SS 耳の聴こえない音楽家
カクヨム版にはなかった追加のエピソードです
今回俺が奴隷市場で見つけたのは、耳の聴こえない少女だった。
名前はイルナというらしい。
イルナは耳が生まれつき聴こえない。
そのせいで、言葉もろくに発することができない。
読み書きはできるみたいだ。
奴隷商人のオッサンとは、ボードに文字を書いて会話していた。
イルナを家に連れて帰り、さっそく治療の準備をする。
すると、イルナがなにやら指でリズムを刻んでいるのを確認した。
やることがなくて暇なのだろう。
イルナは奴隷商で繋がれているときも、そうやって指を壁にトントンして音を立てていた。
イルナには、その音が当然聴こえない。
だが俺にはどうも音が大きくて気に障る。
こっちは治療の準備をしているんだ。
勘弁してくれ。
「なあイルナ。ちょっとの間でいいからその指をトントンするのをやめてくれ」
俺はジェスチャーでイルナにそう制止する。
イルナは「あう……」と声に出して残念そうに、しぶしぶしたがった。
すると今度は、無意識なのかイルナが鼻歌を歌っている。
とはいえ、本人にも自分の声は聞こえていないわけで。
おそらく無意識に声を出しているのだろう。
イルナ自身に声は聞こえないわけだから、音程ははっきりいって無茶苦茶だ。
正直いって、クソ音痴だ。
だけど、不思議とさっきと違って、まったく不快感はない。
「綺麗な声だな……」
イルナの声はとても独特な声をしていた。
透き通っていて、それでいて芯がしっかりしている。
これは歌を歌えば、いい歌手になれるぞ……。
ただし、音程がわからないせいで無茶苦茶なのが残念だ。
だが、それも俺が治療すれば音がわかるようになる。
「イルナ、歌を歌うのが好きなのか?」
「あう……」
イルナにジェスチャーできいてみる。
どうやら声を出すのは好きらしい。
自分に音がきこえなくても、大きな声を出すのは気持ちがいいみたいだ。
身体が歌いたがっているようすだ。
音はきこえなくても、身体がそれを求めているんだな。
俺はなんとしてもイルナの耳をよくしてやりたいと思った。
「えい……! EXTRAヒール……!」
俺はイルナの耳に回復魔法をかけた。
すると、
「あうああああああああああ!!!!?」
イルナは自分で声がきこえるのに驚いていた。
そしてとても喜んでいた。
まだ言葉は発音できないだろうが、それもこのイルナの賢さがあればすぐに覚えるだろう。
そしてイルナは、喜びをそのまま、歌にしてくれた。
イルナは完璧な音程で、綺麗な旋律を奏でる。
「おお……すげえ……いいぞ……!」
俺は拍手で応えた。
どうやらイルナには、天性の歌の才能があるようだ。
歌詞はラララだが、それでもなにか伝わってくるものがある。
イルナはよろこびと感謝を俺に表明してきた。
俺に抱き着いて、頬をすりすりしてくる。
「はは……よかった。イルナが歌えるようになって」
イルナは声が自分できこえることに喜びを感じていた。
しばらくのあいだ、イルナはずっと歌を歌っていた。
そんなイルナは、とある伯爵の家に買われることになった。
商館でイルナにBGMとして歌を歌わせていたところ、それをたいそう気に入った客がいたのだ。
言葉なんかも、ちゃんとした待遇で教育してくれるそうだ。
イルナはお手伝い係兼歌い手として、買われていった。
今日も伯爵家で、歌を歌って楽しく暮らしているといいな。
あとからイルナから手紙が届いた。
どうやらイルナは毎日歌を歌ったり、ピアノを弾いたりして、伯爵家に音楽を届ける仕事をしているそうだ。
毎日が充実しているらしく、本当によかった。
【みんとからのお願い】
この小説を読んで
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「応援してるよ!」
と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!
あなたの応援が、みんとが執筆を頑張るための何よりのモチベーションになります!
よろしくお願いします!