増える母子家庭
「本当は、この授業は私の専門じゃないのよ。大学にやれって言われて仕方なくやってて」
五十代くらいの女性教授が、講義中に言ったことだ。
「私の専門は、経済なんです。だから、社会専修のみなさん、二年次に授業があるからよろしくね」
それを聞いて何人かは、気持ちが沈んでいた。
「あの先生、なんか嫌なんだよな」
「大学の愚痴を学生の前で言って大丈夫なわけ?」
「授業もつまらんし、分からん」
この授業が終わると、部活・サークルに所属してない人は帰りだ。だいたい帰り道の空気がよくない。
「つーかさ、母子家庭って、そんなに増えてるの?」
授業中、どういう流れか忘れてしまったが、教授がこう言った。
「最近、母子家庭の子が増えています。だいたい、親、子どものどちらか、もしかしたら両方とも大変です。学年で十人いるっていうのも珍しくありません。あなたたち、教師になったら対応できる?」
「そもそも、母子家庭って何人くらいいた?」
だいたい、みんなの反応はこうだ。
「二人か三人くらいじゃない?」
「覚えてないけど、二、三人かな」
「隠してる場合もあって知らないだけかも。自分だったら、ペラペラ言わない」
僕は聞いてて、やっぱりそうだよなと思った。
「江本は、どのくらいいたの?」
僕は答えた
「十五人くらい」
「はぁ、マジで言ってんの?」
しかも、僕の中学時代の学年の人数は、九十一人。母子家庭の子がクラスに四人いたら大変と言われているが、それを超えてしまうのだ。卒業してからも離婚したのもいるが、それは含めていない。
なお、三つ下の学年は百十七人いたが、おそらく自分の学年より母子家庭の人数が多い。病気で親が亡くなった子が三人いたが、それを含めると二十人超えると思われる。年度の最初に離婚して旧姓になり、年度の終わりに再婚して二回苗字が変わったのもいた。




