第34話 魔王討伐隊
アーデとの未来を守るため、俺は魔王を倒すことを本気で決意した。
魔王さえ倒せれば、さすがに王様も文句はないだろう。
クレアとのことは、魔王を倒したあとに説明しよう。
だが、魔王を倒すとは言っても、俺には戦闘経験がない。
レベルは9999だが、やはりそれだけでは不安だ。
魔王復活までに、いろいろと修行をしておこうと思う。
レベル上げは必要ないから、戦闘経験さえ積めば大丈夫なはずだ。
ということで、俺はちょっくら冒険者をやることにした。
貴族が、しかも奴隷商人が冒険者をするなんて、きいたことがないが……。
だがこれが最も確実で簡単な方法だ。実戦経験が積めるしな。
冒険者にはすぐになることができる。
勝手がわからない俺は、ドミンゴに同行を頼んだ。
「いやぁ、びっくりしましたよ。まさかご主人様が冒険者になりたいだなんて……」
「まあな、だがこれも魔王討伐に必要なことだ。それと、ドミンゴ、お前にも魔王討伐には同行してもらうからな」
「え……? お、俺がですか?」
「当たり前だ。お前は俺の知る最も優秀な冒険者だからな。俺とぜひパーティを組んで、魔王討伐隊に入ってくれ」
「エルド様……」
ドミンゴは、困惑しつつも、眼を輝かせていた。
よほどうれしかったのか、俺の手を握りこういう。
「エルド様……! 俺、嬉しいです! ご主人様にここまで言ってもらえるなんて。俺を頼ってくれてありがとうございます! 俺、エルド様のためならなんでもします。エルド様のお力になれるなんて、奴隷としてこれ以上うれしいことはありません!」
「はは、頼もしいな。じゃあ、まずは俺を一人前の冒険者にしてくれ」
「はい! 任せてください!」
俺はドミンゴと共に、冒険者ギルドへ。
冒険者ギルドに行って、まずは冒険者登録を行う。
そういえば、冒険者登録のときもレベルを測るんだったよな。
たしかドミンゴはレベル1700程度だったはずだ。
オットーが1500で、アカネが2600だったかな。
マードックが5000ちょいか。
「それでは、この水晶に手を置いてください」
ギルドの受付嬢さんがそう言う。
「あの……これほんとにやらなきゃダメか?」
「もちろんです。決まりですので」
「はぁ……」
どうせ、俺はレベル9999なのだ。
どうせまた、受付嬢さんに驚かれてドン引きされるだろう。
もしかしたら、ギルド職員や他の冒険者に、またあらぬ疑いをかけられるかもしれない。
そう考えると、なんだか憂鬱だ。
「じゃあ……」
俺はしぶしぶ、水晶に手を置いた。
「す、すごいです! レベル9999ですか……!?」
「はぁ……そうなんですよ……」
「こ、これはいきなりSランクの冒険者証ですね……!」
受付嬢さんは驚きながらも、特に俺に文句は言ってこなかった。よかった、面倒なことにならないで。
「さすがはご主人様です! さっそくSランクとは」
「いやぁ……実戦で通用するかなぁ……」
「大丈夫ですよ!」
ということで、俺とドミンゴはさっそくクエストを受けることにした。
さすがにいきなりSランクのクエストは無謀なので、Aランクのクエストから。
Aランクのクエストの、【ヘビードッグガエル】討伐クエストを受ける。
ヘビードッグガエルというのは、巨大な犬の顔面を持ったカエル型のモンスターだ。
今回、俺は戦闘を行うにあたって、いろいろと準備をしてきてある。
それは、攻撃魔法の習得だ。
今まで俺は、すべての才能や魔力のリソースを、回復魔法だけに費やしてきた。
まあ、だからこそここまでのレベルになれたんだが。
だが今回、冒険にいくにあたって、俺は攻撃魔法を習得してきたのだ。
攻撃魔法を習得するのに、さほど時間はかからなかった。
なにせ、レベルが9999もあるのだ、ポテンシャル的には、十分可能だ。
シュマーケン家は、代々闇魔法を得意とする家系だ。
父の書斎にある、闇魔法の魔導書をひっぱりだしてきて、練習した。
それに、難しいところはアカネに尋ねた。
アカネは魔法の天才だから、教えるのもうまかった。
「さて、モンスターのお出ましだ」
俺とドミンゴは、すぐさま目的のモンスターまでたどり着く。
ドミンゴは何度かこのモンスターと戦ったことがあるから、案内をしてくれた。
やはり、俺の奴隷はすこぶる優秀だ。
「エルド様! 俺がこいつを惹きつけておきますんで、その間にやっつけちゃってください!」
「わかった! 闇魔導書庫13章参ノ術――死海文書!」
俺は闇魔法を放つ――!
すると――
――ズゴゴゴゴゴゴゴ。
「ギャオオオオオオオオン!」
ヘビードッグガエルは闇の中に吸い込まれて消滅した。
「す、すごい……ここまでの威力とは……」
「エルド様流石です。あのヘビードッグガエルを一撃で……」
どうやら、俺の攻撃魔法の才能も、すさまじいようだ。
回復魔法で鍛えた魔力が、そのまま攻撃魔法にも活かされているようだった。
◆
しばらく冒険者ギルドでクエストを受けまくって、俺は戦いのいろはを叩き込んだ。
今までドミンゴたちはこんなことをしてくれていたのか、と少し彼らを見直した。
俺に戦いの自信がついたところで、今度は討伐隊の選別だ。
魔王軍とは、なにも俺一人で戦うわけじゃない。
王様からも、必要とあらばいくらでも人員を補充させると言われている。
「エルドくん、ぜひ君には、討伐隊の編成と指揮をお願いしたい」
「もちろんです王様」
俺は王様から、そう言われる。
王様も全面的に協力してくれるらしく、兵士なども自由に使っていいそうだ。
「聞くところによると、君の奴隷もすさまじいレベルらしいな」
王様はそう言いながら、俺の後ろのドミンゴをちらと見やる。
「はい、ドミンゴは1700ほどです」
「すばらしい。そのレベルの精鋭が複数いれば、必ずや魔王を倒せるだろう。君に頼んで正解だった」
「それはどうも。他の冒険者奴隷も、そこそこ戦えるレベルです」
「だが、一体どうやってそこまでのレベルのものを揃えたんだ? なにか秘訣があるのか?」
「あーそれは……」
俺が彼らにやった特別なことと言えば、あれだ。
ドミンゴたちを戦わせて、回復魔法で治療して……それを繰り返しただけだ。
おかげで、ドミンゴたちはものすごいはやさで経験を重ねていった。
俺はそのことを、王様にかいつまんで説明する。
「なるほど、そんな方法が……。よし、討伐隊を編成し、それを鍛え上げてくれ!」
「え……? 俺がですか」
「さっきの方法で、最強の軍団を作るのだ!」
「は、はい!」
ということで、俺は大募集を行った。
兵士たちの中から、奴隷たちの中から、学園の生徒の中から。
とにかく魔王討伐にやる気のあるものを、片っ端から集めた。
◆
「で、なんでこいつがいるんだ……」
俺は戦慄していた。
なんと、魔王討伐隊の希望者の名簿の中に、あの名前があったのだ。
――アルト・フランシフォン。