表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/74

生活科

「行ってきまーす」

 僕は家を出ようとしたら、母親が大きな声を出した。

「どこに行くの?」

「大学」

「土曜日なのに授業あるの?」

「そうだよ。その代わり、水曜日が休みだから」


 何度か土曜日に学校に行ったことがあるが、毎週となると初めてだ。授業は午前中しかないが、一限、二限どちらも必修科目だ。電車の時間も平日と違うので、気をつけなければならない。とはいえ、平日より人が少ないので座りやすいから少し楽だ。


 一限目は、生活だった。授業のチャイムが鳴ると、先生がやってきた。

「おはようございます、田辺といいます。今年から埼京大の教授になりました」

 優しそうな男性で、元小学校の先生だったそうだ。

「みなさん生活の授業って、どんな授業か知ってますか?」

 その問いに対して、みんな思い出していた。


「それじゃあ、学生番号下二桁が二十五番の人いますか?いたら手を挙げてください」

 社会専修以外にもいたので、五人ほど手が挙がった。まず、廣川が答える。

「分からないです」

「分かりました」

 あれっ、どういうことだ?と僕は思った。先生も納得してるし。


 他の専修の人は…

「アサガオの観察をやりました」

「地域の資料館や博物館に行きました」

「商店街で買い物しました」

 それを聞いて、そーだった、いっしょという感じで思い出していた。


「あれっ、その感じだと、みなさん生活科の授業を受けてるんですか?」

 田辺は少し困惑しているようだ。

「みなさん何年生まれですか?」

「昭和六十年です」

 それを聞いた田辺が指を使って数えていた。そして、数え終わると驚いた表情で言った。

「生活科が導入されたのが、1992年なんです。初めて受けた学年が君たちなんです。今年から大学生なんですねえ」

 この発言で教室が少しざわついた。田辺は続けて言う。


「生活というのは、新しい教科なんです。よく理科と社会を足して二で割ったと勘違いされますが違うんです」

 さらに一冊の本をカバンから取り出した。

「それから少し自慢になってしまうかもしれませんが、学習指導要領の色。この色を紫と決めたのが私なんです」

 学習指導要領というのは、各教科で学ぶことが書かれている本のことだ。


 授業が終わった後、みんなと話した。

「まさか生活科が新しい教科なんて思わなかったね」

「うちらが初めて受けた学年だったんだ」

 廣川が割って入る。

「俺、二浪してるから全く受けてないんだよ。この授業を取るとき、生活って何だ?って思ってたわ」

 さらに廣川が続ける。

「みんなの話を聞くと、生活って楽しそうだな。俺も受けたかったな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ