No2 体が軽い
体が軽い。
羽のように軽く体が浮いているようだと、そんな表現されるけど。
その通りだと思う。おれの体はまさに羽だった。
なんと、おれは空を飛んでいるのだ。ふわふわと。
どちらかというと宙に浮いているという感じかもしれない。
世界がゆっくりと動く。地面に引かれて。
こんな体験したら、もう地を這うように歩くことなんてできない。
そういえば、約束がなかったっけ?
なんで忘れていたんだろう。
おれは約束してたんだ。あの子に会う約束。
彼女との思い出が頭を駆け巡った。
楽しく笑いあったこと。喧嘩しあったこと。
将来のこと。
プロポーズする予定だったんだ。
今日のデートで。夜景の見えるレストランでサプライズも用意していた。
でも、もうそれはできないな。
おれは車にはねられたんだ。
だから、これは走馬灯ってやつだろうな。
ゆっくりと地面が近づいてくる。
もういちど地面と触れ合うとき、おれはこの生涯を終えるんだろう。
後悔がないといえばうそになる。けど、この体験はおれに希望をくれた。
死んだら、こんな風に空を漂いたいな。
地面が目の前に迫って、おれの意識は宙に浮いたまま消えていった。