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母校(小中)で初めての教員になる?

 大学に入学して、初めての土日を迎えた。

 昨日は午前中で終わりだったので、少し楽だった。それでも慣れない環境と遠距離通学で体は疲れていた。しかし、一日中、家に引きこもってしまうのもなんだかなと思い、僕は家を出た。


「あっ、江本」

 近くの緑道ですれ違ったときに声をかけられた。相手は尾崎研都(おざきけんと)だった。小中の同級生で母親がPTA会長、祖父が近くの資料館の館長、亡くなった曾祖父が自治会長だった。小さいコミュニティだが、地元では有名な一家だ。


「久しぶりだな、いつ以来だっけ?」

「半年くらい経つかもな」

 僕はそれを聞いて近所なのに会わないもんだなと思った。


「そーいや、本当に教育学部に入ったのか?」

 尾崎は信じられないみたいな感じで聞いてきた。

「本当だよ。ほら、学生証」

 僕は財布に入っていた学生証を見せた。

「江本が先生なんて信じられねーな、学級崩壊起こすんじゃね?」

「うるせーな、そうならないように勉強するんだよ」

 僕は痛いところを突かれたが、きっちり返した。


「そういえば、岡山の大学に行くんじゃなかったのか?指定校推薦もらえたって言ってたから、てっきり行ってるもんだと思っていたよ」

 僕がそう言うと、尾崎は少し言いづらそうに返した。

「やめたんだよ、一人暮らしになるから」

 そのあと大学名を聞いた。全く聞いたことがなく、最初は都心にあると勘違いした。場所を聞いたら、千葉だった。僕といっしょで遠距離通学だということが分かった。


「前にも言ったけど、俺も先生目指すから」

 それを聞いて、僕も反撃だ。

「いやいや、無理無理。だったら、もっと勉強しろよ」

「江本よりは俺の方が可能性高いぜ。あと母校(小中)で初めての教師になるから」

 それを聞いて、僕はえっと思った。


「なんだよ、江本。何かおかしいのか?」

 少し間を置いて僕は返した。

「うちの隣に住んでる人、小中の卒業生で都内の私立高校の体育の先生だよ」

 それを聞いた尾崎は、目を見開いて驚いていた。


「嘘だろ。そんな人、聞いたことない」

 彼の家は、地元のありとあらゆる情報が入ってくる。どうでもいいことも含め、インターネットの掲示板よりも情報が早く伝わっているなんて言われることもあった。

「いや、本当だって。今の家に引っ越したときに親が挨拶をしたら、さっき言ったことを言ってたよ。日体大出身で、仲のいい同級生が日本代表でサインもらったし。その人、独身だから一人暮らしだったんだけど、今は親の介護が必要みたいで三人で暮らしてるみたい」


 まだ尾崎は信じられないという感じで、一言だけ言った。

「マジか?」

「マジだよ。サッカー部の顧問やってるみたいで生徒が来てたこともあったし」

 僕の詳しい話を聞いて、ようやく信じたようだ。

「俺、初めての教師になるはずだったのに」

 尾崎は残念そうだ。しかし、そのあと話を聞いたら教職課程すらない大学に進んでいた。本当になる気あったのか?いや、あったとしても、なれるわけないと僕は思った。

2025年12月8日(月)追記

今回、登場した尾崎研都ですが、モデルはいます。

ただし、一人ではなく、二人を合わせています。

そして、作中の会話ですが・・・信じられないと思いますが本当の話です。

尾崎が「あと母校(小中)で初めての教師になるから」

このくだりに関しては、いつ話したか覚えてないです。高校生の頃だったかもしれません。


都内の私立高校の体育の先生(小中の先輩にあたります)、2025年現在、66歳になります。

介護していた両親が亡くなったあと、一人で住むには広すぎるということで引っ越しています。

少なくとも十年以上前のことなので、現在は分かりません。

学校名を知っているので検索しましたが、名前は出てこなかったです。

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