第七話:デュラハン①
「今回やってもらうクエストは、討伐クエストよ。討伐対象はデュラハン。ヨハンも聞いたことぐらいはあるでしょ?」
デュラハン。
別名首なし騎士。
高ランク冒険者などの実力者が死亡し、死体が放置され続けるとデュラハンとして蘇ることがあると言われている。
当然だが、知っているだけで見たことはない。
だがまさか、そんな厄介な魔物がこの街の近くに居たとは知らなかった。
「ふ、デュラハンか。ボクを呼んだだけはあるってことだね」
リーゼロッテはデュラハンという名前に一切臆さず、笑みを浮かべる。
「一応聞いておくが、戦った経験は?」
「無いよ。でも、ボクのスキルは相性がいいからね」
「おそらく、ギルドの上層部もそういう判断なんでしょうね」
デュラハンが厄介だとされている一番の理由は、その特性。
奴は一切の物理攻撃を無効化する。
ゆえにデュラハンを倒す方法は魔法だけ。
しかも生半可な魔法では効かないため、討伐には確実に高ランクの魔法使いが必要だった。
そういった意味では、大魔道士のスキルを持つリーゼロッテは適任かもしれない。
「俺たち以外にクエストの参加者は?」
「雑兵なんて、居ても居なくても同じさ」
「心配なら他の冒険者も集めるけど、私の見立てでは2人で大丈夫なはずよ」
ティアナが言う以上、本当に問題ないのであろう。
若干の不安はありながらも、俺はうなずく。
「そうか」
「大丈夫、ボクが美しく倒してあげるよ」
「……本当に大丈夫なんだろうな?」
前言撤回。
リーゼロッテと一緒では無理なんじゃないかという気がしてきた。
「性格には難ありだけど、実力は問題ないはずよ」
「ダメそうだったら、俺は全速力で逃げるからな」
「そういうのはせめて聴こえないように言ってくれないかな!?」
リーゼロッテは頬をふくらませながら、俺たちに抗議の声を上げた。
ギルドを出て、俺とリーゼロッテはデュラハンが居るであろう森を目指す。
森自体は、いつも薬草採集をしていた場所と同じ。
違うとすれば、それは区域だ。
森には3つのエリアが有り、スライムやゴブリンのようなFランク冒険者でもパーティーを組めば攻略可能な初心者用区域。
それらよりも強い魔物が出る熟練者用区域。
そして、Cランク以上でなければすぐに死んでしまうであろう魔物が出る進入禁止区域。
本来デュラハンのような魔物は進入禁止区域にしか出ない。
だが何かの間違いで別の区域に出現してしまうことがある。
そうなれば、今まで狩場として通用していた場所も進入禁止区域の仲間入り。
生活の資源を森に大きく依存している街としては、早急に対処する必要があった。
「ところでキミはDランク冒険者なんだろう? スキルはなんだい?」
道中で、リーゼロッテはそんな質問をしてくる。
「……スキルは持ってない」
俺は正直に首を振る。
その答えが不思議だったのか、リーゼロッテは怪訝な顔をする。
「おいおい、スキルを持っていないのにDランクになれるわけないだろう?」
……まあ、たしかにそうなのだろう。
だからといって、いま俺の情報を説明し切るには時間が足りなかった。
「まあ強いて言えば脚が速いな」
「なるほど、そういったタイプのスキルか。道案内役としてはベストだね」
「そういう意味じゃないんだが……、まあ良いか」
とりあえずは納得してくれたようなので、誤解を解く必要もないと結論づけ、話を打ち切る。
その後道中でキラービーと遭遇するが、リーゼロッテには魔力を温存しておいて欲しいため、俺が率先して片付ける。
それを見たリーゼロッテは、感心したような発言をする。
「なるほど、たしかに速いね。しかもナイフの扱いも手慣れているみたいだ」
「そりゃどうも。元々俺はこれしか無かったからな」
「?」
意味がわからないと言ったような顔をされるが、事実のため仕方ない。
数日前までは、このナイフ捌きだけが俺の生命線だった。
それから数分ほど歩き、ティアナから聞いていた場所の近くに到着する。
「気をつけろ。そろそろデュラハンが居るらしい場所に入る。さっきまでのふざけたノリはもうやめてくれよ」
「ふざけてなんかいないけど……、まあ良い。ボクとて冒険者。それぐらいの心得はあるさ」
リーゼロッテは杖を握り直し、集中したように辺りを見渡しだす。
……なるほど、さすがはBランク冒険者というわけだ。
俺とリーゼロッテは出来る限り物音を立てないように森を進んでいく。
そしてある場所に差し掛かった瞬間、得体のしれない感覚に襲われる。
「……ッ!」
明らかに今までとは違う異質な空気。
辺りをゆっくり探ると、10メートルほど先の木の陰に漆黒の影が佇んでいた。
近くで確認しなくても分かる。デュラハンだ。
「あれがデュラハン。妖精の一種でもあると聞いていたけど、醜悪極まりないな」
隣にいたリーゼロッテは、デュラハンを前にしても、余裕の空気を壊さない。
「さ、道案内は終わりだ。キミはもう逃げたほうが良い。ボクは誰かを守りながら戦うのが得意じゃなくてね」
完全な善意から出た言葉なのだろう。
だが、あれを前にして少女を1人取り残すことは出来なかった。
俺は助言を無視して前に出る。
「馬鹿言うな。いくらBランク冒険者でも、あれと1対1は無理だろ? 俺が引きつけるから、その間に魔法の準備をしてくれ」
俺の言葉にリーゼロッテは驚いたような顔をするが、すぐにこちらを批難するような表情になる。
「……確かにキミの動きは速い。でも、デュラハンの一番の脅威は剣撃じゃなくて魔法だ! キミ程度じゃ犬死にするだけだよ!」
そのとおり。デュラハンはいくつかの厄介な魔法を使い、普通であれば1発で即死してしまう。
そう、普通であれば。
「心配するな。こう見えて、俺は常人の10倍魔法に対して耐性があるんだ」
俺はそう言ってステータスを表示させながら、デュラハンの前へ出た。
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【名前】ヨハン = アイヒベルク
【性別】男性
【レベル】4
【体力】10
【攻撃力】 5
【防御力】5
【魔力量】0
【魔法攻撃力】0
【魔法防御力】10
【移動速度】10
【割り当て可能ポイント】0
【習得スキル】なし
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