがお金を渡そうとした時、銃弾がこちら側に向かってやってきた。
通りを見ると、20歳前後の男がこちら側に銃を撃ち続けているではないか。
「手紙よこせこらぁっ‼」
連射しているが店主も郵便屋もどちらにも被弾はしなかった。
テッドが銃を取り出すと、近くで銃声が3発ほど響いた。
横をみると店主の銃から煙を放っていた。連射男はバックしながら仰向けに倒れた。
「ベレッタM93Rだ。いいだろう、これ?」
「やりますね!」
店主は自衛手段として銃をいつも携帯しているらしかった。
改めて店主に代金を渡すと、車用の電池、水と食料をありったけ車内に積み込み
この街から離れるため速度をやや上げて進んだ。
情報はいつもバーにある。
何百年たってもその風習は変わらない。
ネコパンチとヨーコはビールを頼み、テーブル席で店内に妙な空気感を漂わせていた。
「全然あいつの状況がわからないじゃない」
ヨーコはビールを半分程一気飲みして言った。
「この街は広いんだにゃ。なかなか情報がつかめないのは想定の範囲内にゃ」
ネコパンチは1杯飲み切って、おかわりをした。
バーには2、30人いるだろうか。盛況と言って良かった。
仕事終わりに大いに飲み、はしゃいでる様子だ。
つまらなそうに飲んでるヨーコの耳から、聞き捨てならない大声が聞こえた。
「AAAの郵便屋を見たぜ!」
ヨーコは立ち上がり、言った男の襟首をグッと掴んだ。
「どこの門から出て言った⁉」
ヨーコは興奮している。男は、
「それをなぜお前に言わなきゃ…」
というやいなや、その女性は銃を取り出し、グリップ部分で相手の鼻っ柱にガンと打ち付けた。
たちまち男は鼻血を出し倒れそうになったが、襟首を掴んで再び起こし
「ど こ 門 か ら 出 た ⁉」
周囲の視線を受けたがヨーコは気にもしなかった。
男は慌てて、
「き…北門目指してた嘘じゃねえ」
「どうしてAAAだと分かった⁉」
「うちの店にレーション(戦闘用携帯食)を買い付けに来たんだよぉ」
と言うと、やっと男から手を放し、ネコパンチに手を振って呼びつけた。
「郵便屋を追うわよ!」
そう言うと慌ててバーから飛び出した。
宿屋にある車に乗り、凄いスピードで北門を目指す。
「信憑性はあるんでにゃす?」
「信じるしかないでしょ?状況打破よ」
北門に行くと多くの車が足止めを食らってる状況を目にした。
大人しく最後尾に並ぶ。
「何なのよこれは!」
門番がやってきて、ガラスを上げるよう指示をうける。
「酒気帯び運転の確認にご協力願います」
「あぁそう」
女性は懐からデリンジャーを取り出して門番に2発食らわせた。
そのまま倒れた門番をよそに、2人を乗せた車は北門から
外へと車を走らせるのであった。
テッドは順調にドライブしていた。しかし問題無い時ほど、気を引き締めないといけない。
2時間ほどドライブしたので車を片隅に寄せ、レーションに噛みついていた。
2個目を食べようかどうか迷っていると、突然吹雪に見舞われた。
嫌な予感がテッドの頭をよぎる。
しかし、車を購入した店主にスタッドレスタイヤに変えて貰っていたので多少は滑りにくくなってはいた。
とは言え、奴らとは断じて対峙したくないのですぐに車を走らせた。
15分ほどスピードをできるだけ上げながら走っていたが、バックミラーに吹雪の中、例の車の陰影が
映ると戦闘は免れないと堪忍し、マグナム157を抜き、ガラスを下に下げ、相手のタイヤに狙いを定め
3発ほど銃声を轟かせた。相手の車も防弾仕様なのは間違いないと思ったのでタイヤを狙ったわけだ。
あちら側からは2人が窓から身を乗り出して撃ってくる。やはりタイヤが狙いのように思えた。
テッドはハンドルを足で支えながら、スピードローダーで6発装填し、ミニミサイルも装填する。
敵はどんどん距離を詰めてくる。テッドは吹雪の中6発タイヤを狙い撃ったが視界が悪すぎて外してしまった。
「これだけは当たりますように!」
郵便屋は願いを込めてタイヤを目指しミニミサイルを発射した。視界不良でもすごい爆発音と煙が立ち込めるのが分かる。
と、相手の車が止まり、バックミラーから見えなくなった。
「よし‼あー寒い」
歓喜し、ガラスドアを閉め再びドライブを続けた。
「これであいつらも諦めるだろう」
車を運転していた女性は急に来た爆発音に少しだけ驚いたが、すぐ口を開けた。
「どーなってんのよこれ‼」
「どうしたも何もパンクだにゃあ」
車はガタガタ言わせて停車してしまった。
「くそぉ‼」
女性は怒り心頭でハンドルを叩いた。
「車の後ろに新品のタイヤとジャッキがあるでしょ?それで早く直しなさいよ!」
「え…僕が?」
納得のいかない猫の帽子をガッシと掴んだ。
「は や く はじめろ!」
ネコパンチはしかたがないなという背中で車を出た。
タイヤ交換した車は再び走り出し、吹雪の中へと消えていった。
猫と女性が乗った車がだいぶ離れたので、女性が呼び出した吹雪は止み、太陽が顔を出し
すでに降り積もった雪をだいぶ溶かしてくれていた。
しかしあいつらはテッドの経路を知っている為、できるだけ車は止めずに運転しながらレーションに
食らいついていた。
しばらく走っていると右手に森への道が見えた。反対側は山脈が見え崖になっており、仕方なく森の道を
選ぶほか無かった。
森の道はうっそうと木々が茂っており、やや暗かった。こんな場所にはモーテルどころか露店もないだろう。
そんな事を思いながら走っていると、前方に何やら四角い物体が道の真ん中に現れた。
道幅はそれほど広くはない。近づいてみると、頑丈そうな大盾が道をふさいでいる事に気づいた。
盾はピクリともせずに、盾についてる監視ガラスからこちらの様子を伺っているようだった。
テッドは手を目の上にかざしながら車を停車するほか無かった。どうしようか迷っていたその時。
盾から少年が飛び出し、銃を3発ほど撃ってすぐ盾に隠れた。
ガラスも防弾なので助かったが、賞金稼ぎであることは間違いなかった。
サーモグラフィ双眼鏡で盾を覗くと、赤い物体が2つある。一人は盾を支えているようだ。
要は盾役が防御に回り、少年が銃で獲物を仕留めるコンビネーションプレイなのだろう。
ここ最近頼りかけているミニミサイルを装填し、一気にかたをつけるように発射させた。
ドオン!という勢いで爆風がこちらまで届く中、盾はそのままガッシと地面に立っていた。
ミニミサイルが効かない…?テッドは正直、狼狽した。
少年が盾に隠れたまま吠えた。
「とーちゃん!郵便屋だよ郵便屋!手紙をよこせぇ!」
父子なのだろうか。そう思うと銃を撃つのもためらわれた。
強行突破するしかない。テッドはエンジンを唸らせ、盾使いに突進していく。
そして盾人間に当たる直前、横をジャンプで通り抜けた。車が45度以上傾く。
そして無事着地してから、猛スピードで通り抜けた。
少年がこちらに銃を連射していたが、むなしく音が森の中に響き渡るだけだった。
色んなタイプの強盗を見てきたが、大盾を持った強盗は初めてだっただけに
「色んなタイプの強盗がいるなぁ…」
と感慨深い思いで、再びレーションをかじるのだった。
「この森で間違いないにゃ」
ネコパンチは地図を広げながらそう言ったが、タバコを口にしながら運転中のヨーコは無言だった。しかし言われた通りに森に入ったので話は通じていたらしい。
「妙に暗いわね、ここ」
ヨーコは新しいタバコに火をつけながら、そう言い捨てた。
しばらく車を走らせていると、目の前にぼんやりとだが四角い影が見えた。
「なんにゃ?あれ」
近づくと大盾である事に気づき、その瞬間少年が盾からピョンと飛び出し銃を3、4発連射してまた大盾に戻ってゆく。
「同業者だな、あれは」
「あの大盾には弾丸が通じないだろうにゃ」
ネコパンチはホーネットで買ったヘッケラー&コッホUSPを両手に2丁、ホルスターから取り出した。
ヨーコもまた、ホーネットで購入したFNファイブセブンをホルスターからゆっくりと取り出す。
「GO‼」
というヨーコの合図で車のドアから勢いよく出ると、2人はジグザグに走りながら盾に近づいてゆく。
もうすぐという所で、盾使いは
「ふん‼」
と気合を込めて大盾を素早く前に突き出し、異能力的風圧でヨーコが後ろに転がってしまった。
しかし、その瞬間盾の後ろに回ったネコパンチは弾丸を30発連射して盾の後ろにいた2人にぶち込んだ。
弾倉を捨て新しいものと交換し、銃をクルクル回しながらホルスターに銃を収める。
タバコを吸いながらヨーコが戻ってきて、死体に何発か撃ち込みながら
「この野郎!何様のつもりよ‼」
と咆哮した。
「もう死んでるにゃ」
「分かってるわよ!早くこいつらを横に寄せなさい!車が通れないでしょ!」
はいはいといった体で2人の死体と盾を横に押し込んだ。が、盾が重すぎて動かない。
さすがにヨーコも混じって何とか横に置いた2人は、再び車に戻りすぐに発車した。
「頭イカれてんじゃないの、最近の強盗団は」
ヨーコは運転しながら、ぶつぶつと愚痴をこぼした。
ネコパンチは首をやや曲げて
「郵便屋はあれをどう回避したのかにゃあ…」
と疑問を吐露するのであった。
漆黒の闇から霧とともに現れた病院。
突然シーンが変わり手術室。上から数名が僕を見下ろしている。
「これから3つのチップを埋め込むよ…1つ目は女性を殺すと強い頭痛に襲われるチップ。
もう一つは君が今どこにいるかを知らせるチップ、そして3つめのチップは……」
「うわあぁ‼」
すごいスピードで上半身を上げる。金髪の下から汗が流れ出る。
「リアルな夢だったな…そう、僕の頭には…」
BPSのチップはハッカーのせいで現在使い物にならなくなっている。3つ目は思い出せずにいた。
「すごい声が聞こえたけど大丈夫かい?」
民家の住人は心配して僕に声をかけた。
「大丈夫です、ちょっと嫌な夢を見たもので」
「そうかい。じゃあまたね」
運転に疲れてきた頃、小さい村を見つけ車を止め大きい葉っぱで車を隠し、1泊させてもらっていたのだった。
記憶にないが本能でポーチを枕の下に隠し、銃が近くに置いてある。
3つ目のチップは何に…そう思うと朝まで寝付けずにいた。
ここは本当に小さい集落で、隣の畑で野菜を作り、実ると食卓に回っていくらしい。
そして昨日の農作物いじりの時、畑の一人がすごいスピードで駆け抜けた車を見たらしい。例の2人だろう。
ある意味安堵した。集落に手紙を狙っている人もいないだろうと踏んだ郵便屋は、
「あのーもう一泊してもよろしいですか?」
おずおずと尋ねると、
「もちろんいいともよ。さぁ朝食をたべようや」
OKをもらうと郵便屋は正直に喜んだ。
白いご飯と、たくあんだけで十分いけた。もちろん鮭とサラダもあるので、ご飯をおかわりする。
こんな家庭的な食事を味わったのは何年ぶりだろう。舌鼓を打ちながら全てをたいらげた。
お腹がいっぱいになったら、3つ目のチップの事など気にならなくなっていた。
漆黒の闇から霧とともに現れた病院。
突然シーンが変わり手術室。上から数名が僕を見下ろしている。
「これから3つのチップを埋め込むよ…1つ目は女性を殺すと強い頭痛に襲われるチップ。
もう一つは君が今どこにいるかを知らせるチップ、そして3つめのチップは……」
「うわあぁ‼」
すごいスピードで上半身を上げる。金髪の下から汗が流れ出る。
「リアルな夢だったな…そう、僕の頭には…」
BPSのチップはハッカーのせいで現在使い物にならなくなっている。3つ目は思い出せずにいた。
「すごい声が聞こえたけど大丈夫かい?」
民家の住人は心配して僕に声をかけた。
「大丈夫です、ちょっと嫌な夢を見たもので」
「そうかい。じゃあまたね」
運転に疲れてきた頃、小さい村を見つけ車を止め大きい葉っぱで車を隠し、1泊させてもらっていたのだった。
記憶にないが本能でポーチを枕の下に隠し、銃が近くに置いてある。
3つ目のチップは何に…そう思うと朝まで寝付けずにいた。
ここは本当に小さい集落で、隣の畑で野菜を作り、実ると食卓に回っていくらしい。
そして昨日の農作物いじりの時、畑の一人がすごいスピードで駆け抜けた車を見たらしい。例の2人だろう。
ある意味安堵した。集落に手紙を狙っている人もいないだろうと踏んだ郵便屋は、
「あのーもう一泊してもよろしいですか?」
おずおずと尋ねると、
「もちろんいいともよ。さぁ朝食をたべようや」
OKをもらうと郵便屋は正直に喜んだ。
白いご飯と、たくあんだけで十分いけた。もちろん鮭とサラダもあるので、ご飯をおかわりする。
こんな家庭的な食事を味わったのは何年ぶりだろう。舌鼓を打ちながら全てをたいらげた。
お腹がいっぱいになったら、3つ目のチップの事など気にならなくなっていた。
例の女性と猫はもう十分に進んだはずだ。
次の中継街フォークスに到着しているかもしれない。しかしフォークスはあまり大きな街じゃないので
発見される確率が高いのが厄介だった。
しかし絶対にこの街を通らなくてはならないので食料と水を確保と、できればミニミサイルの調達を
したいのだが、あまり期待はできないほど小さな街だ。
良くしてくれた女将さんにお金を支払おうとしたが、そんな気を使わなくていいと断られた。
おにぎりの差し入れももらったりして、郵便屋は感謝のお辞儀をすると隠しておいた葉っぱを取り除き、そのまま走ってフォークスへと急いだ。
問題は例の2人組に遭遇した場合だ。衝突する確率は高いので冷静になる。
特に黒服を着た猫族のあいつ。かなりの腕前とみているので、気をつけないといけない。
パートナーの女性はICチップのせいで倒すことはできないという、かなり高い難易度である。
「衝突しませんように」
テッドは祈りながら、ややスピードを上げた。
「あいつ全然こにゃいな」
ネコパンチはコーヒーを飲みながら道の真ん中で言った。
タバコを吸いながらヨーコは猫に問う。
「もうフォークスから出た可能性は?」
「さすがにこっちが先に着いたとおもうんだがにゃ」
ヨーコは新しいタバコに前吸っていた火種を押し付けて、白い息を吐きながら言った。
「門の入り口にマキビシチェーンを敷くわよ。そこから銃撃戦」
「防弾車だろうけどにゃ」
「郵便屋は私達を仕留める為、車から必ず降りて来る。」
「まぁ銃撃戦になったらまかせるんだにゃ」
新型の銃2丁をクルクル回しながらホルスターに収める。
「だったらマキビシチェーンを買いに行きなさいよ」
猫は面倒くさそうにコーヒーを飲み切り、徒歩で店に向かった。
「急げ‼」
ヨーコに叫ばれ猫はマラソンクラスの速度で店に向かっていった。
郵便屋は少しスピードを上げて走ったせいか、フォークスという街に予想よりはるかに早く着いた。
門を通ろうとすると、地面に何か謎の線上のような物を発見したので車を止め、双眼鏡で確認する。
「マキビシチェーンだ!」
そう叫ぶとほぼ同時に天候が吹雪に変わってゆく。最悪のシナリオだった。
街中の横から車が出てきて停止し、2人は開いたドアを盾替わりに銃撃戦を開始し始めた。
テッドもドアを開け、相手と同様にドアを盾にしながら銃口を向けた。
(あの女性…あいつから何とかしないと…)
しかし女性を死亡させるとICチップが反応し、とんでもない頭痛が来るので気を付けないといけない。
(足は見えないから肩を狙うか、それとも…)
吹雪で視界不良な中、思考を集中させる。
銃声がひとまずやんだところで、テッドはドア越しに向こうをみる。
と、猫が顔を出した所でテッドは1発、弾を撃ち込んだ。
どうやら当たったらしく、(よし!)と心の中で叫ぶ。
ヨーコはネコパンチに、
「大丈夫か?」
と、めずらしく気遣いを見せる発言をすると、
「すっごぉ――――――――――――――――――――――――――く痛いにゃ‼」
よく見ると耳に丸い穴が開いている。
テッドは標的を女性に変え、ドア越しに撃つ機会をうかがっている。
女性は猫の傷のおかげで感情的になっている。そこにつけ込むのだ。
「こいつめっ」
ヨーコは郵便屋が顔を出したタイミングを見て、ドア越しに何発も打ち込むが吹雪がすごくて弾は当たならい。
その瞬間、肩に痛みが走る。テッドによって撃ち込まれた痛みだ。
(私が…被弾…?)
疼く痛みに耐えながら車の車内へと戻る。
テッドはスピードローダーで6発同時装填し、シリンダーを手で一回ぐるっと回転してから内側に引っ張るように装填させる。
ネコパンチはドアからこっちへ2丁拳銃を撃ちながら向かってきた。テッドも売られた喧嘩は買うことにして、同じく猫に突進した。
テッドの肩と腕に鉛玉が被弾する。猫も腕と足、さらに肺にも弾を受けてしまう。
密接した途端、両者の弾切れ。
テッドはここでミニミサイルを撃ちたかったが、全て使ってしまって無い状況だった。
「僕を追いかけるのは、もうやめろ…」
撃たれた腕を押さえながらつぶやいた。
「ヨーコが諦めない限り…ごほっ、死ぬまで追いかけるにゃ…」
あの女性の名前がヨーコである事に気づく。
「今回は分が悪いから撤退するけど、また決着をつけるんだにゃ」
そう言うとネコパンチは走ってきたドアが開いたままの車に飛び込むと、吹雪の中に消え行った。
「くそっ…また医者探しか…」
そう言うと同時に吹雪は止み、太陽が顔を見せたのだった。
フォークスは小さい街だが、病院があったのは幸運だった。
医師は、台に乗せられ、上半身裸のテッドの腕の傷を糸でぬいながら言った。
「もう君の体は限界に来ている。他のAAAに頼んだ方が君のためじゃないか…?」
傷だらけのテッドの体を見て、率直にそう言うと郵便屋は即答した。
「駄目です。この手紙はどうしても自分の手で大統領に渡さないと…」
「君じゃないと駄目なのかね?」
そう言ってテッドに病院服を着せ、無言で医師に注射をされる。
「少し休んだ方がいい。」
部屋の明かりを消すと、睡魔がテッドを襲う。次第に目を閉じ、睡眠に入っていった。
それから数日は、病院での休息を強いられた。
ネコパンチとヨーコは宿を取り、数日間宿にこもった。
ネコパンチは自然治癒効果があるが、さすがにこの傷が癒えるのは時間がかかる。
ヨーコの肩の傷をネコパンチが治していた。
「こりゃひどいにゃ…」
あの郵便屋はホローポイント弾を使っている。体に当たると体内に破片が散らばる弾で、非人道的な弾丸とされてきた。
破片を取っても取ってもまだ破片が出てくる。ヨーコはタバコを吸いながらのんびりしてるように見せているが、かなり痛いはずだった。
破片除去をひと段落すると、糸を使って傷口を縫う。麻酔がないのでかなり苦痛を味わっていると思えたが、ヨーコはタバコを吸って冷静さを見せていた。
「あの郵便屋…無敵なのか?」
ヨーコが口を開いた。
「いや。頭か心臓を狙えばヤツは倒れるはずにゃ」
「じゃあ何で撃たない?」
「吹雪のせいにゃ。敵も視界が遮られるけど、それはこっちも同じこと。もう吹雪は勘弁してほしいにゃ」
ヨーコは新しいタバコに火を付けながら、
「あっそう。次は吹雪に変わる何かをお見舞いしよう」
「それはそれとして、少しは禁煙しにゃいの?」
「これが唯一の楽しみだから、却下」
もうこれ以上言ってもヨーコは意見を変えないので、フラフラしながらベッドに入って猫は寝息を立てた。
数日が過ぎ、休息を終えたテッドはミニミサイルを買いに小さなガンショップを訪れた。
何しろ小さいし、建物自体古びている。郵便屋はダメ元で入店する。
「あるよ、ミニミサイル」
あっさり店主は期待に応えてくれた。
「ちょっと待ってな。これをどけて…と」
店内は沢山の段ボールで埋まっている。店主は段ボールを1つ1つ置き換えながらお目当ての箱を探していた。
「おおこれだ!段ボールに値札がねぇなあ。まあいいやいくつ欲しい?」
テッドは安価で10本購入し、自分の車に詰め込んだ。ミサイルの爆風は大抵裏切らない。特例を除いては。
(あの時ミニミサイルを撃ってたら猫族を倒せたんだけどなぁ…)
数日前の死闘を振り替えながら、ダイナーでフィッシュ&チップスにポン酢をドバドバとかける。
チップスをワシワシ食べながらテッドは地図を開く。
「まだ半分しか進んでいないのか…この遅れはまずいな」
今後襲ってくる盗賊団はいくつあるのだろうか。考えただけで頭痛が止まらない。
例の2人組はまだ滞在してるのだろうか。それとも次の街に向かっているのだろうか。こいつらだけは一番しつこい。
そう思いながら郵便屋は店の店主におかわりを頼んだ。
「次は雷雨でいくか!」
運転中の女性が威勢良く叫ぶ。
「雷に当たったらいやだにゃ」
猫族の末裔は愚痴をこぼす。
「郵便屋にだけ当たるようにするから大丈夫…ちょっとこのタバコに火をつけて?」
ネコパンチはライターの火をタバコに近づける。
「雨なら吹雪よりは、まだマシにゃ」
「いい?次でケリをつけるわよ?」
「いっつもそのセリフばっかりなんだにゃ…」
ヨーコは無視して、タバコを味わっている。
「次の街は…えーと、フィフタ。漁港がある街だにゃ」
「あいつを倒したら、魚いっぱいあげるから気合いれろ!」
そういうと、自然に起こった夕立ちが降り注ぎ、溜息をつく2人だった。
テッドは次の中継地点のフィフタ街まで、〒マークのついた車を走らせていた。
見渡す限りの荒野なので、どうしても眠たくなる時は、車を1時間だけ止めて仮眠を取りながらスピードを上げ進み続けた。
(サボテンって食べられるのかなぁ?)
サボテンと遠い地面しか鑑賞できない郵便屋は寝起きの中、そんな事を考えながら高スピ―ドは保っていた。
フィフタの街を抜ければ、後は何度も往復した慣れている道を進むのでイッキに辿りつくだろう。
強盗団さえいなければの話だが。
特に例の女性と猫族の2人組は、かなり執拗に追いかけてくる。いや待ち伏せているというべきか。
他にもバウンティーハンターは何人だっている。体に鉛玉を食らうのはもう充分だ。というか最後に受けた弾丸で、もう完全に体にガタが来ているのが、染みが広がるように伝わってきた。
自分のマグナム357とミサイルに命を託すしかない状況になっている。もうヘマはできない。自分を守る為に、片手で気合いのレーションをかじりながら弾をシリンダーに流し込む。
体に付けたミニミサイルが入ったケースを、ポンポンと軽く撫でた。
夕刻時ーー。
荒野からやっと逃れ、やや狭い道路に入り2差路の入り口に来た所だ。1本目は森を抜ける道、ここから目的のフィフタ街へと続く道。もう一つは荒野の続きのようなつまらない道路だ。
そんな2差路の入り口の切り株に、一人の和服を着た青年が座り込んでこちらを伺っている。肩にはカラスが1羽止まっている。
「なんだ?」
郵便屋は車を止めざるを得なかった。青年は動かない。しかし肩に乗っていたカラスが飛び始めたので視線を奪われる。
刹那。
切り株に座っていた青年が助手席に瞬時に移動し、太刀を郵便屋の喉に突きつけた。
「瞬間移動するヤツは初めて見ただろう?」
青年は勝ち誇ったように呟いた。
「AAAか面白い。お前なんぞどうでもいい。ポ―チに入ってる手紙を渡せ」
テッドは重い口をひらいた。
「なあマフィアでは有名な『血の処刑』ってしってるかい?」
「なんだぁそりゃあ」
「簡単さ。腹に1発弾丸くらわせばいい。もがき苦しんで地獄を見ながらしんでゆく。つまりお前の腹もあぶないってことさ」
テッドは反射的に銃を青年の銃を腹にむけていたのだ。
「ほう…」
そう呟くと、また瞬間移動し、テッドの後部座席から太刀を首に当てた。
「命乞いして、いい声で泣いてくれよぉ…飽きちゃうからさぁ」
テッドは次に青年が行く場所を全集中で探っていた。今更後ろに撃っても遅い。かといってほっとくのは大変な事態をまねく。
青年はピューイと口笛を吹くと、カラスの大群がテッドに襲ってきた。
さすがのテッドも視界不良で戸惑ってしまう。カラスがドンドンと車に何匹も衝突してくる。
「実力の差を見せつけられるのは、悲しいよなぁ郵便屋?」
テッドはわざと後ろに弾丸を発射した。そして次にいる場所はどこかを賭けてみる。
その瞬間次は絶対、カラスの大群が落ち着くまで切り株に座るだろう。
それを信じてテッドは、相手が切り株に映ろうかと青年が瞬間に座った瞬間、車の窓からミニミサイルをモロに受けた。
「ぐえっ」
青年は爆発に包まれ、心臓付近に血がしたたり落ちてゆく。
車内はガンパウンダー(火薬)の匂いで車中を駆け巡る。
「トリプルAAAはすごいなぁ…他の雑魚とは違う…」そう言うとゆっくり息を吐き出し、青年は動くなくなった。
この男の名前すら分からなかった。いまではそれはどうでもいい話だ。
大統領命令の手紙は、必ず絶対に渡さなくてはならない、目的の為なら鬼になって手段は選ばない。
そうしてると、一台の車から眼鏡をかけた中年の男がゼイゼイ言いながら駆け寄ってきた。
「どこのどなたさんです?」
郵便屋はちょっと引きながら答えた。
「私はICチップを作っている者とだけ言っておく。きみには3つ埋め込んだね。3つ目のICチップを知りたくはないか?」
「教えてほしい!ずっとモヤモヤしていたんだ」
「1つ目は女性殺害の天罰、2つ目のチップは位置確認に使われるが今は使えない。」
「で、3つ目のチップは…」
さすがにテッドを息をのむ。
「3つ目は、異能力に対する攻撃力、防衛、被弾してからの治癒の速さなどが10倍に膨れ上がるチップだ」
テッドは驚いた。じゃあ僕のガンさばきは10倍のものだったのか…。
テッドはその場で膝間づいて途方に暮れるしかなかった。
「テッド君、あと少しなんだ。あと少しで大統領府の街に向かえる。それまでは何とか耐えてくれないか」
郵便屋は顔を沈めた状態。中年男は焦りながら返事をまった。
「楽勝ですよ~~~待っててください‼
そういうと車にエンジンに火をつけ、森も道を通って消えていった。片手でもって銃をクルクル回していたが、そりゃそうだよな体の傷跡はあるものの、いままでなんとか糊口をしのいできたんだ。
フィフタの漁港街を出たら、少し休憩してからラストスパートをダッシュで駆け抜ける、
テッドのブルーの瞳はよりキラキラと輝いてるようにも見えた。
例の2人組は長いドライブの末に、ようやっとフィフタ街に到着した。
町全体が海の匂いに包まれていて、とてもきれいな海が太陽を受け止めている。
「魚料理だにゃああ!!」
ネコパンチはヨーコの意見も聞かず、全力走りで食堂へと向かっていってしまった。
やれやれと思いながらタバコの吸いがらをマイタバコポケットに入れて、仕方なくヨーコも食堂街に足を運んだ。
猫族は海鮮丼を夢中で食べていた。しかもおかわりした2個目に手をつけているからと言うから呆れたものだ。
「ふー。もう食べられないにゃ」
猫の腹が明らかに膨らんでいる。ヨーコは来た海鮮丼を食べ、ネコパンチは寝そべっている。
体を横に向けながらシリアスめいた言葉を発した。
「ねぇヨーコ」
「何?もうおかわりはできないわよ」
「そんな話じゃないにゃ。例の郵便屋のこと」
はしが止まり、ヨーコは話に耳を傾けた。
「郵便屋とファストドローであいつと勝負してケリをつけるにゃ」
「早撃ちを挑もうとしてるわけ?」
ファストドローとは、とある時間を決め、その時刻に到着した瞬間、どちらかが死ぬまで銃を発射する試合の事をいう。
いかにホルスターから銃を取り出し精密に発射させられるかが鍵となる。
「いくら自然治癒スキル持ってるお前だけど大丈夫なのか?」
「でも顔か心臓に撃ち込まれたら、死ぬにゃ」
ヨーコは沈黙しながら海鮮丼に手をつける。
「…そこまでしないと、もうヤツに勝てないのね」
「そうだにゃ」
ネコパンチはそう言うと上半身を起き上がり言った。
「僕が死んだら、僕の事は忘れてほしいんだにゃ…」
「死なせはしない!私だって銃もってるんだから」
「ヨーコのガンさばきでは、絶対倒せない相手だにゃ」
再び沈鬱な空間が生まれる。ヨーコはつぶやいた。
「どんな天候にすればいい?」
郵便屋テッドは、車用の電池が切れかける中、やっとの思いでフィフタ街に到着した。潮の香りが心地いい。
(色々と買わなきゃいけないものが沢山あるなあ)
快適なドライブを楽しみながら、レンガで出来た道や家を見て回った。
フィフタの街自体はさほど大きくはない。しかし漁港であり、おいしい魚が大量に取れるので街は活気に満ち溢れていた。
まず立ち寄ったのは自動車屋で、多めに車用電池を充電しまくった。もうそろそろの所まで来ているからである。
続いてガンショップに立ち寄り、雑魚を相手にする為の拳銃、ベレッタM93Rとその弾丸を購入。1弾倉に20発詰める事ができる数少ない拳銃だ。
3点バーストできるが、その分リコイル(反動)が大きめなのがデメリットがあったが、AAAなら問題なしだろう。
その後は野菜売り場にいって新鮮なトマトを買ってかぶりついた。トマトとリンゴが好物なのであった。
さすがに車中で仮眠をとったと言え、ドライブしてきた疲れが溜まっていた。前は元気だったのになぁ…と言いながら宿を探す。
レンガで出来た家や道は迷路のようになっていたが、住民に宿を聞いて回り、やっと宿までたどり着いて安堵するテッド。
ただでさえAAAは襲われやすいので、さすがに道を多く走り過ぎた。ただ眠気の方が勝り、車を奥に止め、急いで宿に入ろうとした時である。車を囲むように老婆たちが、ぬめりと現れたのだ。
あまりの展開にテッドも「ひゃあ」と声をあげてしまった。
「何か…御用ですか?」
恐る恐るテッドは老婆たちに声をかける。老婆は黙って車を指差した。そして、
「郵便屋…郵便屋」
と囁いた。
「AAA…AAAだよぉ」
「やってくれるに間違いないんだよぉ…」
次々と言葉を発する老婆の姿にすっかり狼狽してしまったテッドは、焦りの表情で一言つぶやいた。
「はい?」
状況がよく分からないまま、自分の宿に老婆たちを間引いた。今のテッドはもう眠くて仕方がない状況である。そんな中老婆たちの相手をしなければいけない。思わず嘆息しながら宿の階段をギシギシと登ってゆく。
「状況を話しますじゃ」
テッドの宿で、老婆の1人が重い口をあげた。
「この街にも盗賊団がいて長年、街の店などにショバ代を請求されてきたんですじゃ。困り果てた住民は強そうな用心棒を雇ってもみたのですが、全て返り討ちにあってしまった次第でしてのぅ…」
「はあ…」
「もうAAAにしか頼めませんですじゃ!どうか盗賊団を殲滅してくださいまし!お礼もみんなで集めてきたですからに…」
そう言って老婆の1人が袋を取り出した。中には金貨がたっぷりと入っている。
「わーったた…そういうのはいいから!そういうのは!」
テッドは老婆が持っていた袋を押し返した。
「あのですねぇ…僕はAAAなりに大きな命令の元、動いているんですよ。チンピラ相手に動くわけには…」
老婆のすすり泣く声が聞こえて来る。
「あぁ…このままウチの街は金を搾取されていくんじゃろうか…」
泣き声の重奏の中、テッドは深い深いため息を一つ出してから、言った。
「…わかりました。やってみますから敵のアジトを教えてください」
わぁっと歓声が沸き起こる。
「さすがAAAさんだよぉ…」
「勇敢な人だねぇ…」
「そのかわり!どうしても寝たいので行くのは明日の朝になりますからね!」
アジトの場所をしるした地図を受け取った後、そのまま泥のようにテッドは眠りこけた。
数時間後―――――
テッドは何かにとりつかれたように目を覚ました。すでに昼に差し掛かっている事に気付き、あわてて準備をする。アジトの地図がベッドの横に置いてあるということは、あの出来事が夢ではない事が分かる。
「ケガはもう御免だよマジで…」
銃を2丁ホルスターにしまい、アジトの地図をポケットに突っ込んで部屋をあとにした。
2階から1階へ降りて行くと、宿の主人が、
「ご飯は食べていかないのかい!?」
と誘惑してきたので、ついパンとスープだけ食べてしまった。少し落ち着いた郵便屋は、再び帽子を被り直しながら宿の扉を軽く開け外に飛び出していった。
改めてアジトの地図を見る。車で行くのが危険な事は当然分かっていた。そう遠くもない場所なので、仕方なく徒歩で行くことに決めた。
2度道を聞いてしまった。1人は恐る恐る教えてくれたが、もう1人は逃げ出した。
街は何事もないように活気あふれている。そんな中にも闇が覆っているというのか。
中央の広場から少し横道にそれた後にまた現れる細道をかきわけていくと、敵のアジトがあった。30メートル以上あるその建物は、所々ヒビ割れていたり傷んでいたりとずいぶん尖った建造物で、ここに人がいるのかどうか、はなはだ疑問に思えた。
「何人いる場所なんだよ、もう…」
テッドは2丁拳銃をすでに取り出し、ゆっくりと建物の中に入っていった。
――――――
アジトは四角形の建物をしており、内部の外側がゆるやかな螺旋状の階段になっていて、真ん中は吹き抜けのようにポッカリと開いていた。それが30メートル延々と続いているのだ。30メートルのてっぺんまで登らなきゃいけないルールもないから、とりあえず少しだけ登ってみようと決めて歩を進める。
足元には蔓やガラスが散乱していて危険だ。テッドはいつどこから敵が来てもいいように、あくまでゆっくりと歩く。
15メートルほどまで登ってきた時、ここは本当はもぬけの空なんじゃないかとおもいはじめてきた。外気は暑く40度はあるのではなかろうか。テッドは宿屋でもらってきた、ラクダの皮に入った水を取り出しゴクゴクと飲んだその時。
ラクダの皮がはじけ飛び水がこぼれ落ちた。撃たれたのだ!
反対側の螺旋階段から、レザー姿の屈強な男が銃を連射しながら、
「キャハハーッ!ザコがアジトに入って来んなぁ!!!」
テッドは銃を取り出すと、適格に1発撃ち出し敵に命中させ、窓へと落ちて行った。
このくらいの知能の敵なら、油断さえしなければ大丈夫だろう。
始めの敵が乗り込んできたのを合図に、敵が次々と押し寄せて来た。テッドは被弾しないよう、慎重に鉛玉をブチ込んでゆく。20人以上倒した所で弾切れになり、敵のマシンガンを使い掃射した。このままだと色々やばい。そう思った途端、敵の気配が消えてしまった。敵を倒しているうちにアジトの頂上まで来ていた。
息を切らしながら頂上地点に目をやると、そこには図体のデカい生き物がグーグー音を立てて寝ていた。おそらくこのアジトのボスなのではないだろうか。
銃のリロードを終えたテッドは、試しに尻に1発撃ってみた。
すると突然暴れ出し、テッドの体に馬乗りになった!
「だれだおんめぇ~!!」
一言叫ぶとボスはテッドの顔を思いっきりぶん殴った。歯が欠け飛ぶ。
まずい。馬乗りにされて銃口もむけられない。完全に油断した。
危機一髪と思ったがその時。
ワイヤーが飛んできてボスの首回りに巻き付いた。
「なんだぁこんれは~!!?」
そのままボスは引っ張られ、建物の空洞に寄せられる。
「や、やんめろー!!!」
やがて空洞に引き寄せられたボスはそのまま空洞へと真っ逆さまに落ちて行った。
危ない所だった。が、しかし誰がこれを…。
「やっほー!」
ワイヤーをこちら側に張りつけ、滑車のようなものでテッドのいる地点まで来たその人物は、テッドの前までくると挨拶をした。
「いやー危なかったねー。顔痛そー。大丈夫?」
「大丈夫じゃない、が、ありがとう」
「私はリタ。魔導士プラス盗賊プラス、バウンティーハンター」
バウンティーハンター!?もしかしてこの手紙を狙いにきたのか?
テッドは念のため銃を構えた。
「…何が目的だ?」
テッドは静かにリタに訊ねると、リタは元気よく答えた。
「ここのアジト攻略で500000万金貨!イヤー助かったわー」
天然なのかどうかはわからないが、手紙の事は知らないようだ。
「ねぇ」
リタはスキップしながら言った。
「何?」
「キミが何者かなんて聞かないけど、1人でここまでこれた腕前は見逃せないな。実はね…」
「思わせぶりなのはいいから、早く言って」
「盗賊のアジトはここだけじゃないのよ!もうひとつあるの」
「なんだって!?」
「そこのアジトもやっつけにいけないかな?2人で」
僕は大事な使命を背負って旅をしているのだよなぁ…。テッドが悩んでいると、
「もちろん報酬もあげるわ。体が強靭になる実よ」
「なんだいそれは」
「銃なんかで撃たれても、限りなく耐えれるようになる実よ。いいでしょう?」
それは確かに魅力的だ。そんな実があるなら、もっと早く食べたかった所だ。
「…わかったよ。アジトまで案内してくれるんだろうね?」
「もちろん♪じゃあ早速出発しましょう!」
ーーーーーー
敵のアジトに行く前に、ガンショップで弾丸を補充し、医師に寄って殴られた所の応急処置をしてもらってから、2人はアジトへと歩を進めた。
もう一つのアジトはやはり中央広場から少し外れた細道を通った場所にあった。うんざりするくらいの茂みを超えると、建物が見えてきた。
「ここのようね」
リタは腰にかけてある袋から小さな棒を取り出し、手に握りしめシェイクするとながい魔法使いが使うような棒が現れた。そういえば魔導士と言っていたような。恰好は魔導士とは程遠いのだが。
円筒形の建物だが、上のほうは草や蔦で覆われていて高さが分からない。なのでこの場も真っ暗だ。テッドも銃をホルスターから取り出し、2人で入口から入ろうかどうしようかという時。
上空から幽霊のようなものが何体か飛来してきた。テッドは慌てて銃を発射するが当たらない。
「チカヨルナ…タチサレ……」
幽霊たちは攻撃してくるわけでもなく、2人に警鐘を鳴らしてくる。音が不快だ。
リタが魔法の杖を突きつけるとビームが発射され、幽霊が1体消え去った。
「やった!」
次々とビームを放ち幽霊を消してゆく。リタはなかなかの魔導士の腕前とみた。
幽霊も消え、再び入口のドアまで来た2人。中が見える小窓がついているので、そっと覗いてみる。
と!ゾンビのような人間が小窓にべたりと張り付いてこちらを驚かせた。うう…といううめき声の束が窓の向こうから聞こえている。
「これは…」
「1階でゾンビを飼ってるんだわ…」
かといってここでうだうだしていても仕方が無い。
「準備はいい?」
「OK!」
テッドは足で思いっきりドアを蹴るとドアは奥へと倒れ込んだ。ゾンビが両手を上げてがなり込んできた。テッドは2丁拳銃でドカドカとゾンビの頭に向けて撃ち続けた。ゾンビは奥からも大勢で、しかも飛び跳ねながらやってくる。リタはビームを放ちゾンビを掃討していった。
最後の1匹を倒した時にはゾンビが床にまみれていた。
「うええっ」
リタは気味悪そうに肩を縮めた。テッドは弾丸をリロードすると、見つけたはしごをつたって2階へと上がっていく。
2階は大広間になっていた。窓は無く、ドアが1か所あったがどうやっても開かない。とりあえず大広間の真ん中に来た2人は、
「どうしようか…」
「とりあえず油断だけはしないほうがいい」
そう言った時、2人を囲むように魔導士の群れが突如現れた。10体以上はいるはずだ。テッドは即時に銃を放ち魔導士の頭に当て消し去った。やった、今度は銃も効いている。
リタは腰の袋からキラキラした色んな色の魔法石のかけらを数十個ほど床に放り投げた。スローモーションで魔法石は床に落ちてゆく。そして魔法杖で魔法石をいじり始めた。
「リタ!こっちはもう持たないぞ!そっちも早く攻撃してくれ」
「もうちょっと…待ってて」
リタは杖を動かし、赤い石を縦に並べている。敵の魔導士が雷の魔法を発動し、なぜかテッドだけ攻撃をモロに喰らってしまう。
「いでぇっ…!!」
リタの魔法石の赤色が縦に揃った。
「発動!ファイヤーオール!」
リタが魔法杖を振り回すと全員の敵魔導士が炎に包まれた。阿鼻驚嘆の声を上げながら次々と倒れていく。
「ふう…あぶなかったわね」
「強力な魔法みたいだけど、もうちょっと早く発動してくれないかな」
「何言ってるの!これでも早い方なんだからね!」
小競り合いをしていると、この部屋に一つしかないドアがゆっくりと開いた。
「リタ、ここのアジトはさっきのアジトよりも、どこよりもやっかいだ。今のうちに引き返したほうが身の為なんじゃ…」
「何、弱気な事いってんの!どうやってもこのアジトは攻略するわよ!さぁ先にいきましょ」
リタはテッドの手を引きづるようにドアへと向かっていった。
3階はダンジョンのような迷路になっているようだった。2人は挟み撃ちに合わないよう背中を合わせながら、慎重に迷路に挑んでいった。歩いていると前から魔導士がやってきて詠唱を唱えて来る。魔法を放たれる前にテッドが銃で仕留める。
しばらく歩いて汗が噴き出してくる頃、真ん中付近に来たのか少し開けた間に辿り着いた。そこには棒状のものが立っており、先端にはボタンのようなものが付いていた。
「押せってこと、か?」
「簡単に考えちゃいけないよ、罠かもしれない…」
「えいっ!」
リタはテッドの忠告を無視してボタンを押した。すると、
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」
轟音である。思わず耳を塞いでしまう。
「なんだこれは一体!?」
「スクリーマーよ!早く倒して!」
「どこにいるんだよ!」
テッドはダンジョンを駆け足で捜索した。声が大きくなるほど近づいている証拠ということになる。走る事20分。テッドはやっと宙に浮く白い顔を発見、ミサイルを使ってスクリーマーを強引に黙らせた。
「やれやれ…」
「倒した?」
すぐ横には次の階へ進む階段があった。
「登るのか?」
「当たり前でしょ!」
「鼓膜が破れそうだよ全く…」
次の階も大広間になっていた。同じく窓もない。リタが見回すと、隅っこに何か気配を感じたので駆け寄ってみると、金色のゴーレムが震えているではないか。
「うおっ!これはマネーの匂いがする!」
テッドもリタの元へ駆け寄る。
「何かいるのかい?」
「見て!金ゴーレム!」
「金ゴーレム?」
テッドの視界には何も見えない。何かがおかしい。そう感じていると、向こう側から老人らしき魔導士が現れ、白い球を作り出した時、テッドは勘づいて叫んだ。
「リタ!それは欲にまみれた者だけに見える幻想だ!目を覚ませ!」
リタは聞く由もなく、魔法石をばら撒いて杖で石をいじり始めている。その間、老人の白い球はぐんぐんと大きくなってゆく。おそらくあれをリタにぶつけてくる気だろう。テッドは銃を撃って反撃するも、電磁的歪みのようなもので弾を避けられている。
老人魔導士はいよいよ球をリタに投げようとしている。テッドはリタをかばうしか策がなく、リタの背中に陣をとって銃を撃ち続けた。老人が白い球を投げつけて来る――――
テッドの背中に何本も矢で刺されたような痛みが走る。リタはハッとなると金ゴーレムはいなくなっていた。同時に老人魔導士のバリアのようなものも消えた。
「作った魔法を放て!」
「う、うん。発動ファイヤオール!」
老人魔導士は炎に包まれ塵と消えた。
「あれ、私今何を…」
リタが混乱していると、空色のドアがゆっくりと開いた。出口へとつながる階段だ。つまりさっきの老人がアジトのボスだったというわけだ。
「終わったな…頼むから今すぐ強靭になる実をくれないか。背中が痛くて立てないんだ」
「う、うん。いいよ」
リタが実をテッドの口に入れる。そうするとどうだろう。100%とはいかないまでも、かなりの痛みがスッと消えたではないか。少なくとも嘘ではないだろう。
「よくなった。帰ろう」
「うん。ありがとね」
2人は嬉しそうにアジトを後にした。
かくしてこの街にはゴロツキが居なくなったのであった。
―――――
とある場所に立ち寄った後、ネコパンチはふらりと酒場に立ち寄った。
ヨーコは宿でタバコをふかしてるか、寝てるだろう。
街の中央広場にある一番大きな酒場のドアを開けると、怒号に押しつぶされそうになった。ケンカをしてるやつらもおり、喧噪の中をかき分けながらカウンター席に辿り着く。
「何にする?猫ちゃん。ミルクかな?」
周囲から笑い声がこだまする。ネコパンチは素早く銃を取り出し酒場の主人に突きつけ言った。
「俺の名前はネコパンチだ、一生忘れるにゃ。テキーラ」
主人は愛想笑いでテキーラを多めに注ぐ。
全くこの街も他の街同様ロクなやつがいない。品性を求める方がおかしいって話か。
テキーラをチビチビやっていると、酒場の主人がカウンターの上に立ち叫んだ。
「今年もファスト・ドロウをやるぞ!トーナメント方式で、勝者1人が宝箱にある金貨を独り占めだ!勇気のある者、腕に自信のある者は手を挙げてくれ!!」
「俺は参加するぞ!」
うおおお、と客から怒号が湧き上がる。
「1人じゃ試合にならないぞ!もっといないか!!」
「私の名前も加えてくれたまえ」
いかにもなハンターらしき中年が名乗りを上げる。
「オレ、絶対シナナイ!サンカだ」
次々と名乗り出る中、カウンターにいた猫もまた、静かに手を挙げる。
「ネコパンチを加えておいてくれだにゃ」
「…あんた、銃撃てるのかい?」
ネコパンチはテキーラのショットグラスを上にほおり投げ、それを銃で撃ち抜いた。
クルクル回しながらホルスターに銃を収める。
「なめんにゃよ、やろうと思えばここにいるヤツ全員撃ち殺す自信があるからにゃ」
「…わかった。ネコパンチ参加」
再び客から歓声が沸く。
その後も次々と参加者が集まり、トーナメント表が埋まっていくのであった。
――――――
次の日―――ネコパンチは酒場の宿で目を覚ました。
そして視界にはヨーコがいた。
「たーらぁ!!!どこほっつき回ってるのよ!!」
ヨーコはくわえタバコで朝からかなりいらついていた。
「落ち着くにゃ…実は酒場主催のファスト・ドロウに出る事になって…」
「だれが命令した?」
「にゃっ?」
「誰がファスト・ドロウに出ろなんて命令したって言ってんのよ!!」
「まぁ…1位になれば金貨ももらえるしにゃ…最近心細いでしょ、金貨」
「勝手にしろ!!」
ヨーコはドアをバタンと閉め、どこかに行ってしまった。
「相変わらずヒステリックな人だにゃあ…」
ネコパンチは目をこすりながら、朝食をとりに1階へと降りて行った。
魚料理とテキーラ、最高の朝食だ。昼食でも夕食でもいいくらいだ。
食べ終わりかけに、宿屋の前の外が騒がしい事に気付き、何かと様子を伺ってみると、ファスト・ドロウの1回戦が早くも始まろうとしていた。野次馬の歓声だったわけだ。ネコパンチも野次馬の中に紛れてみる。
酒場の主人が叫んだ。
「私の持っているこの旗を振った事を合図に撃ちあう事!フライング等、守らない者は即、射殺する!相手が試合を放棄した者は敗者となり、立っていた者が勝者となる。なので必ずしも殺すわけではないのが注意点だ。いいか!?」
酒場の横には、ひょろ長い挑戦者が2人、距離を取って睨み合っている。
ネコパンチには挑戦者がド素人にしか見えず、少し引いていた。主人が旗を振ると、2人は動き回りながらバンバンと子供のように撃ち合っている。見ていられなくなったネコパンチは酒場の中へと戻り、テキーラをおかわりした。飲みながらトーナメント表を見ると、ネコパンチの順番は7番目になっていたので、まだ出番は先のようだった。それまでは食っちゃ寝させてもらおう。
ネコパンチはフラフラしながら階段をあがり、自分の宿へと消えた。
―――――
そんなこんなで6日間が過ぎ―――――ネコパンチが目を覚ますと目の前には酒場の主人がいた。
「出番だぞネコパンチ!外に出ろ!」
「もう出番かにゃ…魚を食べたいにゃ」
「勝ったら死ぬほど食わせてやる!さぁ!」
主人に引っ張られながら猫は酒場の外へと連れられて行った。
外にはチンピラ風情の男が立っていた。
「少しは楽しませてくれよ、猫ちゃん」
ネコパンチはあえて何も言わなかった。チラリと銃をみると整備されてないようなガラクタのような銃をぶら下げている。勝敗はすでに決していたが、あくまでこれは勝負である。2人とも配置に着いた。賭博が行われているので、野次馬で埋まっている。
ネコパンチは体勢を内股に構え、指をかすかに銃に届く距離で離れて添えている。これはネコパンチの本気の時の構えである。酒場の主人が旗を振る。銃声は悲しきかな一つを刻んで、チンピラは前のめりに倒れた。ネコパンチの銃からは硝煙が上がっている。客の1人がチンピラに近づいて喚いた。
「し、死んでる!」
野次馬からどよめきが起こった。ネコパンチは銃をクルクル回しながら叫んだ。
「死ぬ覚悟がないヤツは今すぐ棄権するにゃ!ガキの遊びじゃないんだにゃ」
客席はシン…と静まり返った。
ふと後ろに視線を感じたネコパンチは、後ろを振り返ったが、誰もいなかった。
ま、いいかと思った猫は銃をホルスターにしまってから、また酒場へ戻り、魚料理に舌鼓を打った。
それからも試合は続き、勝負の度に勝者と敗者が生まれていった。ネコパンチといえば、参加者はタダで食べられる魚料理とテキーラを飲んでは寝ている天国のような暮らしをしていた。今までのつらい旅を思うと、つかの間の休息だと思って過ごしていた。
5日後、2回目の勝負の時が来た。外へ出てみると侍のような男が立っている。
「いざ尋常に勝負!」
ネコパンチの強みは何と言っても銃撃戦の経験の多さからくる冷静さが売りだった。どんな男女でも感情を捨て、殺すことが彼には出来るのだった。
酒場の主人が旗を振る。今度は銃声が2つ聞こえた。当然のごとく、侍がしなりながら突っ伏した。侍は銃を撃てただけ少しはマシだった。が、所詮そこまでのこと、猫にはかすりもしない。野次馬はいよいよもってガヤガヤとし始める。やれやれという感じでネコパンチは酒場に戻り、魚料理に手をつけるのだった。
その日の夜である。ネコパンチが寝ていると、急に何者かに口を塞がれた。反射的に持っていた銃を相手の顔に向ける。
「いいかバカ猫…次の試合で負けるんだ」
ネコパンチは喋れなかった。口を塞いでる男は、銃口を突きつけられたのが意外だったのか、それだけを言い残し、ゆっくりとドアへと引き戻った。
「お前は誰にゃ!」
「…お前に勝たれちゃ困る男さ」
男はドアの向こうへと消えて行った。なんだったのか。検討がつかず仕方なくネコパンチは2度寝した。
男に襲われた次の日の日中は、ガンショップに行ってマイガンの清掃と弾道の調整をしにきた。ガンショップの主人が思ったより年寄りなので心配になったが、腕は確かだった。
「元々普段から掃除してるようじゃから、綺麗なもんじゃよ。弾道のブレもない。あとは弾丸いかがかね?」
そう言われて弾丸を1パック購入したネコパンチは、そのまま中央広場の屋台で魚料理を堪能した。帰りに酒場に戻ってきて、テキーラをチビチビやっていると、となりの客が別の客となにやらボソボソと会話をしている。耳をすますと…
「あいつの銃は本当に早いな」
「猫よりもか?」
「ああ、ダンチで早い」
ネコパンチはがなりこんで、その早いヤツを突き止める事もできた。しかし絶対の自信をもっていたネコパンチであったから、ここは黙ってテキーラを飲み干した。
「あと3回戦か…」
そう思い周囲を見渡すと、客のほとんどが猫に視線を向けていた、
「なんか俺の顔についてるかにゃ!?」
そういうと客は視線をそらした。何か分からないが嫌な気分だ。こんな時は寝てしまおう。フラフラと2階へ行き、自分の部屋に戻ってグースカと寝てしまった。
2日後―――――
ネコパンチは朝早くから身なりを整えていた。3回戦目ともなると、それなりの者がでてくるはずだ。だらけて試合に出てはいけない相手というわけだ。
だがしかしネコパンチは負ける気は全くしなかったので、気持ちの良い朝に変わりはなかった。
「ネコパンチ、前へ!」
酒場の主人に誘われて、酒場の横からヒョイと顔をのぞかせる。相手の顔が初めて見える。清純そうな青年が銃をいじっていた。全くどいつもこいつも命が惜しくないのか…。
2人は主人の旗振り待ちとなった。小さな生き物はいつもの構えでじっと相手を見据えている。相手の青年も緊張の面持ちで手を震わせている。
主人が旗を振った。敵の青年は2丁拳銃を取り出し、撃ちながらこちらへ駆けてきた!意外な行動だったので少し躊躇したが、すぐにホルスターから銃を取り出し撃とうかとした瞬間。
青年は周辺の一斉射撃を受けて倒れた。何が起こった。ネコパンチは主人の言葉を待った。
「えー…2丁拳銃はルール違反のため、クックル・ハートブレイクを射殺した」
そういうことか。でもラッキーだ。何もしなくても勝ち上がった。客は静まっている。歓声をあげる者はいなかった。とことん猫には冷たい観客である。ブスっとしながら酒場に入って行く。野次馬もチリジリに消えて行った。
テキーラをしこたま飲んでから、宿のベッドに横たわった。正直もううんざりしていた。早く大量の金貨とともにこの街から立ち去りたかった。そんな夢でも見れるよう願いながらベッドに寝そべった。
次の日―――――朝から1階の様子が騒がしいので降りると、客が楽し気にお酒を飲み交わしていた。どうしたのか主人にたずねると、この街に居ついていた悪党が消えたので、ショバ代を払わなくて良くなったので、お酒をおごるとのことだった。せっかくなのでテキーラを頼むと、
「いや、お前さんはだめだ、これから試合だからな!」
そういえばもうそんな時間だったか。準決勝試合に気合も入る。
「ネコパンチ、前へ!」
「へいへい」
ネコパンチはおなじみの酒場横の配置についた。
「ミスターシャドウ、前へ」
怪傑ゾロの黒い衣装版のような男がしゃなりとやってきた。
「ミスターシャドウ様~~~~!」
観客は敵側を随分大げさに押していた。シャドウコールが酒場横を占拠している。
「にゃんだこれは…」
「ネコパンチ君…といったかな」
シャドウは黒薔薇を取り出し続けた。
「君のはかない命も、もはやこれまで…覚悟することだ!」
野次馬から黄色い声があがる。どうせ騒いでいるのは、賭博でシャドウに賭けているギャンブラーだけだろう。ネコパンチに勝たれてはいけない人達がいる。つまりはそういうことなのだ。
「では健闘を祈る!」
主人が旗を上に掲げる。まだ撃ってはいけない。主人が上げた旗を振った時が、その時だ。
主人が旗を振る。銃声は一つに聞こえた。ミスターシャドウは呻くように言った。
「どうですか私の力…私の全て……」
シャドウはそう言ってバタリと倒れた。心臓を貫通していたからだ。
ネコパンチは立ってはいたが、いつもと様子が違っていた。肩を撃たれたのだ!
「ネコパンチ、平気か?」
主人はネコパンチに叫ぶ。
「あ、ああもちろんだ」
「ではこのまま決勝戦を行う」
「ちょまっ…ちょっと病院に行きたいんだがにゃ」
「だめだ。大丈夫とさっき言っただろう」
そういうと、シャドウが運ばれて行き、全身真っ黒な衣装の男が顔を出した。
こちらは肩を負傷していて断然不利である。さすがのネコパンチも不安が付きまとっている中、もぞもぞしていると、ポツリポツリと、突然雨が降ってきた。ネコパンチは雨を降らせた人物の予想がついたので、ため息が出た。
「こんな天候でもやるのかにゃ?」
「雨天決行!あんたも構わないな?」
「俺はいつでもいいぜ」
黒い男はずぶ濡れになりながらも、高速で銃を回して遊んでいる。かなりの手練れにはちがいなかった。こちらは肩をやられているので、手ブレする可能性があった。
雷雨の中、2人は主人が旗を振るのを待っていた。
観衆は酒場から顔を覗かせていた。雨で体温がどんどんもっていかれる。早く旗を振れ。珍しく気持ちが急いている。
主人が旗を振る。タターーンと銃声が不思議と2発に聞こえた。敵はネコパンチの肩を再び狙ってきた。被弾してしまい絶叫する。敵の心臓付近には何故か2発の銃弾が当たっていた。
「こんな…なにを」
黒い男はうずくまるように倒れた。
後になって分かった事だが、敵に当たった2発の弾丸は、一つはネコパンチのもの、もう一つは背後からの応援弾だということがわかった。バレていたら射殺ものだったがバレずに良かった。
「優勝、ネコパンチ!」
拍手をする野次馬は一人もいなかった。が、1人がネコパンチに駆け寄ってきた。
「さあ病院にいくわよ!」
ヨーコだ。すぐ近くで見ていたのだろうか。とかく病院送りになったネコパンチは治療を受け、金貨はヨーコが受け取った。
「いやーやるとは思ってたけど、やっぱりやってくれたわ、さすがよねー」
これで宿代とタバコ代には事欠かないと、ホクホク顔のヨーコであった。
「あんただけの金貨じゃにゃいですからね」
腕に包帯を巻いた猫が、助手席で静かにつぶやく。
「なに湿気たツラしてんのよ!景気よくぱーっと郵便屋を追いかけましょう」
「郵便屋のことなら心配ないにゃ。こちらからおびき寄せるからにゃ」
―――――
病院から出て来たテッドは、心の底からため息を吐いた。
リタという娘とアジトを2つ攻略して、心身ともに膠着状態にあったのだ。
もう宿でゆっくりと眠りたい。徒歩でトボトボと歩きながらそんな事しか思い浮かばなかった。
やっと宿に着くと、以前見た老婆たちが再び待ち構えていた。
「郵便屋さん!待っていたよぉ」
「さっきギルドで確認してきたよぉ!アジト殲滅お疲れ様だよぉ」
「はいはい、お礼はいいから寝かせてくれ…」
そう言うテッドの腕をガッシリと老婆が掴む。
「まだ何か用事でも!?」
郵便屋は声を荒げた。もううんざりしている気分に水を差したのだ。
「あのぉ…もうひとつお前さんに頼み事があるんだがね」
「どうしてもやってほしい案件なんだよぉ…」
「無理!!」
テッドは老婆の手を振りほどき、宿に入ろうとした。しかしまた老婆たちの手がテッドの手を掴んで離さない。
「あーもう何!?何なの!?」
テッドはもう、やけっぱちになりながら雄たけびを上げる。
「この街には1年に一度、大きなお祭りがありますじゃ。もうすぐなんじゃが、そこでバンドに加わって1曲、曲を披露していただけませんかのぅ…?」
「バンドマンが足りなくて困ってるんじゃのぉ…」
テッドはあきれ顔で言った。
「正気で言ってんの?僕は多くの人に狙われてる身なんだよ?第一そんなスキルないんですけど?」
「そこをどうかひとつ、おねがいしますじゃ…」
「皆、楽しみにしてる一番の見せ場じゃからのぅ…」
悪夢である。アジトを2つ潰した後は、祭りでバンドをやれと?狂っている…何もかもが。すでに思考能力は停止し、思わず口にした。
「わかった…わかったから寝かせてくれ……」
「ありがたいありがたい…」
「みんなも喜ぶよぉ…」
テッドは宿に辿り着き、ベッドにボフッと倒れ込み秒で寝た。
―――――
次の日の朝。夢もみなかったので、一瞬でワープしてきた気持ちだ。昨日の事を思い返していた。そうだ、バンドだ。再び意気消沈する。背中の痛みは完全にとれていた。強靭の実は相当効いているようだ。どこで摂れるのだろうか。
窓を開けて外を覗くと、老婆たちがすでに外で待機していた。逃げる事もできないらしい。この老婆たち、かなりガードが堅い。テッドはつくづく嫌になった。
「郵便屋さま~こっちですじゃ」
老婆は車に乗っている。
「これで行くの?」
「これで会場までご案内させていただきますのじゃ」
車に乗ったテッドは、勢いよく走る車の運転に驚きながらも街の中央広場まで揺られていった。
今日も皆威勢よく商売に勤しんでいる。アジトも無くなり、より健全に動いていくことだろう。
「ここですじゃ」
降りると、中央広場の真ん中にバカでかいステージが広がっている。観客の規模を物語っていた。
「ちょ、こんなに広いの!?」
「周りには沢山の出店もでますし、みんな楽しみにしてるんですじゃ…どうかよろしくおねがいいたしますえ」
「はっきり言って迷惑かけるだけだと思うよ?」
「郵便屋さんなら、しっかりこなしてくれると信じてますのじゃ…どうか…」
その確信はどこから来るのだろうか。老婆たちはステージを降り、車で早々と立ち去ってしまった。
ステージを見回すと、端っこのほうに数人の塊があるのを発見した。バンドメンバーだろうか。近づくと楽器の音がしてきたので間違いないだろう。
「あーやる気がしねぇなぁ…」
バンドメンバーの一人が愚痴をこぼしている。
「あの…」
テッドは勇気を振り絞ってバンドメンバーに声を掛ける。
「おっ!新人か?」
「新人が来た!」
バイトメンバーは突如テンションがあがり、テッドを取り囲んだ。
「あたしはボーカル&ギターのミラ」
「俺はギターのジミー」
「僕はドラムのキミヲ」
テッドは八ツとなった。
「ということは…」
「そう、ベースが逃げていってしまったってわけよ。あーもう本当にやってられねー」
そういうとジミーは仰向けに突っ伏した。
「キミは…ベース弾けたりするのかな?かな?」
「すいません初心者ですが…お手伝いするように言われたのできました」
「おお!新メンバーってわけか!」
ジミーが紙っぺらを取り出し、叫んだ!
「ここにあるのは、ベースを2週間でマスターできる方法が書かれた紙であるっ!これさえあれば誰でもベースが弾けるようになるから安心したまい」
「あの…祭りはいつなんですか」
「2週間後」
「ええええええええええええええええええええええ」
2週間ギリギリでベースをマスターして、さらに新曲を披露しなければいけないと言う事なのか。
「ベース君はとりあえず1週間、宿にこもって練習あるのみ。それから1回会って音合わせをするぞ。ベースは自腹で買ってね。あ、それから」
「新曲の歌詞がまだ決まってない。全員歌詞を書いてくれ。ウチのバンドは結束しているからな」
やることが多くて無茶すぎる。とにかく一刻も早くベースを手に入れて練習したかった。
「楽器屋まで来るまで送ろっか?」
ボーカルのミラが優しい一声を掛けてくれる。お言葉に甘えて楽器店まで車で乗せて行ってもらった。
「名前はなんて言うの?」
ミラが不思議そうに尋ねて来た。
「えっと、テッドです」
「テッド君ね、ついでだからいい感じのベースを選んであげるよ」
なんて優しい子なんだろう。ハニートラップじゃない事を祈りながら思いのままにミラに任せてみる。
「テッド君は初心者だから…このくらいのでいいんじゃないかな」
黒い照りを見せているカッコいいベースである。型番は知らない。
「ちょっと肩に掛けてみてよ」
テッドはベースを肩に掛け、鏡を見つめた。間抜けな姿が逆にカッコよくも見えた。
「いいじゃん!そうれにしなよ」
「う、うん…」
店員に金貨18枚を渡した郵便屋は、俄然気合いが入ってきた。あとは宿屋に戻ってひたすら1週間練習するだけである。
「じゃあ頑張ってね」
ミラは宿屋の前まで車を走らせてくれ、テッドを下ろして帰っていった。テッドは宿屋に入り、兼ねている酒場へと歩を進めた。
「主人!ビール!」
郵便屋が酒をのむのは、ごく珍しい事だったが、飲まないとやっていられない案件に突入した時は飲んで良しとのお達しがある。そこでテッドはビールを3杯飲んだ。ベースを肩に掛けたままだったので弾き流しと間違われた。
フラフラと階段を上がり、やっと自分の部屋に到着する。上着を脱ぎ、手紙の入ったポーチはぶらさげてベースを装着し、ジミーからもらった2週間でベースを弾けるようになる方法という本をぺらりとめくった。
しばらく本を眺めていたが、
「コードとかいっぱいあるんだなぁ…まずはコードの習得からいきますか、ボブ流で」
宿屋の2階の角部屋からは、朝までベース音が漏れ聞こえていたのだった。
朝―――――
「朝までやってしまった―――――しかもまだ眠くない―――――ベースを弾いていたい―――――」
テッドは宿から出て酒場に行き、ビール3杯を口にしてから再び部屋へ戻って来た。
「まだ眠くない―――――本に書いてあるミッションをっこなしていきたい―――――」
そう言ってテッドは再びベースを弾き始めた。
ジミーの本は、読んだ者を中毒にしてしまう本だった。そういう意味では名著とも言えた。
テッドは今日も寝ずに夜までシャカシャカとベースを弾き続けた。
そのまま夜中までやっていると指から血が噴き出した頃、始めてテッドはハッとした。初心者は指が柔らかいので、血がでるのはあるあるだ。
指に絆創膏を貼って傷口を塞ぐ。もうこれ以上はしばらく弾けないので我に返ったテッドは寝ようかとも思ったが、夜風に当たりたくなり、銃をホルスターに入れて外へと飛び出した。そのまま中央広場へと向かう。
夜中にもかかわらず、1杯飲めるような出店がいくつか明かりを灯して客待ちをしている。そのうちの1軒に潜り込んだ。
「いらっしゃーい!」
「らっしゃい」
そこには店の親父と10歳くらいの息子が働いていた。
「こんな時間まで働いてるの?偉いけど大丈夫?眠くないの?」
テッドは10歳くらいの子供に刹那気に声を掛けた。
「うん!平気です!それよりビールでいい?」
「あ、ああ…それとつまみもなんか欲しいかな」
そうして何十分かはお店で談笑しながらビールを飲み続けた。
親父がテッドの指を見て言った。
「おや、旦那さん指ケガしてるじゃないですか。なにかあったんですかい?」
「これはね~話せば長くなるんだけど、バンドやることになってぇ~」
テッドはすっかり酩酊している。店の親父と息子は不気味なアイコンタクトを取った。
「あ、テーブルかたしますね~」
少年がテッドに近づいた。
チョキ―――――――
僅かな音がしたような気がしたが、気のせいかと思いビールをグイッと飲んだ。
チョキ―――――――
今度は確かに音がしたのをテッドは見逃さなかった。ポーチに手紙がない!
「逃げろ息子!」
店の親父が叫ぶ。息子が手紙を持ってダッシュし逃走を図った。テッドは振り返りざま取り出した銃で息子めがけて躊躇なく1発発射した。少年は前のめりに倒れる。テッドは少年に近づき手紙を奪い取る。倒れた少年からは血だまりが広がっている。
「この野郎!息子を殺しやがった!!」
店の店主は息子の前で肘をついて泣いた。
「命令したのはあんただろ。AAAは甘くはないぞ」
銃をホルスターに収めた郵便屋は、そのまま振り返りその場を後にした。
やはり誰からも狙われている。祭り会場からも狙ってくるヤツは必ずいるだろう。しばらく歩きながら考えていたが、ふと何か浮かんだテッドは、宿屋に戻ると自分の使っているベースを持ち出し、そのままガンショップへと向かったのであった。
次の日の朝―――――――
強靭な実を食べたせいか、翌朝には指は完全に回復していた。ビールを飲み過ぎて少し頭が痛いが、ベースの弾きたさがそれをはるかに上回っている。目の色が変わり始める。早くミッションをこなしたい!
テッドは早速、朝食もとらずベースをかき鳴らした。ミッションをドンドンこなしてゆく。難易度は高くなっていくが、不思議と苦にはならなかった。その後もテッドは睡眠も食事も削って、ひたすらベースを弾いた。
宿屋の主人がテッドを訪れ、
「ちょっと!音の苦情がきてるんだけど…」
と言ってきたが、テッドの耳には入ってこなかったので、そのまま無視してかき鳴らした。主人はあきれ顔で部屋を出て行った。
そうしてバンドマン達との待ち合わせ日である1週間が過ぎた。
ジミーやミラたちがおぼろげに音を出している会場に、テッドはベースを引っ提げて現れた!
「お、きたね」
「逃げなかったのは褒めてやる」
テッドの目にはクマができており、只ならぬオーラをかもしだしている。
「僕の演奏、聞いて下さい!!」
バンドマンはテッドを囲むようにゆっくりと座った。
―――――――デデデデデンデデデドドドドダダダ、ヂュイーンドドダダ…
ジミーは目を輝かせ演奏を聞いていた。それをミラが嬉しそうにみつめている。
「どうでしたか、僕の演奏。とりあえずミッションは全てこなしました」
ジミーはグッドの手だけでテッドを評価した。
「さすが俺様だよなぁ。俺の本がなきゃこうはいかないぜ」
ジミーは立ち上がると、
「よーし今度は残りの1週間で新曲を作るぜ。曲は俺が作るが、作詞は全員のを見てみたい。翌日までにみんなで作詞を書いてくれ。いいやつを採用する」
えええ…!テッドはまたもや壁にぶち当たった気分だった。自分に作詞なんかできるのだろうか…。
「それじゃあ解散だ。明日を楽しみにしている」
それぞれチリジリに自宅へと戻っていく。テッドも自動車で帰路についた。
その日の夜は、食堂のカウンターで出された食べ物をスプーンでいじりながら、ずっと作詞のことを考えていた。どうしてもモヤモヤが晴れずにいる。丁度向かいにいる食堂の主人に思わず訊ねてみた。
「主人、主人が歌の作詞をするとしたら、どんな詞を書く?」
「そりゃあんた、『人生』を書き切るにきまってまさぁ!浪花節だよ」
そうか。人生を振り返るなら多くの事がありすぎる。どこか雲が飛んでいった気持ちになった。飯をかき込みながら、
「そうか…人生か!浮かんできたぞ…!ごっそさん!」
そう言ってテッドはご飯を食べ終わると、自分の宿に引きこもった。
今まであった多くの事。つらい事嬉しかった事、ありったけ詰めて作詞に勤しんだ。
夜過ぎても、テッドの部屋の明かりはついたままだった。
翌朝――――――――
「何とか…できた!」
一夜漬けで書いたテッドの作詞は、自分の人生経験を元にして書いた泥臭いものだったが、大いに満足した大作の出来だった。
「急いで会場いかなきゃ!」
寝ていないのもお構いなしに、ベースを持ってバンドマンのいる会場まで自動車で一気に向かう。
会場にはいつも通りのメンバーが揃っていた。
「はぁはぁ…僕も作詞してきました、良かったら見てください」
「おぅ、君が最後だ、拝見させてもらおう」
テッドはジミーに紙を渡すと、目をこすりながら評価を静かに待った。最近ろくに寝ていない。少しは寝ないとやばいかもしれない。
程なく、ジミーはブワッと涙をこぼした。どうしたどうしたとメンバーが焦っていると、
「あんた…すごい人生歩んできてるんやな…」
「はは…人並みには生きてるつもりですので」
「決めた!作詞はテッド!」
おおっと皆からどよめきが巻き起こる。
「おめでとう、テッド君」
ミラも拍手で素直に喜んでくれた。
信じられない!自分の作詞がまさか通るなんて!
ジミーは涙を拭きながら、
「じゃあこれから1日でこれを元に俺が曲をつくるから、明日からは毎日音合わせに来てくれ。じゃあ解散」
―――――――
エンダー街のお祭りが刻一刻と近づいてきている。音合わせの期間は時間が決まっているので、テッド自身規則正しい生活ができた。ベースの調子も上々である。ミラの歌声も初めて聞いたが、美しく透き通った良い声をしていた。そんな声で自分の作詞を歌われると気恥ずかしかったが、同時に嬉しくもあるのだった。
音合わせの期間もあっという間に過ぎ、お祭りが盛大に始まった!いきなり花火が打ちあがり、テンションはマックスだ!
バンドの出番は最後のほうなので、テッドは出店に寄ってイカ焼きやタコ焼きを食べたりした。それにしてもすごい人手である。浴衣を着た大勢の人の波をかきわけるだけでも大変だ。りんご飴をかじってる時に、人に声を掛けられた。
「テッドさんですよね?」
「ああ、君はAAの…」
「プレロと申します。今月分の金貨の支給を渡しにまいりました。こんな場所ですみませんが…」
「ありがとう。僕今日、舞台でバンドするんだ。良かったら見に来てよ」
「そうなんですか!ぜひ拝見します」
プレロと別れたテッドだったが、まだ少し時間がある。チョコバナナや焼きそばなどをたしなんでみた。
そろそろ時間なので、舞台裏にベースを持って駆け寄ると、メンバーが集まっていた。
「頑張ろうね!」
「はい!」
アナウンスが入る。
「次の出し物はジミーズによる演奏です!」
ワッと歓声があがり、幕がゆっくりと上がってゆく。
「ジミーだ!今日は楽しんでくれよな!ワンツー!」
演奏が始まる。
♪僕は1人 荒野を駆ける 色んな傷 常に埋めながら
歌が始まる。意外と演奏に緊張はしなかった。演奏が始まると、怪しい人物が何人か前ににじり寄って来るのがステージ上でもわかった。
♪戦う事でしか 前に進めない それが僕の 僕のさだめ
曲が終わりかけた時、怪しい人物たち数名が銃をこちら側に構えて来た。テッドは焦らずベースの下部分を横に掲げ、キラキラした物体をドカンと発射する。視界は塞がれ歓声だけが聞こえて来る。
キラキラが無くなった頃にはメンバーは舞台から完全に消えていた。かくしてメンバーによる演奏はクライマックスで無事、終えたのである。
――――――
フラフラした様子で宿屋に帰った郵便屋の姿があった。やるべきことはやった。後はもう眠ることしか頭になかった。
ポーチを枕に隠し、銃を片手でつかむと即座にベッドに横になると、すぐにいびきをかいたのだった。
夜に起床したテッドは心底陰鬱だった。寝すぎたためである。帽子を脱ぐと金髪のアホ毛がビョンと弾み震えた。上着を着て拳銃をクルクル回し2丁をホルスターに収めた。
夜なのでモーニングサービスもない。そのままドアを開けようとすると、ドアの下のスキマから紙が出てきている。なんだろうこれは。寝ぼけまなこに書かれたメッセージを読む。
「最後の中継街エンダーで銃によるファストドローを挑む。最後の戦いにゃ。毎日18時、エンダー街の大きな時計台で待つ。―――ネコパンチ」
印鑑代わりに、黒色の肉球が押されてある。
(あの猫族、ネコパンチって言うのか…しかし僕が寝ている部屋を判別してたのか…まいるなぁこういうの)
宿の主人に宿屋台を払いつつ、コーヒーを1杯お願いした。良い目覚ましになる。車のエンジンを吹かせて宿屋を後にする。大統領のホワイトハウスまであと半分にも満たないので、テンションは上がっていた。
ファストドローには溜息しか出なかった。僕はファストドローが訓練所の時代から一番得意だったからだ。
しかし目的の為には手段を選べない。鉄則だ。僕の邪魔をする者は全て敵とみなすべし。AAAの大事な言葉。だから僕は感情に流されない。敵と分かれば空気のように人を撃ってゆく。
そんな事を考えていたら、出口の門に到着した。一時停止をして双眼鏡で門の周辺を観察する。どうやらマキビシチェーンもなく大丈夫そうだ。そのまま前に進め、門をくぐり無事出口を通り過ぎた。あとはスピードを上げるだけだ。慣れている道なので気も楽になった。車用の電気パックもいっぱい積み込んでいた。戦闘用レーション(戦争時のパン)は買わなかったが、元々小食なのであまり気にしなかった。そして拳銃2丁。弾をポーチのように肩からかけていた。
馴染みがある暗い森の中をひた走っていた。車一台通れるかどうかという夜のケモノ道だ。持ち帰り用のコーヒーを飲みながら片手運転をしていると、前方から怪しい影がかすかに見えた。車をハイビームに変え、双眼鏡を覗くと。
突然いくつもの火の玉がテッドの車に向けて放たれて来た。そのうちの1、2発が車に直撃するも、頑丈な車の為フロントガラスはビクともしなかった。
車のスピードを出して、突っ込んで当てる事も考案したが、相手が女性だった場合、大変な頭痛に見舞われる事になってしまうので悩ましい。
とにかく姿を見ないと話にならないので、徐行しながら相手の方に近づく。大きな帽子と細かく刺繍された上着を膝まで来ている。見た目はいかにも魔術師といった具合だ。しかも近づくと幼女と分かり、テッドは頭を抱える。
再び火の玉を飛ばしてきたが、全く支障はない。
(もしかして、まだ魔術師レベルが低いんじゃないだろうか)
考えてる間に、また魔術師が現れた。
そして魔法で竜巻を起こしてきたが、宙に飛ぶわけでもなく、全く異常はなかった。やはり自分の考えは正しかったようだ。テッドは車の窓を上げて、
「あのー君達に関わっている時間はないんだ。道をあけてくれないかい?」
僕がそう言うと、幼女たちが4人ほど増え、道を完全に封鎖されてしまった。肩に鳩をつけたリーダー格の幼女が代表となって僕に叫んだ。
「空飛ぶ紙袋団を壊滅させた人です‼」 「なのです‼」
そう言えばそういう団体もいたなぁと思い出すと、すなおに疑問を吐いてみた。
「どうしてその事を君らが知ってるの?」
「この鳩が手紙を持ってきたです‼」
鳩か。鳩がそんなに正確なら、僕は職を追われる感じになるなぁ。
「空飛ぶ紙袋団とは同盟関係にあたるのです‼」
「です‼」
テッドは大いに悩みながら、口を開いた。
「紙袋の件はごめん!でも君達はもっと修行してレベル上げた方がいいよ?紙袋団もすごくモロかったし」
鳩リーダーはちょっとショックだったのか、闇の中に消えてしまった。他のメンバーもそれに続いて闇夜に消えて行く。
僕は空暗い中、ハイビームで徐行運転をしながら様子を伺っていたが、どうやら魔術師幼女軍団はいなくなったようで安堵した。
それからは特に何のイベントもなく、車のビームを頼りに暗い道を進んだ。
問題はここからだ。
夜明けが近づき、森をもうすぐ出ようとした時だ。
出口に、2足歩行で棒を持ったゴリラ2匹が道を塞ぐように立ってこちらを眺めている。
僕は訓練所生活での1件を鮮烈に覚えている----
訓練所生活の時、みんなで一人の部屋に集まって下らない話で盛り上がっていた。その中で『1番強い動物は何か』と言う話題をだれかが投げかけた。カバやライオンなどが出て来る中、メンバーの一人が
「棒を持ったゴリラだな。あとは大きくなったカマキリ。考えても見ろよ、ゴリラだけでもやばいのに棒をもってるんだぜ?」
その話題通りの動物が今、ここに立ちはだかっているのだ。しかも2匹。
「おおおーっ‼」
と叫ぶとゴリラはこちらに突進してきた。今までで恐らく1番、畏怖したかもしれない。
ゴリラは手持ちの棒を使って車を叩き始めた。1匹は車のボンネットに登り叩き始める。耐久性は抜群な車なのに、叩いた箇所が軽く凹んでいる。
何?何が目的なの?車の窓を開けながら銃をうちたいのだが、絶対危険である。とりあえずベレッタを構えたテッドであったが扉を開けるのは自殺行為とも思える。
今はとにかく突き進むしかない。幸い道が開いたので、全速力でスピードを上げた。そして急ブレーキを踏むと、ボンネットにいたゴリラは車から倒れた。そのスキを突いて再びスピードを上げる。
ゴリラは追いかけてきたが、遠くに離れていき見えなくなった。
「何だったんだ…夢に出て来るよ絶対…!」
そのままスピードを落とさずに、最終中継所のエンダー街へと向かっていった。
エンダー街の名所である大きな時計台に2人の姿があった。
「ハクシュ‼」
猫族は、この寒い中スーツだけなのは真面目につらいのだった。
「今日はもう郵便屋来ないにゃ。帰ろう」
猫族の隣にいる女性はタバコをくわえながら言った。
「あんた、絶対に勝てないわよ。それでもやるの?」
「オス猫は負けると分かっていても運命を感じたら、徹底的にやるんにゃ」
「ネコパンチ…」
ヨーコは吸い殻をタバコポケットにねじ込み、
「もう帰ろう」
と言いながらスタスタと宿へ歩を進めた。
「コートの1着ぐらいはほしいんだがにゃあ」
そういって猫族は女性の後ろを追った。
夜中から朝までドライブしまくっているのだが、朝は気持ちが実に晴れやかだ。なにより知っている道を走るのはとても安心感があって、勇気がわいてくる。
しかし最後の中継地点になかなか着かない。こらもまた手慣れた街なので、それだけが不安だった。
「街が引っ越し?いやそれはない」
それでも街に到着し、街をグルっと回ってから、門を見つけ入って行く。門番はさすがにAAAの存在は知っていたようで、
「お仕事お疲れさまであります!」
と丁寧な口調で敬意をはらっているような言動に身震いする。
戦争用パンであるレーションとミサイルを買い込んで、最後に好物の新鮮なトマトにかぶりついた。
ファストドローがあるなぁ。とにかくここらでケリをつけたいようだった。ネコパンチがたおれたら気象強行士も、もう追っかけては来ないだろう。
せっかくなので1泊しようと、宿を探してから敢えて外食はぜず、宿の料理人にオムライスを注文し、最後の戦いのため蹴りやパンチ、一本背負い投げなどの特訓しているとさすがに汗が頬をつたう。
腕に自信のあるヤツは、ホワイトハウスの直前で待機してるのだ。
ベルボーイがオムライスと炭酸水を持ってやってきた。ベルボーイにチップを渡し、ドアを閉めた。
そしてこの炭酸水はガスを使って人口的につくられた炭酸ではなく、山脈から取れる自然の炭酸水である。当然値段もやや高い。
おいしいオムライスを食べながら、これから起きる事を心の頭の中で整理を整理する。
ホワイトハウスの周辺には、手練れの強盗団や単独異能者が多く現れる。ここで見張っていれば手紙をもった郵便屋が往復してるのが分かり、手紙を奪い取りやすいわけだ。なので大統領に手紙を渡すまでは耐えきるしかない。
だから銃も新たに買った。最後のヤマである。
心が重いのは、18:00からのファストドローだ。毎日待ってるらしいので、今日はさすがにいかねばならない。
それより眠いのがまずいので、タイマー付きの時計を借り、17:30とセットし、郵便屋はまた二度寝をした。
17:30
時計の音がうるさいので速攻で止める。そうかファストドローなのか。リボルバーだけで事は済むだろう。
スピードローダーを2つポケットに入れる。
風がとても冷たい。ただテッドのコートは暖かいので、まだ耐えられる範疇だった。
徒歩でも、時計台までそれほどかからないので、歩くことにする。
この街の名所は大きな白い時計台である。さすがに地元の人は、さほど気にはとめてないだろう。
18:00ちょうどに時計台前まで行くと、2人の影が見えた。例の女性とネコパンチである。
「やっと来たにゃ?」
テッドは言葉を選んで、語りかけた。
「ネコパンチ。君はすごいガンさばきだ。僕が今まで出会った中での刺客としても1番強いガンナーだ。でもファストドローは僕が1番得意としてきたものだから。命をムゲに捨てることはない。」
「それはこっちのセリフにゃ。気候も風もない正常な場所で、どれだけ早いかわかってるのかにゃ?」
ネコパンチは銃を取りクルクルと回しながらほたホルスターに収める。そしてヨーコは叫んだ。
「ルールを言う。時計台が音を立てて6:44分をさしたら、私が合図する。そして時計台が1分後の6;45分に針が移動した瞬間にホルスターから抜いて撃つこと。フライングしたら私が銃でしとめる。ネコパンチもそうだぞ?」
「はい了解」
「承知したにゃ」
しかし今は6:32分。目的の6:44分まで時間がたっぷりある。郵便屋はその場であぐらをかいて、銃をホルスターから抜き、銃を手になじませるようにゆっくりホルスターに収める。
ネコパンチも座り、目をつむってそのまま全く微動だにしなかった。ヨーコは焦りを隠すようにタバコに火をつける。闇に赤い点が浮き上がる。
「開始1分前!」
ヨーコが叫ぶと2人はスックと立ち上がった。手をホルスターぎりぎりの所まで持ってくる。長い時間に思えた。僕はもう体にガタが来ていたが、それを見透かされたら闇に向かう。
ネコパンチもホルスターの手前で銃を掴もうとしていた。猫には以前、5発ほど鉛玉を受けている。あなどれない。僕が死んだら手紙は闇市で高額で埋もれてしまう。
これは命のやりとりである。時計台の音に完全集中する。
時計台がギイィと音が鳴った瞬間、バン!という銃声が外に手短に伝わった。
2発ではなく、1発の銃声に思えた。
「痛えええぇぇぇ‼」
あしのももを押さえてポストマンが先に倒れた。ネコパンチは仁王立ちしている。
(ポストマンに勝った‼)
そう思いながらネコパンチに向かう。
「やったね猫!」
そうして近づいてみると、ハートブレイクを食らっていたネコパンチは喋ることさえ出来ず、そのままうつ伏せに倒れた。
「ネコパンチ‼」
ヨーコはくわえていたタバコを落としてしまう。テッドは言った。
「君はもう故郷に戻るんだ…故郷はみんなあるはずだろ…?」
ヨーコはポストマンに銃を向けた。
「ホローポイント弾をまた浴びたいのかい?」
ヨーコは次第に銃を構えるのをやめ、涙を隠そうともせず猫族を抱えた。ヨーコが人生の中で泣いたのは、故郷に火を付けられて以来だった。
「それでいい。君に恨みもない。だから僕をは医者まで車で届けてくれないか?お願いだ」
ヨーコはネコパンチを殺した人間を車に入れるのをためらったが、天才的なガンナーのネコパンチを倒した人間である。
「この子の墓を手伝ってくれたら、乗せるよ」
「…もちろんいいとも…痛た…」
そう言って2人は和解し、一緒に車で医者の緊急外来へと急いだ。
医者は郵便屋のももから銃弾を取り出してから、言った。
「前の医者からも言われなかったかね?もう体中が限界にきていることを」
「そうですね…言われましたね…」
麻酔が効いてるので痛みはほとんどなかった。テッドは話を続ける。
「ホワイトハウスの周辺が一番強盗団、刺客が多いんです。死にかけてでもホワイトハウスに入らないと…」
「ふうん…」
医者は困惑していた。
部屋の開いたドアの入り口にヨーコもいた。タバコを切らしてしたので中毒性からの貧乏ゆすりが止まらない。
医者は困りかけた様子で、天井を眺めていたが、何とか医師は口を開いた。
「君は世界で数人しかなれないトリプルエーなんだ。体を傷つけずに何とか戦い、そしてホワイトハウスまで行ってくれないか」
「…そのつもりです。もう僕はこりごりなんですよ。麻酔が収まったら、すぐにでも出発します。それから君の名前は?」
「私?ヨーコだけど」
「ホワイトハウスまでの道中だけでいいので、助けてくれないか」
「まぁ…いいけど」
急な依頼にとまどいを隠せないヨーコは貧乏ゆすりをピタと止めた。
「充分に気を引き締めて行ってきなよ」
そう言うと医者は部屋から出て言った。
森の獣道を1台の車が猛スピードで駆け抜けていった。
運転手はヨーコ、その隣でぐったりしているのがAAAのポストマンだ。
あまりにも力無く揺られている郵便屋を見て、思わずヨーコは疑問を投げかける。
「あんた、本当に強盗団全員やれんの?」
ゆっくりヨーコの顔に郵便屋は頭を向けて、
「…やらなきゃしょうがないじゃないか…」
力無くそう言ったテッドは、再び車の揺れで左右赴くままに揺れている。
(本当に大丈夫なのかしら…)
そんな事を思いながら久しぶりのタバコに火をつけ、気持ちを落ち着きつかせる。
ポストマンはただ揺れてるだけのように見えたが、風景をしっかり視認していた。
そしてドアの窓を少し開け、手を出し『風』の感覚を掴んでいた。
「…気味悪い位に無風だ…」
そう呟くと窓を閉め、再び体をシートに沈めて揺れていた。
もう1時間は走っただろうか。ヨーコの持っているタバコが少なくなっているので舌打ちをしていると、
「車を止めてくれ!」
急に言われたヨーコは慌ててブレーキを踏み、車を止める。
郵便屋は先ほどやった行動、窓を少し開け手を出し、しばらくしてから窓を閉める。
「…無風なのに道路の道沿いの草が揺れた…もう奴らは潜んでいる…」
テッドはシートベルトを外して話を続けた。
「いいかい、君は吹雪を呼んでくれ。僕は特殊訓練で吹雪にも慣れてる。あと君は車にいてくれ。死んだら吹雪が収まってしまうからね」
そう言い残してテッドは2丁拳銃、マグナム157とベレッタM93Rを握ると、ただ揺れていた彼からは想像できない程、体が引き締まり背筋もピンと張りつめた。
ヨーコは車の中で天を呼び叫んだ。
「吹雪っ‼」
郵便屋はゆっくりドアを開け、数歩歩くと、敵が突然出て来るという予想は外れ、ゆっくりと草むらから魔法使いの集団が現れた。以前出会った幼女魔法使いでは決してない、プロ級のそれだ。
5人いる事をテッドは確認する。魔法使いの帽子は、わずかではあるが雪を受け止めている。
「手紙を渡せば魔法は使わないわ。だから…」
魔法使いが言い終わる前に、テッドはミニミサイルを撃ち込んだ。魔法使いは攻撃力は高いが防御力が弱い。5人は5人とも血を吹き、倒れた。
直後に今まで経験した事の無い頭痛が電撃のように訪れた。女性を倒してしまったからだ。
「うううううわぁああああ‼‼」
撃ったミサイルの爆風とテッドの叫び声で、盗賊や刺客に気づかれてしまうだろう。
「おおおおこのICチップめえええぇ!こんな時にいいいい…‼」
大雪の中叫んでいた、その時である。草場の影から、ケモノの皮をまとい、槍を持った人間どもが一斉に現れた!
「テガミ渡せ!」
激しい頭痛は収まったが余韻がまだ半端ない。6人と把握すると、いの1番に襲ってきた毛皮男の心臓をベレッタで1発即死させる。
まだ頭痛が残る中、2人組の男をベレッタとリボルバーで同時に倒す。
頭をかかえながら、リボルバーにミニミサイルを装填し、ベレッタで仕留める。
と、槍が降ってきたので、すんでの所でかわし、最後の1人をリボルバーで倒す。
そして頭痛が完全に止むと、テッドから謎の青いオーラが出て来たのを窓越しからヨーコは見ていた。これがAAAの力なのか。それともICチップの能力アップなのか。あまりの驚きでタバコを落としかけてしまう。
はげしい音と叫び声、銃声を聞いて、盗賊が雪の中2人襲ってくるも、テッドの車のボンネットを回転しながらリボルバー2発撃ちで、あっけなく亡骸となる。
車に隠れたテッドは、リボルバーにスピードローラーで1発再充填する。
原始人スタイルのアマゾネス女4人組が草を割って道路へと入ってくるのを確認する。
女性はもう倒せない。あの頭痛は二度と味わいたくない。腕か足にでも銃を撃って、動かないようにするしかなかった。
車越しにアマゾネスの1人の肩に命中させると、アマゾネスはオオオという咆哮を残し倒れていった。
アマゾネスの技は突進しか無いようなので、慎重に全員の肩へ作業のようにベレッタの鉛玉を置いていく。
吹雪が降りしきる中、白い息を吐きながら銃を向け、アマゾネス達を確認しようと思ったその時である。
ホワイトハウス方面から銃声が聞こえ、ポストマンの2の腕を捕らえ貫通した。
「痛っ‼」
被弾したテッドは慌てて車の後ろに飛び込んだ。テッドが被っている帽子から、溜まった雪が落ちて来る。
最悪の集団がやってきた。雪降る中歩んでくる『ガンナーの集団』である。
郵便屋が被弾したのを見て、ヨーコは思わず銃を抱えて扉を開けた。
刹那。ヨーコの髪の毛寸前のところで、鉛玉が飛んできた。ヨーコは驚愕して車のシートに飛び移った。
「ヨーコ!スナイパーもいるから車の中でかがんで、じっとしてるんだ!吹雪を消すなよ⁉」
そう叫んだ郵便屋は、いまだ青いオーラに包まれている。服の雪を払いながら車から少しだけ先を覗くと、何やら会話しながらこちらへ向かってくる。
テッドは獣男が持っていた槍を、ガンナー集団に向けて投げつけた。
集団が槍を見ている隙に、車の屋根からベレッタとマグナム2丁で銃弾をばら撒いた。まだガンナーが何人いるのかは把握できてないが、槍を注視していた2人は倒した。
再び車の裏に戻り、ベレッタの空弾倉を雪の中に落とし、新しい弾倉を入れ、銃の上半身を後ろに引っ張り弾を充填させる。
右奥の草むらの遠い場所にスナイパーはいる様子だった。しかし今は目先のガンナーを退治するのが先決だ。あと何人いるかは把握できないでいた。
「郵便屋~出て来いよ!」
声のする方へ耳を傾けるが、吹雪にまみれた音なので声が吸収されてしまう。2丁拳銃を握り、とりあえずこちら側から積極的に飛び込んでゆく。
ガンナーは2人いた。片方にベレッタをばら撒きながら、もう1人のほうにはマグナムでほぼ同時に仕留める。
しかしガンナーが横にもう1人いて、郵便屋は鎖骨付近に被弾してしまう。
「こいつ…!」
さらに2丁拳銃で被弾させたヤツを何とかしとめたが、鎖骨が折れたのだろう、銃からくるリコイル(反動)が銃を撃つごとに鎖骨に響いて痛みを感じるようになった。
テッドはとりあえず車内に潜りこむように入り、ドアを閉めた。ヨーコは気が気でない様子で、
「あんた大丈夫なの?」
と声をかける。郵便屋は苦痛を通り越した笑みで、
「大丈夫じゃないよ」
と返した。しばらく車内にいたが、あらかた盗賊団を倒したせいか、いっとき静かに吹雪だけが吹いていた。スナイパーも劣勢とみて、帰ってしまっていたようだった。
「もうみんないなくなったのかしら」
ヨーコはそうあって欲しい願望を込めて、つぶやいた。
「いや。まだいる。気配を感じるんだ僕は」
テッドがそう言った瞬間、吹雪の中から一人の人間らしきものがこちらへ歩み寄ってきた。
「やはりね」
郵便屋はドアを開け、鎖骨が大丈夫な方の腕でベレッタを持ち、近寄って来るのを待った。
敵は視認できるまで近寄ってきた。そして大声で叫んでくる。
「私は盗賊団に体力を奪わせ、君が弱った所でやってきた者だ。おとなしく手紙を渡せば万事解決‼」
テッドも吹雪の中、大声で言った。
「渡すわけがない事くらい分かるだろう‼」
「そうだよなぁ‼AAAだもんなぁ‼」
刺客は吹雪の中、そう叫ぶと手を使って『印』をふむ様子を見ると、刺客から赤いオーラが漂い始める。
まずい。
煙越しに、刺客の青年は人間からテッドより3倍ほど大きくなったケンタウロスに変貌を遂げていたのである。
頭にICチップを入れないと出来ない芸当だ。慌ててテッドは車のドアを開け、ヨーコに
「雷雨に変えて、雷をターゲットを落とす事はできるか⁉」
気象強行士は普通のレベルだと周囲の天候を変える事しかできない。しかし今の私ならーーーー
「やってみるから死なないと約束して!」
「oh, yeah‼」
ヨーコは今まで変えてきた天候の全てを濃縮還元し、最高の集中力でもって己を高めながら車中で両腕を天に向け
「雷雨‼ケンタウロスに雷‼」
と叫ぶとすぐに吹雪は止み、雷響き渡る豪雨へとスイッチした。(いいぞ)テッドは心の中で囁く。
郵便屋はまた外に出る為、車のドアを閉め、決死の2丁拳銃でケンタウロスに銃を連射した。
が、相手に効いている様子が全くない。ケンタウロスは武器さえも持っていなかった。武器なんていらない程の強さと言うわけだ。
突如敵が突進してくる。瞬間的にかわしたはずだが右半身に、当て身を食らって3メートルほどテッドは吹っ飛ぶ。
ケンタウロスは赤いオーラをまとったまま、高笑いしているかのような咆哮を周辺に響かせた。
ラスボス登場といったところだが、僕はこの敵に勝てる気がまったくしなかった。
敵が余裕を持っていたその瞬間、これ以上聞いたことのない音量の大きな雷がケンタウロスに直撃し、程なく青年に戻ってうつ伏せに倒れている。
(ヨーコ、君はネコパンチと同じくらい凄い人だよ…)
心の中でそう呟くと、意識が遠くなってゆく。ヨーコがやってきたようだが意識はさらに遠くなっていき完全に闇の中へねじり伏せていった。
テッドの頭には少し昔の自分の苦い思い出が入り込んでいた。
郵便屋で特殊訓練をしていた時である。
通常の天候の他、豪雨や雪の日での戦闘を想定して、郵便局長が軍曹となり厳しい訓練が続いていた。
当然途中で辞めていく者もいたが、郵便局長は特に留めることもせず、マシーンのように訓練に没入していた。
その時のテッドの郵便屋ランクは『A』だった。
テッドはすでに精密な射撃が非常に高かったが、ターゲットが現れた瞬間から撃つまでの時間が遅かった。
2丁拳銃での突撃でも、迷路の中での射撃も、森の中でのスナイパーライフルの扱いに関しても同じように射撃までの時間に遅れが目立ったが精密射撃度は非常に高かった。
軍曹はテッドがただの郵便屋だった頃からみてきた男である。それなりに思う所があり、彼を夜に局長に来るように伝達した。
夜更である。テッドは郵便局長の部屋をノックした。
「入りたまえ」
声を合図にテッドは局長の部屋に入ってゆく。
「Aランクのテッドです。」
「うむ…」
両者椅子に座り、局長は水を飲み喉を湿らしてから喋りはじめた。
「なぜ呼ばれたか分かるかね?」
「分かりかねます」
テッドは正直にそう言って水をわずかに飲んだ。局長に嘘は通じない、そんな人だ。
「君の射撃能力は群を抜いていることは分かっている。正直な所ナンバー1だ。先天性のものなのか努力してそうなったかは知らんが結果しか私は見ん」
「ありがとうございます。」
「だが標的が出てきてから射撃するまでの時間が遅い。本番では死んでしまうレベルの深刻な問題だ。その理由を君は分かっているはずだろう?」
「…」
テッドは数秒、沈黙を貫いた。もちろん原因は分かっている。しかしどうしてもそれを言葉にできないでいた。
郵便局長は葉巻を吸い始めた。そして言葉を続けた。
「普通タバコや葉巻を吸う人は人間の心が弱いからだと昔の上司に言われたよ。そういう1面で言うなら、私も心は弱いんだろう」
「そうですか…」
「君はAAAになりたいだろう?」
「…はい、できれば」
「だったら敵に感情を見せるな‼」
「!」
「君はターゲットに感情的になり、それがまさに遅い原因なんだ。AAAの現実は生易しいものではない!大統領の手紙は世界を変えるものなのだ!それを渡すには敵の感情などいらん!道中いくらでも襲ってくる刺客を冷静に確実に仕留めなくてはいけない!それを意識して結果が出たのならば君には特殊訓練を受けてもらう」
そう言って葉巻を口にした。
「失礼します」
テッドは部屋を出た。やはり完全に局長に見抜かれていた。強盗団に入った者も、家庭の事情があるだろう。生きるための手段の一つ。
それを思うとどうしても僅かな遅れが出てしまう。精密な射撃力は努力を努力と思わずやっていた賜物だった。
考えているとお腹が鳴ったので、皆がいる食堂で駆け足で移動した。