新入生の自己紹介タイム2
いきなり演歌歌手が出てきた後、五人ほど自己紹介した。これと言って目立つ人はいなかったが、みんな出来がよさそうだ。なんか自分が場違いなような気がしてきた。
「じゃあ、次はこの列の前からいこうか」
仲原に言われると、すっと立って前に出てきた。後ろから「ついに女の子が来ました~」と声が飛ぶ。男だけではなく、来た来たと喜んでいる女の先輩もいた。非常に堂々としていて、すごく姿勢がいい。やや猫背の自分とは大違いだ。
「足立春乃です。出身は千葉県で市立柏芸術高校出身です」
僕は学校名を聞いた瞬間に分かった。間違いなく吹奏楽部だ。
「まだ校種は決めてません。小中高の免許が取れるので、これから学んでいく中で決めていくつもりです」
少し間を置いて続ける。
「もう気づいた方もいるかもしれませんが、小学校のときから吹奏楽をしていて全国大会にも出場しています。もちろん大学でも続けていきますし、目標は全国大会金賞、学生指揮者になることです」
堂々と宣言したので、拍手喝采だ。後ろからは「そういえば、楽器は何やってるの?俺、リコーダーしか音が出ないけど」という質問が出て、みんな笑ってしまった。
「クラリネットです。ピアノも弾けます。リコーダーも、ちょっと」
とっさに冗談も言えてすごいなと思った。
「よろしくお願いします」
出てきたときと同じように、すっと席に戻っていった。
数人ほど自己紹介をして、自分の前に座っていた小柄な男子学生が出てきた。
「谷岡宗平といいます。出身は東京で、出身校は埼京大付属です」
「おっ、ついに付属が来た」と声が聞こえてきた。大学受験するまで知らなかったのだが、埼京大には付属の高校があったのだ。さらに調べてみたら、中学校も併設されている。場所は違うけど、小学校、幼稚園まであるのだから知ったときは驚きだ。
「希望している校種は、小学校です。バスケを中高やってましたが、大学では何をやるか決めてません」
それに対して「おい宗平、大学でもバスケだろ」とツッコミが入る。どうやら先輩みたいだ。
「いやー、大学では違うことをしようかなって」
「何言ってんだよ、バスケやろうぜ。みんなに入るって言っちまったし」
「先輩、そもそも部活じゃなくて、サークルに入ろうかと」
「おいおい、こっちは二年待ってたんだ。どうしちまったんだよ」
「はい、そこまで。個人的なやり取りは、あとでお願いします」
半分冗談、半分本気のような会話を仲原がピシャっと止めた。
「最後に出しゃばって、すいません。バスケ部、現在四人しかいないので、誰でも大歓迎です。あと、マネージャーが来てくれたら最高です」
三年の先輩が頭を下げると「部活の宣伝はダメだろ」「今は新入生が主役」といった声が聞こえてきた。もちろん、本気で怒っている者はいない。ただ、呆れている人は数人いたようだ。
「先輩、考えておきます」
谷岡が言うと、先輩は「頼むから入ってくれ」と懇願した。