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第23話 とある奴隷商人【サイド回】

※前半は14話のときのサイド回です。





【sideゲヘナ】


 俺の名はゲヘナ・デューク。

 とある奴隷市場の一角で、欠損奴隷専門の奴隷商をしている。

 まあ、欠損奴隷はあまり高く売れないし、商売にならない。だけど、俺にはなんの後ろ盾もないから、こんな商売しかできない。まともな奴隷を仕入れるようなつてもない。

 欠損奴隷を引き取っては売って、処分して……そんな毎日だった。

 だがある日、不思議なことが起こった。


 俺の店によくくる、変な客。

 名をエルド・シュマーケン。まだほんの10くらいのガキだ。

 だが、こいつは不思議なことに欠損奴隷を嬉々として買っていく。

 なにに使っているのかはわからないが、不気味なことこの上ない。

 エルドは、護衛として、いつも奴隷を連れていた。

 一人は女のエルフ奴隷で、名をアーデとかっていったかな。

 もう一人は男のドワーフで、名はドミンゴだったはずだ。


 ある日のこと、いつものようにエルドが俺の店に買いにきた。

 そのときだった、取引中の奴隷が、どこからともなくナイフをとりだしたのだ。

 くそ、身体検査は完璧だったはずなのに。いったいどこから……?

 とにかく、面倒はごめんだ。

 しかし、奴隷はナイフをエルドに向けて振りかざす。

 くそ、客に怪我でもさせたら、俺のくびも飛ぶぞ……。


 そのときだった。エルドの連れていた奴隷が、主人の前に立ちはだかった。


「危ない! ご主人!」

「アーデ……!?」


 なんとアーデは、自らの身を顧みずに、エルドの前に飛び出したのだ。

 そして、奴隷のナイフはアーデの腹に突き刺さる。

 俺は、その光景に唖然としていた。

 なんだって奴隷がわざわざ身をていしてまで主人を守るってんだ!?

 いくら護衛でも、普通の奴隷はそこまでしない。

 しかも、俺の目に狂いがなけりゃ、このアーデは、本気で主人を心配していたぞ!?

 奴隷紋で無理やり動かされたわけでもなさそうだ。

 俺はしんじられない思いでいっぱいだった。


 このエルドとかいう男、どれだけ奴隷から慕われているんだ……。

 ふつう、主人が死ねば、奴隷は解放されるんだから、放っておいてもよさそうなものだ。

 さらに、驚いたことに、ドミンゴの方もすぐさま奴隷を取り押さえた。

 ドミンゴは男を地面に押し付け、拘束する。


「貴様! ご主人様に……! なにをする!」

「っく……お前らも奴隷のくせに……! なんで俺を邪魔するんだ!」

「ご主人様は奴隷の俺たちでも、丁寧にあつかってくださる。そういうお方だ。ご主人様を傷つけるようなやつは、この俺が許さない!」


 ドミンゴの忠誠も、かなりのもののようだった。

 アーデもドミンゴも、心から主人を心配している。

 俺はエルドというガキに、畏怖さえも覚えた。

 奴隷が主人の盾に積極的になった上に、本気で主人慕ってるように見える。

 いったいどんな調教をしたらこんなふうになるのだろうか。

 このエルドとかいう男、普通のガキに見えて、もしやすさまじい手腕の奴隷商人なのでは……!?


 なるほど、それなら欠損奴隷ばかりを買っていくのにも納得がいく。

 おそらくこの人物は、欠損奴隷でさえも売りさばくことのできる手腕があるのだ。

 それからさらに驚くことが起きた。

 なんとエルドは、刺されたアーデの傷を、すぐさま治してしまったのである。

 普通、主人が奴隷のためにそこまでするか……?

 ますます底の知れない男だ……。





 まあ、そんなことがあったのが5年前の話。

 それからもエルドは俺の店をよく使ってくれる、いい客だった。

 あれからエルドに注目しているが、彼が何者なのかはまだよくわからない。

 とにかく、若いのに金をたくさんもっていて、しかも欠損奴隷ばかりを好むということくらいだ。

 そんなある日、またまた奇妙なことがおこった。

 なんとエルドのところの奴隷である、アーデという女エルフ。

 俺の店に、今日はそのアーデ一人だけで現れたのだ。


「あのー奴隷を買いたいんですけど……」

「おやおや、エルド様のとこの奴隷のアーデちゃんじゃないか。どうしたんだ。今日は御主人は……?」

「それが、今日からは私一人で買い付けまで任されまして」

「おいおい奴隷一人で奴隷を買いにきたのか……!? まったく、わけわからねぇ。相変わらず、変わったことをするご主人だなぁ……」

「えぇ、まあ。エルド様は規格外なお方ですから」


 俺はますます信じられない思いだった。

 だってきいたことがない。奴隷が奴隷を買いにくるなんていう話は。

 しかも、主人も同行せずにだぞ……?

 奴隷を野放しにして、しかも奴隷を買いに行かせるなんて、どんなだ?

 イカれてるとしか思えないだろう、普通に考えたら。


「15人ほど、欠損奴隷が欲しいんですけど……」

「おいおい……それはまた……えらいことだな……」


 しかも、アーデは15人もの奴隷が欲しいという。

 まったく、欠損奴隷ばかりそんなに集めて、いったいなにをしようというのか。

 俺にはまったく想像もつかなかった。


「まあいいけどよ……。それで、アーデちゃんが奴隷契約をするのか?」

「はい、そのようにエルド様からは言われております」

「どんなご主人だよまったく……。奴隷が奴隷を使役するなんて、きいたこともない」


 理論上は、可能だ。だがもちろん、そんなことまで奴隷にやらせる奴は、存在しない。

 5年前の一件といい、今回といい。エルド・シュマーケンとやらはいったいどうやって奴隷を調教し、使役しているのか……まったくの謎だ。くそ、気になる……。

 奴隷からの信頼、忠誠もすさまじいが、エルド自身も、かなり奴隷を信頼しているようだった。

 どうすればそこまで奴隷と信頼関係を築けるのか、俺にはさっぱりだ。


 奴隷紋は、主人の魔力量によって、その使役できる最大数が変わる。

 普通の成人男性の場合、一度に契約できる奴隷はせいぜい100人程度。

 まあ、だからそれ以上の奴隷を使役しようと思えば、こうやって奴隷に奴隷契約をさせるのも……ありっちゃありなのか……?

 だが、エルド以外にはそんなこと、思いついてもやろうとはしないだろうな。

 まったく、前からエルドは謎の多い男だったが、今回のことで、さらに謎が増えたな。

 奴隷に奴隷を買わせて、なにをするつもりなんだ……。

 俺はこれからも、エルドの動向を注意深く見守っていこうと思う。





【sideアーデ】


 私はご主人様に言われた通り、奴隷を15人買ってきました。

 私はエルフで、魔力が人より多いので、このくらいの量の奴隷、使役するのは楽勝です。

 たぶん、1000人ぶんくらいの奴隷紋までいけると思います。

 まあ、私がそこまで奴隷をつかうことにはならないでしょうが……。

 いや、規格外なご主人様なら、そういうこともあるのでしょうか。


 買った奴隷を屋敷まで運んでもらいます。

 そして、それを回復のオーブで回復させます。

 いつもご主人様がやっていたように、やっていきます。

 回復のオーブを使うのにも、少しだけ私の魔力がいります。

 なんだかご主人様がいつもやっていたのを体験できて、感慨深い気分です。

 ご主人様はこんなふうに、私たちを救ってくださっていたのですね。


「あの……ありがとうございます!」「ありがとうございます!」


 欠損奴隷たちを回復させると、みなさん私にお礼を言ってきます。

 ですが、私はあくまでオーブを使っただけです。もともとの魔法は、ぜんぶエルド様のもの。

 そしてお金もエルド様のものですし、全部はエルド様の手柄なのです。


「いえ、お礼なら私ではなくエルド様に。私はあくまで奴隷なので」

「え……ご主人様も奴隷なのですか……!?」

「私をご主人様と呼ぶのもやめてください。あなた方のご主人様は、エルド様です」

「じゃ、じゃあ……エルド様ありがとうございます……?」


 エルド様はこの場にはいませんが、奴隷たちにエルド様のいる方角に向けてお辞儀させます。

 本当はエルド様と引き合わせて、直接お礼を言わせたいくらいですが、エルド様はお忙しい。

 お忙しいエルド様の代わりに、こうして私が奴隷売買をやっているのですから、エルド様のお手をわずらわせるわけにはいきません。


「えーっと、じゃあ彼らをカタログに載せてっと……」


 あとはエルド様に言われた通り、彼らをエルド様の御父様の商館に連れていき、そこでカタログに登録させます。

 これで、どこかの貴族様が彼らを買っていってくれるはずです。

 しばらくして、彼らは無事に全員売れていきました。


 エルド様の売る奴隷は、どれも忠誠心が高く、品行方正で、とても評判がいいです。それもそのはず、みなさん欠損奴隷のところから、エルド様に命を救ってもらったという認識が強いです。

 それは私も同じ。エルド様がいなければ、あのまま奴隷市場で腐っていたでしょう。

 あとはこれを何度も繰り返し、どんどん奴隷を売って、どんどん利益を上げていきましょう。

 ちなみに、今回の15人分の奴隷で得た利益は98000Gでした。


 商館には、奴隷を買っていった貴族様たちから、たまにお手紙が届きます。そのほとんどが、奴隷の調教をほめたたえ、エルド様に感謝する内容です。

 エルド様じるしの奴隷たちは、貴族たちの間でも評判になっていきました。おかげで、どんどんと注文が入るようなりました。

 私はそれにあわせて、どんどんオーブをつかって仕入れをしていきました。

 これで私も少しはエルド様のお役に立てたでしょうか。エルド様に、少しでも恩返しができているといいのですが……。役に立ててると、いいな。


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