5号館とピアノレッスン棟
5号館に向かうと、すでに同級生たちが来ていた。外観は古い建物で中に入ると、何人かがこっちと手招きしてくれるので迷わず入ることができた。前方にピアノが置かれていて広い教室だ。
「おはようございます」
事務の補佐の高市が出てきた。
「今日は校内の場所や使い方を説明していきます。まず、出欠の確認をするので名前を呼ばれたら返事してください」
出欠の確認が終わると説明が始まった。
「ここは5号館といって、主に音楽の授業でお世話になることが多いです」
それを聞いて、だからピアノが置いてあるのかと納得した。
「みんな知ってると思いますが、小学校の教員採用試験ではピアノの実技試験があります」
それを聞いて「えっ、そうなの?」という声が、ちらほら上がった。僕は周りの反応を見て、小学校の先生を目指している人が多いのに何で知らないんだろうって思った。
「自治体によってなかったりもするけど、ピアノは弾けて損はないと思います」
高市はピアノに座った。誰が言ったか分からないけど「弾けるんですか?」と言い、高市は緊張しながら少し弾き始めた。ややぎこちない感じだったが、エリーゼのためにの冒頭だった。
「みんなに伝えたいのは、ピアノは一夜漬けではできない」
高市は続ける。
「私が後悔しているのは、教員採用試験の勉強を始めるのが遅かったこと。ピアノも三年の秋になってから慌てて始めたし。だから、みんなは少しでも早く始めてほしい」
そう言われて、みんながうなづいた。
そのあと、5号館の隣にあるピアノレッスン棟へ向かった。一階と二階合わせて三十ほど部屋があり、各部屋にピアノが置いてあった。持ち出し厳禁のピアノの教本も置いてあり、練習できる環境も整っていた。しかも、扉を閉めれば完全な防音だ。声が聞こえるか確かめたが全然聞こえなかった。予約の仕方やルールも説明してもらい、来週から練習することになった。