大学生と寮生活
五月も終わり、六月になった。大学に入学して二か月が経ち、新しい生活にも慣れ始めた。アルバイトが終わり、家に帰ると母親と同級生のことで話になった。
「今日、健太くんのお母さんと話をしたんだけど、周りの人たちから、いろいろ言われてて」
健太というのは、小中の同級生のことだ。見た感じは、ひょろっとしていて少し背が高い。しかも、寡黙なのでクールに見える。しかし、実際はコミュニケーションを取るのが苦手なように思う。
小学生の頃、掃除の時間に何の前触れもなく「独り言を言うとハゲるよ」と言われた。いや、何も言ってないんだけどと思ったが、もしかしたら気づかずに言ってしまったかもしれないと思い、僕は反省した。すると三分も経たないうちに同じことを言われた。さすがに僕も「何も言ってない」と言い返したが完全に無視された。結局、僕が独り言を言ったかどうか分からない。
彼はバレーボールをしていた。しかし、中二の頃、誰もがおかしいと思うやり取りがあった。
「昨日の試合、見た?朝日健太郎、すごかったね」
「朝日健太郎って誰?」
「えっ、知らないの?」
「中垣内と加藤、川合俊一は知ってるけど、あとは知らない。俺、代表戦とか興味ないから」
幽霊部員とかなら分かるが、彼は中三に上がると同時に区内の強豪校に転校した。全国大会には一歩及ばなかったが、高校も大学もスポーツ推薦で進んでいる。それなのに全く興味がないのだから正直、何を考えているか、よく分からない。
「健太君、通いだったんだけど、今日から大学の学生寮に入ったんだって」
「ふーん、そうなんだ」
「あまりにも忙しいから、寮生活にしてって言ったんだって」
僕はスポーツ推薦で入学しているから、てっきり寮生活していると思っていた。
「それで健太君のお母さん、けっこう言われてたよ。かわいそうに」
僕は何を言われたか聞くと、母は続けて言った。
「一人暮らしさせるって、ずいぶん余裕あるのね」
「そもそも、大学って一人暮らししてまで行くところなの?」
「大学生って部活じゃなくて、サークルやるんじゃないの?」
僕はそれを聞いて、改めて「この地域の上の世代は、バカばかりだ」と思った。毎年、中卒で就職が出るなど学力は区内でワーストと言われている。はっきり言って、恥ずかしい。そんなことを思いながら、僕は言われた原因が分かったので言った。
「健太のお母さん、近所のトラブルメーカーと仲いいから言われたね」
「それも、ありそうね」
「いや、間違いないよ。それに健太だって、だいぶ変わってるから」
近所のトラブルメーカーというのは、ある宗教をやっていて選挙前になると支持している政党に票を入れるように一軒ずつお願いをしていた。しかも、かなりしつこく、はいと言わないと帰らなかったり。また、多数決で決まったことに異議を唱え、最終的に「今度の選挙で、票を入れてくれたら同意します」と言った。そんな人と仲がいいということは、お母さんも見たことないけど変わり者だろう。
とはいえ、寮生活のことをとやかく言うのは間違っていると思った。そもそも、大学なんて興味のない人たちなんだから、余計なことは言わないでほしい。そして、僕は気づいた。
「そういえば、同級生で一人暮らし(寮生活)で、大学に行くの初めて聞いた」
なお、中学の同級生は僕を含めて、九十一人いる。
2025年12月21日(日)追記
信じられないと思いますが、今回の話は内容、時期も含めて全て本当にあった話です。
小中時代の同級生の一人暮らしに関しては、今後も書いていきます。




