「がんばれ」という言葉について
「みなさん、がんばれという言葉について、どう思いますか?それでは、近くの人と話し合って下さい」
授業中に先生が出した問いだ。この授業は一般教養科目なので、他の学部の学生も多くいた。けっこう人気のある授業みたいで、教室はギリギリまで埋まっていた。
「おーい、一年はどう思ってるんだ」
二年の先輩もいた。話によると、去年は時間割がかぶっていて取れなかったそうだ。先輩と同じ授業を受ける、これは大学ならではかもしれない。美人な先輩も何人かいて、僕は少しだけドキドキしていた。
「部活で言われると嬉しかったです」
僕は答えた。
「そうだよな、俺も部活、体育祭とかで言われて嬉しかった」
みんな似たり寄ったりの意見だ。
「はい、では途中でもかまわないので終わりにしてください」
教授が手をパンパンと二回叩いて、一斉に話し合いをやめて教室は静かになった。
「では、誰に聞こうかな?あっ、目が合っちゃったね」
教授は僕の座っている席より少し後方の女性を指したようだ。
「学年と学科だけでいいので教えてください」
「一年、日文です」
女性が答えた。ちょっと緊張している感じがした。
「どんなときに言われて嬉しかったですか?」
「高校のときに部活をやってるときに言われたときです」
「ちなみに何部ですか?」
「吹奏楽部です」
それを聞いて、僕はおっと思った。
「パートは?」
えっ、そこまで踏み込んで聞くの?なんて思っていると、女性は答えた。なんと僕と同じパートだったのだ。思わず後ろを向いてしまった。
「吹奏楽部に入ったんですか?」
「入ってないです」
「何で入らなかったんですか?」
おい、バカ。そんなの聞かなくても分かるだろって、僕は言ってしまいそうになった。吹奏楽部は全国大会に出ている大学の看板部活で練習は厳しいはず。当然、お金もかかるはずで、見た感じ裕福そうな学生が多い。加えて強豪校出身で推薦で入る学生もいる。ただし、初心者で入って、コンクールメンバーを勝ち取る人も毎年いるという話も聞いた。だから、大丈夫、いけると思われてしまうのかもしれない。
「大学では違うことをやろうと思って」
少し間を置いた後、女性は答えた。
「そうですか、見つかるといいですね」
僕はその女性を大人だなって思った。自分だったら、間違いなく「レベルが高いから」「そもそも、お金がありません」と答えていただろう。
なお、この教授、埼京大の卒業生でした。そして、数少ない最高の評価をつけてくれた先生でもあります。




