授業5日目(2)教師になりたいですか?
二限は必修科目の地理だった。授業は1号館なので、13号館から向かうと遠い。トイレに寄ったりしていると、あっという間に休み時間が終わってしまう。教室に着くと、すぐにチャイムが鳴った。
「黒板に貼ってある座席表通りに座るように。学籍番号順だから、そんなに難しくないぞ」
すでに根本雅則がいて指示を出していた。
「それでは授業を始める前に出席を取ります。名前を呼ばれたら、返事をするように」
根本は名簿を見ながら、ひとりずつ様子を見て呼んでいた。普通に返事をしているだけだが、注意されるのではと思いながら返事をしていた。全員の名前を呼び終えると名簿を閉じた。
「おはようございます。改めて一年生のみなさん、ご入学おめでとうございます。この授業を担当する根本雅則です。先週のオリエンテーションでも言いましたが、三月までは付属高の教頭でした。私も久々の授業で緊張していますが、よろしくお願いします」
一転して丁寧なお辞儀をして、口調も優しくなった。
「入学して一週間が経ちましたが、慣れましたか?」
問いに対して、数人が慣れましたーと答えた。
「その感じだと、全体的にまだって感じがしますね。焦らなくて大丈夫です。そのうち、慣れてくると思いますよ」
その後、プリントを配り、淡々と授業の進め方を説明した。
「では、本格的な授業は次回からにしますが、最後にひとつ聞きたいことがあります」
少し間を置いて、根本は言った。
「みなさん、教師になりたいですか?」
教室が少しだけ、ざわっとした。
「別にみなさんのやる気がないとか言ってるわけではないですよ。学校の先生は、あくまで職業のひとつですから。それに今年の三月の卒業生の進路を見る限り、全員が教師になったわけではありません」
根本は続ける。
「先輩たちの頑張りもあって、埼京大の教員就職率は非常に高いです。私も一年目なので、はっきりとは言えませんが何人かの先生と話して感じたことは、きちんと授業を受けて言われたことをやってる人は小学校の先生にはなれます。小学校の先生は自治体によっては大量採用もあって倍率も落ちてますし、中高と比べると免許を持ってる人自体が少ないというのもありますので」
僕は教員採用試験については何も知らなかった。小学校の先生になれなかった人は、勉強しないで遊んでサボった人なんて思ってしまった。




