表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/88

心理学

土曜日の朝一限、空いてますかー?

心理学の授業なんだけど、俺は一番好きな授業だ。

週に一回くらい先生と喫煙所で話すんだけど、今度の授業は特別ゲストが来るらしい。

ちゃんとルールを守れる人なら(遅刻、私語厳禁など)、参加してもいいって。


 廣川からのメールだ。ロッカーに荷物を取りに行く際、廣川が喫煙所で六十近い男性の教授と話してるのを何度か見ていた。入学時に配られた教員紹介の冊子で、その先生のプロフィールを見ると『学生とタバコを吸いながら話す時間が一番楽しい』と書かれていた。


 僕は眠い目をこすりながら、土曜日の朝一限に間に合うように大学へ向かった。授業は履修を希望する学生が多いということで、学内で一番広い教室が設定されている。それなのに抽選になる場合があるという。また、授業だけを受ける通称「もぐり」というのもいる。当然、単位は出ないが先生は、これを誇りに思っているのだという。


「おはよう。みんな来てくれて、よかった。ありがとう」

 意外と人数がいて、けっこう履修している人もいるようだ。せっかくだからと一番前に座ることになった。授業が始まる二、三分前に先生が現れ、おそらく先生のゼミ生が授業で使うプリントを配っていた。全員にプリントが渡るまで数分かかるので、この時間は喋っていても大丈夫とのこと。ただし、配り終わったら私語厳禁。


「それでは、授業を始める前に紹介したい人がいます。出てきてください」

 舞台の袖から男性が出てきた。メガネをかけていて、三十代くらいだろうか。見た目からして、どこにでもいそうな普通の人だ。教授のとなりに座った。

「実はこの方、超能力者なんです」

 この発言に教室がざわついた。

「はい、みなさん落ち着いて。びっくりだよね?では、プリントを見てください。今の自分の気持ちで、一番近い数字に〇をつけてください」

 配布されたプリントを見ると、超能力(超常現象)を信じますか?それとも、信じませんか?と書かれていた。1,全く信じない 2,場合によっては信じる 3,なんともいえない 4,信じる


「みなさん、〇をつけましたか?ちなみに、この方の超能力なんですが、スプーンを曲げられるのです」

 教授はスプーンを見せた。ちなみに食堂にあるスプーンを借りてきたとのこと。前方に座っていた学生に触らせ、何もないことを確認してもらった。僕はそれを見て、マジックじゃないの?って思ってしまった。教授は続ける。


「それでは、やってもらいましょうか?」

 教授の合図で、男性はスプーンを触った。しかし、スプーンは全く曲がる気配がない。

「もっと静かな空間じゃないとできないです」

 男性が言うと、教授は思い出したかのように言う。

「言い忘れてましたが少しの音がしただけで、できなくなるそうです」

 普通の授業なら十分すぎる静かな環境だが、さらに静かな環境を求めてきた。

「携帯電話のバイブも響くので、ならないようにしてください。電源を切ってもらうのがベストです」

 そう言われて、僕は携帯電話の電源を切った。


 三百人以上がいる教室だが、誰もいないと思われるくらい本当に静かだ。

「今、曲げられそうだったんですが、ちょっと音がして」

「みなさん、もう少し我慢して」

 すでに五分くらいは経っているが、スプーンは全く曲がらない。そもそも、スプーンも端っこしか触っていない。さすがに僕も曲がるわけないと思った。


「あと少しです」

 男性が言った瞬間、スプーンは曲がるどころかポキッと音を立てて折れた。その光景を見て、僕は言葉を失った。教室内も声はほとんど上がらず、あっけにとられていた。

「みなさん協力してくれて、ありがとう」

 教授が言うと、男性もペコリと頭を下げた。


「それでは、みなさん。今のを踏まえて超能力は信じますか?プリントに〇をつけてください」

 僕は全く信じないから、場合によっては信じるに〇をつけた。

「いやいや、信じる一択っしょ。だって、全く触ってないところが折れたんだから」

 同級生たちは、少し興奮していた。


「はい、みなさん、プリントをめくって二枚目を見てください」

 そこには男性のプロフィールが書かれていた。僕はそれを見て、あーそうだったと思い出した。

「この方は、マジシャンとして活躍している〇〇くんこと、〇〇です。さっきのスプーン曲げも超能力ではなく、残念ながらマジックです」

 教室は超能力ではなく、マジックと分かり安堵した感じになっていた。さっきまでの重苦しい空気も、一気に軽くなったように感じた。


「ちなみに私はタネも知っています。でも、絶対に口は割りません。だから、聞かないように。それと毎年、この授業をやっているので、周りに内容をペラペラ話さないでね」

 僕はタネを知っていることは、逆に気になるから言わなければいいのになんて思った。

2025年1月28日(水)追記(本文より以降)

この先生ですが、在職中だった07年3月頃に亡くなりました。

死因は噂だと肺がんと言われています。

大学四年間で、一番印象に残っている授業です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ