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第五話:塩漬けクエスト

ヨハン(主人公)視点に戻ります

 ティアナとの取引をした翌日の夕方。

 

「……依頼、こなしてきたぞ」


 俺は疲労困憊の表情で、依頼の報告をする。

 

「あら、意外と遅かったわね」

「依頼自体はすぐ終わったさ、依頼自体はな」


 俺が今回受けた依頼は、ヘドロ型のスライム討伐。

 スライムとは液状型の魔物で、周囲の液体を吸収しながら生きている。

 単純な戦闘力だけで言えば、Fランク冒険者でも問題なく倒せるレベルだ。


 それがどうして塩漬けクエストなんぞになったかと言えば、スライムたちが住み着いていた場所に問題があった。


「臭いが落ちるまで、どんだけ身体を洗ったと思ってるんだ……」


 奴らが住み着いたのは、この街の下水道。

 ゆえに、彼らを構成する液体は……。


 ……ああ、くそ、思い出しただけで吐き気がしてきた。


「代わりに、ギルドの水浴び場を貸し切りで使わせてあげたじゃない」


 代償があまりにも大きすぎる気がするのは言わないでおこう。

 ただ、幸いなことにスライムを倒したことでレベルが4に上がった。


 何が要因だったかはわからないが、俺の苦労度が反映されてたりしないと良いが……。


「……ああ、くそ。塩漬けクエストってのはこういうのもあるのか」

「その分報酬は弾むから多少は許してよね」


 報酬が多いのは、ソロ冒険者になった俺としては確かに重要だ。

 しかし、今は報酬よりも優先すべきものがあった。


「そんなことより、調査の方は進んでるのか?」

「安心しなさい。ギルドマスター経由で、あちこちのギルドに聞き込みをかけてるわよ」

「お、おう。思ったよりもしっかりしてくれてるんだな」


 俺は純粋に驚く。

 てっきりそのうち文献を調べて見るぐらいのノリだと思っていただけに、想像の何倍も好待遇であった。

 だがティアナはさも当然のような顔をしていた。


「私、契約はしっかり守る女なの。と言っても、確実に情報が入るかどうかは別よ?」

「それに関しては承知してる」


 人類がスキルというものを認知してから時は経つが、未だに全てのスキルが解明できているわけではない。

 それゆえ、俺の状態が全くの未知である可能性も否定はできなかった。


「はい、これ報酬。あと冒険者カード貸りるわね」

「? 何をするんだ?」

「何って、そりゃあ更新よ」


 冒険者カードとは、その冒険者の身分を証明するもの。

 ランクやらなんやらが表記されており、ギルドが所有する魔法陣によって様々な情報が管理されているらしい。


 俺は報酬を受け取った後に、冒険者カードを渡す。

 ティアナはそれを魔法陣にかざすと、なにかしらの操作をしたあとに返してくれた。


 そして俺は、そこに書いてあった文字に驚愕の声を上げる。


「え、Dランク……!?」


 普段と同じ冒険者カード。

 違うとすれば、今までずっとFと書かれていた場所に、Dという文字が輝いていることだけ。


「Dランクじゃ不満?」

「いや、そうじゃなくて、むしろそんな上げて良いのかって話で……」


 Dランクとは、新米冒険者ではなく中堅冒険者の証。

 冒険者が最初に目指す目標が、このDランク冒険者であった。


 ゆえに、あまりにもさっくりと上げられてしまったことに喜びよりも困惑のほうが強い。


「良いに決まってるでしょ。むしろ、キラービーを複数体討伐してくる人間がEとかFランクなわけないじゃない。それに、依頼を問題なくこなしてきてくれてるって意味では信頼度も充分よ」

「……まあ、そうなんだが」


 それは分かるのだが、こう、情緒というものがもう少し欲しいと言うか……。


 困惑している俺を無視して、ティアナは続ける。


「と言っても、Dランクだからってそんな利点は無いからね。当分は、私が依頼する塩漬けクエストばっかりやってもらう予定だもの」

「分かってるさ」


 俺は素直にうなずく。


「じゃ、今日はもう遅いから明日もよろしくね」

「ああ」


 そう言って、俺は冒険者ギルドを後にした。




 ギルドを出て、腹は減っても食欲が湧かない気持ち悪さを抱えつつ歩く。


 もう宿に帰って寝てしまおうか。

 

 そう考えていると、見覚えのある男二人組に声をかけられた。


「よう、Fランク冒険者。おめえ、まだ冒険者やめてなかったのか」

「聞いたぜぇ、仲間に見捨てられたんだってなぁ」


 ガタイのいい男が2人。

 名前までは覚えてないが、冒険者だったのは確かだ。

 というか、俺が仲間に見捨てられたのって結構知られてるんだな……。


「生憎と、冒険者をやめてもまともに食っていける未来が見えなかったからな」


 コネも何も無い人間が冒険者をやめたところで、まともな仕事があるはずもない。


「そういや、最近ティアナちゃんと仲が良さそうじゃねぇか。どうやって取り入ったんだぁ?」


 非常に挑発的な言葉。

 だが、此処で言い返したところで何の利益にもならない。


 それに、ティアナはギルド職員で唯一の若い女性。

 冒険者たちからも人気が高く、そんな彼女と頻繁に話しているというのは彼らからすれば面白くないのも事実であった。


 ゆえに、静かに受け流そう――。


「もしかして、今日ギルド共用の水浴び場が貸し切られたのは、おめえが使ってたからじゃないだろうな?」

「おいおい、そんな横暴許されて良いのかぁ? そんな身体洗ってどうすんだよぉ?」


 そう思っていたのだが、俺はその言葉だけは耐えられなかった。


「……髪を20回。身体全体を15回だ」


 俺は、静かに呟く。


「あ? 何の数字だ?」

「ヘドロスライム討伐で付いた臭いを落とすのに洗った回数だ馬鹿野郎。おかげで身体中真っ赤で、服が擦れるだけで痛い!」


 具体的な数字はズレているかもしれないが、おおよそそれだけの数だったのは確か。

 しかもお湯なんぞではなく、ただの水だったため身体が冷えてしょうがない。


 もし今が冬場であれば、凍死一歩手前であっただろう。


「……やべぇよ、あの依頼受けてくれる聖人居たってマジかぁ」


 ヘドロスライムという言葉だけで、俺が何の依頼をしたか分かったのだろう。

 先程まで挑発的だった視線は、憐憫の眼差しに変わっていた。


「どうすればティアナと仲良くなれるかだと? 塩漬けクエストを率先してこなしまくれば一瞬だアホ!」


 それに、俺は仲良くなったわけじゃない。

 あくまでも契約上の付き合いだ。


 俺の立場を少なからず理解したのか、男はすまなさそうな顔になる。


「……わ、悪い。まさかそこまでしていたなんて知らなかった。確かにソロで冒険者は選択肢限られるもんな……」

「も、もしあったらなにか言ってくれよぉ? 手伝えることがあったら手を貸すからさぁ」


 すっかり同情した顔になった男たち。

 ……多分、彼らもそんなに悪い奴らじゃないんだろう。


 こんな小さい街のギルドだ。冒険者も助け合いの精神が大事なのかもしれない。


「……ああ、もし何かあったら頼むさ。またな」


――――


【名前】ヨハン = アイヒベルク

【性別】男性

【レベル】4

【体力】10

【攻撃力】6

【防御力】5

【魔力量】0

【魔法攻撃力】0

【魔法防御力】1

【移動速度】10

【割り当て可能ポイント】9

【習得スキル】なし


――――

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