ボウリング大会 追いかけ大作戦
みんな、おはよう。
今週の金曜日なんだけど、ボウリングやりたいひとー?
新しくできたばかりのところで、先輩も働いているから少しおトクに遊べるかも。
場所は「ぶくろ」だから、大学からも遠くないし。
参加する人は、返信ちょーだい。
ぶくろと聞いて、池袋のことだと思ったはずだ。しかし、埼京大では最寄り駅から一つ先の駅のことをいう。ちなみに各駅停車しか停まらないローカルな駅だ。僕はどうしようと思ったが、みんなと相談して参加することにした。今回は土日ではなく、授業が終わった後というのもよかった。
金曜日、授業が終わった後にボウリング大会が開かれた。先輩の計らいで優勝チームに金一封が出るなど、大盛り上がりだった。
「けっこう盛り上がって、楽しかったね」
あまり期待していなかっただけに、みんな満足していた。
「みんな、このあと時間ある?」
同級生のひとりが、みんなに問いかける。
「いや、実はさ、少し気になる子がいてさ」
名前を聞くと同級生のことだった。
「あっ、俺もいいなと思ってた」
「あの子、彼氏いないって言ってたよね?」
僕はそんなに気にしていなかったが、どちらかと言えば人気がありそうな感じの子だ。
「さっきのボウリング大会で同じチームだったから話してたんだけど、このあとバイトみたいでさ・・・」
少し恥ずかしそうな顔をしながら続けて言った。
「場所もバイトも何してるか分からないから気になって・・・後をつけてみようかなって」
まさかの告白に、みんな驚きつつ反応した。
「いやいや、それってストーカーじゃん」
「さっき聞けばよかったのに」
「後をつけてるのバレたら、絶対にヤバイって」
僕もみんなと同じように思った。すると、一人がこう言った。
「たしかにヤバイけど、尾行するのは楽しそう」
この一言で、状況が変わった。
「どっち方面なの?」
「たぶん都内だと思う」
「そうだよな。俺、JRに乗り換えるんだけど、見たことない」
「ってことは、乗り換えずに乗ってるよね」
僕はバレたときのリスクが高いと思っていたが、みんなはやる気だ。
「よし、やろうぜ」
なんと尾行をすることになってしまった。六人いたから、見失わないように三、三で分かれることになった。僕は参加しながらも何をやってるんだろうと思っていた。
「あっ、いたぞ」
彼女は駅のホームで、一人でいた。
「いつもは、どうなの?」
「同級生か先輩か分からないけど、誰かといたりいなかったり」
「サークル、何やってるんだっけ?」
そんな会話をしていると電車が来た。
バレたら終わりなので、同じ車両には乗らず隣の車両に乗った。座席は半分ほど空いていたが、彼女は座らない。
「あの感じだと、急行に乗り換えるね」
「江本君、いいね。そういうのが分かると降りたときに慌てなくて済む」
僕の予想通り、彼女は急行が停まる駅で降りた。そして、急行に乗った。
「すげー、江本の予想的中」
みんな関心してくれたが、問題はこの後だ。
「で、このあと、どうなる?」
「ここまでは乗ってくはずだよ」
僕は自信を持って言った。約十五分ほど乗車すると、次がその駅だ。
「全然立ち上がる気配ないね」
彼女を見る限り、動く感じがしない。
「着いたけど、降りなかったね」
「このあとって、どうなるの?」
「地下鉄に直通しているから、都心を通るよ」
車内の路線図を見ながら僕は説明した。
「げっ、いっぱい人が乗って来る」
都心に近づくと座席は埋まり、電車が混み始めた。最終的に、ほとんど動けない状況になり、彼女の姿もほぼ見えない。地下鉄を抜けて、さらに別の路線へと入っていった。
「こんな遠くに来たの初めてなんだけど」
「てか、まだ乗ってるよね」
電車のドアが開くたび、降りていない確認していたが人は多い。見逃しても仕方ない状況だ。
「あっ、まだ乗ってる」
人が降りて空いてきたので、彼女の姿を確認することができた。夜なので確認しづらいが、外を見ると田舎っぽい風景になっていた。だんだんと乗客が減ってくる。
「もしかして、毎日こんな感じなのかな?」
「座れるけど、これはこれでツライな」
結局、二時間近く乗り続けると、彼女はようやく腰をあげた。
「降りるみたいだ」
「まさか乗り換えとかじゃないよね」
「ここは他に路線ないから大丈夫・・・バスだったら、どうしよう?」
彼女は降りると改札を出て駅ビルの中に入っていった。
「ごめん、先に言ってて。定期外だから精算しないと」
「げっ、こんなにするの?」
「うわっ、高っけぇー」
最終的に彼女がケーキ屋で働いているということが分かった。
「いやー、疲れたわ」
みんな体を伸ばしたり、あくびをしたりしていた。
「せっかく来たけど、もういいよね?」
「えっ、店に行くんじゃないの?」
「バレたらヤバイじゃん。そもそも、どこだよ、ここ?初めて来たよ」
「それに何でいるの?って聞かれたら、何て返せばいいか分からないし」
僕たちはファストフードに入っていった。そこで、今日のことは他のみんな、特に女子には絶対に内緒にすることを約束した。その後、帰り方を調べて何人か驚愕していた。
「やべー、三時間以上かかるんだけど」
「しかも、交通費がすごいかかる」
最初はハラハラドキドキして楽しかったが、最終的には疲労だけが残り、お金が消えた。




