クラス別オリエンテーション2
「今年からなんですが、今、君たちがいるこの教室がホームになります」
んっ、どういうことだろうなんて思ってると、片山が続ける。
「大学は自分次第って言われたと思いますが…最近は居場所を見つけられず、大学に来なくなる学生が増えているそうです。そして、最悪の場合、中退」
僕は少しドキッとした。
「せっかく入ったのだから、無事に卒業まで通ってほしいと我々は思ってます。いつでも入れるように基本的には、扉に鍵をかけずに開けておきますから。みなさんのコミュニケーションの場として使ってください。何か問題などが発生したら、遠慮なく我々に相談すること」
声は出ないけど、何人かうなづいているのが分かった。
「あと一人ずつロッカーが付与されます。ちょっと古い物で、カギはダイヤル式になってます。場所はこの建物じゃなくて、1号館だそうです。今からカギの開け方が書かれた紙を渡します。一つ一つ違っているので、自分以外には見られないように」
事務の三人が一人ずつカギの開け方が書かれた紙を配っている。普通のメモ用紙に書かれているので、失くしてくださいと言ってるようだ。とりあえず、僕は財布にしまうことにした。
「じゃあ、ロッカーの場所を確認したら、今日は解散」
えっ、もう終わり。僕は呆気に取られた。あとは事務のみなさん、よろしくと言い残して教授たちは教室を出て行ってしまった。
「では、ロッカーの場所を確認しに行きましょう」
戸村の威勢のいい呼びかけで、ロッカーのある1号館まで行くことになった。
特に誰とも話すことなく、11号館を出た。三十人くらいがゾロゾロと歩いているから、周りから見ると少し怖いかもしれない。いくらなんでも、おとなしすぎるだろと大きな声で言ってるのは、事務の補佐の池村だ。1号館は歩いて、すぐだった。
「ここがロッカーになりますね」
入口に入って、すぐだから分かりやすい。しかし、錆や凹みがあるなど、わりと年季が入っていた。一番左上から学籍番号順になっているので、番号の若い人が先に確認していった。
「さっき渡したメモで、開けてくださいね」
メモを見ると、数字が三つ書かれていた。四、六十九、二十一。その番号に合わせたあと、つまみをひねると開く仕組みだ。あれっ、開かないなんて声も聞こえてくる。僕のロッカーは普通に開いたが、中に本が数冊入っていた。しかも、ホコリをかぶっている。どうやら前に使っていた人が、そのままにしていたようだ。
「おっ、すげえ」
池村の声がすると、みんなが注目した。
「これ、使っていいんですか?」
少し気の弱そうな男子学生が言った。ロッカーの中には、授業で使うと思われる教科書が入っていたようだ。しかも、ノートやプリントも残されていた。
「いいんじゃない、使って。このロッカー、誰が使ってたんだろう?」
高市の明るい声が響く。
「うわっ」
僕の隣にいた男子学生は開けたとたん、ロッカーを閉めた。僕は思わず「どうしたんですか?」と声をかけてしまった。男子学生は顔を少し赤くしている。その様子を見た池村が声をかける。
「おっ、こっちにもお宝発見?」
そういうと近づいてきた。
「これは女子には見せられないです」と言いながら、ロッカーを開けた。僕を含め、近くにいた男子学生は見て苦笑いしてしまった。
「こんなの学内に持ち込むなよ」
池村が笑いながら言っていた。ロッカーの中に、なんとアダルトビデオが入っていた。結局、どう処理したかは、よく分かっていない。
「ここに雑巾があるので、使いたい人はどうぞ」
戸村がどこからかバケツと雑巾を持ってきた。
「数に限りがあるから、譲り合って使って下さいね」
用意がいいなと思いつつ、僕は「ありがとうございます」と言って雑巾を手に取った。けっこう汚いなと思いながら、ロッカーの中を拭いた。僕は拭き終わると、次の人に雑巾を渡した。
午後もオリエンテーションがあるが、それまではどうしようなんて考えていた。
「そういえば、まだやってないことがあるわ」
高市が思い出したように言うと、それを聞いた人は「えっ」という感じになった。
「じゃあ、掃除が終わった人からついてきて」
どこに連れて行かれるんだろうなんて思いながら、ついて行った。後ろの方からは、何するんだろうねなんて会話も聞こえてくる。二、三分ほど歩くと、6号館に着いた。外観は7号館と同じくらい古い建物だ。
「他の教室は、まだやってるから静かにしてね」
高市がそう言って、建物の中に入った。すぐに階段があるので昇っていく。
「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます」
少し小さめではあるが声が聞こえてきた。そこには両手でアーチを作っている学生がたくさんいた。うれしい気持ちと、なんだか恥ずかしいような感じでくぐっていった。そのまま教室まで続いていて、中に入ると順不同で座らされた。全員が入ったことを確認すると、男子学生が一人出てきた。
「これより新入生恒例の自己紹介タイムを始めます」