教室の冷房
僕は家を出ようとしたら、母に言われた。
「今日、暑いってよ」
「そうなの?何度くらい?」
「二十七度」
「えっ、そんなに高いの」
五月中旬なのに早くも夏日だ。前日より七から八度も高いことが分かり、僕は少し薄い服装に着替えることにした。さらに電車の中は寒いこともあるので、薄い上着も持っていくことにした。
「おはよう、今日は暑いね」
駅で何人か同級生と会ったが、みな暑そうにしていた。
「五月の気温じゃないね」
そんな話をしながら大学へ向かった。
教室に着くと何か騒がしい。
「うわっ、めっちゃ涼しい」
入った瞬間、誰でも分かるくらい、ひんやりしていた。
「いや、さすがに寒すぎだろ」
中にはぶるっと震えていて、寒いと言ってる人もいた。僕はこれは注意を受けるだろうなと思った。
「おい、誰だつけたの?今すぐ冷房を消しなさい」
いつも授業が始まる前にやってくる根本の注意で消した。チャイムが鳴って授業が始まると、根本は言った。
「では、出席を取る前に聞きます。誰ですか?冷房をつけたのは?」
お互い顔を見合い、僕は違うよと小さくアピールした。そもそも電源がどこにあるか分からない。
「はい、すいません」
数人が手を挙げた。
「正直でよろしい。なぜ、つけた?」
「暑かったからです」
「教室に早く着いたので、みんなのために」
もっともな意見だ。そして、予想通りの注意が入る。
「まあ、いいでしょう。しかし、寒すぎじゃないか?」
「すいません」
「まわりを見なさい。どう思う?」
教室を見渡して答える。
「少し震えている人もいます」
やってしまったという感じの表情だ。
「もう少し、考えてから使うようにしなさい。それに公立の小中学校の先生になったら、教室に冷房がないところが圧倒的ですよ。さあ、みなさん、どうしますか?」
根本の言うことは、もっともだ。みんな一斉に考えていた。
「そこの君、どう思う?」
なんと僕が指されてしまった。
「窓を開ければいいと思います。それから教室に風鈴をつけたり」
突然だったので、ドキッとしたが僕は無難に答えたつもりだ。
「その通りだな。他には?」
「普通教室にも冷房がつくようになったらと思います。もちろん、お金もかかりますし、自分の力だけじゃ実現できないんですけど」
「まあ、そうだな。彼の言う通りだ」
根本はうなづいていた。僕は褒められて嬉しいというより、なんか照れてしまった。
「みなさん、いいですか。暑いのは分かりますが、考えて使うようにしなさい。ということで、今日のこの時間、冷房はナシです」
教室の中がほんの少しだけ、えっという感じになったが仕方ない。
授業が終わった後、何人かに聞かれた。
「なんかスラスラ答えてたけど、もしかして冷房あったの?」
僕は答えた。
「実はあって」
「だからかー、やっぱり私立は違うね」
僕は間違いなく勘違いされるので、素早く返した。
「いや、公立だよ」
「えっ、公立なのにあったの」
それを聞いて、みんな驚いていた。僕は設置されていた理由も、ちゃんと説明した。各教室、勝手に冷房をつけられないようにカギがかかっていたことも。しかし、この冷房があった発言で私立中出身だと勘違いされていた。




