第六話:Bランク冒険者
またその次の日の昼。
俺は袋いっぱいの薬草を抱えてギルドに居た。
今回こなしたのは、今まで俺がやっていたのと同じ薬草採集のクエスト。
「……まあ、たしかに塩漬けされるクエストではあるんだろうが」
薬草採集のクエストは、非常に簡単な依頼だ。
それゆえ単価が非常に安く、大抵はそのギルドのFランク冒険者がやる。
しかし、今このギルドにFランク冒険者が居ないため、誰もやりたがる人間が居ない。
かと言って誰もやらなければ薬草の供給が止まってしまう。
だからこそ、俺は朝っぱらからその脚の速さを活かして大量の薬草採集をやらされていた。
「あら、不満? 昨日のよりはよっぽど楽だと思うけど?」
「確かに楽ではあるんだが、なんというか面白みが……。もっと難しいクエストは無いのか?」
受け取った報酬を確認するティアナに、俺は愚痴る。
レベルやステータスによって、俺は確実に強くなった。
だからこそ、それを試せる、活かせる場所がほしいと思うのは必然であろう。
「あるにはあるけど、危険だから駄目」
しかし、ティアナはそれをばっさりと切り捨てる。
「……冒険者なんて危険で当然だろ」
「残念だけど、私は折角手に入った貴重な人材を捨てるような事はしないの」
そう言われると、こちらは何も言えない。
ほかギルドにまで調査の手を広げてもらっている以上、それに見合っただけの成果をあげないといけないのも事実。
「そうは言っても、純粋な意味で難易度の高い塩漬けクエストもあるだろ?」
「あるにはあるけど……」
そう言って考え込むティアナ。
そして、ああ、と思い出したような顔をする。
「そうね、こっちの条件を飲んでくれるなら、丁度いいのがあるわよ」
「条件にもよるが……」
「なに、簡単な話よ。それはね――」
■
塩漬けクエストには、2種類ある。
1つ目は、割に合わない仕事すぎて残り続けるクエスト。
俺がやっていたのは基本的にこっちだ。
こっちは、ギルド側がクエストに高報酬を付ければ解決する場合が多いだけに、大きな問題とはならない。
2つ目は、難易度が高すぎて現在ギルドに居る冒険者では対処が出来ないクエスト。
報酬を上げたとしても、出来る人間が居ないのだから解決しない。
しかし対処できないからと言って、放置し続けるわけには行かなかった。
そう言った場合には、外部から手を借りる場合が多い。
国に力を貸して貰う場合もあるが、大抵は他のギルドから高ランク冒険者を呼び寄せるのが普通。
そして俺が今回条件付きで受けたクエストは、既に冒険者を呼び寄せ済みのものであった。
■
「此処がムーランス街の冒険者ギルドかい? 随分と小さいね」
そんな声とともに、見慣れない姿の少女がギルド内に入ってくる。
腰まで伸びた金髪ツインテールで、手には身長ほどもある大きな杖。
そしてドレスのような服。
ただ、その中でも一番目を引いたのが
「……小さいな」
「小さいわね」
「ちょっとそこの2人。今、失礼なこと言わなかった?」
その140センチほどしかない身長であった。
しかも、顔立ちには未だ幼さが残っている。
少なくとも俺より年下なのは確実であった。
ティアナは、そんな彼女に対して何事もなかったかのように接する。
「いいえ、何も。貴方が本部から派遣されたBランク冒険者?」
ティアナが聞くと、少女は右手で髪をかき上げながら自信満々に答えた。
「そのとおり。ボクこそがスキル【大魔道士】を持ち、15歳ながらにしてBランク冒険者の称号を持つ天才、リーゼロッテ=ホフマイスターだ……、あうっ」
気付くと、俺は人差し指でリーゼロッテのおでこをつついていた。
リーゼロッテは突かれたおでこをさすりながら、非難の眼差しを向けてくる。
「ちょ、ちょっとキミ、ボクが美しいからってお触りは厳禁だぞ!」
「すまない、つい……」
本当に、無意識のうちにつついていただけに、俺は心の底から謝る。
ちなみにスキル【大魔道士】とは、名前のごとく魔法を使うタイプの超有名スキル。
魔法使いでない俺でさえ知っているレベルで、15歳という若さでBランクというのもうなずけた。
「全く……。で、ギルド職員さん、ボクがわざわざこのギルドに呼ばれた理由を教えてくれないかな?」
「そうね、ヨハンさんも居るし丁度いいかしら」
「? どうしてこの失礼な人が居ると丁度いいんだい?」
怪訝な顔のリーゼロッテに対し、俺は改めて向き直る。
「自己紹介が遅れたな。俺はヨハン。Dランク冒険者で、今回の依頼に同行させてもらう」
「同行?」
ああ、と首を縦に振る。
俺が高難易度クエストを受ける条件。
その1つが、彼女と共にクエストをこなすというものであった。
「道案内役と思ってくれればいいわ。依頼で行ってもらう森は意外と広いから、1人で行くと迷うわよ?」
「……ふぅむ」
リーゼロッテは俺の方を向き、体全体を舐めるように見つめてくる。
「なんだ、そんなジロジロと見て」
そして、うん、と彼女はうなずく。
「普通の冒険者にしては清潔感もあるから、ま、合格点だな。美しいボクの隣にいることを許可しよう。……だから、その構えている手を下ろしてくれないかな?」
「悪い、右手が勝手に」
またもや無意識のうちに手刀の型を構えていた右手を下ろす。
どうも、彼女の発言を聞いていると調子が狂うようだ。
「ふふ、仲も良くなったところで依頼の説明に入るわね」
良くなってなど無い、と抗議するリーゼロッテを無視し、ティアナは説明を始めた。