No6 ハラいたまえ!
男は必死の形相でノートパソコンを見つめていた。
「おらぁ!!」
振りかぶって、腕をハンマーのように振り下ろす。
その瞬間、画面は割れて、粉々になって15万円したノートパソコンは寿命を終えた。
背に腹は代えられない。命がかかっているのだ。
「なんで、おれの所に…」
画面ならなんでもいいのかよ、そう悪態をつきたくなるがこの状況では仕方ない。
「……え…らえ…」
「―――っ!!」
しまった!気づいたときにはスマホの画面にヤツはいた。
「ビデオなんて再生してないのにふざけんな!!」
ダメだ。おわりだ。
男は全てをあきらめて、お札のはいった封筒をとりにいった。
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「とってきたよー」
「よくやってくれたな」
集金業者の男の手にあるスマホ。
その中には白装束を着た長い髪の小女が映っていた
やはり才能がある。男は自分の見立てが間違っていなかったことにほくそ笑む。
彼女の長い黒髪が、なにか待ち遠しそうに揺れている。
理由はもちろん——
「今日の賃金だ。受け取ってくれ」
「わーい!」
彼女は卓越した能力で借金を必ず払わせる、敏腕借金取り。
「また、よろしくなサダっち」
「まかせてよ!」
ムッフンとドヤ顔で平らな胸を叩くこのサダっちという女。
昔は呪いを振りまく怨霊だったらしい。
「アイスかってこよー」
「気を付けていってこいよ」
「はーい」
スマホから這いずり出て、パタパタと駆けていく姿をみても
今の彼女は年相応の小女にしか見えない。
「あんなに殺気立ってたのがこんなのになるとはね」
サダっちと出会ったときは成人女性ほどの背丈はあった。
目つきも、そのまま人を殺せるんじゃないかと思うほど鋭かったが、
何度も頭をはたいているうちに弱体化して縮んだ。
そのとき、悪意や呪いも同時に消えていったのだ。
男は昔から、幽霊、悪霊、妖怪といった魑魅魍魎の類を
己の拳ひとつで葬ってきた。
サダっちとも最初の出会いは戦闘になってしまったが、
今ではいい関係を築けている。
「おかげで我が家の救世主様だ」
金融会社をやっているおれにとって非常に大事な相棒だ。
あいつにまかせれば必ず借金を取り立ててくれる。
逃げようとしても、画面さえあればどこにだっていけるから
この仕事のために存在していると思える。
「さて、飯の仕込みをしておこうか」
今日ははからあげにしよう。
彼女は相棒であり、愛すべきマスコットであり。
家族だ。
少女が喜ぶ姿を想像しながら、男は鶏肉を漬け込むのであった。